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吸収合併契約書とは
合併というと二つ以上の企業が一つになるというイメージで、広く耳馴染みのある言葉ではないでしょうか。似たものとして買収がありますが、買収は他の会社・事業などの経営権を買い取る事に対し、合併は先の通り二つの会社を一つにまとめることです。様々なメリットを生み出せる合併ですが、ここでは「吸収合併」に焦点を当て、契約のメリットや実際に契約を交わすことになった場合の注意すべき手順や重要な項目などについてご紹介します。
- 吸収合併が適切な場合とは
- 合併前のデューデリジェンスの必要性
- 会社法上の必要的記載事項が網羅されているか
- 契約締結後、合併の効力発生までに解除した場合、周囲への影響が大きいため、契約締結には慎重な判断が必要
- 吸収合併契約締結時からクロージング日までの間に一定の事由が生じた場合の解除条項(MAC条項)があるか注意
- 金商法、独占禁止法に基づく届け出義務や米国証券法に基づく義務が発生する場合があるので注意
吸収合併契約をするメリット
吸収合併とは、一企業が他の企業と合併する方法の一種で、合併により消滅する企業の保有していた権利義務の全てを、合併後に存続する企業に承継させることを指します(会社法第2条)。
吸収合併と似た手法に新設合併があります。新設合併は、合併する会社をいったん解散させ、新たな会社にそれぞれの資産や権利を移す方法です。
吸収合併は、主にグループ企業の再編を目的として行われます。グループ子会社同士で吸収合併を行う場合、類似した業務を行なっている子会社を統合したり、経営の効率化を図ったりするのです。吸収合併は子会社同士だけでなく、大企業同士においても行われることも。こうした大型合併の場合、ブランド力の強化や業界全体に再編を促すといった目的を孕んでいることがあります。
吸収合併には多くのメリットがあります。グループ内の子会社同士であれば、組織をシンプルにできる、内部統制の強化、人件費・設備費のコスト削減などがあります。グループではない大企業同士の合併においては、ブランド力・競争力の強化、事業規模の拡大、事業シナジーの発生といった自社内でのメリットに加え、業界全体の再編・成長を促すことができるといった魅力もあります。
以下に他のメリットもリストで掲載しておきます。
- 同業他社との合併により競合が減る
- 従業員の間に仲間意識が生まれる
- 販路拡大や大量発注などのスケールメリットが得られる
- 組織のスリム化
- 事業シナジーを起こせる
- 内部統制の強化
- 人件費・設備費などのコスト削減
- 後継者問題などの事業継承に関する懸念を払拭できる
- 管理会計を導入しやすい
- ブランド力の強化
- 損益通算
- 繰越欠損金の引き継ぎ
- 資金移動の簡易化
- 既存契約の再締結の必要がない
反対に、社内の人間関係や既存のルールの変更、業務量増加など従業員にかかるストレスや、合併における対応コストや株価の低落などといった財政面でのデメリットも発生する恐れがあるので注意する必要があります。また、事業譲渡契約とは異なり、消滅会社の権利の全てが合併会社に承継されます。多くのメリットが存在する吸収合併ですが、M&Aの手法として吸収合併が良いのかは慎重に見極めるようにしましょう。
合併前の情報収集としては、デューデリジェンス(Due Diligence)を活用することも有効な判断材料になるでしょう。デューデリジェンスには多くの種類がありますが、M&Aにおいて用いられるのは事業、財務、税務、法務の四種類が主要なもので、人事、IT、知的財産などの分野もあります。合併の検討において必ずしも全てを実施する必要はなく、多くの場合では分野を絞って限定的に行われます。
デューデリジェンスは社内で行うことも可能ですが、専門的かつ高度な知識を必要とするため、多くの企業は専門業務に対応している企業や個人に委託します。デューデリジェンスを外部へ委託する場合には、専門企業の選定も念入りに行うのが良いでしょう。
