入管法が改正~新たな在留資格「特定技能」とは~
建設・外食・宿泊・農業などの業種では人手不足が深刻化していると聞きます。新たな在留資格である「特定技能」についてご存じでしょうか。2019年4月1日より入管法が改正となり、深刻な人手不足の状況に対応するために導入された新たな制度です。これまでは、建前は別として人手不足を解消する目的から事実上技能実習制度が利用されてきました。新たに導入された特定技能ビザの創設により何がかわるのかについてご説明いたします。
「特定技能」とは
特定技能とは、2019年4月1日より施行される改正入管法により新たに導入される就労ビザに関する制度です。特定技能制度は、人材不足が深刻な14業種を対象に、一定の技能と日本語能力のある外国人に日本での就労を認める新たな在留資格です。
特定技能制度の対象となる14業種とは下記のとおりです。
【分野所轄行政機関:国土交通省】
1 建設業 ②造船・舶用工業 ③自動車整備業 ④航空業 ⑤宿泊業
【分野所轄行政機関:厚生労働省】
⑥介護 ⑦ビルクリーニング
【分野所轄行政機関:農林水産省】
⑧農業 ⑨漁業 ⑩飲食料品製造業 ⑪外食業
【分野所轄行政機関:経済産業省】
⑫素形材産業 ⑬産業機械製造業 ⑭電気電子情報産業
特定技能制度は、在留資格の交付に関しては法務省が所管するものの、対象となる業種に関しては各担当省庁が所管しています。
また、特定技能制度には、「特定技能1号」と「特定技能2号」があります。この両者の違いは、1号が通算5年までしか日本に在留できないビザであるのに対し、2号ではそのような制限がありません。加えて、1号では原則家族の帯同が認められないものの、2号では認められます。
特定技能1号とは
特定技能1号とは、不足する人材の確保を図るべき産業上の分野に属する相当程度の知識又は経験を要する技能を要する業務に従事する外国人向けの在留資格です。特定技能1号で在留する外国人は「1号特定技能外国人」といいます。
また、1号特定技能外国人には、ある程度日常会話ができ、生活に支障がない程度の能力を有することを基本とされ、特定産業分野ごとに業務上必要な日本語能力水準が求められます。
また、在留期間については1年、6か月又は4か月の更新であり、前述のとおり通算で上限5年までの制限があります。このため、特定技能1号による滞在では通算5年の制限があるため、その後は帰国することとなります。
特定技能1号の申請を行うには、日本国外の試験実施国にて日本語能力に加え、仕事に関する相当程度知識・経験についての試験に合格する必要があります。ただし、制度開始当初は、上記試験を実施する試験実施国は数か国に留まることから、実質的には数年間は技能実習から特定技能への在留資格への変更が主となります。
特定技能1号へのビザの切り替えが想定される技能実習生は、技能実習2号を優良に終了している実習生です。技能実習2号の外国人とは、技能実習制度で日本に在留する外国人で、2・3年目となる者です。ただし、すべての技能実習生が2年目以降に日本に在留し技能実習2号となるわけではありません。
技能実習2号を修了している外国人はその日本語能力及び仕事に関する相当程度知識・経験についての証明が免除されているため、別途所定の試験を受験する必要はありません。
特定技能2号とは
特定技能2号とは、特定産業分野に属する熟練した技能を有する外国人向けの在留資格です。基本的には特定技能1号の修了者が次の段階として切り替えることを目的としています。
特定技能1号が認められる14業種のうち、上記のようなビザの切り替えの対象となるのは、建設業と造船・舶用工業の2業種のみに限定されています。加えて、特定技能制度開始より数年間は、この2業種に従事する外国人であっても特定技能2号は認められない見通しです。
前述のとおり特定技能2号は、特定技能1号と異なり期間更新に制限がないことから、永住権の取得要件の1つである日本滞在期間10年間の要件を達成する可能性があります。
特定技能制度を活用した人材の確保について
人手不足の解消を目的として、特定技能制度を活用したいといった会社は少なくはないと思います。
