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大家都合の退去の原状回復費用はどうなる?免除にする交渉方法を解説

「大家都合の退去なのに原状回復費用を払わなきゃいけないの?」という疑問があるでしょう。
結論、原則としては大家都合でも借主(あなた)に原状回復義務はありますが、交渉によって免除・減額できる可能性が十分にあります。
そこで本記事では大家都合で突然退去を求められた方に原状回復費用と立ち退き料の関係を詳しく解説します。
また、具体的なシミュレーションで損をしない方法をお伝えします。
【この記事でわかること】
- 大家都合の退去でも原状回復義務は借主にあること
- 原状回復の範囲は賃借人の故意・過失による損耗・毀損を復旧すること
- 原状回復費用よりも高額な立ち退き料をもらえること
- 原状回復費と立ち退き料を合わせたシミュレーション
- 手元に残る金額を増やすポイント
- 大家都合で退去する場合の流れ
- 大家都合で退去を求められた場合に弁護士に相談するメリット
なお、立ち退き料の相場について知りたい方は、「立ち退き料の相場は?7つのケース毎にいくらもらえるか・内訳を解説」をご覧ください。
目次
1.大家都合の退去でも『原状回復義務』は借主にある
結論、大家都合の退去でも原則としては、原状回復義務は借主にあります。
民法621条で定められている原状回復義務は、原則「退去理由にかかわらず借主負担」であり、賃貸借契約でもそのように定められているからです。
ただし、借主都合で引っ越す場合とは異なり、払わなくていいように交渉する余地はあります。
1)免除するように交渉することは可能!
大家都合で退去させられる場合「大家都合なのだから、退去にかかる費用(引越し費用・原状回復費用も含む)はすべて大家負担にしてほしい」と交渉するのは正当です。
実際、大家さんもスムーズに立ち退いてほしいという気持ちがあるため、条件として原状回復費用を免除にしてくれるケースは多いです。
特に、建て替えや取り壊しを理由に立ち退きを求められる場合、原状回復の意味が限りなく薄いため、免除してもらえる可能性は高いです。
とはいえ、こちらが何も言わなければ原則に従って請求してくることが多いかと思います。
ですから、あくまで免除を求める・交渉する姿勢を示すことが重要です。
2)免除されないにしても、金額の確認は必須!
原状回復費用が免除されないにしても、「請求されているのは正当な金額か」を確認することは非常に重要です。
大家によっては、不当に高い金額を請求してきて、内訳なども満足に説明しないケースが少なくありません。
不当に原状回復費をとられて損しないためには、借主負担の範囲を超えた原状回復費用を請求されていないか、きちんと確認することが大切です。
そのために、次章で述べる原状回復の範囲や相場をチェックして把握しておいてください。
2.原状回復の基礎知識|借主は把握しておこう
賃貸の退去時には、原状回復の費用を不当に多くとられるケースが少なくありません。
これを防ぐためにも、これから解説する基礎知識を必ず把握しておいてください。
1)原状回復義務の範囲
原状回復とは、賃借人の故意・過失による損耗・毀損を復旧することです。
原状とは初めにあった状態をいいますから、原状回復といわれると借りたときの状態に戻すと思うかもしれませんが、そうではありません。
この紺色の部分が、賃借人が負担する原状回復になります。
なお、この部分には、通常の使い方をしていても発生するものではあるが、その後の手入れなどの賃借人の管理が悪く損耗が拡大したと考えられるものを含む点に注意してください。
具体例を以下に示します。
①原状回復が必要なもの
- 冷蔵庫などの錆が付着して放置により取れなくなったもの
- 子どもの落書き
- タバコ等のヤニ・臭い
- 壁にねじ穴などをあけて下地ボードの張替が必要
- 飼育ペットによるひっかきキズ・臭い
②原状回復する必要がないもの
- 家具設置による床のへこみ・跡
- 畳や床の変色
- テレビ、冷蔵庫等の壁面の電気ヤケ
- 壁に貼ったポスターの日焼け跡
国土交通省のガイドラインがとても参考になります。
参考:国土交通省『原状回復ガイドライン』
2)実際の退去費用相場
