役員報酬・退職慰労金
役員報酬・退職慰労金
役員報酬の決定方法
役員の報酬については、会社法という法律で規定されています。役員の報酬については定款もしくは、株主総会の決議で決定することができます。定款があれば定款に従い、定款がなければ株主総会の決議という形で決まります。
役員報酬の支払い方法を決定する
役員報酬は、以下の3つの形式で支払わなければ損金に算入することができません。株主総会での決議をはかる前に、役員報酬の支払い方法を決定しておきましょう。
●定期同額給与
毎月決まった額を支給する方式の役員報酬。期中に支給額を変更することはできない。
●事前確定届出給与
国税庁に、事前に支給時期や支給金額を届け出てそれに従った支払う方式の役員報酬。
●業績連動給与
会社の業績に連動した形で支給する方法。同族企業では採用できない。
税制上では、役員報酬を損金に算入できないと損失が大きいため、以上のいずれかの支払い方法にしておきましょう。
株主総会の決議で決定する
役員報酬が定款で定められていることは少なく、ほとんどは株主総会の決議によって決められます。この際に要求されるのは「普通決議」です。普通決議ですので、議決権総数の過半数を有する株主が出席した株主総会での、株主の過半数の賛成が求められます。役員報酬では、「報酬の金額」、「報酬の算出方法」、「報酬の内容」などを決定することができます。
取締役会に分配を委任
報酬の金額については、株主総会で総額を決定しておいてその分配を取締会に委ねることも可能です。「株主に取締役個人の報酬を知られたくない」、「業績に連動させて増減させたい」などの場合は取締役に分配への委任が妥当です。
役員報酬等に含まれるもの
会社法では「役員報酬等」と記載されており、役員報酬等に何が含まれているのかが問題となります。具体的には以下の様な報酬が役員報酬に含まれます。
- ●現物報酬
- ●ストックオプション
- ●賞与
- ●職務遂行の対価として会社から受ける財産上の利益
金銭だけでなく株や、貸し出している社宅も役員報酬に含まれているとされることがあります。役員報酬とそうでないものの線引きが難しい場合は、弁護士等の専門家に助言を求めましょう。
役員報酬の変更方法
役員報酬は一度決定すると、株主総会の決議を経なければ変更することはできません。役員報酬の変更手順は決定の手順と同様です。
ただし「期首から3か月以内」に変更することと定められています。期首とは、事業年度から3か月です。事業年度が4月スタートの場合は6月までとなります。3か月以降も役員報酬を変更することはできますが、変更した部分については損金に算入することができません。例えば、役員報酬を減額した場合、期首から減額後の役員報酬のみが損金に算入されることになります。
ただし、以下の理由の場合は期首から3か月経過後に役員報酬を変更しても損金算入が可能となります。
- ●役員の地位の変更
- ●経営状態が著しく悪化
経営状態が著しく悪化した場合というのは、客観的に経営状況の悪化が分かる場合のみに限られます。「第三者である利害関係者との関係上、役員給与の額を減額せざるを得ない事情が生じたため」とされていますので、企業側が「想定より売上が低い」と主張しても認められない可能性があります。客観的な経営状況悪化がわかる資料を用意しておきましょう。
退職慰労金を支給する手続
役員の退職金を退職慰労金といいます。退職慰労金は役員報酬と同様に会社法で規定されており、株主総会での決議によってその支払いが決定されます。役員報酬と同様に、株主総会の普通決議が求められ、過半数以上の議決権を有する株主が参加している総会で、過半数の賛成が得られた場合に、退職慰労金の支払いが可能となります。
退職慰労金の金額を株主に知られたくない場合、都度決議を行うことが困難な場合は、総額を株主総会で決議して、分配は取締役会に委ねることも可能です。株主総会の決議がない場合は、就業規則や雇用契約書によって役員報酬の支払いが規定されているとしても、役員報酬を支払うことはできません。
役員報酬や退職慰労金に関するトラブル
役員報酬や退職慰労金に関するトラブルには、どのようなものがあるのでしょうか。代表的なトラブル例を解説します。
役員や元役員からの支払い請求
役員報酬や退職慰労金に関するトラブルで多いのが、役員や元役員からの支払い請求です。特に退職慰労金については、退職金と同様に支払われると認識している役員が請求することがあります。
しかし前述のように退職慰労金は株主総会の決議を経なければ、支払うことはできません。就業規則等で規定してあっても、株主総会の決議が必要です。したがって、株主総会で決議されていない退職慰労金の支払いについては拒否することができます。役員報酬の増額要求も同様です。
これらの役員報酬や退職慰労金の請求は、請求金額が多いことから、役員が訴訟等の法的手続を辞さない強硬な姿勢で臨むことが少なくありません。社内でのトラブルの発生は、対外的なイメージの悪化が避けられませんので、適切な対処が必要です。お困りの際は企業法務を専門とする弁護士にご相談ください。
役員報酬や退職慰労金の損金算入
役員報酬や退職慰労金の金額は、一般的な水準より高額すぎると損金算入ができないおそれがあります。そのため、世間の水準や、他の従業員給与とのバランスを考慮して決定しなければなりません。算出基準を明確に定めておき、対外的に説明できるようになっていれば高額な役員報酬や退職慰労金でも損金算入が認められやすくなりますので、算定基準を定めておくことが重要です。
役員報酬・退職慰労金のまとめ
株式会社の役員報酬や退職慰労金は、代表取締役の一任で決定することはできません。決定する場合も変更する場合も株主総会の決議が必要です。また、期首から3か月以内に決めなければならないなどの規定もあります。
役員報酬や退職慰労金は、損金算入の兼ね合いもあり法律面だけではなく税務面でも配慮しながら決定しなければなりません。
また、役員報酬や退職慰労金は、金額は支払いなどがトラブルに発展しやすく社内での解決が難しい問題です。役員や元役員からが、支払いを求めて訴訟を提起することもあります。
役員報酬、退職慰労金の決定や変更、支払いなどのトラブルなどでお困りの場合は、速やかに弁護士にご相談ください。企業法務を専門とする弁護士であれば、多角的なアドバイスが可能です。