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立ち退き交渉の進め方!4つの手順と拒否された時の対処を弁護士が解説

はじめに
老朽化アパートを取り壊して建て替えたいけど、立ち退き交渉の進め方が全く分からない。
入居者に立ち退き拒否されたらどうしたらいいのなどお困りかと思います。
この記事では、立ち退き交渉の進め方と立ち退きを拒否された時の対処などを解説します。
【この記事でわかること】
- 立ち退き交渉が必要なのは2つのパターン
- 大家都合で賃貸契約を終了したいケース
- 入居者の迷惑行為/違反行為で退去を求めたいケース
- 大家都合での賃貸借契約を終了させるのに大切なのは、正当事由と立ち退き料
- 入居者の違反による立ち退きで大切なのは違反の程度
- 交渉を始める前に準備が大切
- 立ち退き交渉の手順
- 立ち退き交渉で拒否された場合は、条件の見直しと弁護士への相談
- 困った時に頼れるのは弁護士
交渉がとん挫して法的手続きについて詳しく知りたい方は、「強制退去・立ち退き強制執行の方法と流れ!条件や期間も弁護士が解説」をご覧ください。
目次
1.「立ち退き交渉」が必要になる2つのパターン
立ち退き交渉が必要になるケースは、大きく分けて以下の2パターンです。
- 大家都合で賃貸契約を終了したいケース
- 入居者の迷惑行為/違反行為で退去を求めたいケース
実は、それぞれのケースごとに交渉のポイントが異なります。
大家都合で賃貸契約を終了したいケースとは、賃貸借契約の終了時点で更新せず退去してもらうケースです。
次の2章で詳しく説明します。
他方、入居者の迷惑行為/違反行為で退去を求めたいケースとは、入居者が契約で約束していたことを守ってくれないため、直ちに契約を終了させて退去してもらうケースです。
これについては、3章で解説します。
ご自身のケースがいずれであるのかをチェックして、該当する章をご覧ください。
2.大家都合での賃貸借契約を終了したいケースで大切なのは「正当事由」と「立ち退き料」
賃貸借契約を終了して「立ち退き」をしてほしいというケースとは、賃貸借契約が終了するタイミングで契約を更新しないということです。
このケースでの立ち退きの交渉で必要になるのが以下の2つです。
- 正当事由:入居者に立ち退いてもらうことが仕方ないといえる理由
- 立ち退き料:入居者に立ち退いてもらうために払うお金。正当事由の補完となる。
これらについて詳しく解説します。
1)正当事由とは何か
正当事由とは、借地借家法28条に定めがあり、入居者に立ち退いてもらうことが仕方ないといえる理由をいいます。
契約期間が終わって終了することは普通であるはずですが、土地建物の賃貸借契約においては、さらに正当事由が必要となっています。
なぜなら、その場所を生活の本拠としているなどその場所を簡単に出ていくことは酷であるため、入居者を保護する必要があるからです。
そうはいっても、大家さんにも都合があるでしょう。
そこで、大家側のその不動産を使う理由、入居者がその不動産を使う理由、契約の経緯などを総合的に考慮して、入居者に退去してもらうのが仕方ないよねといえるかどうかを判断します。
具体的な正当事由は以下のものです。
判断要素 | 具体例な内容 |
建物の使用を必要とする事情 | 貸主、借主が、その建物を使う必要性の程度 |
建物の賃貸借に関する従前の経過 | 賃貸借契約の期間、賃料、その他費用、更新回数など |
建物の利用状況 | 居住用、事業用、大家業などどのように利用されているか |
建物の現況 | 築年数、老朽の程度、構造などの建物の状況 |
立ち退き料 | 貸主が立ち退きの際に申し出る立ち退き料の額、代替不動産の提供 |
なお、何が「正当事由」と言えるのか、詳しくは、「立ち退きの正当事由とは?貸主からの解約の判例と借地借家法から見る」で解説していますので、あわせてご覧ください。
2)立ち退き料は原則必要
立ち退き料とは、入居者に立ち退いてもらうために、先ほど説明した正当事由を補完する金銭をいいます。
