パワハラを理由とする解雇の手順と注意点
従業員が、社内でパワハラを行ったため解雇をするといった場合には、慎重な対応が必要となります。会社は、社内秩序の維持する権利があると考えられています。また、会社側には一般的制限があるものの、解雇権の行使も認められる場合がります。パワハラを理由として、懲戒解雇したい場合に、その手順と注意点について、説明いたします。
懲戒解雇は最も重い懲戒処分?
原則的として、従業員を簡単に解雇することはできず、「懲戒解雇」することは、最も厳格に行う必要があります。理由がパワハラであっても同様です。懲戒解雇は、強制的解雇で社会的な制裁を受ける可能性があるため、そう簡単に懲戒解雇は出来ません。
会社の規定を整備することも大切です。いわゆる就業規則です。そもそも、就業規則が存在しない場合や、就業規則があったとしても、懲戒事由として具体的な記載がなく、判断に困るような内容ですと、懲戒解雇はもとより、その他の懲戒処分を行うことが難しいこととなります。
また、就業規則に「パワハラをした場合は懲戒解雇」と記載していても、パワハラをしたということのみで懲戒解雇をしても無効となる可能性が著しく高いでしょう。
その行為がパワハラに相当するのか?
ある従業員の行為について、他の従業員からパワハラの訴えがあったとしても、その行為がパワハラにあたるのかどうか、確認する必要があります。
パワハラとは、厚生労働省の定義によると、「ⅰ同じ職場で働く者に対して、職務上の地位や人間関係などの職場内の優位性を背景に、ⅱ業務の適正な範囲を超えて、ⅲ精神的・身体的苦痛を与える又は職場環境を悪化させる行為」とされています。
例えば上司が部下などに対して強く指導を行っている場合であっても、そもそも、上司には部下の指揮・命令権があるため、明らかに業務上の必要がない、またはその態様が相当でないものでなければ、パワハラには該当しません。
したがって、具体的な行動へうつす前に、まずは、パワハラがあったかどうかの事実確認を行う必要があります。
懲戒解雇の規定が就業規則などに記載があるか
冒頭でも説明をしたとおり、仮にパワハラの事実があったとしても、就業規則や雇用契約書などに懲戒解雇についての規定がない場合には、懲戒解雇が難しくなります。
通常は、懲戒解雇をするような状況は生じないため、契約書の規定や就業規則の内容にそれほど注意を払わない場合があるかもしれません。また、せっかく、就業規則でしっかりと、パワハラについて懲戒事由として定めたとしても、その内容が周知徹底されていない場合には、その規定そのものが有効ではないと争われる危険があります。
パワハラでもいきなり解雇は不当解雇?
ある従業員のパワハラ的な行為によって、現場の士気が低下したり、退職者が続出するなど、社内環境が悪化するなどしている場合には、一刻も早くパワハラを働いた従業員を辞めさせたいものです。
しかしながら、いくらその従業員の行動に問題があったとしても、一般的には、いきなり解雇をした場合、後になって「不当解雇」として会社が逆に責任を追及されるといった場合があります。
会社がパワハラをしないように十分な指導・教育を行ったか
従業員は労働契約上の地位として、保護される立場にあるため、パワハラなどの問題行動があった場合でも、会社が十分な指導や教育を行わずに、解雇をすることはできません。
仮に十分な指導・教育を行ったとしても、その履歴に関して、文書やメールなどの記録から確認できない場合には、後に問題となった場合に、会社は事実関係を立証できず、不当解雇だと主張される危険があります。
中小企業で少なからず見られるのは、パワハラについての認識が甘く、それほどひどいといえるパワハラでないのにパワハラとし、懲戒処分をする、パワハラについて社内での十分な指導や教育がなされていたと認められない場合は懲戒しづらい可能性があります。
懲戒解雇までいたる経路や懲戒事由の適用は公正であったか
会社には社内秩序の維持する目的であっても、むやみやたらに、従業員を懲戒することは認められません。さらに、就業規則や雇用契約書などに規定があったからといって、直ちに、懲戒解雇はできません。
パワハラへの指導監督、教育をしつくしてもなお、パワハラについて改善がみられないといった事情が必要です。
まとめ
人手不足が叫ばれる昨今、従業員がすぐに辞めてしまうほど、社内環境を悪化させるようなパワハラ行為を会社が放置することはできず、出来る限り早く対処したいと考えるでしょう。しかしながら、例えパワハラの事実関係があったとしても、説明してきたとおり、非常に慎重な対応が必要となります。具体的に、パワハラで従業員を解雇する際は、事前に弁護士に相談するなどの方法をとられるのが良いでしょう。