不法就労助長とは

不法就労とは、外国人が、認められていない就労を行うことを意味し、オーバーステイなどそもそも在留資格がない外国人が就労する場合のほか、在留資格を保有する外国人がその在留資格で認められていた範囲を超えて就労する場合があります。不法就労助長は、外国人を雇用する側の問題です。不法就労助長は、事業者が不法就労の外国人を雇用した場合などに成立し、犯罪として処罰される可能性があります(出入国管理及び難民認定法73条の2・1項1号)。また、刑事処罰以外にも重大なペナルティを受ける可能性もあります。

不法就労助長は、外国人を雇用する企業が最も注意しなければならない問題です。

 

外国人の不法就労の現状と注意点

不法就労の統計データ

不法就労は当局に隠れて行われますし、強盗罪や傷害罪のような被害者がいる犯罪ではありませんから、現在日本で何件の不法就労が発生しているのか正確な件数を把握することはできません。もっとも、出入国在留管理庁が公表している「平成30年度『出入国管理』日本語版」【[1]】によると、退去強制者のうち不法就労者の人数は増加傾向にあります。

2015年 2016年 2017年 2018年 2019年
退去強制者数 12,272 13,361 13,686 16,269 19,386
不法就労者 7,973 9,003 9,134 10,086 12,816

 

もちろん、退去強制になっていない不法就労者が数多く存在しますので、実際の不法就労者はこの何倍にも達すると考えられます。

他方、警察庁組織犯罪対策部が公表している「令和2年における組織犯罪の情勢」【[2]】によれば、不法就労助長罪の検挙件数・検挙人員数はやや減少傾向にあります。

平成28年 平成29年 平成30年 令和元年 令和2年
検挙件数 388 404 396 364 335
検挙人員 425 462 434 406 399

たしかに、不法就労助長罪の検挙件数は、出入国在留管理庁が把握した不法就労者の数字よりもかなり少なくなっています。しかし、検挙件数が少ないからといって「うちは大丈夫だろう」と高をくくるべきではありません。企業としては不法就労助長罪を十分に注意すべきです。

 

過失犯処罰規定がある

まず、不法就労助長罪は、過失犯の処罰規定があることに注意する必要があります。

外国人が不法就労となることを知って雇った場合は、不法就労助長罪が成立しますが、知らなかった場合であっても、知らないことに過失があれば成立します(出入国管理及び難民認定法73条の2・2項)。「知らなかった」では通用しない場合があるのです。

たとえば、在留カードを確認せずに不法残留者を雇用したような場合、過失が認められる可能性が高いと思われます。偽造の在留カードが多く出回っている現状からすると、今後は、在留カードを一応確認していても、在留カード等読取アプリケーション【[3]】を使用せず偽造を見抜けなかったのであれば、過失が認められるかもしれません。

 

最近の摘発の傾向

次に、最近の不法就労助長罪の摘発の傾向が企業にとって厳しいものとなりつつあることに注意すべきです。

不法就労助長罪といえば、以前は、オーバーステイの外国人など日本に滞在すること自体が違法な外国人を雇用している場合や、違法な風俗店などで雇用している場合など、誰の目にも違法が明らかな事案の摘発が中心でした。ところが、最近は、留学生が週28時間を超えて労働させた場合や、技術・人文知識・国際業務の在留資格を保有する外国人を認められた範囲外の業務に従事させた場合など、法規制を知らなければ違法かどうか判断し難い事案の摘発が増えています。また、摘発された企業としても、有名な飲食チェーンやフードデリバリー業者など、著名な企業が摘発されています。

不法就労助長は、外国人を雇用している企業であれば、誰もが陥る可能性のあるものなのです。

 

外国人を不法就労させてしまった場合のペナルティ

①刑事処罰

不法就労助長のペナルティとしては、まず刑事処罰があります。

法定刑は、「3年以下の懲役、若しくは300万円以下の罰金又は併科」です(出入国管理及び難民認定法73条の2・1項)。3年以下の懲役刑か300万円以下の罰金刑が科され、場合によって懲役刑と罰金刑がセットで科される(併科される)こともあるという意味です。

また、不法就労助長罪には、法人処罰規定(いわゆる両罰規定)もあります(出入国管理及び難民認定法76条の2)。これは、株式会社や有限会社、社団法人その他の法人において不法就労助長が行われた場合、不法就労助長を行った役員や従業員に加えて法人そのものも処罰されるという規定です。これが適用されると、法人も罰金刑(不法就労助長の場合は300万円以下の罰金刑)を受けることがあります。

また、不法就労助長の事件は、刑事事件となるため、関与した人々が逮捕・勾留という身柄拘束を受ける可能性があります。不法就労助長は、不法就労の外国人や企業側の関係者など、複数人が関与するため、証拠隠滅・口裏合わせを防止するため、逮捕・勾留される場合が多い傾向にあると思われます。

 

②技能実習や特定技能の外国人の受け入れができなくなる

刑事処罰を受けたことの副次的効果として、各種許認可が得られなくなったり、取り消される場合があります。

外国人雇用の場面で影響が大きいと考えられるのは、技能実習や特定技能の外国人の受入れです。

技能実習生を受入れるためには、技能実習計画の認定を受ける必要がありますが、不法就労助長罪など出入国管理及び難民認定法違反の罪で罰金刑以上の刑を受けた場合、5年間その認定を受けることができません(技能実習法10条2号)。既に技能実習生を受入れている企業の場合は、技能実習計画の認定が取り消され、結果として技能実習生の雇用の継続ができなくなります。

