社内でセクハラ、パワハラ問題が生じたときの留意点
セクハラ、パワハラなどさまざまなハラスメントと呼ばれる言葉を耳にする機会が増えたような気がします。とくにセクハラやパワハラはその内容については世間に広く知られていますが、会社内でその問題が発生した際の対応については、あまりよく知られてはいないようです。会社の対応が適切ではない場合には、職場環境が悪化し優秀な人材を失うことや、最悪紛争化してしまうなど、問題が拡大してしまうことがあります。この記事では、社内でセクハラ、パワハラ問題が生じたときの留意点について紹介していきます。
用語の定義の確認:セクハラ、パワハラとは
「セクハラ」、「パワハラ」といった単語は世間に広く知られるようになりましたが、その内容はどのようなものであるか(言葉の定義)について不明確である場合が少なくはないと思います。そこで、まずは簡単に用語の確認をしていきたいと思います。
セクハラとは、「職場において、労働者の意に反する性的な言動が行われ、それを拒否するなどの対応により解雇、降格、減給などの不利益を受けること」又は「性的な言動が行われることで職場の環境が不快なものとなったため、労働者の能力の発揮に悪影響が生じること」(男女雇用機会均等法11条参照)をいいます。
また、パワハラとは「同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、業務の適正な範囲を超えて、精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」をいいます。パワハラについては、平成24年3月に開かれた、厚生労働省主催の「職場のパワーハラスメントの予防・解決に向けた提言」のなかで定義されています。
セクハラ、パワハラなどのハラスメント対策は企業規模に限らず会社に求められています。セクハラに関しては男女雇用機会均等法上に必要な措置を講じるように義務付けられています。パワハラに関しては改正労働施策総合推進法上に企業側の義務について新たに法律上規定されることとなりました(令和元年5月29日成立)。
セクハラ、パワハラの被害の申告があった場合の対応
前述のとおり会社にはセクハラ、パワハラについて必要な措置を講じるように求められています。被害の申告があった際には、その事実関係を慎重に確認する必要があります。
セクハラ、パワハラは事案の特性上、事実確認が困難である場合が少なくはなく、当事者の互いの説明や主張に食い違いがあることは稀ではありません。もっとも、最近はLINE、Twitter、Facebook、Instagramなどによって、証拠があることも多くなってきました。
仮に証拠がない、または少ない場合でも、会社は、安直に被害の事実が認められないなどの見解を示すべきではありません。慎重に当事者からヒアリングを行い、また、当事者の周囲から聴取を行うなどの事実関係を確認しなければなりません。これらを通じ、いずれの当事者の説明に一貫性が認められるかといった視点で被害事実の確認をすべきでしょう。なぜなら、被害を申し立てている人の気持ちを汲み取ってあげて方法を模索しなければ、結局解決が長引き手間と費用がかさむことになります。
会社は、セクハラ、パワハラに対して必要な措置を講じる義務があるため、また、社内環境の維持・向上といった目的からも、セクハラ、パワハラなどのハラスメントが生じた場合の相談体制を整えておく必要があるといえます。
被害事実の確認途中における対応とは
被害事実に関して、当事者に事実関係を確認している途中であっても、一般に職場環境の維持・改善を会社はすべきであることから、両当事者を引き離すなどの措置が必要です。事実関係がはっきりしていない段階でこのような措置をとる必要があるのは、少なくとも両当事者において問題が生じているのが事実であるためです
例えば、同じ部署内であるならば席替えを行い、デスクを引き離すといったことや、業務分掌を変更して両当事者の関わりの機会を減らすなどの措置が考えられます。このような措置を怠ると、被害事実があったと認められた場合、将来的に会社の安全配慮義務違反を主張され損害賠償請求がされる可能性が高まります。
ただし、いずれの当事者でも被害申告をきっかけとして、部署の移動を命ずる場合や転勤を命ずるなど、当事者にとって働く環境が大きく変動があるような際には、同意書を得るなどを行うとより適切でしょう。
被害事実が認められた場合
