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雇用保険

雇用保険への加入義務

労働者を雇用している企業は、原則として、雇用保険に加入させる義務があります。雇用保険が未加入だった場合、労働者が失業保険を受けられないなどの問題が発生するおそれがあるほか、企業が追徴金の徴収や罰金などの罰則を受けることもあるため、注意しなければなりません。雇用保険をめぐるトラブルを防ぐために、企業は加入手続きを弁護士へ一任することも検討しましょう。

労働者を一人でも雇う場合には、雇用保険への加入が必須

業種や規模等を問わず、すべての企業は雇用保険法に基づき、適用基準を満たす労働者について、企業や労働者の意思に関係なく、被保険者となった旨を公共職業安定所(ハローワーク)に届け出る必要があります。同時に企業は、労働保険料の納付や雇用保険法の規定による各種の届出等の義務を負うこととなります。

雇用保険の加入手続きが正しく行われていない場合、労働者から行政機関やメディア等に告発され、社会的信頼を失うリスクがあるほか、法令違反として企業が罰則を受けるなど、大きな損失を被る可能性があります。労働者とのトラブルを未然に回避し、企業として安心して働ける労働環境を整備するためにも、雇用保険制度の適正な運用が重要です。それでは、雇用保険制度の仕組みと加入手続、保険料の算定方法などについて解説します。

雇用保険制度とは?

雇用保険制度とは、労働者が失業した場合などに必要な給付を行い、労働者の生活及び雇用の安定を図るとともに再就職の援助を行うことなどを目的とした雇用に関する総合的な機能をもった制度です。企業が一人でも労働者を雇う場合には、当制度を適切に運用しなければなりません。

雇用保険に加入していると、労働者が解雇や自主退職によって失業した場合に失業保険の給付を受けられるほか、一定の要件を満たせば、以下のような給付が受けられます。

分類 名称
求職者給付 失業保険(基本手当)・傷病手当・高年齢求職者給付金・技能取得手当・特例一時金・日雇労働休職者給付金
就職促進給付 就業手当・再就職手当・就業促進定着手当・常用就職支度手当・移転費・広域求職活動費・短期訓練受講費・求職活動関係役務利用費
教育訓練給付 教育訓練給付金・教育訓練支援給付金
雇用継続給付 育児休業給付金・介護休業給付金・高年齢再就職給付金・高年齢雇用継続基本給付金

このように、雇用保険は、労働者の生活や就職活動を維持するためにも欠かせない制度といえます。なお、保険料の納付については、企業と労働者で折半して負担することになります。

雇用保険の加入条件

以下の(1)および(2)のいずれにも該当する労働者は、雇用保険の加入対象となります。

(1)31日以上引き続き雇用されることが見込まれる者であること。具体的には、次のいずれかに該当する場合をいいます。

  • 期間の定めがなく雇用される場合
  • 雇用期間が31日以上である場合
  • 雇用契約に更新規定があり、31日未満での雇止めの明示がない場合
  • 雇用契約に更新規定はないが同様の雇用契約により雇用された労働者が31日以上雇用された実績がある場合(注)

(注)当初の雇入時には31日以上雇用されることが見込まれない場合であってもその後、31日以上雇用されることが見込まれることとなった場合には、その時点から雇用保険が適用されます。

(2)1週間の所定労働時間が20時間以上であること。

雇用保険未加入によるトラブルと罰則

雇用保険が未加入だった場合、労働者が失業保険やその他手当を受給できず、トラブルに発展してしまうケースも少なくありません。企業に対して損害賠償を請求されたり、行政機関やメディア等へ内部告発が行われるなどのリスクも潜んでいるため、雇用保険が適正に運用されているか、把握しておくことが重要です。

また、雇用保険未加入は企業の義務違反となります。適用要件を満たしているにも関わらず加入させなかった場合は、雇用保険法に基づく罰則(6ヵ月以下の懲役または30万円以下の罰金)が科されるほか、雇用保険料の追徴金、延滞金の納付が求められることもあります。

雇用保険の未加入は労働者への影響も大きいことから、社会的な信用を低下させる要因になり兼ねません。適正な運用に向けて、弁護士へ雇用保険手続きを委託することも手段のひとつです。

事業主が行う雇用保険の加入手続き

労働者を雇い入れるときだけでなく、初めて雇用保険の対象事業となる場合や、労働者の退職時にも、所定の手続きが必要です。

初めて雇用保険に加入する場合

労働保険の適用事業となったときは、まず労働保険の「保険関係成立届」を所轄の労働基準監督署または公共職業安定所に提出する必要があります。その後、保険関係が成立した日の翌日から起算して50日以内に「概算保険料申告書」を提出し、その年度分の労働保険料を概算保険料として納付します。

