技能実習制度を取り巻く近年の傾向

世間の風当たりが厳しくなっている

技能実習制度に対する世間の風当たりは以前にも増して厳しくなっています。

2020年から続くコロナ禍の中で、技能実習の失踪事案が相次ぎ、失踪した技能実習生が数々の犯罪に至ってしまう事案が多く報道され、その背景には技能実習生に対する劣悪な扱いがあるのではないかという意見があります。技能実習制度を現代の奴隷制度だと批判する人もいます。「違反企業マップ」などというものも作られました。

また、米国は、2021年7月各国の人身売買に関する報告書を発表し、その中で日本の技能実習制度を搾取のために悪用されていると批判しました。

 

当局の規制が強くなっている

このような動きの前から外国人技能実習機構、厚生労働省、法務省などの当局は、規制を強めており、違反した受入企業や監理団体に対する行政処分(取消処分等)は増加の一途をたどっています。外国人技能実習機構による実地検査については、令和2年度はコロナ禍で技能実習生の新規受入数が激減しているにもかかわらず、実地検査件数、指導件数ともに過去最高となりました。労働基準監督署による受入企業に対する監督指導も行われており、そこでは対象の70%以上の受入企業において違法が発見されています(令和2年度)。

さらに、2021年7月に会計検査院は報告書を発表し、その中で、技能実習生の失踪事案の約20%において、外国人技能実習機構の実地検査が行われなかったことを問題視しました。現在の外国人技能実習機構やその他当局の対応はまだまだ生ぬるい、ということでしょう。

 

技能実習制度の現状と背景

2017年11月に施行された技能実習法は、受入企業と監理団体に厳しい規制を施しており、技能実習生の待遇や担当可能な業務などについて厳格に定めています。

法律にしっかりと準拠すれば、技能実習生が搾取され、劣悪な環境に置かれることはあまり考えられないように思われます。しかしながら、現実には、技能実習の様々な規制が守られていない事例が常態化しているのではないか、それ故に現実には搾取が行われるのではないかと推測されます。

技能実習生を単なる「安い労働力」としか見ておらず、安い賃金で酷使しようという受入企業や、違法であることを知りながら隠れて違法行為に及んでいる人々が、違法を指摘され、処分を受け、淘汰されるのは当然です。そのような人々は、技能実習生を雇用すべきではないし、技能実習に関与すべきではありません。

もっとも、そのような悪質というべき考えを持っていないにもかかわらず、違法を指摘されてしまう受入企業もあります。自社としては、技能実習生を他の従業員と同様に大事に考えていて、大事に扱ってきたつもりであったのに、立入検査で違法を指摘されてしまうという事例もあります。

なぜそういうことが生じるかというと、技能実習法や技能実習制度を十分に理解できていなかったからだと考えられます。技能実習制度は、複雑な制度となっているものの、それを十分に理解していないために、何気なく行ったことが違法となってしまう場合があるのです。

監理団体の指示・指導にしたがって技能実習生を受入れたし、その後も監理団体の監査では何も指摘されないから、大丈夫だろうと思う場合もあると思います。同業の他社でも同じようにやっているからうちも問題ないと思う場合もあると思います。

しかし、外国人技能実習機構による実地検査で4割前後の監理団体や受入企業が指導を受けている現状では、監理団体から何も言われないから大丈夫だろう、よそでも同じようにやっているから大丈夫だろうでは、必ずしも通用しません。

 

違法を放置してしまうとどうなる?

受入企業が違法な状態をそのまま放置してしまうとどうなってしまうのでしょうか。

まず、外国人技能実習機構による実地検査や、労働基準監督署の監督指導で違法が発覚する可能性が高まります。その場合、当局の指導に従って業務を改善する必要があるのはもとより、悪質な事案に関しては、技能実習計画の認定取消などの行政処分を受ける可能性が生じます。悪質性が高い事案については、労働基準法違反や不法就労助長罪などの刑罰に問われる可能性さえ生じます。

また、技能実習生との間でトラブルになる場合もあり得ます。昨今、従業員や元従業員との間で残業代の支払その他の紛争が増えていますが、そのような紛争が生じることは技能実習生でも同様です。技能実習生の場合、合同労組(ユニオン)に加入する場合が多いと思われ、合同労組との団体交渉になる場合があります。

