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立ち退きの正当事由とは?貸主からの解約の判例と借地借家法から見る

大家から立ち退いて欲しいという連絡が来た。
そう言われても、皆さん立ち退きたくないですよね。
結論、貸主からの解約の場合、立ち退かないといけないかどうかは、「正当事由」によって決まります。
正当事由とは、賃貸人(大家)が賃借人(あなた)に対して立ち退きを求める合理的な理由のことです。
この正当事由が「強いか弱いか」によって、立ち退かなければならないかどうかが変わってくるのです。
正当事由が弱い場合は立ち退かなくてよい可能性があるので、立ち退きたくない方はぜひチェックをしてください。
ただし、正当事由が強い場合は、立ち退かないといけません。
立ち退かないといけないのであれば、立ち退き料を最大化するのが得策です。
そこで、本記事では、立ち退きを拒否できるのかできないのかという判断基準を解説し、仮に立ち退かないといえけないのであれば、立ち退き料をどうすれば最大化できるのかを解説します。
【この記事でわかること】
- 立ち退かないといけないかどうかは正当事由があるかないかであること
- 正当事由とは立ち退きを求める合理的な理由があるかどうかということ
- 正当事由の判断要素と具体例は何かということ
- 立ち退きを拒否できる場合
- 正当事由が小さいと立ち退き料が増えること
- 立ち退き料を増額する5つのポイント
- 正当事由の強弱を見極める
- 立ち退きの期日を確認する
- 交渉内容を残すこと
- 立ち退き交渉でやってはいけないこと
- 弁護士に依頼する3つのメリットとデメリット
- 正当事由が弱いと的確に反論できる
- 立ち退き料が増額できる
- ストレスフルな交渉を丸投げできる
- デメリットは弁護士費用
なお、立ち退き料の相場については、「立ち退き料の相場は?7つのケース毎にいくらもらえるか・内訳を解説」をご覧ください。
目次
1.立ち退きにおける正当事由とは何か?
大家から立ち退いて欲しいとの連絡がきたが、立ち退きたくない。
そんな場合、立ち退かなくてよいかどうかの判断基準となるのは「正当事由」です。
正当事由とは、賃貸人(大家)が賃借人(あなた)に対して立ち退きを求める合理的な理由のことです。
例えば、「貸主(大家)があなたの物件に住まなければいけなくなった」とか「建物が老朽化して建て替えが必要になった」など。
また、この正当事由には、「強弱」があります。
立ち退きを求められるのが「仕方ない・やむを得ない」と言える度合いが高ければ「正当事由が強い」、「立ち退かなくても良いじゃないか」と言える事情なら「正当事由が弱い」ということです。
まずは立ち退きとは何か、正当事由の強弱とはどういうことか、順をおって説明します。
1)立ち退きとは何か
立ち退きとは一般的には、賃貸借契約を更新せず終了する場面をいいます。
大家からの連絡は、「立ち退いて欲しい」ではなく、「賃貸借契約を更新しない」と言われるでしょう。
ですが、大家の申し出に必ず従わなければならないわけではありません。
大家から賃貸借契約を更新しないといわれても、更新できる場合があります。
では、更新できる、立ち退く必要がないのはどのような場合でしょうか。
それはズバリ「正当事由」が弱い場合です。
2)正当事由とは何か
では、正当事由とは何かを説明します。
正当事由とは、賃貸借契約を終了することが妥当といえる理由です。
例えば、「貸主(大家)があなたの物件に住まなければいけなくなった」とか「建物が老朽化して建て替えが必要になった」などです。
ですが、大家さんが賃貸借契約を更新するかしないかを決められるとすると借主が不安定な地位になります。
そこで、借地借家法28条は借主を保護しており、貸主がその不動産を使用する理由など、借主がその不動産を使用する理由など、財産上の給付を総合して、正当事由があると認められる場合に賃貸借契約を終了することができるとしています。
第二十八条建物の賃貸人による第二十六条第一項の通知又は建物の賃貸借の解約の申入れは、建物の賃貸人及び賃借人(転借人を含む。以下この条において同じ。)が建物の使用を必要とする事情のほか、建物の賃貸借に関する従前の経過、建物の利用状況及び建物の現況並びに建物の賃貸人が建物の明渡しの条件として又は建物の明渡しと引換えに建物の賃借人に対して財産上の給付をする旨の申出をした場合におけるその申出を考慮して、正当の事由があると認められる場合でなければ、することができない。
