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 問題解決への手がかり 不動産コラム

国土交通省策定「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」について

売買や賃貸借などの不動産取引の対象となる取引不動産について、居住・事業用等として使用するのに物理的には欠陥がないものの、心理的な嫌悪感等により取引不動産の十分な使用が妨げられるような欠陥がある場合を、「心理的瑕疵」といいます。

 この心理的瑕疵として、よく問題となるのが、取引不動産について人の死が発生した場合です。取引不動産について人の死が発生した事案について、心理的瑕疵に該当する場合、売主・貸主は告知義務を負い、告知義務を果たさずに不動産取引を行った場合には買主や借主から瑕疵担保責任(契約不適合責任)に基づく契約の解除や損害賠償請求をされかねません。また、売主である宅地建物取引業者や、媒介・代理を行う宅地建物取引業者は、宅地建物取引業法上、取引不動産について取引の相手方の判断に重要な影響を及ぼす事項について告知義務を負っており、心理的瑕疵に該当する場合は、取引の相手方に当該事実を告知しなければなりません。

 これまでは、取引不動産について人の死が発生した事案について、宅地建物取引業者が負う告知義務や、調査義務に関して、裁判例は蓄積されてきていたものの、明確な基準がありませんでした。明確な基準がないために、宅地建物取引業者の負担が過大になっていたり、本来心理的瑕疵には該当しない自然死まで心理的瑕疵に該当するという誤解により単身高齢者の住居の確保が困難となっていたりという問題が発生していました。これらの問題に対応するため、令和3年10月8日、国土交通省が「宅地建物取引業者による人の死の告知に関するガイドライン」を策定、公表しました。
 
 宅地建物取引業者にとって、重要なガイドラインとなりますので、以下ではその概要をご説明いたします。なお、ガイドラインの詳細につきましては、国土交通省のホームページに掲載されておりますプレスリリースやガイドライン等をご参照ください。

1 ガイドラインの対象

(1)対象となる取引主体

 本ガイドラインの対象は、一般の売主・貸主ではなく、自らが売主となる又は媒介を行う宅地建物取引業者になります。
本ガイドラインは、実際の不動産取引では、宅地建物取引業者が売主となる又は媒介をするケースが多数であり、告知義務が果たされるか否かは宅地建物取引業者によることが多い点を踏まえて、取引不動産について人の死が発生した場合に宅地建物取引業者が、宅地建物取引業法上の義務として、取るべき対応について一般的に妥当であると考えられるものがまとめられています。

(2)対象とする不動産

本ガイドラインの対象となる不動産は居住用不動産に限定されています。事業用途と比べて、居住用不動産の方が取引不動産に発生した人の死が与える影響が大きいと考えられるためです。

2 宅地建物取引業者の調査義務について

 宅地建物取引業者は、宅地建物取引業法上、販売活動・媒介活動に伴う通常の情報収集を行うべき義務を負っていますが、取引不動産について人の死に関する事案が生じたことを疑わせるような特段の事情がなければ、近隣住民等に聞き込みや、インターネット等で検索する等して自発的に調査すべき義務までは負っていないとされています。
 なお、宅地建物取引業者が媒介を行う際には、売主・貸主に対して、告知書等に過去に生じた事案についての記載を求めることにより、宅地建物業者が媒介活動に伴って通常負う調査義務は果たしたものとするとされており、後日、告知書等に記載のなかった死の発生に関する事実が判明しても、宅地建物取引業者に重過失がない限り、調査義務は果たされものとするとされています。もっとも、宅地建物取引業者は、売主・貸主が適切に告知書等を記載するようにするため、売主・貸主に対して、故意に人の死の発生の事実を告知しなかった場合には、損害賠償責任等の民事上の責任を問われる可能性があることを予め伝えることが望ましいとされています。
 なお、告知書等により、売主・貸主からの告知がない場合であっても、人の死に関する事案の発生を疑う事情がある場合には、売主・貸主に確認する必要があるとされています。

