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 借主様向け 不動産トラブルお役立ちコラム
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立ち退き料の相場は?7つのケース毎にいくらもらえるか・内訳を解説

いきなり立退きを求められ、提示された「立ち退き料」が高いのか低いのか気になり、その相場を調べているのではないでしょうか?
どうせ立ち退くならたくさんもらって引っ越したいですよね。
結論、立ち退き料の相場は、賃貸アパート・マンションの場合、賃料の6ヶ〜10ヶ月分、店舗(テナント)の場合は36ヶ月〜70ヶ月が相場です。
もっとも、立ち退き料はアパート・店舗などの建物の種類、大家都合や老朽化などの立ち退きを求められている理由などで金額が変わります。
そこで、本記事では、あなたが置かれた状況にそった「立ち退き料の相場」から、どういった理由で立ち退き料が増えたり減ったりするのか、増やすための交渉のポイントまで幅広く解説します。

【この記事でわかること】

  • 「立ち退き料の相場」は7つのケースごとに異なる。
    1. アパート・マンションなどの賃貸住宅:→月額賃料の6ヶ月分。
    2. 飲食店などの店舗(テナント):→月額賃料の36ヶ月分。
    3. 持ち家・一軒家(借地上に家を建てている場合):→400万円~1,000万円。
    4. 事務所:→月額賃料の2年分。
    5. 分譲マンション:→200万円~800万円。
    6. 再開発:→6,000万円~1億円。
    7. 倉庫・駐車場:→月額賃料の2年分。
  • 「立ち退き料」とは、立ち退いてもらうための財産上の給付であり、ほとんどの場合に支払ってもらえる。ただし、以下の場合には立ち退き料をもらえないリスクがあるので注意。
    1. あなたに落ち度がある(例:3ヶ月以上の家賃滞納)。
    2. 建物や契約の性質から立ち退きを求めざるを得ない場合(例:倒壊の危険)。
  • 立ち退きを求める「正当事由」の強弱により、立ち退き料の金額は増減する。
  • 立ち退き料の内訳は、移転費用の補償、借家権&(借地権)の補償、営業補償である。
  • 再開発などの特殊事例だと立ち退き料が高くなる。
  • 立ち退き料の額の10%ほど税金でもっていかれることに注意。
  • 立ち退き料の交渉を弁護士に依頼する4つのメリット。
    1. 【メリット①】:立ち退き料を増額できる。
    2. 【メリット②】:正当事由が弱いと反論できること。
    3. 【メリット③】:面倒な交渉を丸投げできること。
    4. 【メリット④】:交渉のストレスから解放されること。
  • 他方で、弁護士に依頼する2つのデメリットもある。
    1. 【デメリット①】:弁護士費用がかかること。
    2. 【デメリット②】:交渉の時間が長引くこと。
  • 立ち退き料を受け取るタイミングは立ち退いた後であって立ち退き前はもらえない。

目次

1.立当ち退き料の相場(目安)

まずは、目安となる立ち退き料の相場を示します。

用途 立ち退き料の相場
住宅 賃貸アパート 40万円~80万円程度:家賃の6ケ月分
分譲マンション 200万円~800万円
戸建て 400万円~1000万円
店舗 大規模物販店舗 3000万円~1億円
クリニック 5000万円~2億円
倉庫・駐車場 480万円~720万円
飲食店 1,000万円~9000万円
事務所 600万円~900万円

立ち退き料の相場は、賃貸アパート・マンションについては賃料の6ヶ月分、多くはざっくり80万円、分譲マンションは、600万円です。
店舗に至っては、300万円からとかなり幅があります。

立ち退き料 = 引っ越し料 + 仲介手数料 + 家賃増加分等
※立ち退き料の計算式の一例

もっとも、これはあくまでも相場にすぎません。
実際にあなたがもらえる立ち退き料は、相場をベースにしつつもあなたの置かれた状況、立退きを求められている理由などによって大きく変わります。
あなたが実際にもらえる立ち退き料の金額がいくらになるのかは、「3.状況別の立ち退き料の相場」で解説しています。

2.立ち退き料はこうやって決まる!

