データ創出契約書について
近年、あらゆるビジネス分野おいて、個人の購買履歴や交通データ、ヘルスデータなどのビッグデータの活用が加速しています。それに伴い、データの加工・分析をしたり、他のデータと組み合わせることで生まれる「新しいデータの創出」に重要性が高まっています。
こうした「データ創出」に関して取り交わされる契約を「データ創出契約」と呼び、複数の当事者が協力してデータを創出することで、より戦略的な企業活動に役立つとされています。
データ創出契約は企業のデータ活用において重要なもので、これまであまりそのような契約はなかったかもしれません。「データ創出契約を正しく理解できていない」「契約書の作成方法が分からない」といった方も多いかもしれません。しかし、今後、あらゆるデータをいかに有機的に利用できるようにするのか、意味のある価値のあるデータへ変容させるのかが大切な社会へ突入すると思われ、この類型の契約は増えてくるものと考えられます。当事者間のトラブルを防ぐためには、契約書に適切な条項を盛り込むことが重要です。
こちらでは、「データ創出契約」の法的性質をはじめ、契約書作成における留意点やひな形、チェックポイントなどをお伝えします。
- データの創出に関与した複数の当事者間でデータの利用権限について取り決める契約
- ビックデータ活用に伴い、データの加工分析によるデータ創出の重要性が高まっている
- 提供するデータに個人情報が含まれている場合は個人情報に関する規定も含めることが必要
- 創出データの利用の範囲、目的を明確に定めておくことが重要
- データの性質に応じてデータの保管先、管理方法についても定めておくことが重要
- 第三者へ譲渡もしくは利用許諾する際の利益分配等の取り決めを定めることが必要
データ創出契約書とは
データ創出契約とは、「複数当事者が関与することで、契約締結時に存在していなかった新たなデータが創出される場合において、データの創出に関与した当事者間でデータの利用権限について取り決める契約のこと」をいいます。そして、契約の締結時に取り交わされる書面が「データ創出契約書」です。
ここで言う「創出データ」とは、センサー等から検知される「生データ」のほか、データを加工や分析、編集、統合(他のデータと組み合わせる)することによって得られる「派生データ」も含まれます。
この契約では、複数の当事者が協力することによってデータが創出されるという観点から、「どの範囲で創出データを利用できるか」「複数の当事者間で利益配分はどうするか」などについて、当事者間で利用条件を明確に規定しておかなければなりません。
本契約の法的性質を理解しておらず、契約書に必要な条項が記載されていなかったり、定義が曖昧なまま契約に至ると、「自社にとって有用なデータを事業に活用できない」「創出データへの対価が十分でない」などといったトラブルに発展するケースも考えられます。
契約書の作成時には、データ創出に関係する当事者と綿密に話し合い、「創出されるデータの価値に応じた利用権限」や「収益をどのような基準で分配するか」等の規定を設け、事前にトラブルを予防することが大切です。
データ提供契約・データ共用契約との違いについて
「データ創出契約」と類似した契約に「データ提供契約」「データ共用契約」というものがあります。データ取引に対して当事者間で取り決めを行う点については同じですが、それぞれ法的性質が異なるため、契約に先立って正しく理解しておかなければなりません。
経済産業省は、データ利用に関する契約のガイドライン(AI・データの利用に関する契約ガイドライン)を発表しており、データ利用における法的性質を以下の3つの類型に整理しています。
1.データ提供型契約
データを保持している「データ提供者」が、他の当事者に対してデータを提供する類型のこと。
ケース例
締結する場合の例には、顧客のヘルスデータを持つ企業が、そのデータを用いたサービスを開発する事業者に対してデータを提供する場合。
2.データ創出型契約
複数当事者が関与することによって、従前存在しなかったデータが新たに創出される場面において、当事者間でデータの利用権限について取り決める類型のこと。
ケース例
