団体交渉の申し入れがあった場合の対処法
厚生労働省の調査によると、平成26年から平成29年からまでの過去3年間で、団体交渉(団交)を行った労働組合の割合は67.6%にものぼります。数値から見るに、企業にとって労働組合(労組)による団体交渉は決して遠い存在ではないといえるでしょう。
また、最近では中小企業の従業員が「ユニオン」と呼ばれる合同労働組合に加入するケースが増えてきています。したがって、自社に労働組合がないからといって油断することはできません。労働組合の有無に関わらず、団体交渉に備えた対策を講じる必要があるでしょう。
ここでは労働組合による団体交渉の概要や、申し入れがあった場合の対処法などについて解説します。
団体交渉とは
団体交渉とは、従業員で結成された労働組合が企業に対し、労働時間や賃金などの労働条件の改善を目的に交渉することをいいます。具体的に、以下のような問題について話し合われることが多いです。
- 未払い残業代問題
- ボーナスの査定問題
- 未払い賃金問題
- いじめ問題
- 不当解雇問題
- セクハラ・パワハラなどの各種ハラスメント問題
- 退職勧奨問題
日本国憲法第28条では、従業員が企業と対等な立場で自身の正当な権利を主張できるよう、「団体交渉権」を保障しています。
一般的に団体交渉が行われる場合は、労働組合から企業宛てに団体交渉申入書が届きます。労働組合から団体交渉を求められたら、原則として企業は拒否することができません。正当な理由なく拒否することは「不当労働行為」と呼ばれ、労働組合法で禁じられています。単に拒否するだけでなく、交渉への対応が不誠実な場合も不当労働行為の対象となるため、労働組合との合意を目指した真摯な対応が求められます。
そのほか、以下のような行為も不当労働行為だと判断されますので、注意が必要です。
- 労働組合への加入や正当な労働組合活動などを理由に、解雇、降格、給料の引下げ、嫌がらせ等の不利益取扱いをすること。(ただし、一定の場合に、いわゆるユニオン・ショップ協定またはクローズド・ショップ協定を締結することは妨げられません。)
- 労働組合の結成や運営に対して支配・介入したり、組合運営の経費について経理上の援助をすること。(ただし、従業員が労働時間中に、時間や賃金を失わず使用者と協議・交渉することや、使用者が福利その他の基金に対する寄付をすること、使用者が労働組合に最小限の広さの事務所を供与することは除きます。)
- 従業員が労働委員会に救済を申し立てたり、労働委員会に関する手続において行った発言や証拠提出を理由に、不利益取扱いをすること。
不当労働行為を行った場合、労働組合が労働委員会に対して救済を申し立てることがあります。申し立ての内容に対し、労働委員会が不当労働行為に該当すると判断を下した場合は、企業に救済命令が出されます。救済命令に違反した企業には50万円以下の過料が科せられてしまうため、注意が必要です。
また、従業員から「違法な権利侵害にあたる」と主張され、損害賠償を請求されることも考えられます。こうした不当労働行為に対する制裁は、多かれ少なかれ企業経営に影響を与えることが予想されます。したがって団体交渉には誠実な態度で臨み、救済命令が確定した場合には命令に従うことが大切です。
団体交渉の申し入れがあった際にやるべきこと
団体交渉においては、初動対応が重要なポイントとなります。適切な対応を取らなければ、不当労働行為に該当するとして企業側に責任が追求されることもありますので、申し入れがあった場合は落ち着いて以下の対応を行いましょう。
弁護士に相談および対応を依頼する
労働組合から団体交渉の申し入れがあった場合、早い段階で弁護士へ相談することをおすすめします。とくに合同労働組合(ユニオン)は労働問題のプロであり、交渉にも慣れています。独自のルールや交渉戦術などを熟知していなければ、企業側が相手の言いなりになってしまうことも珍しくありません。
不利な立場に追い込まれないためにも、労働問題に強い弁護士もしくは顧問弁護士に立ち合いの依頼をしたうえで、団体交渉に臨むことが大切です。団体交渉に弁護士が出席することで交渉を有利に進められるほか、法的観点から合意内容が適切であるかを確認できる、団体交渉にかける時間や労力を減らせるなどのメリットが得られます。
また、労働組合によってはオフィスの前に居座る、嫌がらせで街宣活動を行うなどして、企業にプレッシャーをかけてくることがあります。こうした活動は企業の信用失墜を招いたり、他の従業員のモチベーション低下に繋がったりするため、早急に対処して中断させなければなりません。このとき、自社だけで対応するのではなく、弁護士名義で警告文を送付することが効果的です。
開示する情報を検討する
ときに労働組合から、経営にかかわる情報や資料の開示を求められることがあります。企業は原則として誠実な対応をしなければなりませんが、企業の機密事項にかかわる情報については開示する必要がありません。どのような情報を開示すべきかの判断に迷う場合は、団体交渉に強い弁護士に指示を仰ぎましょう。
団体交渉時に企業が留意すべき点
実際に労働組との団体交渉を行う際は、以下の点に留意しましょう。
団体交渉は業務時間外に行う
労働組合から労働時間内に団体交渉の開催を指定されたとしても、断ることが大切です。労働時間内に開催するとなった場合、業務を中断する必要があるほか、団体交渉に立ち会っている間の賃金が支払われるのか否かという問題が発生することも考えられます。したがって、団体交渉は業務時間外に行うことが無難です。また、労働組合は交渉時間を引き延ばそうとすることがあるため、事前に開催時間を2時間で調整しておきましょう。
労働組合の事務局や社内での開催は避ける
団体交渉の開催場所は、外部の会議室が好ましいです。労働組合の事務局は使用時間が限られていないため、交渉が長引くおそれがあり、社内の施設を使用する場合には他の従業員や来客へ悪い影響を及ぼすことが考えられます。したがって、双方の話し合いに影響を与えない公共の場所を指定しましょう。
労働組合が作成した書類にサインしない
労働組合が作成した書類の内容を精査せず、安易にサインしてしまうのは危険です。自社が不利になるような条件が記載されていることもあるため、書類へのサインを求められたとしても拒否しましょう。できることならば一旦その書類を持ち帰り、弁護士に相談のうえ、サインすべきかを検討してください。
配置換えや待遇の変更は慎重に行う
団体交渉へ参加している従業員の配置換えや待遇の変更は、慎重に行わなければなりません。仮にその行為が「団体交渉や労働組合の活動を理由に行われたものである」と労働組合から主張され、不当労働行為に該当すると判断された場合、企業側がペナルティを受ける可能性があります。こうしたリスクを回避するためにも、配置換えや待遇の変更は労働組合による活動が理由ではないことを明確にし、当該従業員に対して説明することが大切です。
議事録を作成する
団体交渉の際は、書面による議事録を作成しておくと良いでしょう。労働組合と紛争やトラブルへ発展した場合に、どのようなやりとりが行われたかを証明する証拠となり得ます。労働組合側も議事録を作成しますが、その議事録に署名捺印を求められても確認せずに署名捺印してはいけません。その議事録が必ずしも相当性があるものだとは限らないため、確認せずに署名捺印すると不利な状況に陥ることがあります。
団体交渉(立会い)のまとめ
労働組合からの団体交渉の申し入れには必ず応じる必要があり、拒否すると不当労働行為だと主張される危険性があります。また、対応を誤ると結果として過激な街宣活動に発展する、紛争が激化するなど、企業の経営活動に悪影響を及ぼしかねません。したがって、労働組合から団体交渉の申入書が届いたら、すぐさま内容を確認して団体交渉に強い弁護士へ相談することが大切です。
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