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アライアンス・業務提携について弁護士が解説
ビジネスシーンではアライアンスや業務提携といった言葉が頻繁にやり取りされています。これらは大きな意味で捉えると同じカテゴリーに分類されるため、それぞれの意味が混同してしまうことも珍しくありません。しかし、アライアンス・業務提携により得られる利益やメリットを最大化するためには、シーンや目的に合わせて適切な施策を選ぶことが大切です。そこで本記事では、アライアンス・業務提携の具体的な内容やメリット、注意点などを解説します。
- シーンや目的に合わせて適切な施策を選ぶことが大切
- 業務の役割分担の範囲を定めることが必要
- 情報漏洩リスクに備えることが最重要
- 技術・ノウハウの流出は、企業の競争力の源泉を失うことになる
- 下請法に留意する必要がある
- 利益の分配についても、明記をする必要がある
アライアンス・業務提携に関する契約とは
「アライアンス」「業務提携」は、いずれも複数の企業が協力関係を結び、共同で事業を行う経営スタイルのことをいいます。企業同士がビジネスパートナーとして契約し、資金・技術・人材などを共有することによって、既存事業の拡大や新規事業展開、利益向上などを目指すことが可能です。企業の成長や発展には不可欠な手段であり、ビジネスにおいて無くてはならない手法でしょう。
アライアンス・業務提携のメリット
アライアンスや提携における大きなメリットは、独立性を維持しながら別企業の経営資源を活用できる点にあります。自社にはない技術力やノウハウ、人材を取り入れることにより、単独では実現できなかった事業展開や生産力の強化などが可能です。特定の分野でのみ協力関係にあるため、自社の強みやアイデンティティが消えることはありません。なおかつ、お互いに利益を得られるため、比較的良好な関係でプロジェクトを進めることができます。
さらに、買収や合併といったM&Aとは違い、一般的には、低コスト・低リスクで経営資源を獲得できます。実際にM&Aを実行するとなった場合、金銭の交付、株式の移転などのクロージング作業やパートナーの選定、交渉、デューデリジェンスの実施などが必要であり、膨大な時間やコストがかかってしまいます。
一方、アライアンスや業務提携においては、M&Aと比較すれば資金はさほど必要なく、M&Aより契約締結までのフローが短いです。また、提携関係の解消も比較的容易です。プロジェクトにかける時間・コストが少ない分、リスクや損失も低いといえます。それでいて、M&Aに匹敵するほどのシナジー効果が期待できます。中小企業など、資金に限度がある企業に最適な施策といえるでしょう。
アライアンス・業務提携の概要やプロセス
アライアンスとは
アライアンスは業務形態問わず、契約によって企業同士が協力関係にあることをいいます。よって、業務提携やOEM契約、代理店契約等の個別の契約の総称とも言い換えられます。
業務提携とは
複数の企業が技術・資材・販売など、様々な面で協力し合うことを業務提携といいます。事業における役割を分担したり、共同作業を行ったりすることにより、コスト削減や利益向上を狙うことを目的とします。
業務提携の魅力は、当事者が特定分野や一部業務での限定的な協力関係にあるため、企業の独立性を維持できるという点にあります。ライトな表現をすると、業務提携は企業同士のコラボレーションであり、契約締結後の業務提携関係の解消も比較的容易に行えます。また、一般的には、資本移動や主従関係が発生しないことから、当事者の力関係は対等です。
業務提携は、提携目的によって大きく3つに分かれます。
- 技術提携…技術分野に特化した提携スタイルのことであり、「共同開発契約」や「ライセンス契約」などが含まれます。それぞれが所有する技術・ノウハウを提供し合うことで、効率的な開発や事業の活性化に繋げることが可能です。ものづくりが盛んに行われる日本においては、不可欠な契約といえるでしょう。
仮に単独で新技術を開発する場合、多額のコストや時間が必要となる他、技術レベルが頭打ちになり、開発が行き詰まることも考えられます。しかし、技術提携によって他社が持つ新しい技術・ノウハウを取り込むことができれば、開発にかける時間や費用の大幅削減が可能です。また、大手企業との契約は自社の宣伝にもなり、知名度アップに繋がるといった利点が得られる場合もあります。
- 生産提携…製造メーカーが別企業の製品を製造するスタイルのことをいいます。生産提携には2つの形態があり、一方の企業が下請け生産を依頼する形、または企業同士で業務委託し合う形に分かれます。どちらにしても、製造・生産工程を別企業に委託することで生産能力の向上および強化が可能です。また、生産提携の形態の一つとして「OEM契約」があり、自動車分野を始め、電子機器や化粧品など数多くの業界で取り入れられています。
