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 問題解決への手がかり 不動産コラム

雨漏り修補請求への対応

1 はじめに
本コラムでは、賃貸物件に雨漏りが発生した場合に、建物の貸主(以下、「賃貸人」と記載します。)は、建物の借主(以下、「賃借人」と記載します。)からどのような法的請求等を受ける可能性があるのか、及びこれに対してどのように対応すべきかをご説明したいと思います。
賃貸物件に雨漏りが発生した場合、賃貸人は賃借人から以下の請求等を受ける可能性があります。
修繕請求
必要費償還請求
賃料減額
賃貸借契約の解除、損害賠償請求
以下、①から④について、順次説明していきます。

2 修繕請求
賃貸物件に雨漏りが発生した場合、まず、賃借人から、雨漏りを修繕して欲しいと言われることが考えられます。
では、雨漏りの修繕義務は賃貸人と賃借人のいずれにあるのでしょうか。民法606条第1項は次のとおり定めています。
「賃貸人は、賃貸物の使用及び収益に必要な修繕をする義務を負う。ただし、賃借人の責めに帰すべき事由によってその修繕が必要となったときは、この限りでない。」
雨漏りの修繕は「賃貸物の使用及び収益に必要な修繕」と考えられます。そのため、雨漏りの修繕義務は賃貸人にあるのが原則です(第1項本文)。
しかし、「賃借人の責めに帰すべき事由」(簡単にいえば、「賃借人のせい」ということです。)により雨漏りが発生した場合には、例外的に賃貸人は修繕義務を負いません(第1項ただし書き)。たとえば、賃借人が天井や壁を故意に破損して当該破損箇所から雨漏りが発生した場合には、賃貸人は当該箇所の修繕請求に応じる必要はありません。
では、原則どおり賃貸人が修繕義務を負う場合(「賃借人の責めに帰すべき事由」がない場合)、賃貸人が賃借人からの修繕請求に応じなかったときは、どうなるのでしょうか。民法607条の2は次のとおり定めています。
「賃借物の修繕が必要である場合において、次に掲げるときは、賃借人は、その修繕をすることができる。
一 賃借人が賃貸人に修繕が必要である旨を通知し、又は賃貸人がその旨を知ったにもかかわらず、賃貸人が相当の期間内に必要な修繕をしないとき。
二 急迫の事情があるとき。」
「1」でご説明したとおり、雨漏りの修繕は原則として賃貸人が行わなければなりません。しかし、賃借人が雨漏りを修繕して欲しいと通知しているにもかかわらず、賃貸人がいっこうに修繕を行わない場合には、賃借人の日常生活に支障が生じてしまいます。そこで、賃貸人が修繕をしない場合には、賃借人は自ら修繕を行うことができます。
ただし、賃貸物件の多くは賃貸人の所有物であるため、安易に賃借人による修繕を認めると、賃貸人に不測の事態が生じます。そこで、民法607条の2は、「次に掲げるとき」すなわち第1号と第2号の2つの場面に限り、賃借人に修繕権限を認めています。

3 必要費償還請求
「2」でご説明したとおり、賃貸人が修繕請求に応じない場合には、賃借人は自ら修繕を行うことができます。では、賃借人が修繕を行った場合、賃借人は賃貸人に対してその修繕費用を請求することができるのでしょうか。民法608条第1項は次のとおり定めています。
「賃借人は、賃借物について賃貸人の負担に属する必要費を支出したときは、賃貸人に対し、直ちにその償還を請求することができる。」
賃借人が修繕を行った場合、賃借人は賃貸人が本来支出すべき費用をいわば肩代わりしている状態ですので、賃借人は賃貸人に対し、この肩代わりした費用を「必要費」として償還(簡単にいえば、「返済」ということです。)請求することができます。
条文上「直ちに」という文言になっておりますので、賃借人から必要費償還請求を受けた場合には、賃貸人はすぐに支払をしなければなりません。修繕費用が多額に上る可能性もあるので、できる限り賃借人による修繕は避けたいところです。

4 賃料減額
「2」の修繕請求や「3」の必要費償還請求と併行して、雨漏りにより賃貸物件の一部が使用することができなくなった場合、賃借人から賃料減額を主張される可能性があります。このような場合の賃料減額について、民法611条第1項は次のとおり定めています。
「賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において、それが賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるときは、賃料は、その使用及び収益をすることができなくなった部分の割合に応じて、減額される。」
「減額される」と定めているので、賃借人からの請求を待たずして、雨漏りしている部分については当然に減額されます。たとえば、20平米の居室を月10万円で貸していた場合、その5分の1にあたる4平米が雨漏りで使用できなくなったときは、2万円が当然に減額されます(もっとも事案により別の結果となる可能性がありますので、予めご留意ください。)。

5 賃貸借契約の解除、損害賠償請求
賃貸人が雨漏りの修繕請求に応じない場合には、賃借人から賃貸借契約を解除されたり、損害賠償を請求されたりする可能性があります。民法611条第2項は以下のとおり定めています。
「賃借物の一部が滅失その他の事由により使用及び収益をすることができなくなった場合において、残存する部分のみでは賃借人が賃借をした目的を達することができないときは、賃借人は、契約の解除をすることができる。」
「4」でご説明した民法611条第1項と異なり、「賃借人の責めに帰することができない事由によるものであるとき」という文言がありません。そのため、賃借人のせいで雨漏りが発生した場合でなくても、雨漏りにより賃貸物件の一部が使用できず、残りの部分のみでは借りた目的を達成できないときには、賃借人は賃貸借契約を解除することができます。
また、賃借人は、賃貸人の貸す債務の一部が履行されていない又は履行できないことを理由に、賃貸借契約を解除することもできます。さらに、この原因が賃貸人にある場合には、賃借人は賃貸人に対して損害賠償請求をすることもできます。主な損害としては、移転費用、引越費用等が考えられます。
6 最後に
このように、賃借人からの雨漏りの修繕請求を放置していると、賃借人から様々な請求を受ける可能性があります。
そのため、賃貸人としては、雨漏りの修繕請求を受けた場合、雨漏りが実際に発生しているかどうか、その雨漏りが賃借人のせいで発生したものではないか等を確認し、賃借人のせいで発生したものではないと考えられる場合には、迅速に自ら修繕を行う必要があり、かつそのことを賃借人に通知する必要があります。そのうえで、賃借人に損害が発生している場合には、損害確認をしたうえで、エビデンスが認められる範囲で損害額を支払うことを検討する必要があります。
もっとも、契約書等の書面において、雨漏りに関して上記と異なる定めがなされているケースもあり、その場合は契約書等の書面の内容を精査することが必要になります。このように雨漏りの修繕請求には専門的な対応が必要となりますので、雨漏りの修繕請求の対応にお困りの方は、不動産案件の経験が豊富な弁護士にご相談になることをおすすめいたします。
以上

監修者

弁護士法人キャストグローバル 企業法務医療業界担当

[相談受付]03-6273-7758

[メール]info@castglobal.biz

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