会社による被害事実確認の結果、セクハラ、パワハラに該当する行為があった場合には、そのような行為を止めさせ職場環境を改善することが必要となります。会社には安全配慮義務があるため、被害事実を認識しておきながらそのような状況を放置することは許されません。
確認された事実に応じて、会社は雇用契約または就業規則上などの社内規定に則り、「戒告」や「譴責(けんせき)」、被害が著しい場合などは「懲戒解雇」などの懲戒処分をします。「戒告」は加害者に文書で戒めるのみで始末書の提出を要しない処分をいいます。「譴責」は上記に加え始末書の提出を求めるものです。
このように会社は、加害者に対しては必要な懲戒処分を行うべきですが、懲戒処分は加害者に対する重大な不利益措置と評価され、契約上または社内規定上の根拠が必要とされるといった見解があります。
実際にはどのように法的に評価されるかはケースバイケースですが、会社としてはリスクを減らすため、あらかじめセクハラ、パワハラの際の懲戒処分についてルール化しておく必要があるでしょう。
被害事実が認められなかった場合
慎重に被害事実の調査を行った結果その事実が認められないといったことがあります。このような場合であっても、加害者と被害者の間に問題が生じていたことは事実であるため、その事実を真摯に受け止め社内環境の改善に努めるべきでしょう。
状況によっては、加害者と被害者の間に立って両者の話し合いを通じたわだかまりの解消といった方途も考えられます。
社内環境の改善は、貴重な人材の流出を防止するだけでなく、外部から見た場合に働きやすい職場と映ることから人材が集まりやすくなるといった効果が期待できます。
セクハラ、パワハラの予防と対策
セクハラ、パワハラの予防と対策の中身としては、社内規定の整備や会社の指針の作成を行い、被害相談体制の整備や社内教育などの措置を講じる必要があります。
主だったところでは、下記のような措置です。
1 セクハラ、パワハラの内部通報制度の整備
2 定期的なセクハラ、パワハラの防止に関する教育
3 セクハラ、パワハラ防止に関する会社の指針の策定
4 セクハラ、パワハラの事実があった場合の懲戒処分に関する事項の整備
5 独立的な相談部署または担当者の設置
会社は多様な背景や文化をもつ人が一緒に働く場所です。そのため、当事者の故意や過失に限らず、また当事者が加害の事実を認識していないにも関わらず、パワハラやセクハラは発生してしまうものです。
上記に示した対策を通じ、それぞれが気持ちよく働けるような環境づくりを行うことで、社内の人間関係を良好に保つことが可能となり、結果としてセクハラ、パワハラのリスクが下がります。
そもそもセクハラ・パワハラにあたるかの確認を
相手が嫌な思いしたらハラスメントにあたることにはなるのですが、違法と言うべきハラスメントであるか、会社として責任があるハラスメントなのかも大切な問題です。弁護士に確認頂くことで対応可能ではあります。
一方で、従業員にハラスメントがどういうものかを伝えるセミナーをするというのも大切です。ハラスメントが減ることにつながるだけではなく、ハラスメントと到底言えない事案でハラスメントと騒ぎ立てる人が減るといい大きな効果があります。
「俺の時代はこんなことで問題とならなかった」の危険
セクハラ、パワハラに関して、「俺の時代はこんなことで問題とならなかった」などといった発言を耳にすることがありあます。確かにその発言を行ったかたの言うとおり、かつては問題とはならなかったのかもしれません。
人々の価値観や社会の価値観は時代とともに変化するものであって、いつまでも同じとは限りません。例をあげるならば、江戸時代は身分制社会でしたが、当時はそれが普通の価値観でした。対して現代はそのようなものはありません。
このように人の価値観は常に変動をし続けるにもかかわらず、「従来は問題がなかった」との認識を捨てきれていない社員がある場合は、会社にとってリスクとなるでしょう。
継続的な社内での啓もう活動が重要ではないでしょうか。弁護士による社内セミナーなども有効に利用できます。
まとめ
セクハラ、パワハラといった言葉が一般に知られるようになってからずいぶんと時間が経ちますが、ようやく法律上に会社の義務が明確化されるようになりました。他方でセクハラ、パワハラの問題は認識されつつも、実際の職場での対策はまだまだ途上中である向きがあります。セクハラ、パワハラに対する必要な措置について疑問を感じた場合には弁護士にご相談ください。