OEM契約においては、委託者側には「管理・生産にかけるコストを削減ができる」といったメリットがあります。工場を持たずとも製品を生み出すことができる他、生産量を柔軟に調節できるため、在庫を抱えるリスクも低減。結果として大幅なコスト削減が実現するのです。さらに、既存製品の製造を別企業に委託することで、新製品開発にかける時間や人員を確保できます。
- 販売提携…自社の製品やサービスの販売および営業を、パートナー企業に委託することを販売提携といいます。別企業が持つ優秀な人材やノウハウなどを活用することにより、一から経営資源を構築する必要もなく、効率的に販売・営業業務を行うことが可能です。販売提携においては「フランチャイズ契約」、「代理店契約」などがあります。
資本提携とは
「一方の企業が相手企業の株式を取得する」「お互いの株式を取得し合う」などのように、別企業と資本的な関係性を築いたうえで提携するスタイルを「資本提携」といいます。資本参加することで相手方に対して財務支援や経営参画などが可能となり、業務提携よりも強い関係性を構築できる点が特徴となる反面、提携関係の解消は比較的困難となります。
資本移動があるため広義の意味では「M&A」といえますが、どちらか一方を完全に子会社化することはありません。株式の取得は経営支配権を持たない程度にとどめられており、お互いがある程度の独立性を維持できる状態となっています。
資本業務提携とは
業務提携と資本提携を同時に実施することを「資本業務提携」といいます。経営面と業務面それぞれにおいて提携が可能となり、より強固な関係性を築くことができます。シナジー効果を生み出すほか、効率的に事業運営ができることから資本業務提携を活用する企業が増加しています。
アライアンス・業務提携のプロセス
アライアンスや業務提携には明確な意味での法的な定義が存在せず、契約までのプロセスも決まっているわけではありませんが、基本的には以下のような流れで進めていきます。
①目的や目標を設定する
パートナー企業と協力関係を結ぶことによって、どのような目的・目標を達成したいのか明確化しておきましょう。そして、パートナー企業とのシナジー効果や自社が得られるメリットなどを検討し、目的・目標まで辿り着けるのか否かを判断することが重要です。
②パートナー候補となる企業へ交渉
自社の目的・目標を達成するために最適なパートナー候補となる企業を選定します。そして、パートナー候補となる企業を絞ることができたら、どのような形で提携するのか、具体的な契約内容について交渉を行います。その契約では各企業がフェアな関係性にあることから、1つの企業だけが有利になる内容は好ましくありません。よって、双方の利益に配慮した妥協点を探ることが重要なポイントとなります。後の紛争を避けるためにも、当事者間で慎重に協議を重ねていきましょう。
③契約書作成
当事者間で契約内容に合意した場合は、契約書の作成に進みます。事前に決定した事項を整理して盛り込み、漏れがないかチェックしましょう。業務提携に関する契約はビジネスで頻繁に締結される契約のため、ネット上には様々な契約書のひな形が出回っています。しかしながら、そのまま使用してしまうと自社にとって不利な内容になってしまう他、法的トラブルの対策が万全でないなどの問題点があるため、契約書関連の知識が豊富な弁護士までご相談ください。
アライアンス・業務提携に関する契約の注意点
アライアンス・業務提携の醍醐味ともいえる、技術やノウハウなどを互いに提供するということには常に「情報漏えい」のリスクがつきまといます。自社の財産である企業情報を第三者に悪用される、流出されるといったトラブルも珍しくなく、最終的に訴訟へ発展した事例も存在します。
自社の企業情報を保護するためにも、情報の管理方法について記載した秘密保持契約書を作成しましょう。秘密情報とする内容の定義、提供する情報やノウハウの範囲などを明確化し、そのうえで「当取引以外での使用を禁止する」「従業員の退職後も秘密保持義務を遵守する」などのルールを定めることが大切です。
加えて、契約書には「開発技術や製品の知的財産権等の権利がどこに帰属するのか」「利益はどのようにして分配するのか」についても記載しておきましょう。権利関係の帰属を明記しておくことにより、パートナー企業による共同技術の独占や権利の濫用を防止できます。そして、利益の分配についてはトラブルに発展しやすいため、必ずお互いの認識をすり合わせておきましょう。
下請法について
パートナー企業に業務委託することのあるアライアンス・業務提携においては、「下請法」に注意する必要があります。下請法とは、下請け取引の公正化および下請事業者の利益保護を目的とした法律のことです。なお、すべての企業に適用されるわけではなく、以下の資本金規模および取引内容に該当する場合に限ります。
①物品の製造や修理委託、法令で定める情報成果物・役務提供委託を行う場合
親事業者:資本金3億円超 ⇒ 下請事業者:資本金3億円以下
親事業者:資本金1千万円超~3億円以下 ⇒ 下請事業者:資本金1千万円以下
②情報成果物作成・役務提供委託を行う場合(①の情報成果物・役務提供委託を除く)
親事業者:資本金5千万円超 ⇒ 下請事業者:資本金5千万円以下