特定技能の場合も、不法就労助長罪など出入国管理及び難民認定法違反の罪で罰金刑以上の刑を受けた場合、5年間は特定技能の外国人の受入れが不可となります(特定技能雇用契約及び一号特定技能外国人支援計画の基準等を定める省令2条4項ロ(5))。

その他、不法就労助長罪で懲役刑以上の刑を受けると、許認可が取り消される場合があります。例えば、不法就労助長罪で建設業者の役員が懲役刑を受けると、建設業の許可が取り消される場合(建設業法29条1項2号、8条7号・12号)があります。その他の許認可で同様の規定が置かれている場合があります。

外国人雇用と一見関係のない許認可であっても取り消される可能性がありますし、それが企業にとって根幹となる許認可であれば業務継続が困難になりかねませんので、要注意です。

 

ケース別!不法就労助長の疑いが生じた場合に必要な対応

①警察の捜査が開始した場合

不法就労助長が発覚するきっかけとして、警察の捜査が開始した場合が挙げられます。突然警察の捜索を受けたり、あるいは、関係者が逮捕される場合が考えられます。あるいは、このような強制捜査に至らなくても、警察から任意で呼び出しを受け、取調べを受けるという場合もあります。

警察の捜査が始まってしまった場合には、まずは事実関係を調査し、本当に不法就労助長罪が成立するのかを確認し、仮に成立するとしても、刑事処分をなるべく軽くできないか方策を練ることが重要です。まさに、刑事弁護を行うことになりますが、その過程において、警察や検察といった捜査機関との交渉を行う場合もあります。裁判になった場合は、刑を軽くするよう訴訟活動を展開したり、場合によっては無罪を主張して徹底的に争うこともあり得ます。

(2)以降と同様に入国管理局との折衝が求められる場合もありますが、まずは刑事事件対応を優先させる場面が多いと思われます。ただ、社内調査や原因解明・再発防止策の策定については、並行して行うことが有効となる場合があります。

②当局の調査によって発覚した場合

警察の捜査以外でも、労働基準監督署など当局の立入調査等で発覚する場合もあります。

この場合、調査に協力することは必須で、虚偽報告や虚偽の資料を提出することは避けなければなりません。また、改善指導等がなされた場合は、これに対応する必要が生じます。

企業内部でも社内調査を行い、まずは事実関係を可能な限り解明することが求められます。このとき、違反の事実を明らかにするだけでなく、なぜ違反が生じたのか、その根本的な原因を解明することが重要です。根本的な原因がわからなければ有効な再発防止策が策定できず、違反を繰りかえす可能性を払拭できないからです。

社内調査・原因解明・再発防止策の策定という作業を行いつつ、(立入調査を行った機関以外に)入国管理局等の当局とも折衝し、適正な対応を検討していくこととなります。

 

③独自に発見した場合

企業が独自に発見した場合の対応は悩ましいところで、黙ってやり過ごしたいという欲求に駆られるかもしれません。しかしながら、いずれは発覚してしまう可能性があり、その際に初めて対応をするのでは、当局の印象が悪くなります。自主的に問題点を把握し、申告するような企業であれば、入国管理局にも、この企業は再発のおそれが小さいとの印象を与えられることとなると思われます。

そのため、まずは、社内調査・原因解明・再発防止策の策定という作業を行いつつ、入国管理局に相談をし、適正な対応を検討することが重要です。

 

当事務所でのサポート内容

不法就労助長の対応は、特に刑事事件や行政対応が求められる場合、企業の独力で対応することは容易ではありませんし、経営者が対応に悩み、長期にわたって不安を抱えることにもなりかねません。当事務所では、元検事で刑事事件に精通しており、また、公認不正検査士の資格を保有して第三者委員会の委員を務めた経験のある弁護士が中心となって、企業と経営者のサポートを行います。

 

刑事事件対応・刑事弁護

不法就労助長罪の刑事事件の捜査に対しては、刑事弁護人として活動し、重い刑事処分を受けないようにするための活動を行います。身柄拘束された場合はもちろん、身柄拘束をされていない在宅事件の場合も、弁護人として活動します。その際には、警察や検察との折衝も行っていくことになります。

 

社内調査、原因解明・再発防止策の策定

不法就労助長への対応としては、社内調査や原因の解明・再発防止策の策定が重要となります。これによって再発を防止し、違法状態から適法化を図ります。

これらについては、当事務所の弁護士が、第三者委員会など不正調査で培った手法を応用しつつ、適切な調査と原因や再発防止策の分析・検討を行います。

 

入国管理局等の当局との折衝

これらの結果をふまえ、入国管理局等の当局と折衝を行い、適正な対応をサポートします。

 

適正化後のサポート

適正化の仕組みを構築した後も、これを適正に運用し、維持していくことが重要です。

当事務所は、その後も顧問として日々のご相談対応やサポートを行います。また、定期的に監査・チェックを行います。

 

[1] https://www.moj.go.jp/isa/policies/policies/nyuukokukanri06_01125.html

[2] https://www.npa.go.jp/sosikihanzai/kikakubunseki/sotaikikaku09/R02sotaijyousei.pdf

[3] https://www.moj.go.jp/isa/publications/press/02_00002.html

   
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