不正行為・問題従業員の対応

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横領等不正行為

従業員が会社の財産を横領、着服した場合の対処法と横領防止策

警察庁の統計によると、平成30年に検挙された横領事件の総数は1142件でした。横領は刑事事件にすることなく当事者同士が示談している場合も多いことから、実際の横領事件の発生件数はさらに多いことが推定できます。
では、従業員が会社の財産を横領、着服したらどのように対応したらよいのでしょうか。従業員が横領、着服した場合の対処法や、横領されないための対策を解説します。

事実関係の把握と損害賠償請求

従業員の横領や着服が疑われている場合は、すぐに本人を問い詰めるのではなく慎重に事実関係を把握します。被害額や横領方法などを確認して、確かに横領している証拠を確保しましょう。損害賠償請求訴訟を提起する場合や、刑事告訴をする場合は横領したことが客観的に分かる証拠が必須です。

刑事告訴の前に損害賠償請求を

証拠を確保したら、従業員に損害賠償請求を検討します。会社の財産が横領された場合、多くの企業は刑事告訴ではなく、先に損害賠償請求を行います。なぜならば、企業が従業員に横領されたことが報道されると、従業員だけでなく会社の管理監督責任や管理体制が問われるからです。

損害賠償金額は横領金と同額になることが多い

損害賠償請求を行う場合は、被害金額と慰謝料を請求することもできますが、横領する従業員の多くは経済的な余裕がないため慰謝料まで支払うことができません。ですので、被害金額の弁済のみを求めることが多い傾向です。従業員が反省しており、弁済の意思を見せている場合は、分割払いも検討しましょう。

損害賠償請求の前に身元保証人や財産の調査を

横領した従業員に損害賠償を請求する前に、従業員が入社時に身元保証書を提出させているかどうかを確認します。身元保証書があれば、本人に支払い能力が無くても身元保証人に損害賠償を求めることができます。
それと平行して本人の財産を調査します。差し押さえるべき不動産の有無や生命保険契約の有無を確認します。生命保険契約は、年末調整に際に提出された生命保険控除等からどこの保険会社に契約があるかを把握することができます。差押えの際は、銀行口座や生命保険会社名が重要となりますので、できる限り把握しておきましょう。

内容証明郵便の送付と話し合い

従業員に損害賠償請求を行う場合は、請求したことを明確にしておくために内容証明郵便を送付しておきます。それと同時に、従業員と弁済についての話し合いを進めます。従業員に支払いの意思がなければ、身元保証人への請求や従業員、身元保証人の財産の差押え等も検討しましょう。

損害賠償に応じない場合は、刑事告訴を検討する

横領した従業員が被害金額を弁済する意思がない場合は、刑事告訴を検討します。従業員が会社のお金を横領した場合、従業員の業務によって「業務上横領罪」、「窃盗罪」のいずれかに問われることになります。従業員がお金を管理する部署で働いており、管理していたお金を横領した場合は「業務上横領罪」が成立する可能性が高いです。従業員がお金の管理とは関係ない部署で働いており、管理部署の目を盗んでお金を奪った場合は「窃盗罪」に問える可能性があります。
ただし、刑事事件化しても企業には盗まれたお金は戻ってきませんので、刑事事件と並行して損害賠償請求も進めておきます。刑事告訴すると、起訴されることをおそれた加害者が、損害賠償に応じることが少なくありません。

従業員の懲戒処分を検討する

損害賠償請求や刑事告訴と同時に検討するのが、従業員の懲戒処分です。就業規則や雇用契約書などで、横領した場合の懲戒処分を規定していれば、なんらかの処分を命じることが可能です。ただし、1度の横領で懲戒解雇にすると不当解雇と主張されるおそれがありますので、懲戒処分を言い渡す前に、起業法務を専門とする弁護士にご相談ください。
企業の利益の半分を占めるような金額を横領した、何度指導しても横領を繰り返すなどの場合は、横領による懲戒解雇が妥当であると判断される可能性はあります。しかし、ごく少額の横領を1度だけなどのケースでは懲戒解雇を命じることは困難です。

領等の不正を発生させない仕組み作り

従業員が横領した場合に適切に対処することも大切ですが、横領等の不正が起きないようにする対策、横領された場合に被害を最小限にする対策を講じておくことも重要です。

横領されないための環境作り

横領は、会社のお金の管理を1人の従業員に任せきりにしている、ダブルチェック体制が構築されていないことなどが原因で発生します。ですので、少し手間が増えるかもしれませんが、金銭の出納や経理業務については、承認制を敷いておくことをおすすめします。
また、社内検査の実施も有効です。経理部門を検査したい場合は、全く別の部署による検査若しくは社外の監査機関などに検査を依頼します。

身元保証書の作成

身元保証書を作成し、従業員と身元保証人の署名捺印を求めましょう。その際は、身元保証人の人選も重要です。身元保証人に支払い能力が無ければ、意味がありません。身元保証人は以下の条件に合致する人物を選ぶように指示をしておくことをお勧めします。
●定職に就いていること
●65歳以下であること
また、身元保証人の署名捺印だけでなく勤務先も記載してもらいます。身元保証人の勤務先がわかっていれば、財産を差し押さえが容易になります。

就業規則や雇用契約書の見直し

横領などに不正を行った従業員を懲戒解雇するためには、就業規則や雇用契約書に横領によって懲戒解雇できる旨を記載しておかなければなりません。
ただし、就業規則等で懲戒解雇できることを明記しておいても、不当解雇とみなされる場合があります。就業規則の懲戒規程に実効性を持たせるためには、企業法務を専門とする弁護士によるリーガルチェックが欠かせません。従業員の不正を防ぎ、万が一の際は適切に対処ができる社内体制を整える場合は、弁護士に助言を求めましょう。

不正を通報できる窓口の設置

従業員の不正は、管理職など地位がある従業員が行っている場合、部下等がそれに気付いても指摘できないというケースが少なくありません。企業の規模が小さい場合、上司の不正を指摘することで、自身に不利益が生じるのではと指摘を躊躇してしまいます。
このような事態を回避するために有効なのが、不正を通報できる外部の窓口の設置です。第三者である法律事務所などを通報窓口としておくことで、通報した従業員の立場が守られやすくなります。企業の自浄作用が機能すれば、横領などの不正は発生しにくくなります。

横領等不正行為のまとめ

従業員が会社の財産を横領した場合、まずやるべきことは証拠の確保や従業員、身元保証人の財産の調査です。その後に、従業員に損害賠償請求を行います。従業員が損害賠償に応じない場合や、甚大な被害が生じている場合は、刑事告訴も検討します。また、横領した従業員に対する懲戒処分も検討しなければなりません。
横領された際に適切な対応をとるだけでなく、常日頃から横領を発生させないための体制作りも重要です。従業員の不正が発生した場合や、また発生しないための体制構築を検討している場合は、自社内で解決しようとせず弁護士に相談しましょう。横領の被害を取り戻すためには、適切な初期対応が重要です。

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