さらに、取引先等から問題視される場合があります。昨今、SDGsや「ビジネスと人権」が叫ばれ、労働者の人権擁護が以前にも増して重視されるようになっています。特に大企業においては、自社内部の人権侵害のみならず、製造委託先等のサプライチェーン全体において労働者の人権侵害が発生していないか、という点のチェックが求められるようになってきています。「奴隷的環境で栽培された綿花が製品に使用されているのではないか」との問題が指摘された企業が国際的な批判を集めた事例が記憶に新しいところですが、これと同様のことは技能実習でも起こる可能性があります。実際、技能実習生の過酷な実態がテレビ報道され、その結果、元請け企業が批判を受けた事例もありました。このような流れに照らせば、今後は、技能実習生に対する違法行為を理由として取引先から契約を打ち切られる可能性も否定できません。

 

 

技能実習生を受入れている企業が注意すべき4つのポイント

①さまざまな法律を遵守する必要性

技能実習生を受入れている企業が注意すべきこととしては、何より「法律の遵守」が挙げられます。技能実習法は当然として、出入国管理法、労働法(労働基準法、労働安全衛生法など)といった様々な法律を遵守する必要があります。「出入国又は労働に関する法令に関し不正又は著しく不当な行為をした者」は技能実習計画の認定の欠格事由であり、かつ、取消事由となることから(技能実習法10条9号、16条1項3号)、出入国管理法と労働法は特に遵守が求められます(これらの法律は、技能実習生以外の外国人従業員や日本人従業員に関しても違法がないよう注意する必要があります)。

 

②技能実習計画の遵守

外国人技能実習機構の実地検査で指摘されている事例として着目する必要があるのは、まず、技能実習計画の遵守です。

認定を受けた技能実習計画を遵守することは、技能実習制度の根幹であり、その違反は重大とみなされる場合が多いと考えられます。外国人技能実習機構による実地検査では、「実習内容が計画と異なっていたもの」を指摘された件数が420件(令和2年度)ありました。件数自体は他の違反と比べても特に多いとはいえませんが、違反内容は重大であり、にもかかわらず420件も指摘されたというのは由々しき事態です。

また、「実習時間数が計画と異なっていたもの」が802件(令和2年度)あり、こちらも注意する必要があります。

 

③待遇面

待遇面に関して技能実習法の規制を遵守することもまた技能実習制度の根幹の1つであり、十分に注意する必要があります。「計画どおりの報酬が支払われていなかったもの」は悪質な事案を多く含むと思われますが、それでも407件(令和2年度)指摘されています。

また、「残業代が適切に支払われていなかったもの」の指摘も多くなっています(令和2年度970件)。

給与面以外では「宿泊施設の不備(私有物収納設備,消火設備等の不備等)に関するもの」が非常に多く、特に令和2年度は指摘件数が急増し、2700件にも及んでいます。

 

④帳簿・手続関係

その他実地検査で指摘された件数が多いものとして、「各種管理簿を適切に作成・備付けしていなかったもの」が902件、「軽微変更届を適正に提出していなかったもの」が1037件ありました(いずれも令和2年度)。

これらは書類や手続の問題に過ぎない、と思われるかもしれませんが、これらも軽視するのは危険です。各種管理簿などの書類は、技能実習を適正に行っていることの証拠という意味でも重要となります。また、書類や手続をきっちり作成すること守ることは、法令遵守の基本といえ、逆にこれらが疎かな企業では、意識が緩み、より重大な違反につながりかねません。

 

実際の技能実習生受入企業の違反・摘発事例

行政処分について

技能実習生の受入企業が技能実習法などに違反した場合、改善命令(技能実習法15条1項)や、技能実習計画の認定の取消し(技能実習法16条1項)という行政処分がなされます。技能実習計画の認定の取消しの場合、その技能実習生について技能実習を続けることはできなくなり、要するに雇用を継続できなくなります。のみならず、少なくとも5年間は新たに技能実習計画の認定を受けることができなくなります(技能実習法10条7号)。さらに、少なくとも5年間は特定技能の外国人の受入れもできなくなります(特定技能雇用契約及び一号特定技能外国人支援計画の基準等を定める省令2条1項4号ト)。