立ち退き料に相場はありますが、実際にもらえる金額は、立退きを求められてるあなた側の事情と、立退を求めるオーナー側の事情をくみとって決めます。
これを理解するためにまずは、(ⅰ)なぜ立ち退き料がもらえるのか、(ⅱ)もらえるとしてどういった理由で増えたり・減ったりするのかを以下で確認していきましょう。

1)立ち退き料がもらえる理由

立ち退き料」とは、自主的に立ち退いてもらうために払う費用です。
その場所に住んでいたり、事業をしていたり、店舗を運営していたりしています。
突然、立ち退いてくれといわれても困りますよね。
そこで借地借家法28条という法律で、簡単には立ち退きは認めず、「正当事由」がない限り、借主を追い出すことはできないとされているのです。

借地借家法28条
(建物賃貸借契約の更新拒絶等の要件)

建物の賃貸人による第二十六条第一項の通知又は建物の賃貸借の解約の申入れは、建物の賃貸人及び賃借人(転借人を含む。以下この条において同じ。)が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない

この「正当事由」が認められるためのほぼ必須の条件として、貸主から借主であるあなたに対して支払われる「財産上の給付」が立ち退き料というわけです。
一般的に、ほとんどのケースにおいて、立ち退き料はもらえるのでご安心ください。

2)「正当事由」と立ち退き料が増減する理由

立ち退き料がもらえるとしても、いくらもらえるかは、立ち退きを求める「正当事由」の強弱で決まります。
この際、(ⅰ)貸主側の「立ち退いてもらわないと困る」という事情と、(ⅱ)借主であるあなたの「立ち退きをすると困る」という両方の事情を比べ、どちらがどれくらい強い・弱いのかで金額は決まります。
たとえば、更地にして売却したいという理由は、専ら貸主さんの自己都合です。
それでは、立ち退きを求めるのは仕方ないとはならず、正当事由が弱いと判断され、立ち退き料の金額は高くなります。

①立ち退き料が「増える」理由

立ち退き料が増える主な理由は二つあります。

借主であるあなたにその不動産を使い続ける強い理由がある場合か、貸主側の都合でどうしてもあなたに出て行ってほしい場合です。

具体的には、以下のような事情があると立ち退き料は増えます。

【あなた側の事情】

  • 店舗などの事業を営んでいる場合(特に常連顧客がその場所にいる場合)
  • 子どもの学区を変えたくないが他に同種不動産がない
  • 親の介護のため近くに住みたいが近くに同種不動産がない
  • 大がかりな設備などを不動産に据え付けている場合
  • 好立地で同様の条件の不動産が見つかりにくい場合
  • 出せる立ち退き料、期限などを上手く利用する交渉スキルがある場合

【貸主側の事情】

  • 周辺を一体的に再開発する場合
  • 老朽化のため立て替えて利回りを上げたい
  • 老朽化のため取り壊して更地として高く売却したい
  • 周辺相場に比べて賃料が低いので新しい賃貸人を入れたい

②立ち退き料が「減る」理由

他方で、立ち退き料が減る理由は、これまでとは反対です。
借主が不動産を使い続けることに強い理由がない反面、貸主がその不動産を使うことに強い理由がある場合です。

【あなた側の事情】

  • ペット不可なのに黙ってペットを飼うなど当初の約束に反している場合
  • 立地がわるく本物件より好条件の不動産が周りにたくさんある場合
  • 貸主から今と同条件の代替不動産の紹介がある場合
  • この不動産でないと困るという理由がない場合

【貸主側の事情】

  • 貸主に持家がなくその不動産しか住むところがない場合
  • 建物が老朽化しており使用するのに難がある場合
  • 建物が古く耐震性に問題があり建て替えが必要な場合

これらの場合は、借主としても立ち退いても特に影響が小さく、または、貸主としてはその不動産を使う理由が相当程度ある場合です。

3)立ち退き料が最悪もらえない場合もあるので注意

原則として立ち退き料はもらえますが、以下のように1円たりとも立ち退き料がもらえない場合もありますので注意してください。

【立ち退き料がもらえない場合】

  • 貸主にその不動産を使うしかないという理由がある場合
  • 家賃を3ケ月以上滞納している場合
  • 期限の定めのある契約をしている場合(定期建物賃貸借契約)
  • 耐震性に著しく問題があり今にも倒壊しそうな場合

上記のような場合は、立ち退きを求められるのも仕方ないと判断されるからです。
このように、あなたに落ち度があるか、建物や契約の性質上どうしても立ち退きを求めざるを得ない場合には、立ち退き料が0円となってしまうことには注意が必要です。