工作機械の製造業者Aが工作機器にセンサーを設置し、その機械を使用する顧客Bから稼働データを取得。AはBから取得したデータを利用して、Bへの保守点検やアフターサービスを計画するとともに、Aがそのデータを将来的に第三者に販売することを構想している場合。
3.データ共有型(プラットフォーム型)
異なる複数の企業がデータをプラットホームに提供して、当該データを集約、分析、加工等を行い、複数の事業者がプラットホームを通じてデータを共用する」類型のこと。
ケース例
組成されたプラットフォームに、製造メーカーが部品メーカーの各社に対して製品に対するデータを幅広く共有することで、部品メーカーに対する利用を促進させて、フィードバック共有を求める場合。
データ創出契約書のチェックポイントを解説
データ創出契約書では、どのようなデータが創出されるのか、その利用方法や価値について契約締結段階ではまだ明確でないことが一般的です。そのうえ、利用権限の定め方や基準をどのように規定するか、当事者間で合意することも簡単なことではありません。契約書作成時には、以下のポイントに留意しましょう。
創出される対象データの範囲を明確化できているか
データ創出契約において、まず始めに合意しておきたいことは「創出されるデータの範囲」についてです。具体的な範囲を明確にしていないと「どのようなデータが提供されているか認識できていない」「創出されたデータに対して利用権限を与えてもらえない」といった誤解によるトラブルが起こることも考えられます。
具体的には、利用権限について協議をする以前の段階で、創出されるデータのすべてを「一覧化」することが望ましいといえます。どのようなデータが創出され、どのように利用権限を持つのか当事者間で共通の認識を持つことで、トラブルの防止に繫がります。
データの利用目的を定めているか
創出されたデータをどのように利用するかは、ビジネス計画に大きく関わるものといえます。データの自由な利用によってノウハウ等の流出を防ぐためには、「当事者の事業と競合する事業の利用を禁じる」などといった、リスクを想定した規定が必要です。
ただし、利用目的を過度に狭めてしまうと、ビジネス活動が制限されるという側面もあります。契約書には、「対象データの利用促進」「データの不正利用を防ぐ」といった両面から判断する必要があるでしょう。
対象データの加工、派生データの利用を制限できているか
多くのケースでは、創出されたデータは各当事者によって加工等を行い、事業に用いられることとなります。しかし、加工や分析等の方法によっては、従来の創出データよりも価値を引き出せる可能性もあります。
当事者による自由なデータ利用や、予期せぬ活用などを制限するために、「対象データの加工等の可否を定める」「加工等の方法を制限する」などの規定をしておくのが望ましいでしょう。
また、創出されたデータの加工等によって、新たに「派生データ」が生み出されるケースでは、派生データに関する利用権限や利益分配、利用期間などの事項を定める必要があります。
第三者への利用許諾について定めているか
創出されるデータやその派生データについて、第三者へ譲渡もしくは利用許諾する場合には、相手方の当事者から合意が得られないケースも少なくありません。なかでも、当事者の競合事業者となる第三者に利用を許諾する場合は、当事者に不利益が生じることがあるため注意が必要です。
第三者への利用許諾については、「第三者が競合事業者かどうか」「データが企業秘密や個人のプライバシーに侵害しないか」「第三者の利用に対していくらの対価を請求するか」など、得られる「利益」と生じる「不利益」の両方を検討して判断することが重要です。
収益分配の算定方法に合意がなされているか
データ創出契約では、対象データを当事者が利用する場合だけでなく、第三者への提供等によって収益が発生することがあります。「対象データを用いてアプリを開発し、第三者に対して販売する」などのケースがその例です。
契約書には、対象データの内容や性質によって、収益分配の算定方法を個別に検討することが望ましいといえます。算定方法には、「固定料金」「従量制」「売上分配」などを採用することが一般的ですが、横展開に事業者などでは、対価を支払う代わりにサービスの減額によって利益を分配するケースもあります。