吸収合併の手法や手順・流れ
吸収合併には様々な手続きが必要になり、期間も相当な日数を要することになります。ここでは、吸収合併に至るまでの手順についてご紹介します。
1.合併契約書の作成
合併会社と消滅会社とで合併契約書を作成します。合併契約書に記載しなければならない事項は、会社法第749条に記されています。
2.取締役会決議
取締役会にて合併に対する承認を得ます。取締役会をもたない企業においては、取締役の過半数の合意を得る必要があります。
3.合併契約の締結
当事者間で合併契約を締結します。この契約締結で、効力が生じる発生日や、存続会社が消滅会社に対して、株式・社債・現金の中からどれを対価として提供するのかなどを定めます。
4.反対株主に対する株式買取請求の通知・公告、債権者保護の手続き
吸収合併は、消滅会社の株主に大きな影響を与え、合併に反対する株主が出てくることもあります。そうした方々のために、株主には株式買取請求の権利が与えられており、企業はこれに対応しなければなりません。
同時に、官報公告と個別通知を行う必要があります。官報公告においては、合併する企業の情報や貸借対照表などを発表します。債権者へ個別通知を施した後、債権者異議を申し立てられた際は、債権の弁済、弁済に相当する担保の提供、財産の信託のいずれかをしなければなりません。この債権者保護手続きには1ヶ月以上の期間を設けなければならないという規定があります。
5.合併契約書などの備置
債権者保護手続きなどの合併にともなう手続きの開始日から、合併契約の効力が発生後6ヶ月まで、合併契約書などの書類を本社に備え置きます。
6.株主総会の承認
株主総会にて合併に対する承認を得ます。招集通知は、株式公開企業は2週間前まで、非公開企業は1週間前までに行います。
7.契約効力の発生
合併契約の効力が発生します。
8.合併による登記申請
契約の効力が発生してから2週間以内に、合併の登記申請を行います。この時、合併会社の変更登記と消滅会社の解散登記を同時に行う必要があります。
9.事後開示書類の備置
合併契約の手続きの経過について記載した事後開示書類を作成します。これも合併契約書と同様本社に備え置く必要があり、期間は合併効力の発生日から6ヶ月とされています。
以上が、吸収合併における一連の流れでした。多くの場合、2~3ヶ月の期間をもって手続きが進められます。
吸収合併契約のポイントまとめ
吸収合併におけるメリットやデメリット、実施する際の手続きの流れや必要となる期間などについて概説してきました。
吸収合併について知っておきたい事柄を、再度以下にまとめます。
- 吸収合併はM&Aの手法の一つ
- 吸収合併では、二社以上の企業が一つに統合され、そのうちの一社のみが存続する
- 権利義務をする企業を「存続企業」、合併により吸収される企業を「消滅企業」と呼ぶ
- グループ企業の再編に用いられることが多い
- 大企業同士の吸収合併は業界全体に大きな影響を及ぼすことができる
- 吸収合併の事前調査として関連するデューデリジェンスの活用が効果的
- 吸収合併の手続きは多く、フェーズによっては一定の期間が必要になる
- 一般的に手続き開始から完了までには2~3ヶ月の期間を要する
以上が、吸収合併のポイントでした。存続会社・消滅会社ともに、多くの組織的・財政的メリットが生まれる吸収合併ですが、先にお伝えした通り、様々なデメリットが生じる可能性もあります。特に、従業員にかかる負担は避けられません。そのため吸収合併後のアフターケアも適切に行う必要があります。
目先の利益や局所的なメリットにとらわれず、吸収合併に関する様々な事項を客観的に検討・判断することが不可欠です。相手企業の企業価値や財政状況、合併によって目的の遂行ができるのか、吸収合併という手段が目的遂行のためにもっとも適したものなのか、など懸案事項は多くあります。その一つ一つに対する疑問点や条件を解消し、存続会社・消滅会社の両社にとって最適なM&Aにできるよう法的な分野に強い弁護士にご相談ください。