改善命令の場合であれば、直ちに上記のような効果は生じませんが、改善ができなければ今度こそ技能実習計画の認定の取消しがされるリスクがあります。

また、技能実習計画の認定の取消しであっても改善命令であっても、社名も含めて処分が公表されます(技能実習法15条2項、16条2項)。処分を受けたことは、取引先や金融機関に発覚しますし、また人材募集の面でも悪影響が生じかねません。

 

大手自動車メーカーの事案

このような行政処分は、小規模の受入企業や個人事業主のみならず、大手企業も受けています。むしろ、現行の制度の下で行政処分がなされるようになった当初は、大手企業の行政処分が報道されていました。

ある大手自動車メーカーでは、工場において技能実習生を受入れていたところ、2019年1月、技能実習計画の認定を取り消されました。その理由として、公表資料では技能実習計画において必須業務とされていた溶接作業が行われていなかったことが挙げられています。報道によると、技能実習生には、溶接作業ではなく部品の組立て作業をさせていたとのことです。

総合電機メーカーの事案

総合電機メーカーも、2019年9月に行政処分を受けています。こちらは、改善命令にとどまった事例ですが、処分の理由は大手自動車メーカーと類似しており、認定計画に従って技能実習をさせていなかったというものでした。報道によると、技能実習計画では配電盤の組み立てを行うことになっていたにもかかわらず、実際には鉄道車両に窓枠を取り付けるなど作業をさせていたとのことです。

公表資料や報道を見ても、大手自動車メーカーの事案と処分の内容に差(技能実習計画の認定取消しか改善命令か)がついた理由は不明です。ただ、総合電機メーカーの事案では、大企業である総合電機メーカーに「忖度」した結果処分が軽くなったのではないか、との批判がなされており、技能実習計画の認定取消しの処分を受けていてもおかしくはなかったのかもしれません。

総合電機メーカーの事案

別の総合電機メーカーにおいては、異なる理由で行政処分を受けた事例があります。こちらは2019年1月に技能実習計画の認定取消しという重い処分を受けたものですが、その理由は、労働基準法違反により罰金 30 万円に処せられ、その刑罰が確定したことです。法人そのものが労働基準法違反で罰金刑を受けたということだと考えられます。

報道によると、労使協定(いわゆる36協定)の上限を超えて違法に残業をさせたという事案で、従業員の過労死事案が発生したことをきっかけに発覚、事件化したようです。報道からは必ずしもはっきりとはしませんが、この亡くなられた従業員は必ずしも技能実習生ではないことに留意する必要があります。技能実習生以外の従業員に関して労働基準法違反等により処罰された場合であっても、技能実習に関して行政処分を受ける可能性があることを理解していなければ、予想外の処分を受けてしまいかねないのです。

この総合電機メーカーの事案のみならず、労働基準法違反や労働安全衛生法違反で受入企業が罰金刑を受け、その結果として技能実習に関して行政処分を受けるという事例は多く発生しています。どのような企業であっても、労働基準法違反や労働安全衛生法違反が生じないよう注意すべきなのは当然ですが、技能実習生を受入れている企業に関しては、そうでない企業よりもなお一層注意する必要があります。

 

外国人特化の顧問弁護士の必要性

監理団体任せでの管理では不十分なのか?

監理団体の職員は、技能実習制度の知識経験が豊富であるはずで、年4回の監査などによって、これら受入企業が違法・不適切な行為に及んでいた場合に、これらを発見し、是正する責務を負っています。受入企業としては、監理団体に頼りがちであり、監理団体が何も言ってこないのであれば、自分たちは問題なく技能実習を行っていると考えてしまうのもある意味当然かもしれません。

ところが、現実には、外国人技能実習機構の実地検査で37.2%(令和2年度)もの受入企業が指導を受けています。監理団体による監査が正常に機能していれば、監査の際に違反が発見され、是正されていたはずで、実地検査においてこれほど多くの指導がなされるとは考えられません。

また、そもそも、外国人技能実習機構の実地検査は監理団体も受けているところ、実に41.7%(令和2年度)もの監理団体が指導を受けているのです。数字だけ見ると、監理団体のほうが受入企業よりも指導を受けた割合が高いというのはいかがなものでしょうか。