正当事由に判断要素は、その時点の事実ですが、どうしても大家さんが使いたいので入居者に立ち退いてもらうことができないというのも不合理です。
ですから、その分はお金を払うことで立ち退かせることができます。
そして、原則として、立ち退き料を払わないといけません。
例外的に、立ち退き料を払わなくて良い場合は、次のような場合です。
- 大家さんがその不動産にしか住むところがない
- 大家さんがその不動産に住む必要性があり、一方、借主は別のところに住んでいて、その不動産は物置程度でしか使っていない
- 今にも倒壊してしまいそうなほど老朽化が進んでいる
次章は、2つめのパターンである入居者の迷惑行為/違反行為で退去を求めたいケースです。
3.入居者の違反による立ち退きで大切なのは違反の程度
入居者の迷惑行為/違反行為で退去を求めたいケースにおいて、大切となるのはその迷惑行為/違反行為の程度がどれほどであるかということです。
迷惑行為/違反行為は、賃貸借契約における入居者の義務を守っていないことをいいます。
そして、契約の義務を守らないなら契約を解除して立ち退いてもらうのが原則です(民法541条)。
ですが、賃貸借契約のような継続的な契約の場合は、信頼関係が破壊される程度であることが必要です。
次にあげるものが、信頼関係が破壊される程度の違反行為です。
迷惑行為/違反行為 | 信頼関係が破壊される程度 |
家賃滞納 | 3ヶ月以上の滞納
催促の通知を送っても支払いがない |
騒音 | 早朝、夜間に60デシベル程度の音
同じ部屋で掃除機をかける程度の音 |
共用部や道路などにゴミを捨てる | 居宅部分以外にゴミを捨て、5度6度注意しても改善されない場合 |
ゴミ屋敷化・これに伴う悪臭 | 周囲に悪臭が漂ったり、木が腐食するなど構造に影響を与える、火災の原因になる |
隣人への執拗なクレームなど | 正当な理由のないクレームを隣人に対して続けて、5度6度注意しても改善されない |
覗き | 隣室に立ち入っての覗き見、お風呂場を覗く、など |
無断での増改築 | 大家に許可を得ることなく壁を壊して2つの部屋を一つに変更する、など
・原状回復不能、または修繕費が高額になる場合 |
無断での転貸 | 大家に許可を得ることなく、親族以外の人に貸す |
無断で人を住まわせる | 空いている部屋を民泊のように利用する |
ペット禁止物件でのペット飼育 | 大型ペットを飼育する
鳴き声・臭い・抜け毛等で近隣に被害が出ている |
これらの行為があれば、信頼関係が破壊される程度の違反があるとして、契約を解除して立ち退きを求めることができます。
4.交渉を始める前にやっておきたい4つの重要な準備
入居者に立ち退いて欲しいと思って不用意に立ち退き交渉を始めるのは危険です。
準備を整えて計画的に交渉をはじめましょう。
それでは、どのような準備をするのが適切であるのかを解説します。
1) 立ち退き目的と具体的な計画の明確化
立ち退いてもらう目的を確認ください。
次のような目的があり、目的が複数ある場合もあるでしょう。
- 建て替え
- 大規模改修
- 自己または家族が使用する
- 入居者の違反
これらの目的にそって、その根拠となるものを揃えます。
①建て替え/大規模改修の場合
建て替え/大規模改修をする場合は、その工事の計画と費用を見積もります。
どれくらいの期間と費用をかけて、どのような建物にして家賃を想定し利回りを計算します。
建て替えるという判断をするのに必要な情報でもあります。
賃貸借契約を更新しないという連絡は、契約期間満了の6ケ月前までに通知しなければなりません(借地借家法26条1項)。
ですから、半年前までに計画をしておくことが望ましいでしょう
なお、契約期間満了の6ケ月前を過ぎてから通知した場合は、更新拒絶ではなく解約申し入れとして扱われて、通知から6ケ月経過した時点で契約を終了させることができます。
本当は別の理由があるがそれを伝えるのはバツば悪いから、建て替えを理由にする方も多いです。
