不法就労に関する近年の傾向
近年、不法就労事件の摘発が増加し続けています。
出入国在留管理庁が摘発した不法就労者数はほぼ右肩上がりで増え続けており、平成29年には9134件だったのが、令和3年は13,255件となっています。
刑事事件としても、不法就労事案は多く、不法就労を雇用した側に成立する不法就労助長罪については、その摘発が広く報道されています。
不法就労に関する最近の報道
①飲食業
<概要>
2021年12月に、著名な飲食店において、オーバーステイ(不法在留)の外国人をアルバイトとして稼働させたという事案で
書類送検されたという報道がなされました。稼働させた会社の実質的経営者は、忙しくて確認を怠ったなどと供述しているということでした。
<不法就労に該当する理由>
オーバーステイの外国人はそもそも日本に在留する資格がなく、このような外国人が収入を伴う活動をすること、要するに働くことは不法就労に該当します。
ほかにも、密入国の外国人(最近は減りましたが)が働くことが不法就労に該当します。
そして、このような不法就労の外国人を働かせた者(使用者)には、不法就労助長罪が成立します(入管法73条の2・1項1号)。
本件のような、日本に在留する資格がない外国人を働かせることが違法であり、犯罪となり得ることはもはや常識といってよいでしょう。
この事件の肝心な点は、「使用者がオーバーステイであることを知っていたのか?」という点です。
使用者が、仮に十分な注意をしてもオーバーステイであることを見破れなかったというのであれば、不法就労助長罪は成立しません。
しかし、「はっきりとは知らないが、オーバーステイかもしれない」と認識し、それでも構わず働かせた場合は、未必の故意があるということで不法就労助長罪が成立します。
さらに、オーバーステイであることを知らなくても、知らなかったことについて過失があれば、不法就労助長罪が成立します(入管法73条の2・2項3号)。
すなわち、不法就労の外国人を働かせてしまった場合、使用者は、無過失でない限り、不法就労助長罪が成立し得るのです。
この点には十分に注意する必要があります。
<企業への処罰>
報道の件がその後実際に処罰されたのかは不明ですが、「確認を怠った」という事実があるならば、過失が認められ、不法就労助長罪で処罰される可能性はあったと考えられます。
②食品製造業
<概要>
2021年12月に、著名な食品メーカーの採用担当者が、通訳などの在留資格で来日した外国人を、人材会社を通じて受入れ、
資格外の業務と知りつつ工場で働かせたということで、不法就労助長罪で書類送検された件が報道されました。
この件で特徴的なのは、当該外国人が派遣社員であり、書類送検されたこのメーカーは派遣先であって、当該外国人と雇用契約がなかったという点です。
<不法就労に該当する理由>
この件では、外国人は在留資格を保有しており、日本に在留することは認められていました。
また、通訳の在留資格と言うことですので、「技術・人文知識・国際業務」の在留資格だと思われますが、就労する資格を保有していたと考えられます。
では何が問題かというと、在留資格で認められた範囲外の活動であったという点です。
「技術・人文知識・国際業務」の在留資格では通訳の仕事をすることはできますが、食品工場でライン作業をすることは在留資格の範囲外であり、基本的に認められないのです。
この種の不法就労は、個々の在留資格で認められた範囲を把握しなければ正確な判定ができませんので、不法就労か否かを判断するのが容易ではない場合もあります。
しかし、この種の不法就労でも、同様に過失があれば処罰される可能性がありますので注意が必要です。
次に、人材派遣の形態を取っていても、不法就労助長罪は成立します。
不法就労助長罪が成立するには、「事業活動に関し、外国人に不法就労活動をさせた」(入管法73条の2・1項1号)ことで足り、
雇用契約を締結しているかどうかで決まるものではないのです。
<企業への処罰>
本件では、結局このメーカーの担当者は不起訴になったと報じられました。
その理由は不明ですが、情状酌量の余地があるとして、起訴猶予となった可能性があります。
もっとも、今後は、このような派遣社員を受入れている企業でも、処罰がなされる事案は増えてくると思われます。
③派遣業
<概要>
2022年4月に、飲食店が、就労資格のない外国人3名を働かせていたということで、不法就労助長罪で書類送検された件が報道されました。
