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秘秘密保持契約書(NDA、CA)の書き方とひな形
秘密保持契約とは、取引を通じて知り得る情報を「その取引以外の目的で使用する」もしくは「第三者に開示すること」を禁止・制限する契約のことであり、それに付随する書類を「秘密保持契約書(NDA、CA)」といいます。
かなり重要な契約ではあるにもかかわらず、ネットで拾ったひな形を利用されていることが多い契約書かと思います。日本では、互いの信頼関係で秘密にしておいてくれているに違いないと思う方も多いですが、どう思うかその程度は人によって大きく異なります。
ビジネスシーンではよく秘密保持契約書のやり取りが行われますが、「実際にどの場面で必要になるのか」「契約書はどのようにして作成するのか」など、十分に理解しきれていない部分もあるのではないでしょうか。そこで本記事では、秘密保持契約書が必要になるシチュエーションや記載事項、作成から契約までの流れについても解説します。
- 秘密情報の範囲が漏れなく定められているか
- 秘密情報を開示できる範囲は適切か
- 秘密情報の取扱いについて規定されているか
- 情報開示側は情報漏洩があった際の開示を受けた会社の対応に注意
- 情報開示を受ける側は守るべき情報の範囲に注意
- 当事者間で協議し、秘密保持義務の内容を共通認識とすることが重要
情報漏洩防止のため、秘密保持契約はどういった場面で必要になる?
まず前提として、企業間取引において、何らの取り決めもなされないのであれば、秘密保持の義務は発生しません。そのため、相手方が当方の情報を漏洩した場合、それが故意であっても責任を問うことができないのです。しかしながら、取引によってやり取りされる情報が漏洩すれば、情報を保有していた企業の金銭的損失、ブランドイメージや顧客からの信頼低下などに繋がってしまいます。
これらのリスクを避けるためにも、秘密保持契約を締結して双方が情報管理義務を認識し、さらには何かトラブルがあった際には相手方の責任を追及できるように備えておくことが大切です。実際、株式会社ベネッセコーポレーションで顧客情報の漏洩事件があった際には、情報を持ち出した業務委託先の元社員が逮捕されています。このように、秘密保持契約はビジネスにおいて必要不可欠な契約といえます。
では、具体的にどのようなシーンで秘密保持契約を結ぶのか見ていきましょう。
業務提携
業務提携においては相互に情報を開示し、共に事業を行う必要があるため、秘密保持に関するリスクと常に隣り合わせの関係に身を置くことになります。損害の発生を防ぐためには、両者が等しく秘密保持義務を負う秘密保持契約の締結が欠かせません。
共同研究開発
業務提携の場合と同様、共同研究開発においてもお互いが情報を開示する必要があります。共同研究の対象の範囲内の情報に限られるかもしれませんが、内容によっては大きな損害になるでしょう。双方に損害が生じることを防ぐため、研究開発を開始する前に秘密保持契約の締結が必須です。
特許申請
先に出願した人に特許が認められるという先願主義が取られています。したがって、特許の情報が漏洩してしまうと、先に特許申請されてしまうということになりかねません。また、特許法第29条1項の「公然知られた発明」では、特許取得を許可しないと定めています。このような事態を防ぐため、秘密保持契約を締結して情報漏洩を未然に防ぐ必要があるのです。
不正競争防止
間接的ではあるものの、秘密保持契約が不正競争防止に役立つ可能性があります。例えば、自社で新しいプロダクトやサービスを開発していた際に秘密情報が漏洩し、第三者に同様のものを開発されてしまったという場合、「情報が営業秘密として管理されていた」という秘密管理性があれば、不正競争防止法によって、民事上・刑事上の措置を取ることが可能なのです。
秘密保持契約書の作成方法
秘密保持契約書は、当事者同士で協議して作成する必要があります。というのも、いかなる情報を開示するのか、どういう対応を求むのかということが、情報を開示する側と受け取る側で食い違うケースが多いからです。例えば、情報を開示する側は契約に適用される情報の範囲を広く定め、自社が保有する情報や企業自身の立場を守りたいと考え、情報を受け取る側は秘密保持の範囲をより限定的にし、できるだけ情報を自由に扱いたいと考えるでしょう。
相違によるトラブルを防ぐためには、双方に秘密保持が必要になる場合のみならず、一方だけが情報を開示する場合においても、秘密保持契約書を作成することが重要です。作成段階において欠かせないのは、情報を開示する必要性や目的について共通認識を築くということ。
具体的に、下記の項目を協議して秘密保持における共通の認識を持ちましょう。
- 秘密情報の範囲
- 秘密保持義務が発生する期間
- 秘密保持義務を負う人物
- 秘密情報を複製する場合の条件
- 秘密情報が漏洩した場合の賠償責任
経済産業省の「秘密情報の保護ハンドブック」では、「条項の内容(書きぶり)は、個別具体的事情を踏まえた上で書き分ける必要がある」としています。そのため、上記にあげた項目についての情報を記載することはもちろん、個別的・具体的な情報を精査し、当事者間の事情や取引の条件にあった契約内容にしていくことが重要です。
ひな形のダウンロードと弁護士による契約書作成、チェック
秘密保持契約書は当事者にて作成することも可能ですが、契約に関する詳細な知識が必要なうえに、作成を行うための人員や時間を作らねばなりません。そのため、ネット上でダウンロード形式できる無料で提供されている「ひな形」を使う、もしくは弁護士に作成してもらう方法がおすすめです。一から作成するよりも、効率的かつスピーディーに書類作成作業を終えられます。
ひな形のダウンロードによる作成
