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立ち退き料の税金はいくら?かからない?計算と確定申告の方法も解説
立ち退き料を受け取れて安心していたところに、税金がかかるのかなと疑問をお持ちになったのではないでしょうか。
結論として、立ち退き料に税金はかかります。
ですが、経費を控除出来たり、特別控除などもあったりと、税金を適正に減らすことができます。
また、確定申告のポイントなども解説しています。
本記事では、立ち退き料にかかる税金、節税方法、確定申告の方法とひととおり解説します。
【この記事でわかること】
- 立ち退き料に税金がかかること
- 立ち退き料にかかる税金は主に所得税であること
- 所得税には所得区分があり、立ち退き料で問題となるのは、譲渡所得、事業所得、一時所得であること
- 譲渡所得の計算は、立ち退き料(収入)ー移転費用(経費)ー特別控除額であること
- 譲渡所得は長期と短期の二種類があり、税率がことなること
- 事業所得は、総収入金額-必要経費であること
- 一時所得は、総収入金額-収入を得るために支出した金額-特別控除額(最高50万円)であること
- 具体的に税金がいくらくらいになるかということ
- 税金を節約するには、適切な経費算入と使える特別控除を見逃さないこと
- 20万円を超える所得があれば確定申告が必要なこと
- 確定申告は税務署に相談に行くのがいいということ
なお、立ち退き料についてお知りになりたい方は、「立ち退き料の相場は?7つのケース毎にいくらもらえるか・内訳を解説」をご覧ください。
目次
1. 立ち退き料に税金はかかるのか?
まず、原則として、立ち退き料に税金はかかります。
税金は、所得が発生すればかかるのが原則です。
所得とは、収入から必要な経費を差し引いた額をいいます。
ここでいう「経費」とは、引っ越しや新居の契約にかかった実費(仲介手数料、礼金など)です。
つまり、受け取った立ち退き料からこれらの「経費」を差し引いても、まだ手元にお金が残った場合、その金額に対して税金がかかるということです。
そして、立ち退き料によって、所得が発生することが多いので、税金はかかることになるということになります。
受け取った立ち退き料を、引っ越しや新居の契約で全額使い果たしてしまうケースは多くないため、「基本的には税金がかかる」と言えるわけです。
1)立ち退き料にかかる税金
立ち退き料には、大きく分けて以下の3種類の税金がかかると言われています。
【立ち退き料にかかる3種類の税金】
種類 | かかる条件 |
所得税 | 個人が立ち退き料を受け取った場合 |
法人税 | 法人が立ち退き料を受け取った場合 |
消費税 | 物件を賃貸人以外の人に明け渡した場合 |
ただし、基本的には「所得税」だけかかると考えておいて大丈夫です。
ほとんどの方は個人で、賃貸人(大家さんなど)に明け渡して立ち退くケースに当てはまるでしょう。
住居を借りている個人が、その住居を明け渡して立ち退き料を受け取った場合には所得税がかかることになります。
所得税は、その性質によって所得を10種類に区分しており、所得区分といいます。
立ち退き料を受け取った時には、以下の3つの所得が関わります。
・譲渡所得
・一時所得
・事業所得
以下で、一つ一つご説明します。
なお、消費税はどうなるかというと、資産の譲渡に当たらず(消費税法基本通達5章、2節、7)基本的にはかからないと考えてください。
ただ、あまり見かけない事例ですが、賃貸人以外の人に明け渡して、その方から立ち退き料を受け取る場合など消費税がかかる場合があります。
2)立ち退き料に税金がかからない場合
立ち退き料が「所得」にならない場合、税金はかかりません。
経費以上の収入があり儲かった場合に、儲かった部分から税金を払ってくださいということだからです。
例えば、立ち退き料で20万円受け取って、引越し費用などの移転費用で20万円かかったとすると、差し引き0円です。
この場合は、儲かっていませんから、税金はかかりません。