上記のほか、事業所設置の日の翌日から起算して10日以内に「雇用保険適用事業所設置届」を、資格取得の事実があった日の翌月10日までに「雇用保険被保険者資格届」を所轄の公共職業安定所へ提出しなければなりません。

労働者を雇い入れたとき

すでに労働保険の適用対象企業となっており、新たに雇い入れる労働者が被保険者となる場合は、必ず「雇用保険被保険者資格取得届」を公共職業安定所に提出する必要があります。届出は、被保険者となった日の属する月の翌月10日までに行わなければなりません。(※4月1日に雇用した場合は5月10日が提出期限となる)

労働者が被保険者になったことが確認された場合、公共職業安定所からその方の「雇用保険被保険者資格等確認通知書(被保険者通知用・事業主通知用)」と「雇用保険被保険者証」が交付されます。

雇用保険被保険者資格等確認通知書のうち事業主通知用は労働者の雇用保険の有無を確認するための重要な書類となるため、企業側で保管しておきます。残りの雇用保険被保険者資格等確認通知書(被保険者通知用)と雇用保険被保険者証は、必ず労働者本人に渡しましょう。

労働者が離職したとき

雇用保険に加入していた労働者が離職した場合は、被保険者でなくなった日の翌日から10日以内に、「雇用保険被保険者資格喪失届」と「雇用保険被保険者離職証明書(離職票)」を事業所を管轄する公共職業安定所に提出してください。また、離職理由の確認のため、出勤簿や労働者名簿、タイムカード等の書類も提出が必要です。

雇用保険の保険料はどのように算出される?

雇用保険料は、企業と労働者が折半して納付し、労働者の毎月の給与から雇用保険料を天引きする仕組みとなっています。

保険料の負担率については、毎年厚生労働省によって改訂されており、事業の種別によって保険料率が異なります。それぞれの事業による保険料率は以下となります。

令和2年度の雇用保険料率(令和2年4月1日~令和3年3月31日まで)

労働者負担 事業主負担
一般の事業 3/1,000 6/1,000
農林水産・清酒製造の事業 4/1,000 7/1,000
建設の事業 4/1,000 8/1,000

一般の事業で、労働者の給与が20万円の場合は、

  • 労働者負担:20万円×3/1,000=600円
  • 事業主負担:20万円×6/1,000=1,200円

となります。

保険料率が業種によって異なるのは、それぞれの業種によって失業給付や手当などの利用頻度、金額が変わってくるためです。景気に左右されやすい建設業は保険の利用頻度が比較的多いため、他の業種に比べて保険料の負担が高く設定されています。一方で、一般の業種は保険料率が低く設定されています。

雇用保険料の対象となる賃金の範囲

雇用保険の対象となる賃金は基本給だけではありません。以下の手当や賞与なども賃金の範囲として含まれます。

  • 基本給
  • 超過勤務手当、深夜手当、宿直、日直手当等
  • 扶養手当、家族手当等
  • 通勤手当(通勤定期券代も含む)
  • 住宅手当、物価手当
  • 技能手当、特殊作業手当
  • 前払い退職金
  • 休業手当
  • その他

一方、雇用保険の対象となる賃金から除外するものには以下が挙げられます。

  • 出張旅費
  • 寝具手当、工具手当
  • 災害見舞金、傷病手当金
  • 結婚祝金
  • 死亡弔慰金
  • 休業補償費
  • 解雇予告手当
  • 退職金
  • 会社が全額負担する生命保険の掛け金
  • その他

2020年4月1日からは65歳以上の被保険者も納付が必須

雇用保険に関する法改正により、2017年1月1日より、65歳以上の労働者も雇用保険の加入が必要となりました。これまでは、経過措置として65歳以上となる雇用保険の被保険者は雇用保険料の徴収が免除されていましたが、2020年4月1日からは、すべての雇用保険被保険者について雇用保険料の納付が必要になります。

企業は、65歳以上の労働者の雇用保険料を支払わなければならないため、納付に漏れが無いよう雇用保険の加入状況を確認しておきましょう。

雇用保険のまとめ

雇用保険への加入は、労働者を雇用している事業主の義務です。安心して働くために必要な制度となるため、法律に基づいた適正な運用が求められます。未加入となると義務違反となり罰則を受ける可能性があるほか、労働者から訴訟を提起されたり、外部への告発によって社会的な信用を失うなどのリスクがあるため、十分に注意しなければなりません。

さらに2020年4月1日からは、65歳以上の労働者に対しても雇用保険に加入する必要があります。「雇用保険の加入状況を適切に把握していない」「手続きが煩雑化しており対応が難しい」という場合は、弁護士に相談することをおすすめします。

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