そのためか、建て替えという理由はかなり多く使われています。
本当は建て替えする気など全くないと、工事の計画や費用の見積もりなど具体的な計画がありません。
相手から提示を求められても、とってつけたようなものしか提示できないということになります。
そうすると、その目的は嘘ではないかとなりますし、裁判でも建て替えが目的と認定してもらえません。
②自己または家族が使用する
自己または家族が使用する場合は、いつどのような事情でその不動産を使用する必要があるのかを確認します。
自己または家族が今住んでいる家を出ていかなくてはならない日までに、入居者に出ていってもらわなくてはなりません。
自己または家族が他に所有している不動産がないこと、他に不動産を所有していてもそこには住めない理由を確認ください。
他に住むところがないというのは、正当事由において強い事情となります。
賃貸借契約を更新しないという連絡は、契約期間満了の6ケ月前までに通知しなければなりません(借地借家法26条1項)。
③入居者の違反
入居者の違反の場合は、信頼関係を破壊する程度の違反であるといえるかどうかという違反の程度が重要となります。
違反の程度が軽微であっても退去させることはできないということでもありません。
何度も何度も注意しているにも関わらず是正がされなかったのであれば、総合的に信頼関係を破壊する程度の違反ということもできます。
入居者の違反の場合に必要となるのは、
- どのような違反であるか
- その違反の程度がわかるもの
- 注意したのに是正されないこと
これらの証拠を押さえておくことです。
例えば、3ケ月の家賃滞納であれば、信頼関係が破壊する程度の違反といえますので、ただちに解約できることが多いです。
訴訟を準備しつつ直ちに出て行ってもらうように交渉を開始します。
騒音トラブルだとすると、一回で信頼関係が破壊する程度の違反とはいえません。
また、客観的にみて騒音トラブルといえない場合もあります。
騒音トラブルといっているが、通常の生活音であるのに敏感な方がクレームを言っている可能性もあるからです。
交渉を始める前に、騒音の有無、誰が出しているのか、その程度を確認します。
なお、迷惑行為/違反行為別の退去のさせ方を詳しく知りたい方は、「迷惑入居者を追い出したい!5つの事例別に退去のさせ方と条件を解説」をご覧ください。
2)物件と入居者の情報確認と分析
物件と入居者の情報を確認して分析しましょう。
物件の情報として、賃貸借契約書の内容や周辺の物件など次のことを確認します。
- 契約期間
- 特約条項など入居者の義務
- 更新の有無、その回数など)
- 周辺の同程度の物件家賃相場
また、入居者の情報として次のことを確認します。
- 入居期間
- 家族構成
- 賃料支払い状況
- 高齢者・病気・長期入居者の有無など)
これらは、正当事由を検討するために必要不可欠な情報となります。
これらの情報を分析して、正当事由の強さを検討しつつ、交渉材料とします。
3)立ち退き料の提示額を決める
入居者の違反行為によって賃貸借契約を解約できる場合でなければ、原則として、立ち退き料を払わなくてはいけません。
相場としては、月額家賃の8ケ月分くらいが目安かと思います。
ですが、相場で決めるというよりも、こちらの事情として、いくらならはらってもいいのかという視点で検討します。
立ち退かせて建て替えて利回りを上げるとすると、その投資効果を考えて、これぐらいなら払ってもいいという金額が出ます。
昨今、建築費が著しい勢いで上昇しており、建築資材の価格、人件費など日に日に上昇しています。
そのため、計画を練りづらい状況ではありますが、現時点でできる見積もりを出し、投資効果を検討する必要があります。
結果として思った以上に立ち退き料がかかってしまい、建築費も想定以上に上昇したので建て替えを見合わせるということになってしまいかねません。
4)代替物件の情報収集
立ち退き交渉を始める前に、代替物件となる周辺にある同条件の賃貸不動産の情報を収集します。
代替物件の情報を確認しておくことは、攻めの交渉、守りの交渉で役に立ちます。