では、実際の妥当な退去費用はいくらであるかを紹介します。
単身用のワンルームマンションで4年間住んでいて、転勤などで引っ越したという場合は4万円程度です。
おおよそルームクリーニング費用程度になります。
2LDKのマンションを家族で住んでいた場合は、12万円くらいでしょう。
子どもがいるかいないかで結構差が出てしまいます。
子どもは知らない間に壁や柱をカンカン叩いたりしますし、これは避けられないでしょう。
間取り | 原状回復工事費用の目安 |
---|---|
1K、ワンルーム | 3万〜5万円程度 |
2LDK・3DK | 12万~20万 |
ファミリー向けの3LDK | 15万〜50万円程度 |
おおよその目安です。
居住年数が長くなると金額が大きくなります。
3)原状回復義務の範囲が広すぎる・金額が高すぎると感じたら
退去した後に、原状回復の請求が来て、その額に驚くことがあります。
あり得ない費用を請求している大家さんが結構おられるので注意してください。
前述のとおり、原状回復は住んでいる期間にもよりますが、通常の利用をしていれば、それほど大きくなりません。
また、契約書で決めているのでと言われることもあります。
ですが、その賃貸借契約書の特約は、むちゃくちゃな原状回復を定めているケースがあります。
原則として契約自由の原則ではありますが、このような規定は消費者契約法などに反して無効となります。
十分に無効を争うことが出来るということを知っておいてください
2.大家都合の退去なら原状回復費用よりも高額の「立ち退き料」がもらえる!
大家都合の立ち退きの場合、原状回復費用を払わないといけないとしても、原状回復費用よりも高額の立ち退き料がもらえることになります。
立ち退き料とは、立ち退きに際して支払われる金銭で、主に正当事由の補完として支払われます。
正当事由とは、立ち退いてもらうのは仕方ないよねという理由をいい、大家さんとあなたの事情と立ち退き料を勘案して判断します。
1)立ち退き料の相場
大家都合の立ち退き料の相場は賃貸アパートでざっくり60万円(家賃の8ケ月分)で、賃貸マンションでざっくり100万円(家賃の8ケ月分)です。
用途 | 立ち退き料の相場 | |
---|---|---|
住宅 | 賃貸アパート | 40万円~100万円程度:家賃の8ケ月分 |
賃貸マンション | 60万円~120万円:家賃の8ケ月分 |
大家都合の立ち退き料の相場について詳しく知りたい方は、「大家都合で退去する際の立ち退き料の相場は?交渉のコツを弁護士解説」をご覧ください。
2)大家が立ち退き料を払ってくれない場合の具体的対応
まず前提として立ち退き料は基本的にもらえます。
にもかかわらず、大家が払わない姿勢であるとすると、一つの理由は、大家が払わないといけないことを知らない可能性があります。
払わないといけないことをしっかり説明して理解してもらうことが必要です。
なかなか理解してもらえない場合は、大家に弁護士などの専門家に相談するように促すとよいでしょう。
第三者の専門家がいえば、納得してくれることが多いです。
大家が立ち退き料を払ってくれないときの対応を詳しく知りたい方は、「大家が立ち退き料を払ってくれない!3つの対処法を弁護士が解説」をご覧ください。
3.原状回復費と立ち退き料をあわせて|手元の残り金額をシミュレーション
先に述べたように、受け取る立ち退き料の方が、原状回復費用より多くなりがちですから、差し引きしてお金を受け取ることができます。
また、敷金が原状回復費用よりも大きい場合は、その差額も返ってくるので以下のような計算になります。
敷金とは、賃貸物件を借りるときに、大家に預けるお金のことです。
家賃の滞納や、部屋を傷つけた場合などに、その費用に充てられ、退去時に残金が返還されます。
※手元に残るお金= 敷金 + 立ち退き料 – 原状回復費
具体例(家賃10万円/月):
項目 | 金額 |
---|---|
立ち退き料(8ヶ月分) | 80万円 |
敷金(1ヶ月分) | 10万円 |
原状回復費用(壁紙交換など) | 8万円 |
実質受取額 | 82万円 |
4.原状回復費用を払わないで手元に残る金額を増やす交渉ポイント
では、原状回復費用は払わないといけないとして、どうやったら手元に多くのお金を残せるのかを解説します。
