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オーナー必見!築40年アパート立ち退き交渉のコツと立ち退き料相場

築40年程度のアパートを持っているが、そろそろ建て替えが必要ではないかと検討されてると思います。
結論、建て替えをお勧めします。
また、入居者に立ち退いてもらうのに立ち退き料は原則として必要です。
本記事では、築40年程度のアパートの問題点、建て替えるとすると立ち退き料は必要か、立ち退きの交渉方法、立ち退き料の相場と算定方法、入居者が立ち退きを拒否する場合の対応方法、弁護士に依頼するメリットなどを網羅的に解説します。
【この記事でわかること】
- 築40年アパートは建て替えが必要であること
- 築40年アパートの立ち退きであっても立ち退き料が必要であること
- 立ち退き交渉のポイントは、正当事由と立ち退き料であること
- 立ち退き料の相場は、家賃の6ケ月分であること
- 立ち退き料の計算式は、引越し費用+新物件の初期費用等+家賃増加分等の補償であること
- 立ち退き料を出来るだけ抑えるためのポイント
- 場合によっては立ち退き料が不要になること
- 賃借人が立ち退きを拒否する場合の対策
- 立ち退きの成功事例と失敗事例
- 立ち退き交渉を弁護士に依頼するメリット
- 立ち退きにかかる費用を抑える方法と補助金の活用
目次
1.【前提】築40年アパートの建て替えはほぼ必須
アパートを建て替えるのは、築40年を過ぎたくらいには必要となっています。
なぜなら築40年程度となったアパートは以下の問題が生じるからです。
- 空室率の上昇
- 賃料の低下
- 社会的老朽化(設備などが古い)
- 修繕費の上昇
- 耐震性の問題(旧耐震基準)
特に2020年代にあたる現在、(5.)で挙げた「旧耐震基準」のアパートが「築40年」を迎えるタイミングと一致しているのが大きなポイントです。
旧耐震基準とは1981年5月31日までに建築確認を受けた建物の耐震基準であり、震度5強レベルの地震までにしか耐性がありません。(新耐震基準は震度6強~7レベルでも大丈夫)
加えて、老朽化によっても強度が落ちているため、建物の「安全性」に問題があるのです。
そのため、今後も賃貸経営を続けるのか、投資アパートとして売却するのかなど、どのようにするにしろこれらの問題と向き合わないといけません。
金利、建築資材・人件費が上昇しており、建て替えの費用は低下する見込みがありませんから、建て替えるなら少しでも早い方がいいともいえるでしょう。
建て替える場合は、今住んでいる人に立ち退いてもらわないといけません。
2.築40年のアパート建て替えでも立ち退き交渉は必要
築40年のアパートは建て替えは必要であるとはいっても、入居者を問答無用で立ち退かせることはできません。
「老朽化=立ち退きOK」ではないため、入居者1人1人に対して、立ち退いてもらうように交渉する必要があるのです。
交渉のしかたによって、入居者がすんなりと立ち退きに応じてくれるか、結果が変わってきますので、交渉のしかたは非常に重要です。入居者にどのように伝えるのかは、次の章で解説する「正当事由」と「立ち退き料」がカギになります。
3.立ち退きの交渉ポイントは「正当事由」と「立ち退き料」
入居者に「立ち退いてもらう」とは、賃貸借契約を終了して引っ越してもらうことをいいます。
賃貸借契約を終了させるには、賃貸借契約期間の終了1年前から半年前までに、入居者に対して賃貸借契約を更新しないことを伝えないといけません。
また、更新しないことについて「正当の事由」があると認められなければなりません(借地借家法28条)。
では、正当事由とはどのようなものか解説します。
1)正当事由とはなにか
正当事由とは、あなた及び入居者が建物の使用を必要とする事情、従前の経過、利用状況、現況と財産上の給付を考慮して、立ち退いてもらうことが致し方ないと言えるかどうかというものです。
分かりやすくいえば「入居者に立ち退いてもらうことを正当化できる事情」ということです。
築40年アパートの場合、「建て替えが必要である」ということが大きな正当事由となります。