守りの交渉では、入居者が代替物件がない、代替物件の家賃がこれぐらいなどと言われたときに確認が容易になります。
攻めの交渉では、代替物件としてこのような物件がありますよと紹介することができます。
5.立ち退いてもらう交渉術!立ち退き交渉の4つの手順を徹底解説
これらの情報を確認したら、立ち退きの交渉を開始します。
1)ステップ1:最初の「意思表示」と「打診」
入居者へ立ち退いて欲しい旨の連絡をします。
大家さんと入居者が直接連絡を取り合っているような関係性であれば、面前でお願いするのがいいでしょう。
全く関係性がない場合は書面でお願いをします。
電話をした上で、同内容の書面を送るという方法も有効です。
なぜなら、書面だと感情を伝え感じ取ることが難しく、相手が本書面をどのように感じ取ったのかを察することができないからです。
いずれにしても、丁寧かつ誠意ある「お願い」をしましょう。
仮に相手が立ち退かなくてはならない状況であったとしても、出て行って当然という言い方をしてしまうと相手がへそを曲げてしまい余計に面倒です。
そして、連絡をするのは、遅くとも出て行って欲しい日時の6ケ月前、できればで相手の状況を見てもっと前にお願いしましょう。
例えば、小学生、中学生の子どもがいると転校をしないで良い場所を探さないといけないなど制約が多く、代替物件を探すことに時間がかかることがあります。
賃貸借契約期間満了に伴うご案内
拝啓
時下ますますご清祥のこととお慶び申し上げます。 平素は格別のご高配を賜り、厚く御礼申し上げます。
さて、ご入居いただいております物件の賃貸借契約につきまして、〇年〇月〇日をもって契約期間が満了となります。
ご入居以来、長きにわたり大切にお住まいいただき、心より感謝申し上げます。 つきましては、誠に恐縮ではございますが、契約期間満了をもちまして、本契約を終了させていただきたく、お願い申し上げます。
急なお話で大変恐縮ではございますが、諸般の事情により、物件を明け渡していただく必要がございます。 ご迷惑をおかけいたしますことを深くお詫び申し上げます。
ご退去にあたりまして、何かご不明な点やご不安な点がございましたら、ご遠慮なく下記までご連絡ください。 皆様のご負担を最小限に抑えられますよう、最大限のサポートをさせていただきます。
まずは書面にてご案内申し上げます。 ご多忙の折とは存じますが、何卒ご理解ご協力いただけますようお願い申し上げます。
敬具
記
- 契約終了日: 〇年〇月〇日
- 退去期限: 〇年〇月〇日
- 本件に関する連絡先:
- 電話番号: 〇〇-〇〇〇〇-〇〇〇〇
- 受付時間: 〇時~〇時 (土日祝日を除く)
2)ステップ2:初回面談と入居者の状況ヒアリング
立ち退きについて前向きの連絡があったとしても、ちょっとした契機で気が変わってしまいます。
合意書を締結するまで気を抜かずに、丁寧に対応してください。
できる限りお会いして入居者の考えと状況を丁寧にヒアリングしてください。
どれだけこちらが出て行って欲しいかという理由よりも相手の話を聞いてください。
- 立ち退く障害となっているもの
- 転居先
- 時期
- 立ち退き料の要望など
を丁寧に聞き取ります。
3)ステップ3:具体的な条件を提示する
相手の状況、障害となっているものをカバーできるようなフォローをする具体的な条件を提示します。
こちらが出せる立ち退き料を上限として、期日までに立ち退いてもらうように妥協点を探します。
相手がそういわない限り立ち退き料という言葉を使わないほうがいいかもしれません。
例えば、次のような条件です。
- 引っ越し費用
- 代替物件の提示
- 退去までの家賃の減額、免除
これらのカードをうまく使いながら、自主的に出て行ってもらえるように、丁寧に交渉します。
4)ステップ4:合意形成と「立ち退き合意書」の締結
入居者と立ち退きについて合意がとれたら、絶対に書面にしてください。
人間関係があるから口頭でも問題ない、書面にしてくれとは言いにくいということをおっしゃる方はまだまだおられます。