3.「立ち退き料」の内訳

一口に立ち退き料といっても、その内訳としておおむね以下3つの要素を含んでいます

【立ち退き料の内訳】

  • 移転費用の補償
  • 借家権&(借地権)の補償
  • 営業補償

立ち退き料の内訳を理解することで、いくら立ち退き料がもらえて、どうすれば増やすことができるのかがわかります
それぞれ見ていきましょう。

1)移転費用の補償

立ち退いて次の場所に移転するための引越しに関する費用です。
引越し業者に払う料金のほか、不動産業者への仲介手数料、移転先との賃料の差額分まで含まれます。
引越し料金の相場は、住居であれば、単身世帯で5万円~10万円、4人家族でしたら20万円~30万円くらいです。
店舗、事務所となると、什器備品の量にもよりますが、数百万円が相場です。
不動産業者への仲介手数料の相場は、新家賃の1ヶ月分です。
賃料差額分の補填の相場は、賃料差額の2年分程度になります。

【移転費用の内訳】

項目 内容
引越し費用 引っ越し代、梱包、運送
仲介費用等 不動産会社への仲介手数料、敷金の差額、礼金
移転先で増加した賃料差額 前賃料と新賃料の差額×2年分

2)借地権、借家権の補償

貸主などの都合で立ち退いて、借地権または借家権を手放すことによる補償です。
「借地権」は、借りた土地に建物を建てて人に貸したり、建物と一緒に売ったりできる権利で、これ自体に価値があるからです。
「借家権」は売ることはできませんが、半永久的に継続できる権利として一定の価値があります。
貸主などの都合で出ていくことになった場合、これらの価値ある権利をあきらめる代わりに立ち退き料としてお金を補償してもらえるのです。
借地権の価格は、その土地の更地価格の6割~8割であり、土地の価値の大部分を占めます。
借家権は借地権ほど価値が高くなく、おおよそ借地権の1/3程度の額となります。
売ることができないし、似たような物件を他で借りることができるからです。
これに加えて借地上に所有建物がある場合は、その建物の残存価値の補償を求めます。

項目 内容
借地権価格 更地価格の6割~8割
借家権価格 上記価格の2割~3割

3)営業補償

営業補償とは、そこで営業していたならば本来得られていたであろう利益の補填をいいます。
次のような場合に補填されるものです。

  • 営業を休止しなければならない場合
  • 常連客を失ってしまう場合

店舗を運営している場合に、立ち退くとすると、その場所での営業をやめることが必要となり、営業休止期間ができます。
その営業休止期間にその場所で営業を続けていれば得られたであろう利益を失うために、その分を補填してもらえるのです。
また、「商圏エリア」が変わることで常連客(リピーター)から得られた利益を失うことからこの喪失分も補填されます。補填される「商圏エリア」の範囲は、コンビニ、整骨院、クリニック、歯医者など店舗ビジネスの種類内容、近くに競合店があるのかということにより異なります。
これらの立ち退き料の内訳を踏まえ、次の項目では実際にもらえる立ち退き料の相場について解説します。
あなたの置かれた状況にあてはまる項目のみ見てもらえればOKです。

7つの状況別の立ち退き料相場

  1. アパート・マンションなどの賃貸住宅
  2. 飲食店などの店舗(テナント)
  3. 持ち家・一軒家(借地上に家を建てている場合)
  4. 事務所
  5. 分譲マンション
  6. 再開発
  7. 倉庫・駐車場

4.7つの状況別の立ち退き料の相場

それでは具体的な状況に応じた立ち退き料の相場はいくらになるのか見ていきましょう。

1)アパート・マンションなどの賃貸住宅

用途 立ち退き料の相場
住宅 賃貸アパート 40万円~80万円程度:家賃の6ケ月分

アパート・マンションなどの賃貸住宅の立ち退き料は、月額賃料の6ヶ月〜10ヶ月が相場です。
例えば家賃が月額20万円なら、120万円〜200万円の計算です。
あくまでも相場なので、交渉の際に家賃の3ヶ月分を提示されたり、最終的な支払額が家賃の15ケ月程度になる事案もあります。

【賃貸住宅:立ち退き料の計算方法】

立ち退き料=引越し費用+新物件の仲介手数料+家賃増加分等の補償

具体的に以下の事例で計算してみます。

  • 家族3人暮らし
  • 杉並区
  • 比較的新しい60㎡のマンション
  • 家賃20万円
  • 近くの同程度のマンションに引っ越す

本事例での立ち退き料は、合計100万円となるところ、その内訳をみてみましょう。

①引越し費用:6万円~10万円

3月、4月の引越し繫忙期ですと10万円程度、それ以外の時期だと6万円程度になります。
引越し費用は、ヤマトやサカイ引越センターなどの引越し業者に支払う実費です。具体的な金額については、時期のほか荷物の量などによって変わるため、詳しくは業者に確認してください。