また、サラリーマンの方が、立ち退き料を受け取って、儲かった額が20万円以下であれば確定申告が不要であり、税金はかかりません(給与と立ち退き料以外に収入がない場合)。
さらに、公共のために立ち退いた場合などでは優遇制度があって、経費に上乗せできる特別控除があり、儲かった場合でも税金がかからない場合があります。
これについては、5章で説明します。ーリンク
なお、儲かったとは、手残りした実際の額とはズレる可能性があります。
これは減価償却等の税務上の処理によるものです。
2.立ち退き料にかかる税金の所得区分と計算方法
では、具体的にいくら税金がかかるのでしょうか。
まず、計算方法や所得区分の説明をします。
1)譲渡所得
①譲渡所得とはどのようなものか
譲渡所得とは、資産の消滅の対価として補償を受けた所得です。
- 自分が持っているマンションや一戸建てを明け渡すことによって立ち退き料を受け取った場合
- 自分が借りているマンションや一戸建てを明け渡すことによって立ち退き料を受け取った場合でそれが借地権の消滅にかかる対価の場合
これらの場合は、所有権、借地権、借家権の消滅の対価として、立ち退き料を受け取っていますから、資産の消滅の対価として受け取っており、譲渡所得となります。
②譲渡所得の計算方法
譲渡所得は、次の計算方法です。
- 課税譲渡所得=立ち退き料(収入)ー移転費用(経費)ー特別控除額
で計算します。
ですが、特別控除については2パターンあります。
賃貸していたマンションや一戸建てから立ち退いたときは、特別控除額は50万円です。
所有していた土地や建物から立ち退いたときの特別控除は、1,000万円~5,000万円と高額な控除があります。
税金の特別控除について詳しくは4章で説明しますーリンク
③譲渡所得の税額の計算方法
土地や建物の譲渡による所得は、他の給与所得などと合計せず、分離して計算することになっています。
・長期譲渡所得=課税譲渡所得金額×22.1%(住民税5%、復興特別所得税2.1%を含む)
長期とは、譲渡した土地の1月1日の時点で所有期間が5年を超える場合です。
例えば、令和6年12月20日に購入した家であれば、令和12年以降に売却すれば、長期譲渡所得となります。
・短期譲渡所得=課税譲渡所得金額×41.1%(住民税9%、復興特別所得税2.1%を含む)
短期とは、上記の長期にあたらないものです。
2)事業所得
①事業所得とはどのようなものか
事業に対する収入金額または必要経費の補填としての受けた所得です。
立ち退きによって、その家屋で行っていた事業の休業等による収入や経費を補填するために立ち退き料を受け取っている場合です。
②事業所得の計算方法
事業所得は、
総収入金額-必要経費=事業所得の金額
で計算します。
立ち退き料を受け取った場合において、総収入金額は次のように考えます。
事業で得た利益+立ち退き料のうち事業の休業等の補填として受け取った額です。
必要経費は、事業のために必要な原価、給与、家賃などの費用をいいます。
3)一時所得
①一時所得とはどのようなものか
ここまで解説してきた「譲渡所得」「事業所得」以外にあたるものを「一時所得」といいます。
例えば、迷惑料(慰謝料)的要素として受け取った立ち退き料です。
立ち退き料以外で分かりやすいものは、生命保険の一時金や満期返戻金、懸賞の賞金がこれにあたります。
②一時所得の計算方法
一時所得は、
総収入金額-収入を得るために支出した金額-特別控除額(最高50万円)=一時所得の金額
で計算します。
この一時所得の金額の2分の1を給与所得などの他の所得と合計して、収める税額と計算します。
立ち退き料以外に一時所得があればそれも総収入金額になります。
ところで、昨今世間を賑わせているふるさと納税の返礼品も一時所得に当たるという見解を国税庁は示しています。
ふるさと納税の寄付額は一時所得を得るために支出した金額に当たりません。
そのため、ふるさと納税をたくさんされている方は注意が必要です。
3.具体的な税金の額はいくら?