プラス事情として、貸主がその不動産を使用する理由などと財産上の給付があり、
マイナス事情として、借主がその不動産を使用する理由など、
これらを総合してプラスが大きければ正当事由があると認められます。
イメージ図は以下のとおりです。
2.正当事由の具体例とその強弱
正当事由があると認められるための具体的な貸主側と借主側の事情はどのようなものがあるのでしょうか。
判断要素 | 具体例な内容 |
---|---|
建物の使用を必要とする事情 | 貸主、借主が、その建物を使う必要性の程度 |
建物の賃貸借に関する従前の経過 | 賃貸借契約の期間、賃料、その他費用、更新回数など |
建物の利用状況 | 居住用、事業用、大家業などどのように利用されているか |
建物の現況 | 築年数、老朽の程度、構造などの建物の状況 |
立ち退き料 | 貸主が立ち退きの際に申し出る立ち退き料の額、代替不動産の提供 |
以下、貸主側と借主側に分けて説明します。
1)貸主側の正当事由
貸主側の正当事由の考慮事実は次の通りです。
- 貸主がその不動産に住む必要性がある
- 貸主が海外赴任をしていたが、赴任が終わり帰国することになり、貸している家以外に不動産を持っていない。
- 貸主の家族が、その不動産に住む必要がある
- 他に所有する不動産がなく、息子夫婦が住居として使用する
- 建物の老朽化の程度
- 耐震性に問題があり、地震で倒壊する危険がある(築40年程度が目安)
- 建て替えをして利回りの高い不動産にしたい
- 立ち退き料の提供の申し出
大きくプラスに評価される事実は、貸主がその不動産に住む必要がある場合、建物が倒壊の危険があるほど老朽化している場合などです。
一方で、あまりプラスに評価されない事実は、貸主がこれ以外に住むための不動産を持っている場合、老朽化しているが倒壊までの危険はない場合などです。
さらにマイナス評価される事情は、貸主がこの不動産を最近購入してオーナーとなった、オーナーチェンジである場合です。
借主がいることを分かって購入しておいて、自己都合で出て行けというのは虫が良すぎるということです。
2)借主側の正当事由
借主側の正当事由の考慮事実は次の通りです。
- 借主がその不動産に住む必要性がある
- 病気の家族がおり、専門病院が近くにある
- 借主がその不動産を使用する必要がある
- 借主がその不動産で事業をしており、その収入で生計を立てている
- 賃貸借契約を締結してからの期間の長さ
- 賃貸借契約を締結して40年が経過し、建物への投資回収が十分にできた
- 建物をどのように利用しているか
- 住んでいるのか、転貸しているのか、倉庫等で利用しているのか
- 賃貸借契約の義務に違反している
- 家賃の支払いが頻繫に遅れている、無断で軽微な増改築をした
大きくプラスに評価される事実は、借主がその不動産に住む必要がある場合、生計を立てる事業に利用している場合などです。
一方で、あまりプラスに評価されない事実は、借主がこれ以外に住むための不動産がある場合、転貸・事業をしているがこの収入にあまりたよる必要がない場合などです。
さらにマイナス評価される事情は、家賃の支払いが遅れる、無断で軽微な増改築をしたなど軽微な契約違反がある場合です。
重大な契約違反があると、正当事由があるといえるかどうかという議論をするまでもなく、賃貸借契約を解除されてしまいます。
3.「正当事由」が弱く、立ち退きを拒否できるかもしれない4つのケース(判例あり)
前章で述べたような正当事由があると認められないと立ち退きは認められません。
これまでの裁判例でも立ち退きが認められなかった事例があります。
1)【ケース①】貸主が他に不動産を持っているなどそこに住む必要がない場合
貸主が他に不動産を持っている、貸主が会社である場合などでは、貸主がその不動産に住む必要がないため、正当事由が弱いと判断されるケースが多いです。
この場合は、貸主やその家族はその他の不動産に住むことが出来るため、あなたが立ち退く必要があるとは言えないからです。
あえて借主を追い出す必要までありません。
大家が他に不動産を持っているにもかかわらずそこに住む必要があるという場合は、「他の不動産を居住用にすればいいのではないか」と伝えてみることをおすすめします。
実際に、以下のような判例があります。
【東京地方裁判所 令和5年6月19日】
- 概要:貸主は土地を売却しマンションを建ててその一室に居住するとして所有マンションの一室にすむ借主に立ち退きを求めた事案
- 判決:正当事由が認められなかった
