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契約書で定めが無い場合、設備が故障したときの修理費用は、誰の負担?
マンションやアパートなどを賃貸している場合に時折問題となるのが、賃貸物件の設備が故障した場合、その費用負担は誰がするべきなのかといったことです。最近は、入居者の確保のために、部屋の設備として様々なものがあらかじめ設置されていることは珍しくはありません。これらが故障や不具合が生じた場合には、どのようになるのでしょうか。
目次
貸主は借主が通常の使用に支障が出ないようにする義務がある
まず、法律上の原則的な義務として、貸主は借主がその賃借している部屋を使用・収益させる必要があります(民法601条)。したがって、賃貸物件の設備が故障などした場合、一般論としては、(特に当該故障などが使用・収益に影響を与える場合)貸主は修繕義務を負担すると考えてよいでしょう。
古い裁判例ではありますが、修繕義務の不履行によって全体の使用収益ができなくなっていた場合、賃料債権が生じないといったものがあります(大審院判例大正10年9月26日 民録27-1627)。
契約書の条項及び重要事項説明書の内容を確認する
原則的には貸主が設備に関する修繕義務を負担しますが、賃貸借契約締結時の合意内容によって、その貸主の修繕義務は修正されます。
そこで、修繕すべき設備等の範囲内をどこまでとするのかについて、賃貸借契約書などに明示される場合が一般的です。よくみる規定としては、給湯器やエアコンなどの設備が故障した場合には、その修繕義務は貸主が負担するが、室内の蛍光灯などが古くなって切れた場合、その交換義務は貸主が負担しないといった内容があります。
借主が破損させた場合はどうなるのか
故意に賃貸物件の設備などを破損させた場合にまで、貸主が修繕義務を負担するといったことはありません。借主の義務としては、引き渡しを受けたもの(部屋)を返還する義務を負います(現行民法616条、改正民法601条後段(令和2年4月1日施行))。
したがいまして、その契約内容として、借主は、原則的には、一般的利用における経年劣化は除き、契約時に引き渡しを受けた状態で返還をする義務を負担していると解釈されます。また、賃貸借契約の契約内容として、例えば居住用の部屋の賃借であるならば、居住用としての使用収益を行うべきであって、故意に破損させたり、汚損させたりする行為は、これには該当しません。
さらに、賃貸借契約は、当事者間の信頼関係によって成立しているともいえることから、このように、借主自らこうした信頼関係を毀損する行為は、ある種の債務不履行と考えることもできるでしょう。
このようなことから、結論としては、借主が故意に賃貸物件を破損・汚損させた場合は、貸主は修繕義務を負担せず、借主の負担となると考えられます。また、場合によっては、前述のとおり、債務不履行とも考えられることから、借主に損害賠償の請求もできる場合もあるでしょう。
商用で貸し出している物件の場合の故障などの場合
これまで説明してきた内容は、主として、一般的な部屋の賃貸借を前提として説明をしてきました。
ここでは、オフィス用賃貸、店舗賃賃貸についてご説明いたします。
オフィスなどで問題となるのは、個人の場合と同様に、賃貸物件の設備の不具合などですが、一般にその内容が高額となることが多いことから、あらかじめ契約書にて詳細な規定が記載されていることが一般的です。
例えば、店舗の場合、シャッターの不具合や自動ドアなどの設備が不調となった場合に、その修理費用は貸主が負担するのか、借主の負担なのかについては、大きな問題です。一般に、店舗用のシャッターの修理費用は100万円することもあり、契約時にいずれが支払うべきかについて、しっかりと規定されているべき事項でしょう。
オフィス利用の場合であっても、例えば、備え付けの空調の調子が悪いとか、提供しているインターネット通信環境の不具合があるといった場合も想定されます。
いずれにしても、専門家以外の場合では、難しい判断があることから、とくに商用の契約書を作成する場合には、弁護士に相談すると良いでしょう。
「以前借主が設置した設備」である場合
オフィス利用や、店舗利用であるのが、賃貸物件内の設備の一部が、以前の借主の造作物である場合、一般的にはその修繕費用は借主の負担となります。
「そのまま使ってもいいけど、私の責任ではないよ」ということです。オフィスであれば、備え付け以外のエアコンなどの空調、自動ドアなどがこの例でしょう。または、店舗などの場合には、前の借主が貸主に譲渡する契約を取り交わします。
ポイントは契約書に「設備」の記載があるかどうか
ここまで、居住用の賃貸の場合と、商用(オフィス、店舗利用など)の賃貸の場合について、説明をしてきましたが、設備が故障した場合に、貸主が責任を負うかどうかは、結局のところ、賃貸借契約書に「設備」としての記載があるかどうかにあります。
居住用を例にとりますと、ルームエアコンなどの場合、前項のように以前の住人が残置していったものがあり、これを次の借主に提供する場合があります。このような場合、居住用の設備として、賃貸借契約書にエアコンの記載を省くといった方法があります。また、同様にガスコンロについても、以前の住人が留置していったものを提供し、特段に賃貸借契約書には記載しないといったことも考えられます。
このように、賃貸借契約書に賃貸物件の「設備」としての記載がない場合、賃貸借契約時の合意内容として、それらのものに関しては、一般的には貸主が借主に使用・収益させる義務を負担しないと考えられます。
他方で、商用賃貸物件の場合、一般的には契約時に取り交わされる金額や、毎月の賃料が高額となることから、契約時に契約内容として詳細に記載すうことはもちろんのこと、十分な説明を行わないと後々、問題となる可能性があり注意が必要です。
いずれにしても、悩んだ場合には、弁護士に相談するとよいでしょう。
まとめ
賃貸物件の設備が故障したり、破損した場合にその修繕費用を誰が負担するのかについては、大変におおきな問題です。借主が故意に、あるいは、わざと、設備を毀損させた場合には、一般的な感覚としてもその修繕費用を貸主が負担しないのは明らかでしょう。
しかしながら、そのような場合ではなく、多くの場合では、通常の利用の中で不具合が生じています。このような場合に貸主、借主のどちらが費用を負担するのか、不明である場合には、弁護士にご相談ください。