もちろん、監理団体の中には、法令遵守を徹底していて信頼できるところもあります。ただ、残念ながらそうではない監理団体も決して少なくないのです。

仮に監理団体が優良であったとしても、それに頼り切りというのは受入企業の姿勢として問題があると言わざるをえません。既に述べたように、技能実習制度は複雑であり、違法が生じやすい分野です。ひとたび違法が指摘され、処分を受けると、受入企業に重大な損失が生じる可能性があるのですから、受入企業としては、監理団体任せにするのではなく、自ら積極的に違法がないかをチェックし、問題があれば改善する体制を整えることが望まれます。

 

専門家のサポートを受けることが効果的

受入企業が自らチェックと改善をできるだけの体制を備えているのであれば問題がありません。しかし、そうでないのであれば、技能実習法や労働法等の法令に通じた専門家のサポートを受けることが効果的です。

 

当事務所でサポートできること

現在の受入状況を踏まえた法令違反チェック

サポートの第一歩として、違反がないかどうかのチェックを行います。当事務所では、技能実習法や入管法、労働法に通じた弁護士が違反のチェックをサポートします。

これは外部から違反を指摘される前に行うのが最も効果的です。

もっとも、外部に指摘された後にチェックを行うことも重要です。というのは、指摘されたのとは別の違法が発見される可能性があるからです。指摘された違法だけ対処すれば良いのではなく、指摘をひとつの機会として他にも違法がないかをチェックし、発見した違反を全体として改善することが再発防止の第一歩となります。

 

原因の解明に向けた現地調査・課題整理

違反が発見された場合は、それがいつからなされていたのか、どの程度の広がりがあるのかなど、違反の全体像を調査すると同時に、なぜ違反が生じたのか、その原因や経緯を調査することが重要です。原因や経緯の調査は徹底的に行う必要があり、根本的な原因を解明することが必須となります。これは技能実習の違反に限らず、あらゆる不正調査・第三者委員会の調査においても最も重視されるポイントです。

なぜなら、根本的な原因を発見し、それを除去しなければ再発する可能性があるからです。ありがちなのが、違反の原因をたとえば「従業員の認識不足」にとどめてしまい、企業・組織の問題とせず、担当者個人の問題と認定してしまう場合がよくあります。しかし、なぜ従業員の認識が不足したのか、その点を深く追及していくと、利益を第一として法令遵守を軽視する社風があった、という点が見えてくるかもしれません。そのような場合、なぜそのような社風が生まれたのかを更に解明し、社風全体を改めなければ、担当者の首をすげ替えてもまた同じことが起こるでしょう。

このように、違反の原因や経緯を徹底的に追及して解明をすることが求められます。当事務所では、不正調査や第三者委員会の経験を有する弁護士が原因の解明をサポートします。

 

適法な体制構築に向けた再発防止案の策定

根本的な原因が解明できれば、次に再発防止策を策定することになります。根本的な原因が解明できていれば、おおよその再発防止策の見当がつくとは思います。もっとも、これがその企業において現実的に可能であるのかは別問題です。再発防止策の策定は、経営層や現場と綿密に調整を行い、その企業ごとに実現可能なものを行わなければなりません。

この点は、実際に社内だけで議論するのではしがらみがあって難しい場合があります。この点についても、外部の専門家である弁護士がサポートを行うことが適切な場合があります。

 

法令遵守継続のための顧問サポート

再発防止策を策定すれば、あとはこれを実施すれば、違反の再発は防止できる可能性が高まります。ただ、せっかく作り上げた再発防止策が、ほとぼりが冷めて実施されなくなり、また元通りになってしまう場合があります。逆に、再発防止策が業務上の非効率を生み、事業に支障が生じる場合もあります。

再発防止策を策定した場合は、定期的にチェックを行い、必要に応じて見直していくことが不可欠です。その際、違反が再発していないか、新たな違反が生じていないかの監査も行うことが重要です。

当事務所は、このチェックや監査を行い、受入れ企業が法令遵守を継続できるようサポートします。

受入企業が単独で、このような調査・原因の解明・再発防止策の策定、その後のチェックを行うのは体制として不可能であったり、負担が大きい場合があります。そのような場合は、弁護士等の専門家に依頼することで適切な対策を講じることができます。当事務所では、技能実習法や入管法、労働法に通じ、不正調査や第三者委員会の経験を積んだ弁護士を中心として、違反を根絶しようとする健全な受入企業を全力でサポートします。

   
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