親事業者:資本金1千万円超~5千万円以下 ⇒ 下請事業者:資本金1千万円以下
※情報成果物作成…ソフトウェアや映像コンテンツ、デザインなどが該当
また、親事業者に該当する企業は全部で11の禁止事項が設けられています。
①受領拒否…下請事業者が納入してきた給付の目的物を、親事業者だけの都合で受領を拒む。
②下請代金の支払遅延…納入する物品等の受領日または役務が提供された日から起算して60日以内の範囲で定められた支払い期日までに下請代金を全額支払わない。
③下請代金の減額…下請事業者の責に帰すべき理由がないにも関わらず、既に決定していた下請代金を発注後に減額する。
④返品…下請事業者による瑕疵や不良ではないにも関わらず、そのことを理由として受領後に納入された物品等を返品する。
⑤買いたたき…発注した物品等と同種または類似している内容に対して支払われる対価に比べて、著しく低い額を下請代金として設定する。
⑥購入・利用強制…正当な理由がないにも関わらず、親事業者が指定した製品(自社製品を含む)や原材料を強制的に下請事業者へ購入させる、もしくは強制的にサービスを利用させて対価を支払わせる。
⑦報復措置…下請事業者が、親事業者による下請法違反行為を公正取引委員会または中小企業庁に知らせたとして「下請事業者との取引数量を引き下げる」「取引自体を停止させる」などの不利益な取り扱いをする。
⑧有償支給原材料等の対価の早期決済…下請事業者の責に帰すべき理由がないにも関わらず、下請代金の支払い期日より早い段階で有償支給物を用いて製造または修理した物品の対価を支払わせたり、下請代金と相殺したりする。
※親事業者が下請事業者に対して部品や原材料などを有償で支給している場合に限る。
⑨割引困難な手形の交付…下請代金の支払い期日までに一般の金融機関で割り引くことが難しい手形を交付する。
※親事業者が下請代金を手形で支払う場合
⑩不当な経済上の利益の提供要請…親事業者が自己のために、下請事業者に対し、金銭や役務、経済上の利益を提供させ、下請事業者の利益を不当に害する。
⑪不当な給付内容の変更及び不当なやり直し…下請事業者の責に帰すべき理由がないにも関わらず、発注の取り消し・発注内容の変更・受領後のやり直しなどを要求し、下請事業者の利益を不当に害する。
たとえ、禁止行為が違法であると知らなかったとしても上記禁止行為に該当する行為を行った場合は、下請法違反となるため、下請法の適用のある契約を締結する場合は弁護士や専門家へ相談するのが賢明です。
アライアンス・提携・OEMに関する契約の手続きの進め方
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専門家への相談・意志決定
アライアンス・提携の目的整理
アライアンスや提携をご検討されるのには、様々な理由がおありだとございます。
アライアンスや提携を持ちかけようとお考えの社長においては、すでにアライアンス先や提携先についてお決めになっているかもしれません。
アライアンスや提携を持ちかけられている社長からすると、アライアンス・提携のメリット・デメリットやタイミング、条件など、経営者として適切な判断を行う上でも、精査すべきことの多さに戸惑われているかもしれません。アライアンス・提携においては、達成すべき目的の確定と、そのための道筋の策定が最重要となります。
アライアンス・提携契約には様々なパターンがありますが、大きくは、- ・生産性向上
- ・売上高増加
- ・コスト削減
- ・新技術の開発
- ・イノベーションの創出
といった目的が想定されます。
アライアンスや提携に際して、双方が意気投合していたとしても、事業を提携することは重要な判断になりますので、法的な準備を怠らないことで、より将来に渡ってリスクを排除・軽減した契約の中での、目的の達成を実現したいものです。
意思決定サポート
事業戦略上、アライアンスや提携を検討する場合、目的とする効果を得る上で、事業上、財務上等、進めようとする方向が適切であるか、専門家のアドバイスは必要不可欠でしょう。
また、提携先の候補はあるが、果たしてベストかどうか分からない、といった場合や選択肢を広げたいといった場合は、相手探しのサポートについても、当事務所の連携先と組みながら対応が可能です。 -
NDA
秘密保持契約の締結
専門家の選定・締結に向けた手続き
専門家による代理交渉中のアドバイスを含む、アライアンスや提携全体のディレクションを依頼される際は、企業のアライアンスや提携に取り組んでいる事実から、内部情報に至るまで、全てについて企業経営に関わる重要事項とみなし、一切の口外や、本プロジェクトに携わる以外に人員への情報の漏洩を厳禁とするための契約を締結することが必要となります。
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基本事項のすり合わせ
方針の確認、基本事項の調査
M&Aといった企業・事業単位での譲渡、譲受と比較し、アライアンス・提携契約の方が、コストの観点、独立性の観点などで身動きが取りやすい、というメリットがあります。