1章で述べたとおり、築40年アパートは新耐震基準を満たしていないため、安全性に問題があるからです。「現在の耐震基準を満たしていないため、安全性に問題がある→だからアパートを立て替えなければならない→だから立ち退いてもらう必要がある」という理屈です。
ただし、入居者にも引っ越しをしたくない事情があります。
入居者にとっても、「今のアパートに住み続けたい」という正当事由があるわけです。
これら互いの事情を考慮して正当事由を満たすのかが決まります。
例えば築40年で老朽化が激しく、建て替えないと安全性に問題があるということは強い正当事由となり、築浅物件に比べて正当事由が強くなります。
2)立ち退き料とは
立ち退き料とは、入居者に立ち退いてもらうための費用であり、正当事由を補完する役目を持ちます。
築40年アパートは建て替えがほぼ必須(なので正当事由は強い)とはいえ、入居者からすれば「じゃあ引っ越し費用はどうするんだ」という問題は解決できませんよね。
その経済的な損失や精神的な負担をカバーするような意味合いで、立ち退き料を支払うのです。
また、あなたと入居者の事情を考慮した結果、入居者の事情の方が勝っているという場合に、立ち退き料を支払うことで正当事由が認められます。
極端な例をいうと、高額の立ち退き料を支払えば、立ち退いてもらうことができるといえるでしょう。
4.築40年以上のアパートの立ち退き料の相場と計算方法
では、どれくらいの立ち退き料が必要でしょうか。
1)立ち退き料の相場
築40年のアパートにおける立ち退き料の相場は、家賃6ケ月分、30万円~80万円です。
ですが、あくまで目安であって、個別案件によって全く異なり、0円ということもあります。
立ち退き料はどんな費用が含まれるのかを説明します。
2)立ち退き料の計算方法は?
立ち退き料の計算方法は次の通りです。
【賃貸住宅:立ち退き料の計算方法】
立ち退き料=引越し費用+新物件の初期費用等+家賃増加分等の補償
①引越し費用
引っ越しにかかる費用であり、単身で8万円、家族で30万円くらいです。
時期によっておおきくことなり、3月中ごろから4月中ごろまでがもっとも高額になります。
つまり、「引っ越しシーズンに立ち退きを求めると立ち退き料が高くなりやすい」ことになりますので、注意が必要です。
なお、移転にかかる慰謝料的な金額を含む場合があります。
②新物件の初期費用等
新たに賃貸契約をする場合、不動産仲介業者に支払う仲介手数料、敷金、礼金が必要です。
仲介手数料、礼金は、賃料の1ケ月分が相場となります。
同程度のアパートを借りるとして、その月額賃料の2ケ月分です。
③家賃増加分の補償
新賃料-現賃料×24が相場となります。
新しいアパートの賃料の差額の2年分の補填になります。
同程度のアパートを借りる場合、一般的に現在の賃料より上がることになります。
立ち退いてもらうことで賃料が上がってしまうことを補填します。
5.立ち退き料をできるだけ抑える手順と交渉のポイント
立ち退き料は、入居者にとっては多くとりたい、オーナー様にとっては少なく抑えたいものでしょう。
どの金額に落ち着けるかは交渉次第です。
そこでここからは、出来る限り立ち退き料を抑える方法をお伝えします。
1)立ち退き料を払わなくてよい場合がある
立ち退き料は正当事由を満たすための補完です。
ですから正当事由の問題とならない場合は、立ち退き料を払う必要がありません。
その場合とは、契約の義務に反したため賃貸借契約を解除できる場合です。
例えば、以下のようなケースです。
- 賃料を3ヶ月以上滞納している
- 無断で増改築をしている
- 目的外の利用をしている
- 他の入居者に著しい迷惑をかけている
ですが、どのような義務違反であっても、直ちに契約を解除できるわけではないことに注意が必要です。
賃貸借契約は入居者が生活の本拠とするものであり、軽微な契約違反で解除となるのはいき過ぎであるとされています。
信頼関係を破壊するに足る程度の契約違反があった場合に解除できます。
2)立ち退き料を出来るだけ抑えるポイント
立ち退き料を抑えるためには、正当事由があることをしっかり説明することと、相手の生活の本拠を変更してもらう負担をフォローする点が大切です。
また、オーナーが直接交渉するよりも、弁護士に頼んでしまうのがおすすめです。
この理由は8章で説明します。
①立ち退いてもらう理由を正確かつ丁寧に伝える
