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事務所・オフィスの立ち退き料相場!店舗や住宅とは違う?弁護士解説

大家さんから立ち退きを求められ、提示された額が適切なのかと疑問をお持ちではないでしょうか。
事務所の立ち退き料の相場は、月の賃料の36ヶ月分です。
ですが、事業の収益、立地などによって大きく異なります。
そこで、本記事では、事務所を構えておられる方が立ち退きにあった場合の相場、計算方法、具体的な額、税金、立ち退き料の増額方法まで、一連の疑問を解決します。

【この記事でわかること】

  • 事務所の立ち退き料の相場が家賃の2年~3年分程度であること
  • 立ち退きには正当事由が必要であること
  • 正当事由とは、立ち退き料の補完が必要であること
  • 事務所の立ち退き料の内訳は、移転費用+借家権価格+営業補償であること
  • 事務所の形態別立ち退き料の料
    • 一般的な事務所で1,640万円という事案
    • レンタルオフィスでは引越し費用程度
    • シェアオフィスでは立ち退き料はもらえない
  • 事務所の立ち退き料増額交渉5つのポイント
  • 立ち退き料に税金がかかること
  • 弁護士に依頼する4つのメリットとデメリット

なお、その他のケースの立ち退き料については、「立ち退き料の相場は?7つのケース毎にいくらもらえるか・内訳を解説」をご覧ください。

目次

1.事務所(テナント)の立ち退き料の相場とは?

事務所の立ち退き料の相場は、家賃の2年~3年分程度です。
ですが、あくまで金額の目安としてとらえてください。
実際に立ち退き料を算定する場合は、賃料を参考にしつつも、事務所の粗利、経費、内装工事などが考慮されることになります。
そのため、個々の状況によって、立ち退き料の額は異なります。

2.事務所(テナント)の立ち退き料とは

事務所の立ち退き料とは、賃貸借契約を終了させて退去する際に受け取る金銭をいいます。
大家と賃貸借契約を締結しているのですが、大家がその賃貸借契約を終了させて出て行ってほしいということです。
貸主が賃貸借契約を終了させたいと思ったら、終了できるとなると、借主にとって大きな不利益となってしまいます。
そこで、借地借家法28条が、借主を保護しており、正当事由がない限り、借主を追い出すことはできないとしています。
立ち退き料の提示はこの正当事由と深く関係しており、正当事由によって立ち退き料が高くなったり、低くなったりします。

1)正当事由とはなにか

正当事由とは、「貸主が借主に出ていてもらうのは仕方がないな」という事由をいい、貸主の事情、借主の事情、金銭の給付を総合的に勘案して判断します。
ここでいう金銭の給付を立ち退き料といいます。
貸主の事情と借主の事情を考慮して、出て行ってもらうには仕方ないと認めるに足りない部分を貸主が金銭を払うことで補填するというイメージです。
一般的には、立ち退き料の支払いなしで正当事由が認められることはほとんどありません。立ち退き料は原則としてもらえると思ってください。

2)正当事由と立ち退き料の増減関係

正当事由は貸主の事象、借主の事情、金銭の給付を総合的に勘案して判断します。
貸主の事情とは、貸主がその不動産を使用する理由をいい、一方で、借主の事情とは、借主がその不動産を使用する理由をいいます。
立ち退き料はこれらの事情を補填するものです。
つまり、貸主の事情が弱ければ弱いほど、立ち退き料は増額され、借主の事情が強ければ強いほど、立ち退き料が増額されるという関係になります。

事務所の場合は、住居とは異なり、借主の生活における影響は経済的事情を除いてありません。
この点から、借主の事情、借主がその不動産を使用する理由が大きくなりにくいという特徴があります。
別の場所でもその事業はできるのではないかということです。
ですが、一方で、貸主も事務所用のテナントを改造して住居にしなければいけないという事情か老朽化が進みすぎて生命身体に危険がおよぶという事情がない限り、その不動産を使用する理由は大きくありません。
結果的に、どちらの事情も強くなりにくく、立ち退き料を払って正当事由にするということになります。
したがって、以下で説明する立ち退き料をしっかりもらって立ち退くということになります。

3.事務所(テナント)の立ち退き料の内訳と算定方法

事務所の立ち退き料の内訳は、次の通りです

  • 立ち退き料=移転費用+借家権価格+営業補償
内訳 相場 説明
移転費用 100万円~500万円 引越し費用、新物件契約費用、内装・設備工事費、賃料補償
借家権価格 0円~1,000万円 更地価格の1割~7割
営業補償 200万円~500円 移転によって失う営業利益