②新物件の仲介手数料:20万円程度

仲介手数料は新家賃の0.5ヶ月~1ヶ月分が相場です。本事例では、家賃1ケ月分相当の20万円になります。

③家賃増加分等の補償:70万円

家賃増加分などの補償とは、礼金と家賃が増額する場合の補填をいいます。
引越し先が比較的新しい物件ですと、礼金の支払いが必要となるため、礼金相当分の20万円も補償の対象になります。
また、引越しすることで増額してしまう家賃を補償してもらいます。
現在の家賃は20万円であるところ、次の物件の家賃は22万円でした。

家賃増額分の補償=(新賃料-現賃料)×24(2年分程度)

本件では、(22-20)×24=48万円です
住居用マンションですと多くの場合、同条件の物件でも家賃が増額します。
その増額する家賃について補填してもらえます。
賃貸住宅では、頻繁に家賃の増額を求められることがないため、周辺の家賃が上がっていても、支払い家賃は上がりません。
そのため、長く住めば住むほど、周辺の家賃相場と乖離し、同程度の物件でも自ずから引越し先の家賃の方が高くなるからです。

2)飲食店などの店舗(テナント)

用途 立ち退き料の相場
店舗 飲食店 1,000万円~9000万円

飲食店などの店舗の立ち退き料は、月額賃料の36ヶ月〜70ヶ月が相場です。
月額賃料が30万円の店舗なら、1,000万円~2,000万円になる計算です。
もっとも、店舗ビジネスの立ち退き料は、月額賃料を基準としつつも、立地への依存度や現在の売上・利益の額によってもらえる金額は増減します。
小規模な店舗ビジネスであれば、400万円程度ということもありますし、飲食店で2000万円程度になることもあります。
クリニックなど専門性の高い店舗ビジネスだと、粗利が高いため、売上が小さくても、立ち退き料が数億円ということもあります。

【店舗:立ち退き料の計算方法】

立ち退き料=借家権価格+損失補償額(家賃補償+営業補償+設備機器)+移転費用

具体的に以下の事例での算定を示します。

  • 居酒屋
  • 新橋、小さな店舗
  • 家賃月21万円、保証金100万円
  • 50年営業を継続していた

本事例では立ち退き料は合計で3,058万円になります。
立ち退き料=借家権価格939万円+損失補償額2,550万円(家賃補償200万円、営業補償2,040万円、設備機器310万円)
店舗の立ち退き料の大部分を占めているのが営業補償であることがわかります(全体金額の65%)
営業補償は、移転に伴って休業する間にそのまま営業していたら得られたであろう利益と、常連顧客を失うことによる得意先損失などを含むことから高額になります。
なお、損失補償額の2550万円は、これらを含めて算定されたものですが、この点のより詳しい計算方法を知りたい方は、「国土交通省の損失補償基準」をご覧ください。

3)持ち家・一軒家(借地上に家を建てている場合)

用途 立ち退き料の相場
住宅 戸建て 400万円~1000万円

この場合の立ち退き料は、借地権の価額と引越し費用を足した額になります。

【持ち家・一軒家:立ち退き料の計算方法】

立ち退き料=借地権価格×(1-正当事由)+引越し費用(+建物価格)

もっとも、実際にもらえる金額は、正当事由がどれくらいあるかが考慮され、正当事由の強弱に応じ、借地権の〇割という決め方になることが多いです。
具体的に以下の事例での算定を示します。

  • 新宿区
  • 家代:月3万6450円(※周辺相場より安い)
  • 木造2階建
  • 昭和41年築
  • 周辺の更地価格は1㎡あたり60万円
  • 本件土地は124㎡

本事例での立ち退き料は、合計でわずか630万円になります。
※計算式:630万円=6,000万円×1割+引越し費用30万円
まず借地権の価格を計算します。
借地権価格の基礎となるのが、更地の価格です。
更地としての周辺の価格相場は、1㎡あたり60万円前後です。
これに土地の広さ124㎡をかけて、借地権割合8割です。
借地権の価格は、約6,000万円となります。
次にどの程度正当事由があるのか、借主・貸主それぞれの強弱をみていくとことになります。
本件において正当事由の割合を「1割(10%)」とした理由は、