3名のうち1名は留学生であったものの大学が除籍となり、残る2名は技能実習生で正規の働き口は別にあり、この飲食店で働く申請はしていなかったとのことです。
<不法就労に該当する理由>
まず、留学生についてですが、「留学」の在留資格は本来就労が不可能な在留資格です。もっとも、留学生の大多数が「資格外活動許可」を得ており、
週28時間以内(教育機関の長期休業期間にあっては,1日について8時間以内)であり、かつ、風俗営業等の従事に該当しなければ、就労が可能です。
ところが、留学の資格外活動許可の場合は、学校を退学となった場合には資格外活動も不可能となります。
この件の留学生は除籍になったとのことですから、就労は不可となり、この者を働かせると不法就労助長となるのです。
次に、技能実習生についてですが、技能実習生は認定された技能実習計画にしたがってであれば就労が可能ですが、それ以外の就労はできません。
技能実習生の転籍は不可能ではありませんが、手続を経る必要があります。本件ではそもそもこの飲食店は技能実習生の受け入れができないと考えられますが、
仮に技能実習生の受入が可能な場合であっても、もともと他で働いていた技能実習生を雇用してしまうと不法就労助長となりかねません。
企業がとるべきアクション
①早期対応が重要
不法就労助長で警察の捜査が始まったことが分かったタイミングで、直ちにアクションを取るべきです。
不法就労助長罪は、警察が犯罪事実を知った後、秘密裏に捜査を進めていきます。
不法就労の外国人を雇っている使用者側は、ある日突然警察から連絡を受けて、不法就労助長の捜査がなされていることを知ります。
ただの連絡であればよい方で、いきなり捜索がなされたり、関係者が逮捕される場合もあります。
対応が遅れてしまうと取り返しが付かない場合がありますので、捜査がなされていることを知ったその段階で適切な対応を取る必要があります。
なお、よくある兆候として、外国人従業員がオーバーステイなどで逮捕され、それをきっかけに不法就労助長が発覚する場合があります。
したがって、万が一、外国人従業員がオーバーステイ等で逮捕され、その外国人について不法就労助長が成立することが分かった場合には、すぐに対応をすることが必要です。
②捜査機関よりも先に発見する
摘発を防止するためには、そもそも捜査期間よりも先に自社で発見することが望ましいといえます。
自社で発見し、不法就労の状態を解消できれば、摘発の可能性を相当程度下げることが可能といえるでしょう。
不法就労助長の怖いところは、担当者が違法だと十分に意識せずに行ってしまう場合がある点です。違法だと意識していない以上、違法状態が野放しになっている可能性があります。
これを防止するためには、不法就労助長のリスクに気付いた段階でチェックを行い、また、定期的に社内監査を行うことが重要です。
その結果として不法就労助長を発見できた場合には、直ちにこれを停止して、適切な対処を取る必要があります。
③入管法と刑事弁護に精通した弁護士に相談
不法就労助長の捜査が開始したことを把握した場合、自社で不法就労助長を発見した場合には、弁護士に相談することが効果的です。
とりわけ、入管法と刑法に精通した弁護士に相談することが効果的です。
入管法の在留資格制度は非常に複雑で、予め知識・経験のない弁護士が正確に対応することは困難です。
また、刑事事件となり得るため、刑事弁護に精通した弁護士であることもまた必要でしょう。
たとえば、不法就労助長で従業員が逮捕された場合に会社の顧問弁護士がその従業員の刑事弁護を引き受けることは、従業員と会社との間で利益相反となる可能性が高く
弁護士倫理上で大問題となる場合がありますので、刑事事件に精通した弁護士が慎重かつ適切に対応することが求められます。
不法就労助長に関するご相談は弁護士法人キャストグローバルへ
不法就労助長に関しては、上記の通り、入管法と刑事弁護に精通した弁護士に相談することが有効です。
弁護士法人キャストグローバルでは、検察官を10年以上務め、入管法と刑事弁護に精通した弁護士が在籍しているほか、
各種方面に精通した様々な弁護士が在籍しており、グループには外国人の在留資格関係業務を多数扱っている行政書士法人キャストグローバルなど
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