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家賃滞納で強制退去ができない3つの原因と退去できない場合の対処法

家賃を滞納している入居者がいて出て行ってほしい。
だが、まだ滞納期間が短いため、どうも強制退去できないようだ。
交渉しようとするが、返事すらない。
どうしたらいいのかとお困りかと思います。
この記事では、なぜ強制退去できないのか、どうやったら強制退去できるのか、この後どうすればいいのかなどの流れを解説します。
【この記事でわかること】
- 家賃を滞納したということだけで強制退去はできないこと
- 実力行使で出ていかせると逆に訴えられること
- 家賃を滞納を連続して3ケ月すると勝訴できる可能性が高いこと
- すぐに強制退去できないなら交渉と訴訟準備をすること
- 滞納家賃の回収は、本人、保証人、保証会社へ
- 強制退去させる流れ
- 強制退去後に家賃回収は難しいこと
- 弁護士に依頼することで速やかな退去と新規のリーシングができること
家賃を滞納している入居者を強制退去させる手順を詳しく知りたい方は、「家賃滞納者を立ち退きさせる4つの手順とは?内容証明〜強制執行まで」をご覧ください。
目次
1.【前提】家賃滞納者は法的手続きをしないと強制退去できない
まず前提として、家賃滞納者を強制退去させるには法的手続きが必要です。
裁判所に明け渡し訴訟を起こして、その裁判で勝訴してはじめて強制退去をさせることができます。
そのため、まだ強制退去の判決をもらえていない、または明け渡し訴訟で負けた場合は強制退去はできないということです。
また、法的手続きには時間がかかりますから、強制退去させるにも時間がかかります。
ですが逆にいえば、「今すぐ強制退去ができない=何も手立てがない」というわけではありません。
悪質な家賃滞納が続くようであれば確実に強制退去はできますから、ある程度「長期戦になる」つもりで、準備を進めると良いかと思います。
1)強制退去が認められる状況か見極めが必要
先述の通り、裁判で負けたら強制退去は認められません。
ですから、「裁判になった時に勝てるか、負けるか」の目処をつけて、今後の対応を決めると良いでしょう。
- 裁判になった時に強制退去できないケース(2章で解説)
- →まずは家賃の回収・立ち退き交渉・訴訟の準備
- 裁判になった時に強制退去できるケース(3章で解説)
- 速やかに明け渡し訴訟をする
具体的な「強制退去できる・できない」の条件は後の項目で述べています。
これをチェックして、ひとまずの対応方針を決めてください。
2)自力救済(実力で追い出す・締め出す行為)は絶対NG!
強制退去は、法的手続きに則って進めなくてはいけません。
法的な手続きを経ずに、大家が実力行使で追い出したり締め出したりする行為は「自力救済(じりききゅうさい)」と言われ、違法行為にあたります。
ですから、絶対にやってはいけません。
具体的には、次の行為です。
- ドアを封鎖・施錠し、帰れなくさせる
- 鍵を勝手に交換する
- 部屋に勝手に侵入し、荷物を外に出す・捨てる
- 電気・水道・ガスなどを止める
- 脅し・威圧で退去を強要する
これらの行為をすると、逆に相手から損害賠償を請求されるリスクがあり、場合によっては、住居侵入罪や器物損壊罪などに問われることもあり得ます。
このように良いことがないので、絶対にやめてください。
2.家賃滞納で強制退去できない主な4つのケース
続いて、「家賃滞納で強制退去させたいが、現時点では裁判で勝てるか怪しいケース」を解説していきます。
家賃滞納という契約違反があれば、賃貸借契約を解除し強制退去させることができるというのが原則です。
ですが、賃貸借契約は、単なる契約違反のみならず、重大な契約違反をして「信頼関係が破壊された」と認められるケースでなければ、賃貸借契約を解除(強制退去)はできません。
具体例なケースは次の通りです。
1)家賃の滞納期間が2ヶ月以内
原則として「信頼関係が破壊された」と認められるほどの重大な契約違反は家賃滞納が連続で3ヶ月以上続いた場合です。
なので逆に、1ヶ月〜2ヶ月の段階であれば、その時点では強制退去が認められません。
ですが、この時点から訴訟の準備をはじめて、審理終結時点で3ケ月となるようにすることで、速やかな強制退去が実現できます。
2)滞納者が「支払う意思」を示している
家賃支払いの催促に対して、「分割で支払いたい」「今月中に払う予定」などの支払う意思を示している場合です。
借主が誠意をもって払おうとしているのであれば、「信頼関係が破壊されている」とは言いにくいためです。
実際に少しでも支払っていれば、かなり印象が良くなります。
ですが、言うだけで全く支払いがなく、支払えそうもなければ意味がありません。