  • 借主は当初は自宅として住んでいたものの、現在は別に自宅がある。
  • 本物件は他人に貸して、賃料収入を得ている。
  • 借主は、その賃料収入がないと生活に困るということはない。
  • 貸主は、借家住まいで自宅を持っていない。
  • その借家は老朽化しており、設備も古い
  • 貸主の年齢を考慮すると近い将来現住居で生活するのか困難になる可能性があり、自分が持つ土地で自宅を建築する必要性が高い。

上記のような事情から、貸主のこの不動産を利用する必要性は極めて高いのに対して、借主にこの不動産を利用する必要性は低いといえ、正当事由が強く認められます。
その結果、1割となります。
借地権の価格が6,000万円もあるにもかかわらず、立ち退き料が600万円になったことを考えると、正当事由がどれほど大切かわかってもらえましたでしょうか。

4)分譲マンション

用途 立ち退き料の相場
住宅 分譲マンション 200万円~800万円

分譲マンションの場合は、一軒家の立ち退き料の考え方と似ています。
建物を多くの人で共有しているため、その共有者で借地権の価値を分け合うというイメージです。
立ち退き料の金額は、借地権の価額を各共有者が持つ分譲マンションの占有面積で案分して計算します。

【分譲マンション:立ち退き料の計算方法】

立ち退き料=借地権価格×占有面積/一棟の面積+引越し費用

具体的にみていきましょう。

  • 新宿区
  • 家代:月3万6450円(※周辺相場より安いにおいて低廉)
  • 木造2階建
  • 昭和41年築
  • 借地権価格:6000万円と想定

追加条件

  • マンション1室/全体は10戸

本事案の立ち退き料は、合計で90万円となります。
※計算式:90万円=600万円(さきほどの借地権の価格)×1割(10戸あるうちの1戸を持っている)+引越し費用30万円

5)事務所

用途 立ち退き料の相場
店舗 事務所 600万円~900万円

事務所の立ち退き料は、家賃の23年分程度が相場となります。
考え方としては、住宅から退去する場合と同じで引越し代と家賃増額などの補填ですが、住宅の場合よりもらえる金額は高額になります。
なぜなら、事務所を運営してるケースでは、住宅と異なり営業による収益があり、これを失う分を補填してもらう必要があるからです。

【事務所:立ち退き料の計算方法】

立ち退き料=借家権価格+家賃補償+営業補償+設備機器+引越し費用

具体的に以下の事例での算定を示します。

  • 新宿区
  • 家代月3万6450円(周辺相場において低廉)
  • 木造2階建
  • 昭和41年築

本件による立ち退き料は合計で450万円となります。
内訳は、借家権価格240万円、家賃補償100万円、営業補償180万円、移転費用30万円です。

6)再開発などの特殊な例

用途 立ち退き料の相場
住宅 戸建て 6,000万円~1億円

原則として、同じ立ち退きですから、再開発だからといってそれにかかる費用は変わりません。
ですが、再開発の場合には、以下のとおり一般的な相場の数倍の立ち退き料を受け取れる場合があります

【再開発の戸建て住宅の立ち退き料の計算方法及び内訳】

  • 新たに建て直す建築費用:5,000万円
  • 建物の解体費用:100〜200万円
  • 引越しなど移転費用:30万円
  • 仮住まい費用:480万円
  • 次の建物が建つまでの間の2年分の賃貸費用
  • 移転に対する精神的苦痛に対する補償

この違いは、再開発の特殊性による2つのポイントがあるからです。
一つ目は、このあたり周辺地域を一体的に再整備することです。
の部分だけ置いといて数年後にここだけ進めるというわけにはいきません。
高額な立ち退き料を払ってでも、このあたりの人々にまとめて同時期に立ち退いてもらいたいということです。
二つ目は、開発業者の利益です。
再開発は周辺地域を一体的に再整備することで周辺地域の投資効率を高める事業です。
事業ですから、予算と期日が存在します。
予算と期日を達成するために、高額な立ち退き料を払ってでも、立ち退いてもらいたいということです。
上記二つの理由により、一般的な相場の数倍の立ち退き料を受け取ったというケースがあります。
期日がないから、裁判で立ち退きなんてやってられないので、多く払ってとっとと出て行ってもらいたいなんてことがあります。
ですから、事案によっては相場の数倍の立ち退き料を受け取ったということもあります。
※市街地再開発事業など法定再開発の場合はあてはまりません。

