労務環境に関するアドバイス全般
労使間トラブルを発生させないための労働環境整備の重要性と方法
近年、社会問題になっている長時間労働やパワーハラスメントなどの労務トラブル。従業員の離職を防ぎ、人材確保を推進するためには、安心して働ける魅力的な労働環境を整備することが大切です。働き方改革が本格的にスタートした今、企業は労働環境を改善し、労使トラブルを発生させない仕組みづくりが不可欠といえるでしょう。労働環境整備の重要性や方法について弁護士が解決します。
増える労使間トラブル、企業へのダメージとは
近年は、ブラック企業問題により、「残業代未払い」「パワハラ」、「セクハラ」などの問題意識が浸透し、労使間トラブルも増加しています。厚生労働省が毎年発表している「個別労働紛争解決制度の施行状況」という調査では、労働相談件数は12年連続で100万件を超えており高止まりの状態です。個別労働紛争の相談件数も、令和元年に過去最高を記録しています。
これらの相談は、労働局や労働基準監督署に労働者が相談したものです。令和元年度の相談件数は118万8340件、このうち労働基準法違反の疑いがあるものが19万6272件でした。労働基準法違反が確認されると、労働基準監督署や公共職業安定所などが法律に基づいて行政指導等を行います。行政指導によっては、企業名が公表されるなど企業のイメージに大きな打撃を与えるものもあります。
また、残業代未払いや違法解雇、パワハラなどの問題があった場合は、従業員への慰謝料や解決金などの支払いが発生し、経営への影響も深刻となります。これらの問題に対応するための人的コストも発生します。貴重なリソースが労使間トラブルの解決に割かれることも深刻な問題です。
このように、労使間トラブルが発生しやすい環境での企業運営は、企業イメージや経営に悪影響を与えるリスクを抱えているのです。
労働環境整備の重要性
現在、日本では少子高齢化が進んでおり、さまざまな企業が人手不足の課題を抱えています。とくに運送業や建設業、宿泊・飲食サービス業などの産業においては人手不足感が強まっており、長時間労働や残業につながったり、離職を招くケースも見られています。
また、厚生労働省の発表によると、全産業の入職者のうちの3~4割は、1年以内に離職している状況にあります。人手不足産業における転職者の理由調査では、「労働時間や休日等の労働条件が悪い」「職場の人間関係が好ましくない」といった労働条件・環境によって転職を決めるケースが多くを占めていることからも、労働環境の良し悪しが従業員の定着を左右する条件のひとつと考えられます。
長時間労働による過労死やメンタルヘルス不調、企業関係者によるハラスメント行為がひとたびメディア等で公になれば、社会的信用の低下を招くことから、入職希望者の減少も避けられない状況といえるでしょう。
さらに、「働き方改革」の時代を迎え、従業員が多様な働き方を選択できる環境整備が求められています。仕事とプライベートを両立しやすい柔軟な勤務形態・雇用形態を導入することは、企業の労働力確保の点においても有効といえるでしょう。このように、企業の人手確保を促進し、貴重な人材を有効活用するためには、待遇面や勤務形態、人間関係なども含め、働きやすい魅力的な労働環境を整備することが重要です。
従業員を離職させないための労働環境づくり
人材確保に向けてさまざまな企業が積極的に採用費用を投じるなか、「思うように入職希望者が集まらない」「採用してもすぐに辞めてしまう」といった悩みを抱えている企業も多いのではないでしょうか。実際に、優秀な人材を確保できず倒産をやむなくされた企業は年々増加しており、帝国データバンクの発表によると、2019年の人手不足倒産は185件となり、前年比20.9%となっています。
企業が安定した経営を継続していくためには、従業員が意欲的かつ働きやすいと感じてもらえる労働環境づくりが重要です。具体的には以下の対策が挙げられます。
- 長時間労働の是正、適切な残業代の支給
- 労働災害を未然に防ぐための取組
- 時代に応じた多様な働き方の導入
- モチベーションを維持するための施策
長時間労働の是正、適切な残業代の支給