口だけ「払う」と言いつつ、実際の支払いが全くされていないのであれば、強制退去させられる場合もあります。
3)家賃滞納の理由がやむを得ない事情である
借主が病気やけがでの入院、失業などで一時的に収入がなくなるなどやむを得ない事情で家賃滞納してしまった場合です。
これも貸主と借主の信頼関係が破綻したとまではいえません。
ですが、あくまで一時的であって、それが終われば払うことが出来るという事が前提です。
3.家賃滞納で強制退去できる可能性が高いケース
2章と逆に、裁判で勝てる可能性が高いケースは、「3ヶ月連続の家賃滞納」です。
その他にも、
- 家賃滞納が断続的ではあるが、頻度が多い場合(例:6ヶ月間に4回滞納)
- 滞納額が家賃の3ケ月分以上に達した
などの場合も強制退去が認められる可能性が高いです。
際どいケースでは、弁護士に相談して、訴訟を睨みつつ立ち退いてもらうように交渉するというのがベターです。
4.すぐには強制退去させられない場合は交渉と訴訟準備
2章で述べた「強制退去ができない(可能性が高い)」ケースに当てはまる場合は、入居者自ら出ていってもらうように交渉を進めつつ、明け渡し訴訟を準備しましょう。
もちろん家賃を払うように再三催促も並行して行ってください。
裁判所が判断する際、いつの時点までの事実を考慮するかというと結審時点、取り調べを終える時です。
ですから、訴訟提起時点で明け渡し訴訟に勝てるだけの期間を経てないとだめということはありません。
結審の時点を考慮して進めます。
もっとも、相手の出方次第で結審する時が変わるため、最短での結審を考慮しましょう。
この訴訟準備の段階で弁護士のサポートがあれば、最短で強制退去を実現するのに大きく役立ちます。
「まだ滞納されて2ヶ月」といった段階でも、早めに弁護士に相談して損はないでしょう。
5.滞納されている家賃を回収するの3つの対応
家賃滞納が発覚した時点では、まずは家賃を徴収することが先決です。
先述の通り、すぐには強制退去させられない場合は交渉と訴訟準備から始める必要がありますし、最終的に強制退去させるにしても、時間がかかります。
その間、当たり前のように家賃滞納を続けられたら損害もどんどん大きくなっていきますので、家賃回収のためにもいくつかの対策をしてください。
次の流れで請求しましょう。
1)滞納者に支払いを督促する
本人に対して家賃を支払うよう催促するとともに、どういう理由で支払いが遅れたのかを確認してください。
理由によっては、次の行動が変わるためです。
例えば、「忘れていただけ」というのであれば速やかに払われるであろうと待つことが出来ます。
ですが、本当の理由であるとは限らないので、嘘かもしれないと思って確認を怠らないでください。
忘れていたという場合は、速やかに払うことができるはずで、よくわからない理由をつけて、速やかに払われなければそれは嘘ということです。
2)連帯保証人へ連絡する
本人に催促しても払われなかった場合は、連帯保証人に支払うように連絡します。
連帯保証人は本人にかわって払う義務があります。
また、連帯保証人から本人に払うように連絡することで、速やかに払われるという期待も持てます。
連絡方法は、まず電話などで状況を伝えた上で、文書(メールまたは郵送)で正式な支払い要請を送るとよいでしょう。
3)保証会社に連絡する
保証会社が入っている場合は、保証会社に家賃滞納があったことを報告します。
報告後、1ケ月程度で、本人に代わって家賃が払われます。
保証会社には速やかに連絡してください。
保証会社によってその期間は異なりますが、80日以内に連絡しないと免責になるなどの規定があります。
6.家賃滞納者を強制退去させる流れと期間
強制退去させるための、法的手続きの流れは以下のようになります。
- 内容証明郵便で契約解除を通知(証拠として残る形式で「いつまでに退去してほしいか」を明記)
- 明け渡し訴訟を提起(不動産所在地を管轄する裁判所へ)
- 裁判所で貸主・借主がそれぞれ主張と証拠を出し合い、信頼関係の破綻があったかを審理(複数回の期日を経て判断)
- 和解に至る場合もあり(「分割払い」で合意する場合など)
- 判決言い渡し(立ち退き請求が認められた場合、強制執行が可能になる)
- 判決確定後、地方裁判所の執行官に強制執行を申し立て
- 強制執行の断行日(必要に応じて警察立ち会い)。断行後は必ず鍵交換を行うこと
これら全体の期間としては、スムーズに進んだ場合でおおよそ3〜6ヶ月程度が目安となります。
もっと詳しく強制退去の流れや期間を知りたい方は、「強制退去・立ち退き強制執行の方法と流れ!条件や期間も弁護士が解説」をご覧ください。
7.強制退去させた後からでも家賃の回収はできる?
