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顧客引き抜き

顧客引き抜きの防止

企業の大小を問わず、情報漏洩は数多く発生しています。2019年に上場した企業とその子会社で個人情報の漏洩を公表したのは66社にのぼり、約903万件の個人情報が流出していることがわかりました。企業は常に情報漏洩のリスクを抱えていますが、見落としがちなのが、退職社員による顧客情報の持ち出しです。
企業にとって、顧客は大切な財産です。しかし、きちんとルールを整備しておかなければ、退職する従業員に顧客リストを持ち出されたり引き抜かれたりして、顧客を奪われてしまします。企業の財産とも言える顧客を、退職者による引き抜きから守るにはどうすればよいのでしょうか。ここでは、顧客引き抜き防止策と、引き抜かれた場合の対処法を解説します。

退職者に顧客を引き抜かれないための対策

まずは、退職者に顧客を引き抜かれないために企業が事前にできることを解説します。この対策のいずれか1つを行えばよいのではなく、すべての対策を講じておくことが重要です。

顧客情報を「秘密情報」として取り扱うこと

退職者による顧客情報の持ち出しを明確な違法行為とするためには、顧客情報を不正競争防止法条の「秘密情報」として管理しておく必要があります。不正競争防止法においては、従業員や退職者が「秘密情報」を持ち出すこと、流用することは禁止されています。不正に秘密情報を流出させた行為者に対しては、刑事上の責任、民事上の責任を負わせることができるのです。明確に違法な行為であることを周知しておけば、顧客情報の持ち出しの強い抑止力となります。
顧客情報を、秘密情報とする場合は、以下の3つの要件を満たしておく必要があります。

  • ●秘密管理性
  • ●有用性
  • ●非公知性

この中で特に問題となるのが秘密管理性です。秘密管理性とは、秘密情報であることが周知され、秘密情報として管理されていることをいいます。
具体的には情報管理規程で、顧客情報が秘密情報であることを規定します。その上で、容易には持ち出せないような物理的な仕組みを作っておくこと、秘密情報であることが視覚的にわかるようにしておくことが求められます。

競業避止義務に関する誓約書に署名捺印を求める

企業が、退職後の従業員に対して、競合他社への転職を禁じることは一定の条件のもと、認められています。ただし数年間競業を禁止するなど、退職者の職業選択の自由を侵害する誓約書は認められません。競業避止義務を課す期間や地域などを限定しておかなければ、誓約書自体が無効とみなされてしまいます。競業避止義務は、職業選択の自由に制限を加えるものですので、慎重に規定しておく必要があるのです。

顧客情報の持ち出しを禁じる誓約書に署名捺印を求める

退職する従業員には、顧客情報の持ち出しを禁じる誓約書に署名捺印を求めましょう。「顧客情報」と漠然と定義するのではなく、細かく明確にしておきます。

  • ●顧客の氏名
  • ●取引内容
  • ●顧客の住所
  • ●取引価格
  • ●連絡先

というように、持ち出されたら困る情報を記載しておきます。

就業規則に明記しておく

退職時の誓約書だけでなく、就業規則にも退職時の顧客情報の持ち出しや利用を禁じる項目を規定しておきましょう。一定期間競業を禁じることについても就業規則に規定しておきます。ただし、就業規則の規定が、従業員の権利を侵害していると判断されると、就業規則の規程が無効となってしまうので、注意が必要です。また、就業規則を従業員に不利な形で変更することは、「不利益変更」といって、従業員の同意なく変更することは禁じられています。競業を禁止することは、従業員にとっては不利益変更となる可能性があるため、競業を禁止する条項を追加する場合は、従業員の同意を得た上で、変更内容を周知しておく必要があります。

以上の誓約書や就業規則に禁止事項を定めておくことで、顧客の引き抜きを完全に防止できる訳ではありません。しかし、不正競争防止法の秘密情報の要件を満たしておき、顧客情報を秘密情報として管理しておけば、顧客情報の持ち出しを制止する高い効果が期待できます。不正競争防止法に違反して秘密情報を持ち出した場合は、刑事上の責任と民事上の責任の両方を問うことができるからです。

退職者に顧客情報を持ち出された場合の対処法

退職者が顧客情報を持ち出した場合の対処法を解説します。

顧客情報を秘密情報として管理された場合の対処法

持ち出された顧客情報が、不正競争防止法の秘密情報に該当する場合は、企業側は以下の対策を講じることができます。

●差止請求

裁判所に差止請求を申し立てて顧客情報の漏洩の停止を求めることができます。

●損害賠償請求

顧客情報を持ち出されたことで、損害が生じている場合は退職者に対して損害賠償請求が可能となります。

●退職金の返還請求

退職金を支給した退職者が、顧客情報を持ち出した場合、誓約書や就業規則などの規程に従って、退職金の返還を求めることができます。

●刑事告訴

営業秘密に該当する情報を漏洩された場合は、刑事告訴が可能となります。

秘密情報ではない顧客情報を持ち出された場合

顧客情報が秘密情報ではない場合、顧客情報を持ち出されたときの対処法を解説します。不正競争防止法における秘密情報ではない情報であっても、業務上知り得た情報を他者に漏らさないことは信義則上の義務であると考えられています。したがって、不正競争防止法の秘密情報に該当しなくても、損害賠償請求や退職金返還請求は可能であると考えられています。ただし、顧客情報の持ち出しを、法的な手続で差し止めることはできませんので、踏み込んだ対策は難しいです。

どちらの場合も弁護士に依頼する

退職者が顧客情報を持ち出した場合、放置せずに毅然と対応する必要があります。刑事告訴や裁判所への差止請求などは、法的な知識とスピード感がある対応が求められますので、速やかに弁護士に依頼しましょう。
また、顧客情報の持ち出しを防止するための仕組みとルールの構築は、法律の専門家である弁護士に依頼することを強くお勧めします。特に不正競争防止法の秘密情報の要件を満たすために仕組みとルール作りは、顧客情報持ち出しを防止するためには欠かせない対策です。秘密情報の要件を確実に満たしておかなければ、刑事告訴や差止請求ができません。
また、就業規則や誓約書の作成なども、専門的な知識が必要です。これらの問題は弁護士に依頼すればワンストップで解決できます。顧客情報の引き抜き対策を万全にしたい方は、企業法務専門の弁護士にご相談ください。

顧客引き抜きのまとめ

退職者による顧客情報の持ち出しを防止したい場合は、就業規則の整備や誓約書の作成、顧客情報を秘密情報として管理すること、などの対策が必要です。顧客情報の持ち出しを正しく禁じておけば、万が一流出した際に、刑事告訴や慰謝料請求、顧客情報の使用を差し止める法的手続などが可能となります。これらの対策は、法務部がない企業が自社内で行うことは非常に難しいので、まずは弁護士にご相談ください。現状を把握した上で、最適な対処法をアドバイスいたします。

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