労働組合/団体交渉対策
労務に関する業務の中でも、最も労力が必要なのが労働組合との団体交渉です。違法すれすれ(というか違法)なことをしてくる労働組合はもうあまりなくなったようですが、それでも違法ギリギリを狙って、経営陣を精神的に追い詰めようとする労働組合はあります。相手の立場を考えると労働者の為にということになるのでしょう。しかし、交渉を早く終わらせて楽になりたいという気持ちは分かりますが、必要以上に譲歩せずに、早めに弁護士に相談されることをお勧めします。
労働組合とは?油断できない団体交渉への対応についても解説
労働問題は経営にも影響してくるため、従業員との間でトラブルが起きないよう企業は対策を講じなければなりません。なかでも大きな課題となるのが、労働組合(労組)への対応です。
労働組合は、上述したとおり、憲法上、労働者の権利を守るために使用者側と交渉等を行うことが認められた団体であり、企業は慎重に労働組合へ対応しなければなりません。間違った対応を取ってしまうと、顧客・取引先からの信用を失う、不当労働行為として罰則を科されるなど、自社が不利益を被る可能性があります。
そこで今回は、労働組合に関する基本的知識を始め、企業が留意しなければならない「団体交渉」の対応についても解説します。
労働組合とは?
労働組合は、従業員が主体となって自主的に労働条件の維持・改善や経済的地位の向上を目的として組織する団体、すなわち、従業員が団結して賃金や労働時間などの労働条件の改善を図るためにつくる団体です。従業員が複数人集まりさえすれば、自由に結成することができます。
現在日本においては、企業単位でつくられる「企業別労働組合(企業別組合)」が中心となっています。この企業別労働組合が集まって「産業別労働組合」をつくり、さらに産業別組合が集まって日本労働組合総連合会(連合)のような全国的中央組織をつくることもあります。これらの組織は毎年の春闘を主導するとともに、政策・制度実現のための国民運動や政府への要請活動などの課題に取り組んでいます。
令和元年6月末時点で労働組合の数は約2万4,000組合にものぼり、組合員数は1,000万人も存在します。企業にとってそう遠い存在ではないため、労働組合から対応を求められた際に、企業としてどのように動くべきか検討する必要があるでしょう。
労働組合に認められている権利
日本国憲法第28条では、以下3つの権利が認められています。
- 労働者が労働組合を結成する権利(団結権)
- 労働者が使用者(会社)と団体交渉する権利(団体交渉権)
- 労働者が要求実現のために団体で行動する権利(団体行動権(争議権))
上記の権利を保障するため、労働組合法が定められています。労働組合法では労働組合に対し、企業との間で「労働協約」を締結する権能を認めるとともに、企業が労働組合および労働組合員に対して不利益な取扱いをすることなどを禁止しています。
これは「不当労働行為」と呼ばれており、以下のような行為を企業が行った場合は損害賠償請求されたり、罰則を科される可能性があります。
- 労働組合への加入や正当な労働組合活動などを理由に、解雇、降格、給料の引下げ、嫌がらせ等の不利益取扱いをすること。(ただし、一定の場合に、いわゆるユニオン・ショップ協定またはクローズド・ショップ協定を締結することは妨げられません。)
- 団体交渉を正当な理由無く拒否すること。
- 労働組合の結成や運営に対して支配・介入したり、組合運営の経費について経理上の援助をすること。(ただし、従業員が労働時間中に、時間や賃金を失わず使用者と協議・交渉することや、使用者が福利その他の基金に対する寄付をすること、使用者が労働組合に最小限の広さの事務所を供与することは除きます。)
- 従業員が労働委員会に救済を申し立て等を理由に、不利益取扱いをすること。
企業の脅威になりうる労働組合による団体交渉
労働組合の代表者と企業が「労働条件」や「職場環境」などについて話し合いをすることを「団体交渉」といいます。具体的には未払い賃金・残業代、不当解雇、いじめ、ハラスメント問題などについて主張されることが多いです。労働組合による団体交渉は、原則として拒否することができません。