以下、個別にみていきます。

1)移転費用の補償

「移転費用」とは、今の事務所からの引っ越しと、新しい事務所に入居する際の費用を総合したものです。
項目ごとに相場をまとめると、以下のようになります。

【新事務所への移転にかかる費用】

種類 相場
引越し費用 30万円~150万円
敷金 賃料10ヶ月分

※ただし、退去時に返金されるものであるから、立ち退き料には含まれない

礼金 賃料1ヶ月分
仲介手数料 賃料1ヶ月分
保証料 賃料1ヶ月分
工事費 坪10万円~
引越し費用 150万円
火災保険料 3万円/2年間

※ただし、引越ししなくても必要な費用であるから、立ち退き料には含まれない

賃料の差額 (新賃料-現賃料)×24ヶ月分

事務所の移転は、什器備品の量にもよりますが、およそ50万円が相場です。
礼金、不動産業者への仲介手数料はそれぞれ賃料1ヶ月分が相場です。
新事務所の工事費で、グレード、居抜きか否か、設備工事がどれだけ必要かによって大きく変わります。
賃料差額分とは、同等の不動産を新しく借りると、一般的に賃料が上がりますので、その補填です。
賃料差額分の相場は、2年分程度になり、(新家賃-現家賃)×24ヶ月となります。
一般的にスケルトンで借りていることが多く、契約書上は終了時にスケルトンにして返すことになっています。
これを原状回復といいますが、貸主都合で出ていくので、払わないと交渉するのがいいでしょう。

2)借家権価格

借家権価格とは、不動産を借りる権利の価格です。
賃貸借契約において、借主は原則として、更新を繰り返すことで半永久的に借りることができます。
それを途中でやめるのですから、その価格を補填するということになります。
ですが、借家権は転売できませんから、理論上、価格がつきません。
また、借家権価格の補填というのは、裁判所が明細を出さずして立ち退き料を算定するのに使いやすかったから使われていたのではないかと考えます。
つまり、昨今は、借家権価格の補填は考慮しない方向になっています。
もっとも、借家権価格の補填を考慮しないことで、立ち退き料が減るわけではないので安心してください。
その他の項目でしっかりと立ち退き料をいただくことができます。
また、裁判所によっては、立ち退き料=借家権価格と表現しているものもあります。

3)営業補償

営業補償とは、次の2つをいいます。
1つ目は、「そこで営業を継続していたならば本来得られていただろう利益の補填」です。
これは、収益(収入-支出)+固定費×休業補償期間で計算します。
2つ目は、「店舗を移転することで常連客を失ってしまう損失の補填」です。
これは、売上高×売上減少率×限界利益率で計算します。
移転によって商圏が変わってしまうことで、常連顧客を失うことの補填です。
ですが、事務所はその地域でしか成り立たないという特段の事情がない限り、地域密着の常連客がいません。
または、地域密着の常連客がいても、商圏が狭くないため、多少場所を移動したとて、常連客を失いません。
そのため、2つ目はあまり考慮しないことが多いでしょう。

4.【事務所の形態別】具体的な立ち退き料の4つの目安

では具体的な事務所の形態別に見てみましょう。

1)一般的な賃貸の事務所

これがいわゆる普通のケースで、ここまで解説してきた「相場」に当てはまります。
相場は、事務所の月額家賃の2年分~3年分になります。
ですが、事務所の利益、開業からの期間、開業時の工事費など様々な事情で高額になる場合があります。
例えば不動産業を営んでおり、月額22万円で事務所を借りていた事案において、立ち退き料1,640万円という事案もあります。
本件は、月額家賃の6年分以上の立ち退き料となりました。
これは、開業から3年足らずで初期投資分を回収していないこと、初期投資もデザイナーを入れた内装であったこと、年間の粗利が1,500万円あったことなどが特殊事情です。
相場よりもかなり高額な立ち退き料が受け取れる場合があります。

2)レンタルオフィス

レンタルオフィスの場合は、立ち退き料の計算がやや複雑になりますが、金額としては比較的やすくなる傾向があります。
まず、借地借家法の適用があるのかという問題があります。
レンタルオフィスは、個室ブースと共有ブースがあり、個室ブースを専用で借りているものが一般的です。
建物の一部であっても、壁などによって他と区分され、独占的・排他的に使用できるのであれば借地借家法の建物に該当し、借地借家法の適用があります。
したがって、立ち退き料の問題が出てきます。
一般的に、什器備品が備え付けられていることも多く、引越し費用は5万円ほどではないでしょうか。
営業補償は、他のレンタルオフィスに直ちに移転できるはずなので、ほとんど発生しません。
ですから、立ち退き料はかなり少額になります。
注意点は、個別ブースがあるのに利用権として契約していて、立ち退き料など不要であると貸主が主張する場合です。
その契約は、借地借家法30条の強行規定に反するため、立ち退き料を請求できる可能性があります。