立ち退いてほしい理由を正確に丁寧に伝えてください。
入居者から質問等があれば迅速に丁寧に対応しましょう。
最初に悪い印象を持たれてしまうと、相手に不信感を与えてしまい時間と費用が増してしまいます。
特に書面で送る場合は注意をしてください。
書面では感情は伝わりにくい上に、書面を読む側のその時の気分によって左右されてしまいます。
こちらでは判断することが出来ない、書面を読む側の状況によって結果がことなるということです。
②代替となるアパートを提案する
新居探しは結構大変な作業です。
いくらインターネットで簡単に検索できるとはいえ、負担は大きいです。
現在のアパートの条件を基礎にして、複数の代替アパートを提案できると良いでしょう。
③十分な期間を提供する
新居探し、部屋の割り当て、引っ越し、学校や職場での手続きなど、引越しの負担は結構大きいです。
あいての負担を考えて、期間を長めに設定しましょう。
④一定期間家賃を免除する
解約通知後、解約までの間の一定期間、家賃を免除してあげるというのもありです。
具体的な利益を相手に早めに提示することで、それでもいいかなと思ってもらえる可能性が上がります。
⑤引越し費用を負担する
引越し費用の負担を提案します。
具体的な利益を相手に早めに提示することで、それでもいいかなと思ってもらえる可能性が上がります。
6.賃借人が立ち退きを拒否する場合|その理由と対応策
真摯に立ち退きをお願いしても入居者が立ち退きをしてくれないときの対策をお伝えします。
1)賃借人が立ち退きを拒否する理由
賃借人が立ち退きを拒否する理由は次のようなものがあります。
- 生活の本拠であり、生活環境を変えたくない
- 病気等で引っ越しじたいが困難
- 引越し費用、次の新居の初期費用が払えない
- 同等のアパートを借りると賃料がかなり上がってしまい生活が厳しくなる
- 高齢のため引っ越しに大変な負担がかかる
これらの理由が良く上げられ、経済的理由が多いように思います。
特に、(5.)つめに挙げたように、高齢者が入居しているケースは、立退を渋る傾向が強いです。
高齢者の場合、引っ越しに負担がかかる・かかりつけ医師から遠いとこに行きたくない、などの事情があります。
こういった入居者側の事情ももっともなことですから、きちんと理解して交渉を進める必要があります。
2)賃借人が立ち退きを拒否した場合の対応策
賃借人が立ち退いてくれない場合の対策をお伝えします。
①十分な立ち退き料を提示する
立退を渋る入居者に対しては、立ち退き料を多めに提示するのが定石です。
先にも述べましたが、高齢者のように「引っ越しが難しい」という正当事由がある入居者に対しては、その分を考慮して立ち退き料を上乗せすると良いでしょう。
立ち退き交渉が上手くいかず、訴訟・調停等法的な手続きをすると、かなりの時間がかかります。
結果的に、建て替えスケジュールが大幅に遅れ、得られるはずであった賃料が得られなくなり、十分な立ち退き料を払った方がずっと良かったということになりかねません。
②裁判手続きを利用する
調停、訴訟を申し立てます。
正当事由があり、立ち退き料を支払うことで、立ち退いてもらうことができる可能性が高いです。
ですが、裁判手続きは、一回の話し合いが月1回しかなく、話がなかなかすすまず、かなりの時間がかかります。
7.立ち退きの成功事例と失敗事例から学ぶ
築40年のアパート建て替えにおいて、立ち退き交渉がスムーズに進んだ事例をご紹介してます。
1)立ち退きがスムーズに進んだ成功事例
スムーズに立ち退きが進んだ事例は次のようなものがあります。
- 入居当時から入居者との関係があり、良好な関係を保ってきた
- 丁寧な対応を続け、相手の要望に合わせて立ち退き料を引き上げた
- 丁寧な対応を続け、相手の要望に合わせた代替物件を提案した
- 初めから多額の立ち退き料を提案した
- 関係性がない場合は直接交渉を避けた
ポイントは、丁寧な対応、相手の状況を理解してあげることです。
2)立ち退きトラブルに発展した失敗事例
逆にスムーズにいかなかった事例は次のようなものがあります。
- 立ち退いて当然という対応をとった
- 自分の事情だけをのべ、相手に配慮しなかった
- オーナーが直接交渉した
- 立ち退き料を払わない姿勢を貫いた
相手に不信感を与え、関係を悪化させてしまうと、解決が相当に遅れてしまいます。