7)倉庫・駐車場

用途 立ち退き料の相場
店舗 倉庫・駐車場 480万円~720万円

倉庫、駐車場などの立ち退き料の相場は、賃料の2年分です
倉庫、駐車場などの保管庫は、物が置ければよくどこでもいいから、移転してほかのところに置ければいいでしょといえます。住宅は生活の基盤となっており、その場所でなくてもいいということはありません。
もっとも、事業に必要な倉庫・駐車場という場合などその場所が重要ということもあります。
利用方法によって幅があるということです。

【倉庫・駐車場:立ち退き料の計算方法】

立ち退き料=借家権価格+家賃補償+(営業補償)+設備機器+引越し費用

具体的に以下の事例での算定を示します。

  • 車庫
  • 家代月24万円

本件の立ち退き料は、合計で288万円です。内訳は、借家権価格0円、家賃補償0円、営業補償244万円、移転費用44万円です。
老朽化が激しかったこと、周辺相場と家賃が乖離していなかったこと、車庫を事業に付帯するものとして利用していたことから上記のようになります。

5.立ち退き料を増やすための5つの交渉ポイント

以上のとおり、立ち退き料の金額は、状況に応じて異なります。
これらの相場は、あくまでも「裁判」になった場合の額であって、「交渉」のやり方次第で高くも低くもなります。
そこで、以下ではどのようにすれば立ち退き料を増額させることができるのか、交渉における5つのポイントを解説します。

1)【交渉ポイント①】いつまでに立ち退いて欲しいか確認する

まず、立ち退きの期日を確認してください。
相手にとって立ち退いて欲しい日までに立ち退くことで、立ち退き料の増額を勝ち取れるかもしれないからです。
いつまでですか?と直接確認するのでもいいです。
それだと立ち退いて欲しい具体的な理由がわからないので、交渉を通じて聞き出してみましょう。
期日が過ぎたら、立ち退いてもらっても意味がない、または、ほとんど意味をなさないという場合もあります。
そのため高い立ち退き料をもらって出ていくのであれば、その期日は決して過ぎてはいけないということになります!

2)【交渉ポイント②】立退いて欲しい理由を確認する

つぎに地主、貸主が立ち退きを求めている理由を確認してください。
相手によって立ち退いて欲しい理由がある間に立ち退くことで、立ち退き料の増額を勝ち取れるかもしれないからです。
どうして立ち退いて欲しいのかと直接理由を聞いてもいいでしょう。
ただし、回答を真に受けてはいけません。
本当は違う理由があるということがあります。
たとえば、老朽化による建て替えによりで出て行って欲しいという場合であっても、それは表向きであって、本当は、更地にして売りたいのかもしれません。
または、建て替えによって賃料をアップして投資不動産として魅力的なものにしたいのかもしれません。
その本当の理由を探ります。
上手く聞き出して、真意を推測するということが大切です。

3)【交渉ポイント③】相手の懐事情を探る

次に、立ち退き料にどれくらいの額を出せるのかを確認してください。
多くの事案は交渉で決まりますので、相手が払える限り、相場よりも多額の立ち退き料を獲得できます。
相手に直接聞くこともできますが、本当のことをいうはずもなく、場合によっては足元を見ようとするなんてなんて奴だと怒られるかもしれません。
予算総額を推測し、あといくら残っているか、あなたにはいくら払えそうなのを推測するほかありません
予算総額は、相手の会社規模によって異なるため一概には言えないことが交渉の難しいところです。

4)【交渉ポイント④】交渉内容はすべてテキストに残す

次に、交渉内容、過程をすべて記録に残してください
電話であっても、録音しておくか、メモをして発言内容を記録しておきましょう。
言った言わない、という不毛なトラブルをなくすという意味もありますが、それよりも相手の真意を探るヒントを探すためです。
相手の真意は、事案が進むにつれて変化していくことがあります。
その変化を見極めないといけません。