1)原状回復費用を免除または減額させる
解説してきたとおり、原状回復費用を過大に請求しているところはまだまだ多く見られます。
あくどい不動産業者と繋がって、工事を水増ししキックバックしているなんてところもあります。
原状回復費用を適正な範囲内に抑える交渉術は国交省のガイドラインを確認してということです。
【大家に伝えるべきこと】
- 経年劣化分は大家負担であることを伝える
- その損耗は故意過失ではなく、経年劣化であること
- その損耗は一部が経年劣化によるもので、全額借主負担にはならないこと
- アパートの建て替えを理由に立ち退く場合は、そもそも原状回復する必要がないこと
なお、大家都合の場合は、まず次で解説する立ち退き料を決定してから、原状回復費用の話をする方が有利に動きます。
立ち退き料を決めた上で、原状回復費用はゼロにして欲しいと交渉します。
2)立ち退き料を増額する
払う費用を抑えるとともに、もらう費用である立ち退き料を増額させます。
大家さんから打診される立ち退き料はあくまであちら都合の費用でしょう。
大家都合の立ち退きであり、正当事由がないことを伝えます。
その上で、借主がこの不動産を使う理由があること、立ち退くにはこれくらいの費用がかかることをしっかり示します。
5.大家都合での退去する場合の流れとその初動
大家都合で立ち退きを要求された場合の流れと初動を解説します。
1)大家都合の退去とは?よくあるケース紹介
大家都合の立ち退きとは、次のようなケースです。
- 建物老朽化で建て替える(現実的に倒壊する危険があるほど老朽化していない)
- リフォーム・建て替えなどで利回りを上げたい
- 賃借人のいない物件にして実需市場で売却したい
これらは、大家がこの不動産に住む必要があるなどと異なり、物件の利回りを上げたいなど不動産投資の観点です。
2)立ち退き勧告を受けたらするべき初動対応
大家さんから立ち退いてほしいという連絡が来たら、冷静に受け止めつつできれば、立ち退きたくない旨を伝えましょう。
そして、どうして立ち退いてほしいのかをしっかり聞き取ってください。
その理由、提示された立ち退き料などの資料を揃えて、弁護士に相談に行くことをお勧めします。
それらの事情から正当事由としてどれくらいのものかなどを弁護士が確認しつつ、立ち退き料の増額方法を検討します。
6.大家都合の退去で原状回復を求められた場合に弁護士に相談するメリット
大家都合で立ち退きを求められた場合は弁護士に相談することをお勧めします。
原状回復費用を求められた場合はなおのことです。
弁護士に相談することで次の4つのメリットがあります。
- 立ち退き料を増額できる
- 原状回復費用を減額できる
- 交渉から合意書作成、立ち退き完了まで任せられる
- 直接大家、管理会社とコンタクトをとる必要がない
デメリットは弁護士費用です。
ですが、手元に残るお金は増えることになることが多いです。
まとめ
それでは大家都合で退去を求められた場合に原状回復がどうなるかなどをまとめます。
大家都合で退去する場合でも、原状回復義務は基本的に借主にある。
ただし、大家都合の場合は免除や減額の交渉が可能であり、特に建て替えや取り壊しでは免除されやすい。
一方で、不当に高い原状回復費を請求されることもあるため、相場を理解し正当性を確認することが重要。
原状回復とは、借主の故意・過失による損耗や毀損を回復するもので、経年劣化や通常使用による損耗は含まれない。
入居期間によるが単身向けで約4万円、ファミリー向け2LDKで12万円前後が目安である。
高額請求された場合は、消費者契約法違反などを理由に無効を主張できる。
また、大家都合の場合は原状回復費用よりも高額の「立ち退き料」を受け取れる。
相場は家賃の約8か月分(アパートで60万円程度、マンションで100万円程度)で、支払い義務を知らない大家には弁護士等の専門家を通じて説明するとよい。
交渉のポイントは、まず立ち退き料を決定した後に原状回復費用の免除を求めることや、立ち退き料の増額を狙うこと。
大家から立ち退きを要求されたら冷静に理由を確認し、早期に弁護士へ相談することで、原状回復費用の減額、立ち退き料の増額、交渉負担の軽減などのメリットを得られる。