相手の対応に合わせて柔軟に対応します。
そのためには、建て替え計画から建て替えるまでの計画をしっかり練っておくことが大切です。
8.立ち退き交渉を弁護士に依頼するメリット
立ち退き交渉はなかなか骨の折れるものです。
専門である弁護士に依頼することを検討ください。
1)丁寧、冷静、専門的な交渉でスムーズに進む
弁護士は訴訟が仕事だと勘違いされている方が多いです。
弁護士の最も重要かつ専門性は、交渉を代理することです。
専門の弁護士であれば、相手の言い分にも耳を傾けながら、オーナーさんの意向をかなえるため、丁寧、冷静かつ専門的な対応ができます。
2)立ち退き料が抑えられる
立ち退き料が抑えられる可能性が上がります。
賃借人が高額な立ち退き料を提示することが多く、それに対して専門的な反論をすることができます。
相手の提示する立ち退き料が適切でないことを理論的に反論し、相手に理解させることができます。
3)直接交渉を避けることができる
賃借人との人間関係があり、良好に保たれている場合を除いて、直接交渉は避けるほうが望ましいです。
当事者同士が話し合ってしまうと、相手の言い分が不当だと感じると冷静な対応が出来なくなります。
3分話しただけで口論になってしまったということが多く見られます。
弁護士であれば当事者でないため冷静な対応ができる上に、相手の言い分に法的、実務的な反論ができます。
9.【オーナー向け】立ち退きにかかる費用を抑える方法と補助金活用
最後に、「入居者との立ち退き交渉」という話から少し広げ、「立ち退きにかかる費用」自体を抑える方法について解説していきます。
アパート建て替えをするオーナー様としては、立ち退き費用を抑えたほうが良いのは間違いないでしょう。
立ち退きにかかる費用を抑えスムーズに進めるためには、建て替えまでの計画を練ることが大切です。
1)建て替えにかかるコスト、内訳と契約期間を把握する
建て替えるのに、どれくらいのコストがかかるのかを詳細に把握しましょう。
特に建築関係費の上昇はものすごいスピードで上昇しており、コロナ禍前の数倍になっている項目もあります。
- 解体費
- 設計費用
- 建築費用
- 各入居者の契約終了タイミング
建築費用は遅れると増加してしまうリスクがありますので、見積もりを取得しいつまでに発注すればその金額でやってもらえるのかを確認する必要があります。
発注が遅れた場合の建築費増加コストも想定しましょう。
次に、現在の入居者の契約期間を確認してください。
契約期間の終了する時点で立ち退いてもらうことが基本なので、各入居者の契約が終了するタイミングを把握しましょう。
2)想定収入を把握する
建て替え後の建物の想定賃料を確認してください。
建て替えがおくれることによって、いくら損失が起きるかが明確になります。
3)補助金が活用できないかを確認する
理想とする建物に補助金が使えないか検討ください。
国または地方自治体が別々に補助金を出しています。
毎年、補助金の内容・要件がことなりますので、国、建てる地域の地方自治体に直接ご確認ください。
4)出せる立ち退き料を計算する
収入と支出の目途がついたら、そこからいくら立ち退き料が出せるのか、どの程度時間があるのかの計算ができます。
多額の立ち退き料を出してでも速やかに立ち退いてもらう方がいい、時間をかけてもゆっくり立ち退いてもらう方がいいなどのプランを立てることができます。
まとめ
築40年程度となった投資アパートを建て替えるにはどうするのかをまとめます。
まず、築40年程度となったアパートは原則として建て替えが必要であるということ。
耐震性の問題が大きく、社会的老朽化に伴う賃料減、空室率増があるからです。
築40年程度となったアパートに耐震性の問題があっても、入居者を立ち退かせるためには、立ち退き料が必要です。
立ち退き交渉のポイントは、正当事由と立ち退き料です。
立ち退き料の相場は家賃6ケ月分、計算方法は引越し費用+新物件の初期費用等+家賃増加分等の補償です。
賃借人が拒否する場合は立ち退き料を増額する、裁判手続きを利用するなどの方法があります。
立ち退き交渉は専門的な交渉になりますから、弁護士に依頼することを検討ください。
投資アパートが魅力ある不動産に生まれ変わることを期待しています。