では実際にいくらぐらい税金を払うことになるのでしょうか。
税金はご存知の通り、「課税金額(税金がかかる金額)」に対してそれぞれ決められた「税率」がかかる仕組みです。
税率は以下のようにまとめられます。
所得区分 | 課税対象金額の範囲(円) | 税率(%) |
譲渡所得 | 短期譲渡5年以下
長期譲渡5年超 |
41.1%
22.1% |
事業所得 | 195万円以下、195万円超330万円以下、330万円超695万円以下、695万円超900万円以下、900万円超1,800万円以下、1,800万円超4,000万円以下、4,000万円以上 | 5%、10%、20%、23%、33%、40%、45%
(※所得税のみ) |
一時所得 | 195万円以下、195万円超330万円以下、330万円超695万円以下、695万円超900万円以下、900万円超1800万円以下、1800万円超4000万円以下、4000万円超 | 5%、10%、20%、23%、33%、40%、45%
(※所得税のみ) |
ただ表を見れば分かるように、所得区分と「課税所得」がわからなければ正確な税金の額がわかりません。
そこで、(ⅰ)サラリーマンの方が立ち退き料を受け取った場合(ⅱ)個人事業をされている方、(ⅲ)法人が立ち退き料を受け取った場合の3つの場合を考えてみましょう。
1)個人が立ち退き料を受け取った場合
サラリーマンの個人が、賃貸していたマンションや一戸建てから立ち退いて、立ち退き料200万円を受け取った場合を考えてみましょう。
所得区分としては、譲渡所得か一時所得になります。
ですが、基本的にはあなたに有利であろう一時所得としてください。
かかった経費は、引っ越し費用として、引っ越し業者に20万円支払い、新物件の仲介手数料等に40万円かかったとします。
そうすると、総収入金額200万円-上記費用合計60万円-特別控除50万円=90万円が一時所得となります。
これの2分の1をかけた45万円が課税金額となります。
サラリーマンであれば、他に給与を受け取っていますので、給与所得とこの一時所得45万円を合算して、総所得金額を出します。
この総所得金額から所得控除を引いた額が課税所得となり、その額に応じて税率が異なります。
所得控除は聞きなれないかもしれませんが、生命保険料控除、医療費控除、配偶者控除などのことで、多くの方になじみのあるものです。
2)個人事業主が立ち退き料を受け取った場合
個人事務所をされている個人事業主が、賃貸していたテナントを立ち退いて、立ち退き料600万円を受け取った場合を考えてみましょう。
所得区分は事業所得になります。
ですから、その他の事業を合算した収入に対して、事業の経費に加えて、立ち退きにかかった費用(引越し費用、内装工事設備費等)を差し引いて、課税されます。
3)法人として立ち退き料を受け取った場合
法人として立ち退き料を受け取った場合は、所得税ではなく法人税です。
立ち退き料は他の所得金額と合算され、法人税額の計算基礎となります。
税率は、法人格によって異なりますが、一般的に、800万円以下は15%、800万円超の部分は23.2%です。
その他消費税、復興特別法人税などの国税、法人住民税などの地方税がかかります。
4.立ち退き料にかかる税金の節税方法は?
立ち退き料を受け取った場合には、いろいろな特別控除が利用できる可能性があります。
1)引っ越し費用などの「経費」を適切に申告する
「課税譲渡所得」を少なくすることで、税金を抑えることができます。
かかった経費を適切に計算することで、課税所得を押さえることができます。
例えば以下のような費用を経費とします。
- 引っ越し費用の詳細な記録
- 引っ越し業者の料金
- 家財道具の運搬に伴う保険料
- 引っ越し先の仮住まい費用
- 新しい住まいの契約費用
- 礼金
- 仲介手数料
- インターネットや電話の移転費用
- 立ち退き交渉に関わる弁護士費用
- 相談料
- 着手金
- 成功報酬
ここまでは経費の代表例として引っ越し費用や新居の契約費用を挙げてきましたが、インターネットの移転費用なども「経費」に含まれます。
また、弁護士に立ち退き料交渉を依頼した場合に、その費用も経費といえます。
ですが、収入に対する経費になるかという判断は専門的な判断です。
どのような場合であっても経費にできるとはいえませんので、専門の税理士さんに確認をしてください。
2)特別控除を利用する
特別控除とは、収入に対する経費ではないが、税金の公平な支払と税金の支払い能力(担税力)という観点から、特別に経費として控除してもいいですよというものです。
立ち退き料を受け取った場合に、主に使える特別控除は次のようなものがあります。
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- 収用等により公共事業のために土地建物を譲渡した場合 ・・・ 5,000万円
- マイホーム(居住用財産)を譲渡した場合 ・・・ 3,000万円
- (被相続人の居住用財産(空き家)を譲渡した場合・・・ 3,000万円または2,000万円)
- 特定土地区画整理事業等のために土地等を譲渡した場合 ・・・ 2,000万円
- 特定住宅地造成事業等のために土地等を譲渡した場合 ・・・ 1,500万円
- 平成21年及び平成22年に取得した土地等を譲渡した場合・・・1,000万円
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特に公共のために立ち退く場合、マイホームから立ち退く場合などが使える場合が多いのではないかと思います。
公共のために立ち退いて不動産を売却して新たに不動産を買い換えた場合は、5,000万円の特別控除ではなく、買い替えの特例を選択することもできます。
税金計算はプロの税理士さんに相談しましょう。
税理士さんにお金を払ってまでという方は、税務署に行って相談するのも良い方法です。
2)立ち退き料を受け取る契約時の注意点
税金の支払いを間違えて税務署に指摘されて余計な税金を払うことは避けたいです。
立ち退きの契約時において、契約書の内容として立ち退き料を記載します。
立ち退き契約書が、その立ち退き料がどのような性質のものになるのかの判断する材料になります。
契約する前に、専門の弁護士、税理士にご相談いただいた方がよいでしょう。
5立ち退き料を受け取ったら確定申告が必要か?