正当な理由なく拒否したり、期日を先延ばしにしたりすると「不当労働行為」に該当するとして、従業員や労働組合から不当労働行為救済申立てが行われることもあります。申し立てを受けた労働委員会は、企業に対して調査・審問を実施。それに伴って答弁書や書証などの書類提出が必要となるうえ、長期間にわたって労働委員会とのやり取りを続けなければなりません。対応に追われ、本来の企業活動に多くの悪影響を及ぼすことでしょう。
また、団体交渉において最も注意しなければならないのが、労働組合による街宣活動です。企業が要求をのまない、交渉が平行線を辿るなどした場合に、労働組合がプレッシャーを与えるためビラ配りや演説などを行うのです。
これらの活動は基本的に労働組合法にて保護されていますが、ときに虚偽の事実を拡散する、お店の前にスピーカーを設置して誹謗中傷とも取れるような発言を繰り返すなどの行為が行われることもあります。これらは企業の名誉を不当に傷つける活動であり、取引先・顧客からの信用失墜や、所属している従業員のモチベーション低下を招きかねません。したがって、労働組合による団体交渉には素早く、そして適切に対応する必要があります。
企業に求められる団体交渉への対応
団体交渉はあくまで「交渉」にしかすぎないため、必ずしも全ての意見・要求に応える必要はありません。不当労働行為を意識しすぎるあまり、相手の言いなりになってしまいそうですが、要求内容をじっくり精査してみると、労働組合の言い分が相当性に欠けるということもあるのです。したがって、実際に団体交渉が行われた場合は相手のペースに乗せられないよう、以下の点に留意しながら冷静に対応しましょう。
開示する情報を限定する
場合によっては、労働組合が企業に対して情報や資料の開示を求めることがあります。企業には誠実な対応が求められますが、だからといって経営に関わるような機密事項を全て開示する必要はありません。どの情報を労働組合へ渡すべきか迷うときは、企業法務に強い弁護士や社会保険労務士などの指示を仰ぎましょう。
要求内容に応じる義務はない
前提として、企業は団体交渉には応じる義務がありますが、交渉において出された要求内容に応じる義務はないことを知っておいてください。また、団体交渉前に労働組合から社長や取締役を出席させるようにと指示されることがあったとしても、従う必要はありません。適切な権限を有する人物が出席していれば、問題ないといえます。
議事録などの証拠を残す
団体交渉の場では、書面による議事録を取ることが必須です。のちに紛争へ発展した場合に、交渉内容を証明する証拠となります。加えて、ボイスレコーダーで音声を残しておくと、より安心です。録音する際は、その旨を伝えたうえで相手から見えるようにボイスレコーダーを置いておきましょう。
弁護士に相談する
労働組合を相手にした団体交渉の対応は、常に不当労働行為のリスクと隣り合わせになっているため、法的知識を基にした対応が求められます。仮に不当労働行為に該当する行為を行った場合、労働組合から街宣活動や不当労働行為救済の申立てなどの手段を講じられ、結果として企業が不利益を被ることがあります。したがって、団体交渉を持ち掛けられたら自社で解決しようとせず、弁護士に相談することが賢明です。
労働組合まとめ
労働組合は労働問題に精通した猛者が集う組織です。したがって、交渉術や労働組合法に関連する知識がなければ、労働組合に言いくるめられてしまう可能性があります。また、企業側は不当労働行為にも留意しなければならないため、労使問題に強い弁護士の指示を仰ぐことが大切です。
キャストグローバルは、企業・経営者側の弁護士として労使問題解決を支援いたします。労働組合法への対応はもちろん、雇用条件や制度の整備、ハラスメント問題への取り組み、労務環境に関するアドバイスなどを行っております。労使問題でお悩みのことがあれば、当事務所までご相談ください。