3)シェアオフィス

シェアオフィスの場合は、立ち退き料自体がもらえない可能性が高いです。
レンタルオフィスと同様に、借地借家法の適用があるのかという問題があります。
シェアオフィスは、一般的に個室ブースがなく、1つのスペースを複数の事業者がシェアする形態をいいます。
この場合は、借地借家法の建物にあたらないため、借地借家法の適用がありません。
ですから、立ち退き料の問題にはなりません。

4)事務所兼住宅として使っている物件

事務所兼住宅という形態であっても、普通の賃貸オフィスと同じく、立ち退き料は月額賃料額の2年から3年分が相場です。
歌手、司会業をしている個人が事務所兼住宅として利用している事案において、立ち退き料270万円とした事案があります。
270万円の内訳は、引越し費用、仲介手数料等の初期費用として60万円、賃料増額分の補填として210万円(増額分の2年6ヶ月分)です。
事務所のみで利用しているのと異なり、住居として利用している点で、借主がその不動産を使用する理由が大きくなる傾向にあります。
ですが、昨今、近隣に同等の不動産が全くないという事情がなくなってきており、それほど大きいと判断されなくなっています。

5.事務所(テナント)の立ち退き料の増額交渉5つのポイント

では、立ち退き料を増額するには、どのように交渉するのがいいのでしょうか。
特に重要なのは1つ目です。
事務所ならではの増額ポイントなので、ぜひチェックしてください
2個目以降は、一般的な立ち退き料の増額交渉のポイントとなります。

1)【交渉ポイント①】事務所ならではの事情と絡めて増額の必要性を伝える

大家から立ち退き料を提示された時、その事務所ならではの事情が考慮されておらず、ざっくり大家の都合の額で提示されている場合が多いです。
大家が事務所の内情を知らないから当然といえば当然ですが、こちらはしっかり有利な事情を主張しましょう。
以下のような事情が考慮されていない可能性が高いので、交渉材料にしてください。

  • 投資回収が済んでいないこと:開業時のコストと開業からの期間
  • 開業時の内装設備工事費用が高いこと:デザイナーに依頼したこだわった空間、移転後においても内装設備工事が同等に必要になる。
  • その場所特有の顧客が存在していること:得意先損失があること
  • 移転によるコスト増:移転することで社員に支払う交通費が上がる、得意先への移動費用がかさむ

などです。

2)【交渉ポイント②】いつまでに立ち退いて欲しいか確認する

つぎに、大家が立ち退いて欲しい期日を確認してください。
相手の都合にできる限り合わせる代わりに、立ち退き料の増額を交渉しましょう。
相手にいつまでに出て行って欲しいのかを確認します。
その期日を過ぎてしまうと立ち退きの意味がなくなってしまう場合もありますから、交渉材料として大切です。

3)【交渉ポイント③】立退いて欲しい理由を確認する

なぜ立ち退いて欲しいのか理由を確認してください。
大家が立ち退きを打診する際に理由を添えているとは思います。
ですが、その理由が種ではないということはざらにあります。
つまり、老朽化で立ち退いてほしいといっていても、借主を代えて利回りを上げて投資家に売却したいというのが真意かもしれません。
実際にどこに真意があるのかを探ります。

4)【交渉ポイント④】交渉内容はすべてテキストに残す

交渉内容、過程をすべて記録してください。
スマホで録音が容易です。
録音ができなかったときは、忘れないうちにメモしておきましょう。
言った言わないといった不毛な議論を減らすことができる上に、ポイント③の立ち退きの真意を探るヒントになることもあります。

5)【交渉ポイント⑤】増額交渉でやってはいけない2つのこと

次に、やってはいけないことを説明します。

  • 契約書にある義務に反すること
  • 理性を失って感情的な対応をすること

①契約書にある義務に反すること

例えば、賃料を支払わない、利用目的にないことにつかう、無断で転貸するなどです。
相手の提示する立ち退き料に納得がいかないからと、賃料を止めるなどしてはいけません。
契約した義務に反すると債務不履行となってしまい、信頼関係を破壊するものとして、契約を解除されてしまいます。
この場合は、立ち退き料の話になりませんから、立ち退き料が0円となってしまいます。
仮に信頼関係を破壊するほどではないとされても、正当事由で考慮され、立ち退き料が減額されてしまいます。