他の手法と比べても自由度が高い分、多角的な視野で目的達成のためにベストな筋書きを描くことが最重要です。具体的な契約内容としては、下記のようなものがあります。
業務提携契約
技術開発に関する提携
ライセンス契約
共同研究開発契約
製造・生産に関する提携
製造委託契約
製作物供給契約
OEM契約
販売に関する提携
代理方式
売切方式
媒介方式
販売代理店契約
加盟店契約
フランチャイズ契約
データに関する提携
データ提供契約
データ創出契約
資本業務提携契約書
投資契約+株主間契約+業務提携契約簡易調査・スキーム決定・企業価値評価・スケジュールの作成
当事務所は、法律事務所として多くの顧問先企業を含む中小企業の経営者様とやり取りしてまいりました。社長がどのような想いを持って経営をされ、その中でアライアンスや提携に至るのか、などをお聞きすることも数多くありました。会社のことをよく理解し、その上で、客観的なアドバイスを、ビジネス面・財務面・法律面から実施できることが重要です。また、想いを理解し、最後まで一緒に走り抜くことを大切にしています。
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基本合意
基本事項の合意・締結
ここまで精査した内容を元に、「基本合意」を行う場合もあります。基本合意を締結するとは言うものの、この時点では法的拘束力は発生しません。
当事者同士が概ね合意できそうな内容を、書面としてまとめ、一応大筋を合意しておく、というようなものです。
ここから、最終的に、方針に応じた本契約の締結へと進んでいきます。基本事項の合意・締結
お互いによく知った企業同士であったりしても、予期せぬ経営状況などが見えてくることもあります。当事者同士では客観的な視点を持ちづらいところでもありますが、本来の目的からも、第三者の視点を入れることが、成否を分けることが多々あります。
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デューデリジェンス
相手企業・事業の詳細な把握
最終的な本契約への合意へ向かう上での提携先企業の価値や財務状況、リスクを精査することをデューデリジェンスと呼びます。アライアンス・提携に関するデューデリジェンスにおいては大きく法務、税務、ビジネスといった観点があるでしょう。
事業単位の譲受け、譲渡しであり、M&Aと比較すれば低リスクではありますが、それでも、慎重に進めなかったことで企業本体へのダメージへと繋がるようなことが、双方において考えられます。デューデリジェンスの実施・専門家のご紹介
当事務所では、多くの法律事務所が取り扱わないビジネスデューデリを含む、法務デューデリを手掛けてきました。
財務デューデリに関しては、連携先税理士事務所のご紹介が可能です。
また、特殊な業界のビジネスデューデリや、海外事業を保有するケースのデューデリなどについても、M&A会社、経営コンサルティング会社との連携を通じて、ベストなチームを組み、責任をもって対応致します。 -
アライアンス・提携に係る契約締結
最終的な合意
様々な事象を検討、考慮した上で、最終的なアライアンス・提携に関する契約を取り交わします。
最終契約内容の確認・締結
最終的には、依頼者である企業様において、最も有利となる方法を探ることが、代理人弁護士の努めですので、中小企業のアライアンスや提携の実績を有する弁護士にご相談いただければと思います。
最終的な契約合意のタイミングで、突如相手の要求が変わり、合意締結間際で上手くいかなくなってしまう、といったことも実際にありますので、アライアンスや提携締結交渉の実務経験のある専門家の関与の元、最後の合意を達成することが望ましいでしょう。 -
契約後対応
契約後に必要な対応
アライアンス・業務提携・資本提携は、具体性の高い契約内容となるため、契約締結後の履行がしっかりと成され、当初の目的が達成されるかのモニタリングを行うところまでをフォローできるのが望ましいでしょう。
クロージング
当事務所では、企業を成功に導くことをサポートすることをサービスの本質としています。アライアンス・業務提携・資本提携においては、契約内容の履行や、そこから引き出される成果についてもフォローアップしていきます。
また、契約締結後に想定される状況についても複数のシナリオを検討し、担当企業へのデメリットを最小限とする法的アプローチをご提案します。 -
その他トラブル
アライアンスや提携におけるトラブル
契約締結がうまくいったとしても、契約締結後に、契約時の前提条件の変更、合意内容の不履行、経営状態の悪化等のような事が露見・発生することで、アライアンスや提携契約に影響形を与える形での紛争が生じることがあります。
継続的なトラブル対応
様々な要因により、左記のようなトラブルに陥ってしまうことは、実は稀ではありません。事後的なトラブルの影響を最小限とする上でも、法律の専門家の関与は当初から重要です。
万が一の場合にも、最善の対応で貴社の目的の最大化をサポートします。