人手不足の解消として、事実上活用されてきた技能実習制度と特定技能制度の違いは、関わる当事者が少なくなるため、運用スキームが簡素化されて利用しやすいといったメリットがあります。
技能実習制度の場合は、国際貢献としての仕組みであることであるため、日本と相手国との取り決めが前提となります。
また技能実習制度には、企業単独型と団体監理型がありますが、事実上は団体監理型が主となっています。企業単独型とは、日本の会社が海外の現地法人や合弁企業、取引先企業の常勤職員を直接受け入れるものです。一方、団体監理型とは、海外の送り出し機関と日本の商工会議所などの事業協同組合が契約を結び、その契約を基礎としてその傘下の受け入れ企業が実務研修を行うというものです。
対象となる相手国は15か国に限定され、かつ、対象国における送り出し機関、日本における監理団体、実習生を受け入れ機関、そして実習生と関係当事者が多く非常に煩雑です。
一方で、特定技能制度は理論上、対象国は限定されずまた関係当事者も基本としては当該外国人と受け入れ機関となりとても簡素なスキームとなります。また、間に関与する当事者が少ないことから、受入企業にとっては「どういった外国人を雇用したい
などの意図を反映させやすく裁量権の幅が大きくなります。
採用時機の調整による持続的な人材の確保
特定技能制度においては、しばらくの間は特定技能1号が主流となることが予想されます。1号特定技能外国人は基本的には、5年間限定で在留が認められるため5年の期間経過後、かならず帰国することになります。
つまり、1号特定技能外国人を雇用した場合、その者の退職時期はある程度明確であるといえることから、あらかじめ5年単位で外国人人材の採用計画を立てることができます。これにより、比較的安定的な人材の確保が可能となるものと思われます。
ただし、特定技能1号は同一業種間での転職が可能であるため、待遇面が悪いなどの事情がある場合には5年の期間を待たずに他社へ転職されてしまうといったことが想定されます。
また、失踪者が続発するような会社では、1号特定技能外国人の受け入れ先として適切ではないとして、ビザが発行されない可能性が高まります。
特定技能制度では対象となる外国人は転職できるか
技能実習制度における実習生は、建前としては技能や知識を習得することを目的とすることから、原則的には転職(実習先を変更する)といったことは認められていません。
一方で特定技能制度では、原則として同一の業種間であれば転職も認められます。また一部の特定技能外国人は、業種の区分を超えて転職することが可能です。例えば経済産業省所管分野の素形材産業、産業機械製造業、電気・電子情報関連産業においては共通の技能を生かして転職が可能です。
特定技能外国人受け入れ企業における注意点
ここまでは特定技能制度の概要と、人手不足解消のために代替的に用いられてきた技能実習制度との比較、及び特定技能制度の利点についてご紹介してきました。
しかし、本制度には受け入れ企業に一定の責任があり、リスクとして認識しておく必要があります。
とくに、特定技能外国人を受け入れるには「特定技能雇用契約」を結ぶ必要があり(改正入管法2条の5)、制度上、その内容として「帰国を確保する措置」を盛り込むように求められています。
「帰国を確保する措置」とは、雇用期間を満了した際に特定技能外国人が帰国する必要がありますが、本人がその費用を工面できない場合には、受け入れ企業がその費用を工面するように求めるものです。
仮に特定技能外国人を雇用していた会社において、帰国の確認を怠りその外国人が失踪してしまったような際は、それ以降の外国人の受け入れが困難となる可能性が高まります。このような場合には特定技能ビザの発行に限定されず、その他の就労ビザを含めて困難となるものと予想されます。
まとめ
特定技能制度は2019年4月1日にスタートしたばかりの制度であり、弁護士・行政書士などの実務家を含め、手探りで運用を開始している段階です。昨今人手不足が著しい、建設、介護・福祉、外食業等の分野では制度活用が期待されます。気になる方は弁護士に相談してみてはいかがでしょうか。