5)増額交渉でやってはいけない2つのこと

他方で、立ち退き料を増やすために「やってはいけないこと」が2つあります。

【やってはいけない2つのこと】

  • 家賃の支払いを止めること
  • 感情的な対応をすること

それぞれ見ていきましょう。

➀家賃(地代)の支払いを止めること

家賃、地代の支払いを止めるなど、契約において取り決めたことをやらなかったり、契約においてやったらだめなことをしては絶対いけません。
これらのことをすると、契約違反により解約され立ち退き料を1円ももらえないリスクがあります。
やりがちなのは、交渉しているうちに、思っているほど立ち退き料もらえそうにないことがわかり、せめて家賃の支払いを止めて交渉材料にしようとすることです。
ただただ自らを不利な状況に追いやるものです。
絶対にやめてください。

②感情的な対応をとること

相手の言動が気に障って怒鳴ってしまう、相手が怒鳴ってきたので怒鳴り返してしまうなど、感情的に対応することは絶対にいけません。
まともに相手してもらえなくなり立ち退き料を払わないで、裁判手続きをして出て行ってもらおうということになります。
感情的にすぐなる人だ、自分の感情をコントロールできない人だと思われてしまうと、どんな場面でも得することはないですね。

6.見逃せない!立ち退き料にかかる「税金」

いくら立ち退き料を多くもらえても、それにたくさんの税金がかかってしまっては意味がないですよね。
個人が立ち退き料を受け取った場合、立ち退き料の10%くらいが税金でっていかれます
立ち退き料が300万円なら、その10%の30万円が税金になるイメージです。
ですが、事案や立ち退き料を受け取った後の処理方法によって、税金がかからないで済む、反対に、多額の税金を払うはめになることもあります
そこで、以下では立ち退き料にかかる仕組みを具体例を使ってサッと確認します。
まず、立ち退き料の税金は「その所得類型毎に分けて」で計算します。

1 資産の消滅の対価補償

家屋の明渡しによって消滅する権利の対価の額に相当する金額は、総合課税の譲渡所得の収入金額となります。

2 収入金額または必要経費の補填

立ち退きに伴って、その家屋で行っていた事業の休業等による収入金額または必要経費を補填する金額は、事業所得等の収入金額となります。

3 その他

それ以外は、一時所得の収入金額となります。

前述の自宅賃貸マンションから立ち退き料合計100万円を受け取った場合を例にします。
内訳は、引越し費用が10万円、新物件の仲介手数料が20万円程度、家賃増加分等の補償 が70万円でした。
立ち退きに要する経費として、引越し費用、新物件の仲介手数料は、そのまま各業者に支払います。
この場合、税金はかかりません。
一時所得20万円(=総収入100万円-必要経費30万円-特別控除50万円)で、一時所得の課税金額は、その1/2ですから、10万円となります。
その他の所得によって異なりますが、確定申告すら不要です。
このように、あなたが実際に受け取る立ち退き料の額に直結する税金問題。
専門的な知識が必要なため、できるだけ多く立ち退き料を受け取りたい方は、次の「不動産の立ち退きに強い弁護士」に依頼する道を検討ください。

7.立ち退き料の増額交渉が不安な方は弁護士に!

ここまで見てくると、ご自身で交渉することに不安を覚えた方も多いと思います。
自分でやると増額させられるか不安だし、税金の問題も正直よくわからず、考えるのもちょっと面倒、、、、など。
そんな方には、「不動産の立退きに強い弁護士」に依頼する道もあります。
そのメリット・デメリットをそれぞれみていきましょう。

1)メリット

メリットは4つあります。

①立ち退き料が増額できる。

なんといってもこれが一番のメリットです。
立ち退き料が数倍になるということもあるぐらい、立ち退き料は様々な要因から増減します。
どうせ立ち退かなければならないなら、少しでも立ち退き料を多くもらいたいものです!

②「正当事由」が弱いと反論ができる。

貸主は強い正当事由があることを主張して、できるだけ立ち退き料が安くなる主張をしてきます。正当事由に対する適切な反論には、専門的な知見、経験が必要です。
これができないと、立ち退き料が増額どころか減額されてしまうリスクがあります。
不動産の立ち退きに強い弁護士なら、この点を安心して任せることができます。

③面倒な交渉を丸投げできる

弁護士に依頼する場合、立ち退き料の交渉だけでなく、立ち退くまで一連の面倒なやりとりをすべて専門家に丸投げできちゃいます。
例えば、立ち退きに関する合意書の作成から立ち退き時期、立ち退き料の受け取り、敷金、保証金の返還、原状回復まで。
それらをすべて弁護士に任せられるため、楽ちんだしとても安心です。