3 宅地建物取引業者の告知義務について

(1)告知しなくてもよい場合
 取引不動産に関する人の死に関する事案のうち、以下の3つのような場合には、告知義務は負わないとされています。
第一に、自宅で通常発生する老衰、病死等のいわゆる自然死や、事故死のうち、階段からの転落や入浴中の溺死、転倒事故等の日常生活の中で生じた不慮の事故による死(①)については、一般的に心理的抵抗感・嫌悪感は強くないため、原則として、告知する義務はないとされています。ただし、自然死や日常生活の中で生じた不慮の事故死であっても、孤独死などで遺体の発見が遅れて、特殊清掃や大規模リフォーム等が行われた場合は、買主・借主が契約を締結するか否か判断する際に重要な影響を及ぼす可能性があるため、概ね3年間は告知義務を負うとされています。
 第二に、賃貸借取引の対象不動産において自然死・不慮の事故死以外の死が発生又は自然死・不良の事故による死であっても特殊清掃等が行われることとなった死が発覚して、3年が経過した場合には、原則として、告知しなくてよいとされています。ただし、事件性、周知性、社会に与えた影響等が特に高い事案については、除かれており、事案に応じて告知しなければならないか否か判断する必要があります。
 なお、集合住宅の共用部分のうち、借主が日常生活で通常使用する必要があり、住み心地の良さに影響を与える部分については、賃貸借取引の対象不動産と同様に扱うとされています。
 第三に、賃貸借取引及び売買取引の対象不動産の隣接住戸又は借主若しくは貸主が日常生活において通常使用しない集合住宅の共用部分において、自然死・不慮の事故死以外の死が発生した場合又は自然死・不慮の事故死が発生して特殊清掃等が行われた場合についても、告知しなくてもよいとされています。ただし、事件性、周知性、社会に与えた影響等が特に高い事案については、除かれており、事案に応じて個別に告知しなければならないか否か判断する必要があります。

(2)上記(1)の3つ以外の場合
 上記(1)の3つ以外の場合は、宅地建物取引業者は、取引の相手方等の判断に重要な影響を及ぼすと考えられる場合は、買主・借主に対してこれを告げなければならないとされています。
 なお、告知内容は、上記2の調査を通じて判明した、事案の発生時期(特殊清掃等が行われた場合は発覚時期)、場所、死因(不明な場合はその旨)及び特殊清掃等が行われた場合にはその旨とされています。なお、告知する際には、亡くなった方や遺族の名誉や生活上の平穏を害することのないように、氏名、年齢、住所、家族構成や具体的な死の態様、発見状況等を告げる必要はないとされていますので、ご注意ください。 

(3)買主・借主から問われた場合及び貸主・借主において把握しておくべき特段の事情があると認識した場合等
 そのほかに、買主・借主から、死因や事案発生からの経過期間にかかわらず、人の死に関する事案の発生の有無について問われた場合や、社会的影響の大きさから買主・借主で把握しておくべき特段の事情があると認識した場合等については、宅地建物取引業者は、これを告げなければならないとされています。告知内容は、上記(2)と同様です。

 以上のとおり、本ガイドラインは、取引不動産について人の死が発生した事案に関して、宅地建物取引業者が負う調査義務や告知義務を判断する際に、有用なものとなります。しかし、個々の具体的な事案について調査・告知義務を負うか判断するには、本ガイドラインを機械的に適用することはできず、依然として、個々の事案ごとに取引の相手方の判断に重要な影響を及ぼすか否かという観点から、慎重に検討する必要がありますので、ご注意ください。また、転落により死亡した場合における落下開始地点の取り扱いや、居室ではなく搬送先の病院で亡くなった場合などの事案や、人の死に関する事案ではない心理的瑕疵については、本ガイドラインの対象外とされておりますので、判断に迷う場合は、弁護士などの専門家に相談されることをお勧めいたします。

監修者

弁護士法人キャストグローバル 企業法務担当

〒101-0054 東京都千代田神田錦町2-11-7小川ビル6階

[相談受付]03-6273-7758

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