強制退去させられたところで一安心ですが、「その後でも家賃は回収できるのか?」と言う不安も残るでしょう。
結論、滞納家賃は当然ですが受け取る権利があります。
ですが、家賃が払えなくて強制退去させられたような人から滞納家賃を回収するのは一苦労です。
家賃が払えるなら強制退去させられる前に払うからです。
ですから、事実上、家賃の回収は困難で、費用対効果が合わないのであきらめる方が無難です。
こういったケースの現実的な解決策としては、賃貸条件に保証会社必須とすることで家賃のとりっぱぐれがなくなります。
8.家賃滞納の強制退去は弁護士にご相談ください
家賃に滞納があったことを立証するのはそう難しくはありません。
ですから、訴訟における一つの困難である、主張立証をするという点ではご本人でも対応できます。
ですが、督促、交渉、訴訟、強制執行という流れをすべて自分でやるというのは現実的ではなくとても大変な作業です。
また、訴状提出などの訴訟手続きはミスがあると補正しなければならず、弁護士に任せておけばスムーズに進んだのに、何か月も無駄にしたという事になりかねません。
強制退去の手続きが遅れるだけでなく、「次の入居者を入れて普通に家賃収入を得る」のも遅くなり、これは大きな損失です。
家賃滞納があり催促しても速やかに払われないという時点で、弁護士に相談されたほうが結果的に経済的損失を少なくして早く終わらせられる可能性が高いです。
弊所では、「裁判になったら強制退去できるか」というストレートな相談にも対応しておりますので、ご相談ください。
まとめ
大家さんの立場からすると、家賃滞納は大きな問題です。しかし、家賃滞納者を強制退去させるには、法的手続きを踏む必要があります。実力行使は絶対に避けましょう。
家賃滞納者を強制退去させるには、必ず裁判所に明け渡し訴訟を起こし、勝訴する必要があります。まだ判決がない、または敗訴した場合は強制退去できません。法的手続きには時間がかかるため、長期戦を覚悟しつつ準備を進めることが重要です。
自力救済は絶対NGです。鍵の交換、荷物の撤去、電気・ガス・水道の停止、脅しなどは違法行為にあたり、逆に損害賠償を請求されるリスクがあります。
家賃滞納があれば必ずしも強制退去できるわけではありません。滞納期間が2ヶ月以内、滞納者が支払う意思を示している、やむを得ない事情がある場合は、信頼関係の破壊が認められず、現時点では強制退去が難しいことがあります。一方、3ヶ月以上の連続滞納や、断続的でも頻繁な滞納がある場合は、強制退去が認められる可能性が高いです。
強制退去がすぐに難しいケースでは、まずは滞納家賃の督促と回収に努めつつ、入居者に出て行ってもらうための交渉や、将来的な訴訟の準備を進めましょう。家賃滞納が発覚した時点で、連帯保証人や保証会社への連絡も速やかに行ってください。
督促、交渉、訴訟、そして必要であれば強制執行と続く一連の手続きは非常に複雑です。ミスなく迅速に進めるためには、弁護士に相談することが最も効果的です。早期に弁護士に相談することで、経済的損失を最小限に抑え、スムーズな解決に繋がる可能性が高まります。