④交渉のストレスから解放される。

相手と話し合う、交渉するというのはめちゃくちゃストレスがかかります。
自分のことを自分でするというのは、やりやすい、進めやすい反面、ストレスがとんでもなくかかります。
弁護士に丸投げすることで、そのストレスから解放されます
弁護士であっても、自分の交渉は他の弁護士に依頼するくらいです。
ある意味、ストレスからの解放というのは、人生を幸せに生きる命題であり、めちゃくちゃ大切ですよね。

2)デメリット

他方で、弁護士に依頼した場合、以下2つのデメリットもあります。

①弁護士費用がかかる。

最大のデメリットは、弁護士費用が掛かることです
弁護士費用は、立ち退き料の6%~20%ほどになります。
もっとも、弁護士が入ることで立ち退き料が増えますので、増えた立ち退き料より弁護士費用が高いという事はありません。
増えた分の立ち退き料>弁護士費用
結局のところ、デメリットではないといえるかもしれません。

②交渉の時間が長引く

専門家として十分な調査をして相手に回答することから、交渉には相応の時間がかかります。
直接自分ですれば、結果はどうであれ時間はあまりかかりません。
この点をデメリットとみて、立ち退き料の増額より、早く終わることが重要な場合は弁護士に依頼しないほうがいいでしょう。
これらを踏まえて、立ち退き料の増額交渉を不動産に強い弁護士に依頼するか決めてみてください。

8.立ち退き料提示から支払い・引越しまでの流れ

最後に、立ち退き料の額が確定したら、その後いつ支払われるのかなど、今後の流れをまとめます。

  1. 大家さんから、立ち退いてほしい(契約を更新しないと)と連絡が来る。
  2. 大家さんからの連絡文、契約書、決算書などをもって弁護士に相談する。弁護士が増額可能と判断し、あなたもこの人に任せたいと思ったら依頼する。
  3. 弁護士が大家さんと立ち退き交渉を開始する。
  4. 弁護士が入って立ち退き料を含めた一連の問題をまとめ、あなたがその内容に納得する。
  5. 立ち退きをする→立ち退き料を受け取る

一般的に、立ち退き料は、実際にあなたが立ち退きをした日以降に支払われます。引っ越す前に立ち退き料はもらえないということです。

これは、大家など立ち退きを求める側の利益を守るためです。
立ち退き料を払ったにもかかわらず、万が一あなたが立ち退かなかった場合の裁判コストを考慮したもので、仕方ありません。

もっとも、引越し前に立ち退き料をもらえることも稀にあります。
ルールをあまり把握してない大家さんもいて、専門家に依頼することなくご自身で立ち退き交渉等されている場合など見られます。

まとめ

これまで解説してきた立ち退き料の相場と内訳、増額アップのコツに関して、まとめます。

用途 立ち退き料の相場
住宅 賃貸アパート 40万円~80万円程度:家賃の6ケ月分
分譲マンション 200万円~800万円
戸建て 400万円~1000万円
店舗 大規模物販店舗 3000万円~1億円
クリニック 5000万円~2億円
倉庫・駐車場 480万円~720万円
飲食店 1,000万円~9000万円
事務所 600万円~900万円

賃貸住宅の立ち退き料の相場は、月の賃料の6ヵ月ほどです。
これまで説明した通り、用途、再開発などの特殊性があるかどうかによって、立ち退き料の金額は大きく異なります。

ポイントは、立ち退き料の内訳から根拠ある主張をすること、相手の都合を汲み取って、立ち退き料の増額を狙うことです。
重要な要素として正当事由があり、これに対してきっちり反論することが大切です。

立ち退き料は、話合いで決まることが多いため、交渉の方法が大事です。
立ち退き料を上げるポイント、下げるポイントを理解して、交渉してください。

立ち退き料がまとまったとしても、受け取れるのは立ち退いた後のことですから、立退きまでの流れを確認しましょう。

自分で交渉するのはとても大変でストレスがかかりますから、弁護士に依頼するメリット、デメリットを検討して、弁護士に任せるのかを決めましょう。

最後に受け取った立ち退き料に税金がかかることにも注意してください。
ぜひ、できる限り多くの立ち退き料を受け取って、新天地で気持ちよく過ごしてください。

監修者

飛渡 貴之

資格:弁護士/司法書士、土地家屋調査士有資格
所属:弁護士法人キャストグローバル

〒101-0054 東京都千代田神田錦町2-11-7小川ビル6階
相談受付:03-6273-7758
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