長時間労働は心身のストレスにつながるほか、疲労やモチベーション低下による生産性低下を招くリスクがあります。労働基準法では残業の上限規制が設けられており、これを超えて働かせた場合は法律違反となります。企業に罰則が科せられる可能性があるため、労働時間を正確に把握したうえで、長時間労働の防止に努めなければなりません。
また、労務トラブルによくある事案のひとつに「未払い残業代」が挙げられます。給与形態や賃金の支払方法が正しく就業規則に明記されていない、適切な残業代を支払っていないとなれば、従業員や労働組合から訴訟を提起されるケースもあります。多大な損失を被らないためにも、残業時間を適切に管理し、法令に沿って残業代を支給することが重要です。
労働災害を未然に防ぐための取組
建設現場での転落事故等のケース以外にも、過重労働による過労死や疾患、セクハラ・パワハラ等の心理的ストレスによるメンタルヘルス不調なども、「労働災害」と判断される場合があります。
労働災害が発生すると、被災した労働者や遺族から多額の損害賠償請求がなされたり、安全配慮義務違反として企業の責任が問われるリスクがあります。場合によっては、受注減やイメージ低下などのさまざまな問題を招来する可能性があるため十分注意しなければなりません。
労働災害が起こりやすい現場では、業務プロセスの見直しや従業員への周知・教育を行い、安全管理を徹底することが求められます。また、定期的にストレスチェックを行い、メンタルヘルス不調が深刻化しないよう管理しましょう。
ハラスメントのない会社を実現させるためには、従業員への周知・啓発を実施するとともに、社内外への相談窓口の設置、上司や管理者との面談などを実施し、風通しのよい職場をつくることも重要です。
時代に応じた多様な働き方の導入
人手不足の深刻化が見込まれるなか、年齢や性別に関わらず、希望する人が能力を発揮して働ける環境をつくることは非常に重要です。共働き家族や高齢者、非正規雇用の労働者など、それぞれの労働者が事情に応じた働き方を選択できるよう、多様な働き方の導入が求められています。
そのためには、アルバイトやパートタイマーなどの非正規社員の処遇・待遇の改善をはじめ、時短勤務やテレワークなどの柔軟な勤務形態の導入を視野に入れなければなりません。自らの事情に応じてストレスなく働けるような制度を整えることで、育児や介護、定年退職といったライフステージの変化による離職を防止できます。
さらに、新型コロナウイルスの感染拡大に伴い、人との接触を避ける“新しい生活様式”が浸透しつつあります。生活習慣にも大きな変化が訪れるいま、通勤をしなくてもよい在宅勤務の必要性も高まってきています。テレワーク導入には就業規則等や社内管理体制の整備も不可欠となるため、労務に詳しい弁護士に相談することをおすすめします。
モチベーションを維持するための施策
長く安定して働き続けてもらうためには、従業員のモチベーション管理も大切です。「成果を残したのに評価につながらない」「目標達成できずやる気がでない」「人間関係が難しくて困っている」などの状況は、従業員のモチベーション低下につながるおそれがあります。
モチベーションを維持するための施策には、以下が挙げられます。
- 能力やスキルに応じた評価制度の導入
- 成果、売上に対するインセンティブの設定
- ノウハウや技術の社内共有・教育体制の構築
- 社内コンテストなどのチャレンジシステム、社内公募制度の導入
- 資格の取得支援やスキルアップのための制度の導入
- 福利厚生の充実
- 社内研修やレクリエーション、社内通貨の導入
従業員のモチベーションが向上すると、生産性向上や従業員満足度の向上といったメリットが得られるほか、働きやすい・働きがいのある企業として、社会的信用の向上にもつながります。人材確保や定着率アップに向けて、新たな制度設計も視野に入れるべきといえるでしょう。
トラブルを社内で解決できる仕組みづくり
たとえ労働環境の改善に努めていても、労使間ではさまざまな労務トラブルが発生する可能性があります。残業代の未払い問題や、人事トラブル、パワハラ・セクハラなどのトラブルを肥大化させないためには、問題が公になる前に解決を図る「相談窓口」や「内部通報制度(公益通報者保護制度)」を設けておくことが重要です。
