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大家都合で退去する際の立ち退き料の相場は?交渉のコツを弁護士解説
大家都合で急に立ち退きを求められた方。
立ち退き料を提示されたものの、その金額は妥当なのか気になり「大家都合での立ち退き料の相場」を調べているのではないでしょうか?
結論、大家都合での立ち退き料の相場は賃料の8ヶ月分です。
ただ、あなたの置かれている状況によっても、実際にもらえる立ち退き料の金額は変わってきます。
そこで、大家都合で退去する場合の立ち退き料の相場から、増額するための交渉のポイントなどについてわかりやすく解説します。
【この記事でわかること】
- 大家都合の賃貸アパートの立ち退き料の相場はざっくり100万円(家賃8ケ月分)であること
- 大家都合の賃貸戸建ての立ち退き料の相場はざっくり150万円(家賃8ケ月分)であること
- 立ち退き料の内訳は、引越し費用、仲介手数料等、家賃増加分等であること
- 飲食店など店舗をしていると営業補償を追加でもらえること
- 大家都合の正当事由は小さいこと
- 大家都合の立ち退き料が高額から立ち退きが認められなかった裁判例があること
- 立ち退き料の増額交渉の進め方の3つの注意点
- 【注意点①】:頑なに立ち退きを拒否しない
- 【注意点②】:いつまでに立ち退いて欲しいか確認する
- 【注意点③】:賃貸借契約の禁止事項にふれない
- 立ち退いた後に立ち退き料を受け取れること
- 立ち退き料に10%程度の税金がかかること
- 立ち退き料交渉を弁護士に依頼する2つのメリット
- 立ち退き料が増額できる
- ストレスのかかる交渉を丸投げできる
- 立ち退き料交渉を弁護士に依頼するデメリットは弁護士費用がかかること
※なお、立ち退き料の相場について詳しく知りたい方は、「立ち退き料の相場は?7つのケース毎にいくらもらえるか・内訳を解説」もご覧ください。
目次
1.大家都合での立ち退き料の相場
用途 | 立ち退き料の相場 | |
---|---|---|
住宅 | 賃貸アパート | 60万円~100万円程度:家賃の8ケ月分 |
賃貸戸建て | 80万円~150万円:家賃の8ケ月分 |
※賃貸アパート家賃は月額10万円、賃貸戸建て家賃は月額15万円として。
賃貸アパート・マンションの立ち退き料の相場は、ざっくり100万円(家賃の8ケ月分)です。
賃貸戸建ての立ち退き料の相場は、150万円(家賃の8ケ月分)です。
ですが、これらはあくまで相場であって、ご自身の状況、大家さんの状況によって大きく異なります。
詳細について、解説していきます。
2.立ち退き料の内訳と状況ごとの相場
1)立ち退き料の内訳
賃貸アパートの大家都合の立ち退き料の相場は、100万円(家賃の8ケ月分)ですが、その内訳の詳細を見ていきましょう。
立ち退き料の内訳は3つあります。
【立ち退き料の内訳】
- 引越し費用
- 仲介手数料等
- 家賃増加分等
①引越し費用
アップル引越しセンターなどの引越し業者に払う費用です。
引っ越し時期、荷物の量によって価格は変わります。
②仲介手数料等
次の物件を借りるにあたって必要な費用で、敷金礼金、保証料(家賃保証会社への支払い)、不動産業者に支払う仲介手数料です。
それぞれ相場は家賃1ケ月分です。
③家賃増加分等
同等の物件を新しく賃貸する場合は、一般的に、現在の賃料よりも高くなります。
その増加する家賃2年分が補填されます。
(新家賃-現家賃)×24ケ月です。
例えば、新家賃20万円、旧家賃15万円の場合、120万円({20万-15万}×24)補填される計算です。
また、これに加えて、ある種の迷惑料・慰謝料も加わります。
2年分の家賃増加分に+αというイメージです。
以下、あなたの賃貸物件の状況ごとに、立ち退き料の相場を見ていきます。
2)状況ごとの立ち退き料の相場
①賃貸アパート・マンション
・引越し費用
引越し業者に払う費用は、家族3人分だと8万円~20万円ほどです。
・仲介手数料等
敷金 | 110,000円(賃料の1ケ月分) |
---|---|
礼金 | 110,000円(賃料の1ケ月分) |
仲介手数料 | 110,000円(賃料の1ケ月分) |
保証料 | 110,000円(賃料の1ケ月分) |
以上合計440,000円 |
都内近郊だと、敷金、礼金、仲介手数料、保証料それぞれ11万円(家賃の1ケ月分)です。
以上、合計が、440,000円となります。
・家賃増加分等
同等の物件の家賃が月1万円高くなるとすると、1万円×24ケ月(2年)で24万円です。
これに+αを加えて合計37万円です。