②理性を失って感情的な対応をすること

理性を失って怒鳴ってしまうなどすると相手はまともな交渉をしてくれなくなります。
理性を保てない人と交渉なんてしたくないですよね。
相手も同じですから、気をつけてください。

6.立ち退き料にかかる税金

立ち退き料にも税金がかかります。
法人で事業をされている場合は法人税であり、顧問税理士さんがおられるので対応に不安はないでしょう。
ですが、個人事業の場合は所得税であり、顧問税理士さんがおられない方も多いです。
所得税であれば、譲渡所得、事業所得、一時所得のいずれかの所得区分になります。
主には事業所得になり、適切に経費を計上することで税金を抑えることができます。
また、特別控除が適用できる場合があり、税金を抑えることができる場合があります。

7.弁護士に事務所の立ち退き交渉を依頼するメリットとデメリット

ここまで読んでいただいて、交渉もなかなか大変だなと思われた方も多いのではないでしょうか。
そんな方には、不動産、立ち退きに強い弁護士に依頼するという方法もあります。
メリット、デメリットをお伝えします。

1)4つのメリット

メリットは4つあります。

①立ち退き料が増額できる

もっとも大切なメリットです。
立ち退き料が数倍になったということも稀ではありません。
立ち退き料は様々な要因で増減します。
専門の弁護士に依頼することでその要因を見逃しません。

②正当事由が弱いと反論できる

貸主は自己がその不動産を使用する理由が強いといって正当事由を主張してきます。
これに対して、適切に反論することが大切ですが、それには専門的な知見、経験が必要です。
専門の弁護士なら、適切に反論します。

③交渉から立ち退き料受け取りまですべてを丸投げできる

弁護士に依頼すると、立ち退くまでの一連の流れをすべて丸投げできます。
交渉、合意書作成、立ち退き料受け取り、税金の相談とやるべきこと、複雑なことはたくさんあります。
専門の弁護士なら、安心して任せることができます。

④ストレスフルな交渉から解放される

自分のことの交渉は、とてつもないストレスがかかります。
これは知識があるとか度胸があるとかの問題ではありません。
この交渉ストレスで夜もろくに寝れないなどということになります。
自分の大切なことは、あえて代理人弁護士を入れるというのが、もっとも良い方法です。

2)弁護士費用がデメリット

デメリットは一つで、弁護士費用です。
ですが、弁護士費用の計算は、弁護士によって異なりますが、立ち退き料の増額した分を基準に計算するというところもあります。
そうすると、増額分の一定割合となりますから、依頼して手残りが減るということはありません。
立ち退き料の増額分から費用を算出する弁護士を選べばデメリットはありません。

8.事務所の立ち退き料受け取りの流れ

立ち退きを打診されてから、立ち退き料を受け取るまでの流れを説明します。

立ち退き料の受け取りは立ち退きが完了した後です。
なぜなら、立ち退く前に渡してしまって、万が一立ち退かなかったら、貸主としては大変なことだからです。

まとめ

事務所の立ち退きにおいて基本的に立ち退き料を受け取れることをお伝えしました。
立ち退き料の相場は、賃料の2年~3年分です。
ですが、個々の事情によって、変わってきます。
立ち退き料の内訳は、次のとおりです。

内訳 相場 説明
移転費用 100万円~500万円 引越し費用、新物件契約費用、内装・設備工事費、賃料補償
借家権価格 0円~1,000万円 更地価格の1割~7割
営業補償 200万円~500円 移転によって失う営業利益

立ち退き料は正当事由との関係で増減しますから、あなたが不動産を使用する理由をしっかり伝えることが大切です。
粗利、経費などを適切に計算して上乗せを狙いましょう。
交渉においては、立ち退きの期日、理由を確認し、交渉内容はすべて記録しておきましょう。
また、交渉するときに、理性を失って感情的になることや契約書の義務に反することはやってはいけません。
しっかり立ち退き料を受け取れたら税金にも注意してください。
交渉から受け取りまで不安があるなという方は、弁護士に依頼することもおすすめです。
立ち退き料が増額できるだけでなく、交渉、合意、立ち退き料の受け取りまですべて丸投げできます。
ぜひ、納得いく立ち退きをしてください。

監修者

飛渡 貴之

資格:弁護士/司法書士、土地家屋調査士有資格
所属:弁護士法人キャストグローバル

〒105-0001 東京都港区虎ノ門3丁目4-10 虎ノ門35森ビル1階
相談受付:03-6273-7758
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