ですが、言った言わないになったらこちらの負けです。
また、書面にしてくれといいにくい関係性であればなおさら書面にしなければなりません。
原則として、立ち退きにともなう費用の支払いは、立ち退きできたことを確認してから支払いましょう。
引っ越し費用がないなどといわれた場合は、引越し業者に直接払いましょう。
合意書
賃貸人〇(以下「賃貸人」という。)と賃借人〇(以下「賃借人」という。)は、本日、賃貸人が賃借人に賃貸中の下記物件の建物(以下「本件建物」という。)の賃貸借契約(以下「本件契約」という。)の解約につき、次のとおり合意した。
第1条 賃貸人と賃借人は、本件契約が令和〇〇年〇〇月〇〇日の経過をもって、期間満了により終了したことを確認する。
第2条 賃貸人は、賃借人に対し、本件建物の明渡しを、令和〇〇年〇〇月〇〇日まで猶予する。
第3条 賃借人は賃貸人に対し、前条の期日までに家具等一切を搬出して本件建物を明け渡す。賃借人が賃貸人に明渡し後、本件建物内に残置する物件については、賃借人はその所有権を放棄したものとし、賃貸人がどのように処分をしても異議申立てをしない。ただし、残置物の処分に費用を要するときは賃借人の負担とする。
第3条 賃貸人は賃借人に対し、立退料として金〇〇円を令和〇〇年〇〇月〇〇日までに支払う
6.「立ち退き拒否」された場合の対処・手段
立ち退きを拒否された場合は、最大限の譲歩を示して立ち退きを交渉し、それでもダメなら裁判手続きをするか諦めるかの2択になります。
1)条件を見直して再度交渉する
前提として、強制退去などの裁判手続きによることも可能ですが、それにかかる費用、期間を考えると、交渉で決着をつけるのが望ましいです。
裁判手続きは、半年~2年程度の期間がかかりますし、裁判所に支払う手数料に加えて弁護士費用がかかります。
同じ費用をかけるなら交渉で自主的に出て行ってもらえれば、短い期間で立ち退きが実現できます。
期間をかければかけるほど、得られるはずの賃料が得られません。
さらに、建築資材、人件費は日に日に上昇しており、今後下がるような要素は、円高くらいであって、総合的に判断すると着工できるなら早いに越したことはないという状況です。
したがって、裁判手続きは最終手段として、できる限り譲歩をして交渉での解決を図ります。
- 引っ越し費用
- 代替物件の提示
- 退去までの家賃の減額、免除
- その他立ち退き料
裁判手続きの費用を多少超えても、すぐに出て行ってくれるのであればメリットはあります。
なお、大家業としての事業規模や戦略によっては、交渉をさっと打ち切って、訴訟手続きに速やかに移行するというのも全体を最適化できます。
2)どうしても拒否され続ける場合は弁護士に相談
交渉をして前向きな話ができない、取り付く島もないないという場合は、入居者との関係がこじれる前に弁護士に依頼してしまうのが良いでしょう。
第三者の専門家である弁護士が間に入ることで、互いの感情を排除して、条件にフォーカスして話し合うことができます。
我々弁護士としては、原則として、訴訟をしても我々が費用を頂けるだけなので、交渉による解決が望ましいと考えています。
入居者と粘り強く向き合って交渉による解決を目指します。
弁護士に依頼するデメリットは、弁護士費用となります。
弁護士費用は少なくとも30万円くらいはかかります。
であれば、30万円を立ち退き料として払って、入居者が出て行ってくれるのであれば、そのような解決が望ましいでしょう。
弁護士に相談するメリットの詳細は、8章で解説します。
3)最終手段としての法的手続き
どうしても折り合わない、ありえない立ち退き料を請求されているなどという場合は、最終手段として法的手続き(調停または訴訟)です。
調停は裁判所を通じた話し合いです。
これまで十分に話し合ってきたので調停ではなく、訴訟(建物明渡請求訴訟)を進めます。
一般的には弁護士に依頼しますが、ご自身でも訴訟を提起することはできます。
しかし、相当慣れている方でない限り、ご自身ですることはおすすめしません。