- 判決の理由:貸主は他に住むところもあり本件マンションを生活の本拠としていない、本件マンションの他の部屋に住むことが出来ると判断されたため
2)【ケース②】貸主が「建て替えて利回りを上げたい」場合
貸主が直接使用するわけではなく、建て替えて利回りを上げたいなど資産運用として使う場合は、正当事由が弱いと判断されるケースが多いです。
この場合は、貸主の利己的な都合で借主を追い出すものです。
貸主は、借主の状況を踏まえて、借主と協議して対応するべきであるということです。
実際に、以下のような判例があります。
【東京地方裁判所 令和5年9月26日】
- 概要:貸主は宅建業社であり資産活用の点から立退料200万円と引き換えに立ち退きを要求された事案
- 判決:正当事由が認められなかった
- 判決の理由:借主が住んでいるため相対的に使用の必要性が高く、立退料も不十分であると判断されたため
3)【ケース③】老朽化を理由とするが倒壊までの危険がない場合
築30年が経ち老朽化が進んでいるから立て替えたいとしても、違法建築ではなく倒壊する危険があるわけではないのであれば、正当事由が弱いと判断されるケースが多いです。
建物は、一定の期間が経てば老朽化します。
ですが、老朽化しても使用にさしたる問題はありません。
倒壊の危険があるなど、生命身体に危険が及ぶ場合でない限り、老朽化は大きな理由にならないということです。
実際に、以下のような判例があります。
【東京地方裁判所 令和元年12月12日】
- 概要:築57年を経過した木造平屋建て建物であり老朽化が著しいとして立ち退きを要求した事案
- 判決:正当事由が認められなかった
- 判決の理由:基礎が鉄筋コンクリートであり、十分な壁量があること、東日本大震災でも損傷がなかったことから、早急な耐震補強や建て替えは不要であると判断された
4)【ケース④】オーナーチェンジの場合
貸主が借主がいることをわかって建物を購入して立ち退きを要求してきた場合は、貸主が建物を使用する必要性以前の問題として、正当事由が弱いと判断されるケースが多いです。
建物を使用する理由があるなら、そもそも借主がいない物件を購入すればいいのであって、借主がいることをわかって購入しておいて、出て行けというのは虫が良すぎるということです。
実際に、以下のような判例があります。
【東京地方裁判所 令和元年7月5日】
- 概要:外国人が日本に滞在するために購入して借主に立ち退きを要求し、立ち退き料も提示しなかった事案
- 判決:正当事由が認められなかった。
- 判決の理由:オーナーチェンジでの立ち退きは理由が弱く、立ち退き料の補完もなかったため
5)【注意】立ち退き料の額による
上記の事情であれば、必ず立ち退きを拒否できるということではありません。
立ち退き料を支払うことで正当事由があると認められる方向に傾くところ、立ち退き料の額を上げることで足りない部分をカバーすることができます。
高額な立ち退き料を支払うことで正当事由が認められる可能性があります。
5.貸主からの解約の場合|正当事由と立ち退き料の関係
先ほども少し触れましたが、正当事由の判断要素の1つに、「立ち退き料」というものがあります。
立ち退き料というお金をもらうことで、借主(あなた)の経済的損失はカバーできます。
実際昨今では、しっかりと立ち退き料を払うことで、立ち退きは認められるような流れになっています。
大家が立ち退き料をしっかり払うというスタンスであれば立ち退かないといけないでしょう。
そうだとすると、立ち退き料を最大化して立ち退くのが賢い方法ということになります。
そこでここからは、正当事由と立ち退き料の関係について説明します。
1)立ち退き料とは
立ち退き料とは、借地借家法28条の正当事由の判断するための一要素である「財産上の給付」をいいます。
大家である貸主が、よほどの理由がない限り賃貸借契約を解約できないとすると不動産を貸す人はいなくなります。
そこで、立ち退き料を支払うことで借主の損失を補償するのであれば、立ち退きを認めようとなります。
立ち退き料は、一般的にはもらえるものと理解してください。
2)正当事由と立ち退き料の関係
立ち退き料は、正当事由があると認められるに足りない部分を補完するという役割があります。
貸主の正当事由が弱ければ弱いほど、立ち退き料の額が大きくなります。
一方で、貸主の正当事由が強ければ強いほど、立ち退き料が大きくなります。
6.立ち退き料を増額する5つのポイント
貸主側の正当事由が強い場合や立ち退き料をしっかりはらうという場合は、立ち退き自体を拒否するのは難しいです。