経済産業省は、ネット上で秘密保持契約のひな形を公開しています。「業務提携の検討における秘密保持契約書の例」や「業務委託契約書(抄)の例」など、契約を交わす場面に合わせた複数の雛形が用意されています。記述されている内容はごく標準的なものになっているため、このひな形をベースとして両者の協議を進めていくと良いでしょう。
秘密情報の保護ハンドブック/参考資料2 各種契約書等の参考例
弁護士による作成
秘密保持契約書は法律に詳しい専門の弁護士に依頼することが無難であり、「内容が実態に合っていない」「想定していたシーンで効力を発揮できない」といったトラブルを防ぐことができます。また、作成済み契約書のリーガルチェックや実際どのような点に配慮すべきかという運用上のアドバイスを受けられることも、弁護士に依頼するメリットの1つです。
契約書作成におけるチェック項目
契約書を作成し終えたら、双方で記載事項を確認する必要があります。契約を交わす場面によって柔軟に考慮すべき点にはなりますが、下記の項目を参考に確認を進めていきましょう。
- 秘密情報を使用する目的は正しいか
- 秘密保持義務の対象外となっている情報・業務は何か
- 秘密情報の目的外での使用を禁止しているか
- 秘密情報を複製する場合の条件が設定されているか
- 契約締結により生じた権利義務の、第三者への譲渡を禁止する条文が明記されているか
- 契約期間終了後の秘密情報の取り扱い(返還・破棄)が定められているか
- 情報漏洩時の対処法(損害賠償、差止)について明記されているか
- 秘密保持義務の期間はいつまでか
- 契約終了後も持続する箇所について何が記載されているか
- [共同研究の場合]知的財産権の出願についての条件が定められているか
- [共同研究の場合]第三者との共同研究の禁止事項があるか
これらの中でも、
- 秘密情報とは「何を」指すのか
- 保持義務は「いつまで」負うことになるのか
- 万が一情報漏洩が発生した場合や第三者との関わりが生じた場合に「どのような対応」をするのか
という3点が秘密保持契約書において重要なポイントとなります。
これらの情報が当事者の事情と合っていなければ、結果的にトラブルに繋がったり、双方もしくは一方が被害を被る可能性があります。秘密保持契約書は諸契約の中でも比較的扱う場面の多い契約であり、内容確認が疎かになってしまいがちですが、内容に欠陥がないか入念に確認しておきましょう。
M&A契約のための秘密保持契約書の手続きの進め方
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契約のきっかけ
相手企業とのトップ面談・双方の合意
事業にまつわる法律的なアプローチを行う上で、各企業の内部情報・機密性の高い情報を関係各所と共有していただく必要があります。その際、他者へ情報を漏らさないことを契約書の文面においてまずもって明記・約束させる必要があります。
M&Aを検討している、提携を検討している、投資・出資を検討している、といった場合には、秘密保持契約の締結がまず必要です。意思決定サポート
初回相談あるいは、初回相談実施前の契約取り交わしをご提案させていただきます。
弁護士以外にも、銀行や税理士・会計士、M&A専門のコンサルティング会社などの関与が想定されますが、いずれの場合でもまず最初に秘密保持契約を締結されることをお勧めします。 -
契約打診
競業他社等にM&Aを検討していることを知られないようにしたい、といった場合にも秘密保持契約書内で盛り込んでおきましょう。
会社従業員や取引先のM&Aを検討していることを知られないようにしたい場合にも、社内外での秘密保持について定めることが重要です。
専門家の選定・委託に向けた手続き
秘密保持契約の内容としては、
●契約の目的
●秘密情報の範囲(※基本的には提供された経営上、技術上等情報の一切とします。ただしすでに世の中に知られていた事実や、元から知っていた情報、
●秘密保持義務の内容
●目的外使用の禁止
●損害賠償、差し止め
●複製の禁止
●情報の返還あるいは破棄
●契約期間
●反社会的勢力の廃除
が一般的です。加えて、個別の状況に応じて契約内容に盛り込む必要があるでしょう。
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基本事項のすり合わせ
方針から導きだされる実施事項の精査・検討
M&A実施において、外部の各種専門家に依頼するかしないか未定の段階においても、相談段階での秘密保持について誓約してほしいという場合も、秘密保持契約は有効です。
簡易調査・スキーム決定・企業価値評価・スケジュールの作成
基本的にはM&A用の秘密保持契約書はM&Aを検討していることそのもの、企業経営上の最高レベルの情報が当事者以外に漏れないこと、その情報を使わないことを誓約するものとなります。共に実現に向けて動く弁護士や専門家との間で取り交わすものについては、内容面での齟齬は生じないことと思います。M&Aの相手方とは、内容について検討が必要です。
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秘密保持契約・NDA締結の注意点
秘密保持契約・NDA締結
秘密情報の漏洩の疑いがある、漏洩している、など不履行が露見した場合にM&Aを破断にするとともに、損害賠償除を求めることがあります。
秘密とすべき事項が新たに出てきた、その他条件・内容に変化が生じた、といった場合には、契約を巻きなおす必要性が生じます。
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その他トラブル
秘密保持契約・NDA締結後のトラブル
秘密情報の漏洩の疑いがある、漏洩している、など不履行が露見した場合にM&Aを破断にするとともに、損害賠償除を求めることがあります。
継続的なトラブル対応
契約解除があったとしても、秘密・機密の遺漏、使用をさせるわけにはいきませんので、一定期間効力を残す条項を設定することが重要です。