②賃貸戸建て
基本的には①と同じ考え方で、相場は月額家賃の8ヶ月分となります。
月額賃料が戸建ての方が高い傾向があるので(都心部やタワマンは異なる)、その分若干高くなります。
③飲食店などの店舗(テナント)
賃貸物件で飲食店などを経営されている場合は、月額賃料の36ケ月~70ケ月が相場です。
これまでより大きな額になるのは、移転費用がかさむことと「営業補償」(本来その場所で営業していたら得られた利益を失うことの保証)が加わるからです。
3.立ち退き料を最大化するためには
立ち退き料はできるだけ多くもらいたいですよね。
そのためにはなぜ立ち退き料をもらえるのかを理解することが必要です。
1)正当事由とは
賃貸アパートに住んでいて突然立ち退けと言われても困りますよね。
借地借家法28条が借家人の保護を図っており、「正当事由(やむを得ない理由)」がない限り大家からの立ち退き要求は認められません。
建物の賃貸人による第二十六条第一項の通知又は建物の賃貸借の解約の申入れは、建物の賃貸人及び賃借人(転借人を含む。以下この条において同じ。)が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない。
立ち退き料の金額としていくらが妥当なのかについては、大家と借家人の状況とを考慮して判断します。
2)大家都合と正当事由
大家都合であればあるほど立ち退き料を高額にしないと正当事由があると認められません。
大家さんが建物を使用する必要性が低いほど、立ち退き料が高額になります。
では、大家さんのどのような都合であれば、立ち退き料が高額になるのでしょうか。
例えば次のような都合です。
- 利回りを上げるために建て替えをしたい
- 立て替えて建物の種類を変更し有効利用したい
- 物置として利用したい
- 事業を開始したい
一方で、借主に建物を使用する切実な理由があれば、立ち退き料が高額になります。
例えば次のような理由です。
- 家族が大病を抱え引越しが困難
- 交通弱者で他では同等の生活ができない
- 長年事業をしており他の場所では同等の事業ができない
これらが掛け合わさると立ち退き料は高額になります。
3)立ち退き料がもらえない場合もある
一般的に立ち退き料がもらえることが多いですが、立ち退き料をもらえない場合もあります。
大家さんが建物を使用する必要性が高く、一方で、借主が建物を使用する必要性が低い場合です。
この場合は、立ち退き料なしで(財産上の給付なしで)正当事由が認められます。
4.判例からみる大家都合の立ち退き料の相場
では、過去の裁判例ではどのようになっているのでしょうか。
1)【判例①】高額な立ち退き料をもらえた事例
立ち退き料150万円(月額賃料の30ケ月分)と高額な立ち退き料をもらえた事例です。
大家さんは再開発したいと考えていた。
一方、借主は、単身で住んでいた(平成23.6.23:東京地裁)。
2)【判例②】低額な立ち退き料しかもらえなかった事例
立ち退き料45万円(賃料3ケ月分)と相場よりも低い立ち退き料しかもらえなかった事例でです。
大家さんは海外勤務から帰国して自分が住みたいと考えていた。
一方、借主は本不動産に住まなくてはならない理由がなく、弁護士に依頼して他を探すお金もあったという事案でした(平成23.9.13:東京地裁)。
3)【判例③】そもそも立ち退き料をもらえなかった事例
立ち退き料がもらえなかった(0円)事例です。
建物は、築100年を超えており、安全性に問題があったため、大家は耐震性不足で立て替えたいと考えていた。
一方、借主は他の場所に住んでおり、使用の必要性が著しく低い事案でした(平成21.9.11:東京地裁)。
4)【判例④】立ち退きが認められなかった事例
そもそも立ち退かなくてよいと判断された事例を紹介します。
大家は老朽化によって建て替えたく、立ち退き料30万円を払うと提案していた。
ただ借主は、24年間にわたって居住しており、近隣との友好関係など強固な生活基盤があったため、立ち退きに難色を示していた。
そこで裁判所は、「老朽化はしてるが住めないほどのものではない」として、建て替えの必要性は低いことを理由に正当事由なしと判断して、立ち退きを認めなかった(平成21.6.16:東京地裁)。
5)【判例⑤】店舗の立ち退き料についての事例
店舗の立ち退きので、立ち退き料6,000万円(賃料239ケ月分)とされた事例です。
大家は耐震性に問題のある建物を取り壊して、分譲マンションを立てるという再開発を理由とする一方、借主は歯科診療所を営んでいた事案でした(平成25.1.25、東京地裁)。
5.そもそも立ち退かないといけないのか?