立ち退き自体は拒否できないのであれば、せめて立ち退き料を多くとることを意識してください。
立ち退き料が多く取れれば、引っ越しや新居での生活が楽になるため、ぜひチェックしてみてください。
1)正当事由の強弱を見極める
相手の事情、あなたの事情をしっかり分析しましょう。
どれくらい不動産を使用する理由があるのか、どれくらい老朽化がすすんでいるのかなどです。
相手の事情が弱ければ弱いほど、立ち退き料を引き上げられる可能性があります。
2)いつまでに立ち退いてほしいのかを確認する
大家がいつまでに立ち退いて欲しいのかを確認しましょう。
相手の希望に沿って立ち退きをする代わりに、立ち退き料を引き上げてもらいます。
相手にとってその期日が重要であればあるほど、立ち退き料を引き上げてくれる可能性があります。
3)交渉内容はすべて残す
交渉内容は、メモでもいいので残しておきましょう。
メモは、交渉直後に取らないと忘れてしまいます。
言った言わないの不毛な議論をしたくありません。
また、交渉経緯を残すことで、裁判等になった時の証拠になります。
4)立ち退き交渉でやってはいけない2つのこと
一方でやってはいけないことが2つあります。
①契約違反をすること
相手の対応が悪い、立ち退き料を払わないからと、家賃の支払いを止めるようなことをしてはいけません。
また、勝手に、増改築をしたり、他人に貸すなどもしてはいけません。
債務不履行によって信頼関係を破壊したとして、賃貸借契約を解除されてしまいます。
この場合は、立ち退き料はもらえません。
②理性を失って感情的な対応をすること
理性を失って怒鳴るなどをしてはいけません。
もはや社会不適合な人と思われて交渉を打ち切られてしまいます。
怒鳴ったことが、正当事由の判断において、賃貸借契約の経緯などの点でマイナスな評価をされる可能性もあります。
7.立ち退き交渉を弁護士に頼む3つのメリットとデメリット
自分で対応するのが不安という方もおられるでしょう。
そんな時は、立ち退きに強い弁護士に依頼するのも良いでしょう。
立ち退きに強い弁護士に依頼するメリットとデメリットを説明します。
なお、弁護士事務所の他にも無料で立ち退き問題を相談できる場所を、以下の記事で詳しく解説しています。
関連:立ち退き相談の無料窓口4選!弁護士が1番おすすめな理由も徹底解説
1)正当事由が弱いと的確に反論できる
相手の正当事由が弱いかどうかの判断は専門的な知識・経験が必要です。
弁護士に任せることで、相手の正当事由が弱いこと、あなたの正当事由が強いことをしっかり立証します。
2)立ち退き料が増額できる
立ち退き料を増額できるというのも魅力です。
立ち退かないといけないのであれば、1円でも多くの立ち退き料をもらいたいですよね。
そんなあなたのために立ち退き料を最大化するサポートとなります。
3)ストレスフルな交渉をすべてを丸投げできる
自分のことを交渉するのはとても大変です。
夜もまともに寝れなくなる方も多いです。
そんなストレスフルな交渉を弁護士に任せられます。
また、合意書の締結から立ち退きをして立ち退き料を受け取るまでの一連をすべて任せることが出来ます。
4)デメリットは弁護士費用
デメリットは費用がかかることです。
ですが、弁護士費用よりも立ち退き料の増額が期待できます。
大家から立ち退き料の提示を受けているのであれば、増額分に弁護士費用がかかるところも多いです。
結果、手取りは増えることになります。
まとめ
立ち退きにおける正当事由について説明しました。
具体的な正当事由は次の通りです。
判断要素 | 具体例など内容 |
---|---|
建物の使用を必要とする事情貸主、借主が、その建物を使う必要性の程度 | |
建物の賃貸借に関する従前の経過 | 賃貸借契約の期間、賃料、その他費用、更新回数など |
建物の利用状況 | 居住用、事業用、大家業などどのように利用されているか |
建物の現況 | 築年数、老朽の程度、構造などの建物の状況 |
立ち退き料 | 貸主が立ち退きの際に申し出る立ち退き料の額、代替不動産の提供 |
相手とあなたの事情を分析して立ち退かないといけないのかを確認します。
相手の正当事由が弱い場合、立ち退き料を払う気がない場合は立ち退かなくて良い可能性があります。
万が一、立ち退かないといけないのであれば、立ち退き料を少しでも多くもらう方法を考えましょう。
相手の正当事由が弱いことをしっかり主張、あなたの正当事由が強いことを主張しましょう。
また、立ち退いてほしい期日を確認しましょう。
立ち退きに強い弁護士に依頼するというのも一つの手です。
納得のいく結果にしてください。