- 最終更新:
賃貸物件におけるペット飼育問題
昨今のペットブーム、また単身世帯の増加などから、「ペットを飼育したい」といったニーズは高まってきているのではないでしょうか。こうした需要を受けて、アパート、マンションのオーナーが、入居者や入居希望者から、ペットの飼育の可否について聞かれることは多くなってきています。また、借手側からしても、その賃貸物件がペットの飼育が可能かどうかといったことは大きな関心事となってきています。この記事は、賃貸物件におけるペット飼育問題についてご説明していきます。
目次
賃貸物件におけるペット飼育問題とは?
賃貸アパート・マンションでのペット飼育問題の代表例としては、次のものがあります。
- ペット禁止なのにペットを飼育している
- ペット飼育のマナーが悪い
- ペットの鳴き声や悪臭の問題
- 賃貸アパート・マンションの規約に違反した飼育をしている
こうした問題に対して、賃貸アパートやマンションのオーナーとしては、契約の解除や損害賠償の請求が可能であるかなどの点が、気になるところだと思います。
一般論としては、賃貸借契約時の契約書の内容によるものの、契約解除の可否については、賃貸人と賃借人の信頼関係が破壊されているかによります。損害賠償の場合は、契約書の内容にもよりますが、通常の使用方法では考えられない汚損等がある場合には、請求ができる場合があると考えます。
賃貸物件においてペットの飼育は可能か
賃貸物件では、ペットの飼育は可能なのでしょうか。
原則として法律上の禁止がないことから、賃貸物件でペットの飼育が可能かどうかについては、アパートやマンションの契約時の契約条件によって決まります。主な例を条項の種別に分類して記載すると、次のように3つに分類できます。
<ペットの飼育に関する賃貸借契約書の記載の形式>
- 一般禁止型:ペットの飼育そのものを包括的に禁止する趣旨のもの
- 一部禁止型:「小型犬、猫の合計2匹までは飼育可能」、または「事前の賃貸人の許可により飼育可能」等、部分的にペットの飼育を禁止するもの
- 記載なし:そもそも契約書の条項にペットの飼育に関する条項がないもの
上記のうち、①についてはペットの飼育は、原則的に、禁止されているので飼育することはできません。②については、小型犬や猫等であれば、飼育頭数は限定されていますが飼育できます。また、賃貸人に許可を取ることにより、飼育が可能です。
他方で、ペットの飼育に関する条項がそもそもないといった場合は、ペットを飼育しても問題はないのでしょうか。この点については、賃貸人には賃貸物件をその賃貸目的の用法に従って使用収益しなければならないといった一般的な義務があります(「用法遵守義務」:民法616、564条参照)。
こうしたことから、仮に賃貸借契約の規定にペットに関する条項がなかったとしても、賃貸借契約時にお互いに合意した使用方法から大きく外れるなどする場合には、ペットの飼育は制限されるものと考えられます。
昨今、ペットについて規定がないものは、あまり見られませんが、予めペットを飼うことが決まっているのであれば、相談する方が望ましいでしょう。
ペット飼育が禁止の場合のペットの飼育で賃貸借契約の解除は可能か
ペット飼育が禁止されているのに、賃貸人に黙って飼育されているような場合がときどき見かけられます。このような場合に、アパートやマンションのオーナーとしては、「今すぐ賃貸契約を解除したい!」と考える方は少なくないのではないでしょうか。
アパートやマンションのオーナーが、ペットの飼育を禁止する理由は、動物の飼育があると、部屋を汚されてしまう可能性があり、賃貸物件の価値が下がってしまうのではないかとの懸念があるためです。この他の理由としては、ペットの鳴き声やペットの臭いなどを原因として、住人からの苦情があるのではないかといった恐れがあることが挙げられます。
この点については、一般に賃貸借契約は貸主と借主の信頼関係を基礎とするものであることから、ペット禁止であっても、ペットを飼育したという事実のみでは、信頼関係を破壊したとまでは言えないとして、解除できないものと考えられていますが、一定の程度を超えた場合は解除もありうるとなります。
例えば、ペットといっても、ハムスター等の小動物を適切に飼育し、特段に周囲との問題がないような場合には、信頼関係を破壊しているとはいえないため、契約の解除はできません。
ペット禁止の場合で契約が解除できる場合とは
前述のとおり「信頼関係を破壊していると考えられるような状態でなければ」、ペットを飼育していたとしても、契約の解除はできません。逆をいえば、信頼関係を破壊していると考えられる場合には、契約の解除は可能です。
「信頼関係を破壊している」とは、例えば、犬等を飼育しており、適切なしつけなどがされていないため、夜間の鳴き声が止まらない場合が挙げられます。このほかにも、糞尿の処理などが適切にされておらず、悪臭等を原因として周囲から苦情が多数ある場合などもこれにあたると考えられます。
なお、この場合には、一般的な契約関係における解除に必要な催告は不要であるとされています。
ペットの飼育を一旦許可した場合の周囲の苦情はどうすればよいのか
ペットの飼育を契約条項として禁止していない場合や、ペットの飼育について一旦許可してしまった場合に、ペットの飼育に関しての苦情が多数寄せられたときには、どのように対処可能なのでしょうか。
ペットの飼育が可能、または許可を与えたからといって、どういった飼育の状態でも許可をしているとは考えられません。借主は、賃貸物件の用法を守る義務があることから、しつけを適切に行わず、近隣の住民から苦情があるような場合には、飼育状態を改善するように借主に請求できます。
裁判例によると、一度はペットの飼育を許可したものの、飼育状況が劣悪であり、ペットの鳴き声や悪臭等の問題から、他の入居者から苦情があった事案においては、賃貸借契約の解除を認めているものがあります(東京地裁判平成30年5月31日)。
なお、この事案の場合には、苦情があったのみならず、隣の部屋の住人がペットの問題等により、退去してしまうなど貸主が不利益を被るものでした。
ペットの糞尿や排泄物の問題
賃貸物件の住民がペットを飼育しており、そのペットの排泄物の処理が適切に行われていない場合には、どうすればよいのでしょうか。
極端な例として、ペットの排泄物が共用の通路に放置されていたり、悪臭がひどい場合や、糞尿の垂れ流しによりマンションの建物自体に大きな修繕が必要となった場合には、賃貸借契約を解除して、退去を迫ることが可能な場合があります。
ペット飼育で部屋が汚損した場合の損害賠償は可能か
ペットを飼育していた結果として、例えば、壁紙が痛んでしまったり、フローリングに傷がついたような場合に、その修繕のための費用の負担を借主に求めることはできるのでしょうか。
その内容にもよりますが、一般にペット可の物件の場合、部屋の破損・汚損等の状況の程度が軽微なものであるときには、借主が清掃費等を負担しないといった可能性が考えられます。なぜならば、ペットを飼育することを許可している場合、貸主が当初からペットを飼育することによる多少の破損について契約時に織り込み済みであると考えることができるためです。ただし、敷引きなどのその他の条件で、ペット汚損分の費用を差し引く旨が契約の内容となっている場合が多いです。
他方で、ペットの飼育環境が悪く、大きな修繕が必要なほどに汚損等がある場合には、その修繕費用を請求できます。とくに退去時では、敷金にて修繕費用が足りる場合は別として、不足する場合には、必要な費用について追加で支払うように請求することが可能であると考えられます。
まとめ
いかがでしたでしょうか。ペットブームを背景に、犬や猫を飼育する世帯が増えつつありますが、他方で、ここで説明をしたようなペット飼育の問題があります。問題が生じた場合、または問題となりそうな場合には、早めに弁護士に相談すると良いでしょう。