大家都合で立ち退きを要求されて、「そもそも立ち退かなくてはいけないのか」と疑問をお持ちの方もいるでしょう。
結論、だいたいのケースで立ち退かないといけません。
大家都合の理由が不合理でなければ、立ち退き料を支払うことで正当事由があると認められてしまうからです。
そのため、立ち退きを頑なに拒否するよりも、どうしたら立ち退き料を増額できるのかを考えるのが得策です。
6.立ち退き料の増額交渉の進め方と3つの注意点
そこで、立ち退き料を上手に増額する交渉の進め方や注意点を説明します。
1)【注意点①】:頑なに立ち退きを拒否しない
繰り返しになりますが、何が何でも出て行かないという態度は決してとらないでください。
大家は交渉できない人と判断し、交渉せず訴訟を起こすでしょう。
裁判所が正当事由が強いと判断して立ち退き料が下がったり、時には立ち退き料がもらえないということもあります。
2)【注意点②】:いつまでに立ち退いて欲しいか確認する
大家さんがいつまでに出て行って欲しいかという期日を確認してください。
期日前に出ていくことで立ち退き料を最大化できます。
期日を過ぎてしまうと大家さんにとっては出ていてもらう意味がなくなるということになり、立ち退き料は払わないということになりかねません。
3)【注意点③】:賃貸借契約の禁止事項にふれない
家賃を払わないなど賃貸借契約書に記載されている義務を怠ったり、禁止事項として上げられていることをしてはいけません。
立ち退き交渉がうまくいかなかったからと嫌がらせで家賃を払わないというのはもってのほかです。
契約違反で立ち退かされてしまいますので、立ち退き料はもらえなくなります。
7.立ち退き料をもらう流れ
立ち退き料を受け取れるタイミングは、立ち退き前ではなく立ち退いた後です。
大家側からすると、立ち退く前に払ってしまうと、立ち退き料を払ったのに立ち退かないというさんざんな結果になりかねないためです。
まれにこの点を気にせず払ってくれる場合もあります。
8.見逃せない!立ち退き料にかかる税金
立ち退き料には税金がかかる可能性があり、立ち退き料の10%くらい税金がかかります。
いくら税金がかかるかは、状況によって大きく異なります。
引っ越しにかかる費用、次の不動産を借りるために必要な費用以外で受け取った立ち退き料(例えば慰謝料)は、一時所得として課税されます。
サラリーマンの場合は、慰謝料的な要素が50万円以下であれば、税金はかかりません。
ですが、個々の状況によって異なりますので、専門家に確認してください。
9.立ち退き料の増額交渉が不安な方は弁護士に
自分で交渉するのは不安があるという方もおられるのではないでしょうか。
そのような場合は弁護士に依頼することも検討ください。
1)2つのメリット
①立ち退き料が増額できる
立ち退き料は大家側の正当事由が小さいほど高額になります。
正当事由が小さいことを適切に主張し立証することが大切です。
弁護士に依頼することで、抜けなく有利な事情を主張し、相手の有利でない事情を見極められます。
②ストレスのかかる交渉を丸投げできる
交渉するってあまり経験がないと思います。
自分自身に直接関わることを交渉することはとてもストレスがかかります。
人によっては食事がのどを通らなかったり、眠れなかったりします。
弁護士に依頼することで、そんな交渉のストレスから解放されます。
2)デメリットは弁護士費用が掛かること
唯一のデメリットは弁護士に払う費用です。
弁護士費用は、立ち退き料の6%~20%ほどになります。
ですが、弁護士に依頼することで立ち退き料を増額することができますので、手元に残るお金は多くなります。
結論、デメリットではないかもしれません。
まとめ
大家都合の立ち退き料の相場、内訳、増額アップのコツをまとめます。
用途 | 立ち退き料の相場 | |
---|---|---|
住宅 | 賃貸アパート | 60万円~100万円程度:家賃の8ケ月分 |
賃貸戸建て | 80万円~150万円:家賃の8ケ月分 |
賃貸住宅(アパート、マンション、一戸建て)の立ち退き料の相場は、月額賃料の8ケ月分です。
ですが、大家都合がどのような都合なのかによって大きく異なります。
大家さんがその家に住まなくてはいけない理由があると立ち退き料は少なくなります。
一方、借主がその家に住まなくてはならない理由があると立ち退き料は多くなります。
どのような都合があるのか見極めることがポイントです。
弁護士に依頼することで、交渉のストレスから解放され、立ち退き料が増額できる可能性が高いです。
弁護士に依頼することも検討しましょう。
税金にも注意を払ってください。
特に高い立ち退き料を受け取った時ほど税金への注意が必要です。
多額の立ち退き料を約束して気持ちよく立ち退き、新天地での素敵な生活を送ってください。