サラリーマンであれば、給与が源泉徴収されていますので、立ち退き料を含めた所得が20万円を超える場合は確定申告が必要です。
1)立ち退き料の確定申告に必要なもの
税理士さんに依頼せずに、ご自身で確定申告するというのも一つの方法です。
必要な書類は次です。
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- 本人確認書類(免許証、マイナンバーカード)
- 所得金額がわかるもの
- 給与の源泉徴収票
- 受け取った立ち退き料がわかるもの
- 立ち退くのためにかかった費用の領収書
- 特別控除を受けられる場合はその理由がわかるもの
- 申告書等
- 収支内訳書
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国税庁の確定申告書作成コーナーで作成できます。
結構使いやすいと思うのでおすすめです。
マイナンバーカードがあれば、スマホで作成することができます。
使い方が難しいという方は、印刷して提出を選べばデータ作成のみをすることができます。
2)立ち退き料の確定申告の流れ
確定申告は、1月1日から12月31日までの所得金額と税金を計算して申告し納税することをいいます。
納付期限は、3月15日となります。
この日までに申告して、納税する必要があります。
3)立ち退き料の確定申告の注意点
税務署に行って相談するというのが良いでしょう。
税務署の職員さんが、一つ一つどうすればいいのかを教えてくれます。
ですが、確定申告の期限が近くなればなるほど、税務署が忙しくなり、相談するのも時間がかかります。
立ち退き料を受けとったら、確定申告時期まで待たずにすみやかに税務署に相談するのがよいでしょう。
確定申告を期限内にせず、納税しなかった場合は以下に応じてペナルティがありますから注意が必要です。
無申告加算税と延滞税がかかり、だんだん税率(15%~30%とかなりの高いペナルティが発生します。)が上がっていきます。
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- 税務署からの連絡があるまえに、自主的に申告して納付する場合
- 税務署からの連絡があって、申告して納付する場合
- 税務調査を受けた後に、申告して納付する場合
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確定申告をしたが金額が間違っていた場合は、過少申告加算税、延滞税がかかります。
仮装隠蔽によって税を免れようとした場合は、重加算税というかなり重いペナルティがかかります。
そして、この額が1億円ちかくになると逮捕されてしまう可能性もあるので、注意しましょう。
まとめ
立ち退き料に税金が原則としてかかります。
ですが、どれくらいかかるかは個々の事情で大きく変わります。
サラリーマン個人が受け取る立ち退き料にかかる税金は所得税です。
所得税は、10種の区分に分かれていて、立ち退き料の場合は、次の場合があります。
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- 譲渡所得
資産の消滅の対価として補償を受けた所得で、収入金額-(取得費+譲渡費用)-特別控除額=課税譲渡所得金額で計算します。 - 事業所得
事業に対する収入金額または必要経費の補填としての受けた所得で、総収入金額-必要経費=事業所得で計算します。 - 一時所得
上記以外にあたるものを一時所得といい、総収入金額-収入を得るために支出した金額-特別控除額(最高50万円)=一時所得の金額
- 譲渡所得
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で計算します。
税金を節約するには、特別控除などの制度を見落とさないことです。
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- 収用等により公共事業のために土地建物を譲渡した場合 ・・・ 5,000万円
- マイホーム(居住用財産)を譲渡した場合 ・・・ 3,000万円
- (被相続人の居住用財産(空き家)を譲渡した場合・・・ 3,000万円または2,000万円)
- 特定土地区画整理事業等のために土地等を譲渡した場合 ・・・ 2,000万円
- 特定住宅地造成事業等のために土地等を譲渡した場合 ・・・ 1,500万円
- 平成21年及び平成22年に取得した土地等を譲渡した場合・・・1,000万円
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サラリーマンが立ち退き料を受け取って、20万円以上儲からなかったら確定申告は不要です。
税理士さんなどの専門家に依頼するか、税務署に行って相談しましょう。
適切な申告をしなかったことによるペナルティはとても大きく、儲かった部分が吹き飛んでしまうかもしれません。
税務署に行って相談しても、税務署の方が申告書を作るまでしっかり指南してくれますので、安心です。
立ち退き料を受け取った方は、税金をしっかり検討して、適切に納税してください!