内部通報制度や相談窓口がなければ、万が一問題が起きた際に、従業員が弁護士に相談し、紛争化したり、行政機関やメディアなどに直接通報されることにより、社会的評価や信用を大きく損ないかねません。
組織内部、あるいは法律事務所などの外部窓口を通報ルートとすることで、問題が公になる前に不正や法令違反について迅速に対応することができます。情報流出による企業への損失を最小限に抑えられる効果があるほか、自社で不正や法律違反を発見し、解決できる自浄作用のある企業として社会的評価を得ることができます。
しかしながら、ただ制度を設置するだけでは意味がありません。制度を導入しているものの形骸化しているケースも多いのが実情です。企業規模が大きければ社内専用の相談窓口を設けているケースもありますが、正しい利用方法が認知されていない場合もあります。結果的に、従業員とかかわりのある上司や人事担当者が相談窓口となることも多く、通報後の不利益な取り扱いを恐れて、相談に足踏みしてしまう従業員も珍しくありません。
この問題を解決できるのが、弁護士を活用した社外相談窓口の設置です。弁護士と契約を結び社外相談窓口を設置することで、従業員が気軽に相談できるだけでなく、経営側は的確な問題解決方法の助言を受けることができます。弁護士による相談窓口は、企業にとっても従業員にとってもメリットが大きく、労働問題を防止できる最適な仕組みです。相談窓口をまだ設置していない企業は、弁護士の社外相談窓口サービスの利用を検討するとよいでしょう。
労働環境整備の第一歩は就業規則の整備から
労使間トラブルを発生させないための、労働環境作りの第一歩は「就業規則の整備」からスタートします。労働基準法では従業員を10人以上抱える事業所は就業規則を作成することが義務化されています。ですが、労働問題を発生させないためには従業員が少ない時期こそ、就業規則の整備が重要です。就業規則で給与や退職金、勤怠や懲戒、休職などの規定を細かく整備しておくことは、従業員への伝達コストの軽減や不公平感への払拭へとつながります。
就業規則は、厚生労働省がテンプレートをサイトにアップロードしていますので、それを利用するという手もありますが、労働環境の整備のためには「オーダーメイド」の就業規則を作成しておくことを強くお勧めします。
就業規則は、働き方だけでなく企業の特色や業態によっても変化させなければなりません。テンプレートの就業規則では細かい部分が実態に即さず無用の長物となりかねないのです。就業規則は、企業の成長や変遷によって柔軟に変更し、常にリスクに備える必要があります。就業規則を整備していなかったばかりに、「問題社員を懲戒処分することができない」、「固定残業代制度を導入したけど就業規則に記載しなかったせいで多額の残業代を支払うことになった」などのトラブルは多数発生しています。
このような労使間トラブルを発生させないためには、企業法務を専門分野としている弁護士や社会保険労務士に依頼して、それぞれの企業にマッチした就業規則を作成しておくことが重要です。
労務環境に関するアドバイス全般のまとめ
現在、さまざまな企業が人手不足の課題を抱えています。安定した経営を維持していくためには、人材確保に向けた取組が急務といえるでしょう。
長時間労働や残業、ハラスメントなどの労務トラブルは、健康面でのリスクやモチベーション低下により離職につながるリスクがあります。貴重な人材の流出を防ぎ、人材確保を進めていくためにも、労働環境の改善が不可欠です。働きやすい労働環境に改善することにより、残業未払いなどの労使間トラブルの防止や、労働災害リスクの軽減、従業員の定着、トラブルの早期沈静などのさまざまな効果が見込まれます。
そのためには、就業規則の適切な整備をはじめ、労働災害防止に向けた安全管理体制の構築、多様な働き方の導入、社内相談窓口の設置などのあらゆる対策を講じる必要があります。なお、新しい制度の導入には、各種契約書や管理体制の見直しも必要になるため、労務を専門分野としている弁護士へ相談することが望ましいでしょう。
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