なぜなら、訴状等の書類に不備があれば、補正をしなければならず、訴訟を開始するまでに無駄な時間がかかります。
また、相手を立ち退かせる要件を主張立証しなければならず、それができなければ訴訟で負けてしまうことになります。
強制退去・強制執行などの法的手続きを詳しく知りたい方は、「強制退去・立ち退き強制執行の方法と流れ!条件や期間も弁護士が解説」をご覧ください。
7.立ち退き交渉を成功に導くための大家さんの心構え
交渉で速やかに解決するためには、心構えを持って取り組むことが大切です。
交渉の目的は入居者に自主的に出て行ってもらうことである。
これを何度も唱和してから交渉に望んでください。
交渉しているうちに脱線してしまい話があらぬ方向に行くことがとてもよくあります。
入居者の感情を受け止めるために話を聞くということであれば、それは割り切ってやるしかありません。
ですが、そうではないのに脱線してしまうと、余計に問題がおきるだけで何の得もありません。
いかにおかしなことを言う入居者であったとしても、入居者の立場に立った配慮を持ち、信頼関係を構築し維持していきましょう。
大家さんの心構えチェックリストは次の通りです。
- 目的を忘れない
- どんなに腹が立っても入居者の立場に立って話す
- 丁寧、誠実
- 十分な情報提供と説明
相手にとって必要な情報やこちらの事情に対する根拠資料などを適切に提示して説得力を持たせることができます。
8.困ったときに頼れる弁護士に依頼するメリット
立ち退き交渉をしてスームーズに入居者が出て行ってくれることにならなかった場合に弁護士に依頼することを検討ください。
こじれそうだなと思う前に依頼するとスムーズですが、もう駄目だと思ってからでも遅くはないので相談してください。
弁護士に依頼するメリットは、以下のとおりです。
- 入居者と直接交渉不要となり、ストレスフルな交渉をしなくていい
- 交渉から退去、合意書締結までまるっと専門家に任せることができる
- 退去計画から訴訟手続きまでスムーズに進行し早期解決が実現できる
- 正当事由などの法律判断が適切に任せられる、助言がもらえる
一方で、デメリットは弁護士費用です。
上記のメリットを考慮してデメリットが上回るという方は依頼しないとなります。
ですが、初回相談無料のところなどに、とりあえず相談はしてみるのがいいのではないでしょうか。
弊所も初回相談無料としていますのでご相談ください。
まとめ
立ち退き交渉の進め方を纏めます。
賃貸物件の「立ち退き交渉」は、主に大家さんの都合で契約を終了したいケースと、入居者の迷惑行為・契約違反で退去を求めたいケースの2パターンで必要になります。それぞれ交渉のポイントが異なります。
大家さん都合での退去では、「正当事由」(立ち退きがやむを得ない理由)が重要です。借地借家法により入居者は保護されており、大家さん側の都合だけでは認められにくいため、立ち退き料を支払うことで正当事由を補完し、交渉を進めるのが原則です。
入居者の迷惑行為・違反行為による退去の場合は、その**違反の「程度」**がカギとなります。単なる違反だけでなく、信頼関係が破壊されたと認められる重大な違反(家賃3ヶ月以上の滞納、悪質な騒音、無断増改築など)でなければ、契約解除は難しいです。
交渉を始める前には、立ち退きの目的(建て替え、自己使用など)の明確化、物件と入居者の情報分析、立ち退き料の提示額決定、代替物件の情報収集といった準備が不可欠です。
交渉では、丁寧かつ誠意ある「お願い」から始め、入居者の状況をヒアリングし、引っ越し費用や家賃減額、代替物件提示など具体的な条件を提示します。合意に至れば必ず「立ち退き合意書」を書面で締結しましょう。
交渉が難航し立ち退きを拒否された場合は、訴訟(明け渡し訴訟)も選択肢ですが、費用と時間がかかるため、弁護士を交えて最大限の譲歩を示し、交渉での解決を目指すのが望ましいです。
立ち退き交渉は複雑でストレスも大きいため、弁護士に依頼することで、交渉から法的手続きまでスムーズに進められ、早期解決に繋がる大きなメリットがあります。