目次
株式交換契約書とは
M&Aにおける組織再編手続きの1つ「株式交換」を行う場合は、当事者間で株式交換契約を締結する必要があります。この契約において作成する書類には、会社法に基づいて様々な事柄を記入せねばなりません。ただし、どのような内容が必須なのか理解しきれていない方もいるのではないでしょうか。この記事では、株式交換契約の基礎知識から、契約書に記載するべき事項や注意点などについて解説します。
- 会社法上の必要的記載事項が網羅されているか
- クロージング日までに行うべき前提条件を確認
- 立場によって表明保証の内容が異なるので確認
- 株式交換を実行するために必要な手続きを契約上の義務として規定する
- 完全子会社となる会社が新株予約権付社債を発行していた場合、債権者保護手続が必要となるので注意
- 金商法、独占禁止法に基づく届け出義務や米国証券法に基づく義務が発生する場合があるので注意
株式交換契約書に必要な記載事項
株式交換契約とは、特定の株式会社を完全子会社化するために行われる、M&Aで用いられる手法のひとつです。一方の企業が相手方企業の株式を取得して、その対価として当該会社の株式を交付することで、完全親会社化・完全子会社化による事業編成を目的としています。株式譲渡と比べると検討期間や手続きに時間と労力がかかるため、契約にあたり慎重な判断が必要です。
親会社側は、子会社化する企業の対価として株式を交付できるため、買収などM&Aに必要な資金を準備しなくてもよいという利点があります。子会社としても、株式交換によって変更が生じるのは「株式を保有する株主」のみであるため、組織については変更が伴わず、既存の法人格がそのまま存続するのが大きな特徴です。合併や株式譲渡とは違い、運営に影響を及ぼすことがないため、お互いに親会社・子会社として独立した経営が可能になります。
契約書の作成時にあたっては、株式交換を行う当事者の基本的な情報に加えて、契約による効力の発生日や交換する株式比率など、会社法768条に則って具体的に明記しなければならないため、書類作成には十分な注意を払わなければなりません。
株式交換後には、親会社に対して100%の完全支配関係が生じることになるため、今後の経営において紛争が起きないよう、法令の知識を持ったうえで、慎重に交渉を進めることが大切です。なお、契約締結の証拠として、本書は親会社と子会社それぞれ2通作成し、代表者の記名と押印のうえ、各1通を保有することになります。
記載するべき代表的な条項には、以下が挙げられます。
1.株式交換の目的
親会社が「甲」、子会社が「乙」となり、甲乙それぞれが完全親会社・完全子会社になることを記載します。
2.株式交付日
株式交換を実施する年月日を契約書に記載します。ただし、手続きの状況によって進捗が遅れる可能性があるため、甲乙の協議のうえで期日を変更できる旨を規定しておくのが望ましいといえます。
3.定款の変更
株式交換によって変更される会社の商号や所在地、発行株式数などを記載します。また変更が有効になるのは「株式交換の日」であることも追記しておきましょう。
4.対価の割当について
親会社(甲)は、株式交換の対価として、普通株式を子会社(乙)に対して、自己株式を割り当て交付する旨を記載します。加えて、「普通株式を割り当てる割合」についても明記しておかなければなりません。
ただし、株式交換における対価の支払方法には、自己株式だけでなく、新株予約権や新株予約権付社債などの「有価証券」や他者株式、現金以外の資産を用いることも認められています。その際は、支払う対価の種類や算出方法について明記する必要があります。双方にとって重要度の高い項目となるため、必ず正しい内容を記載しましょう。
5.資本金および資本準備金
株式交換によって親会社が子会社に対して新株を発行する場合には、資本金もしくは資本準備金が増加することとなります。この場合、どちらを増加するかについて契約書に記載しておく必要があります。
6.表明保証
表明保証とは、甲乙がお互いに対して正当な取引を行ったことを宣言するためのものです。自己株式が株主名簿の通りであることや、株主に反社会的人物が存在しないこと、提出した財務諸表などが真実かつ適正であることなどを記載します。また、契約締結にあたり、取締役会の決議をはじめとする一切の手続きを完了していて、法律に違反しないことも保障します。
加えて、締結後にトラブルが起こり得ることを考慮して、自社が第三者から何らかの訴訟やクレームを受けていないことや、責任の帰属に関する重大な債務が無いことも盛り込むのが望ましいでしょう。
7.株式交換承認総会
株式交換を行うには、臨時株主総会を開いて、株主の3分の2から同意を得なければなりません。契約書には、株主総会を実施する日付を記載するとともに、何らかの事情によって変更が生じた場合には、甲乙の協議によって開催日を変更できる旨を記載します。
8.会社財産の管理(善管注意義務)
株式交換が行われる日まで、甲乙それぞれの会社が自らの業務や財産の管理などを適切に行わなければなりません。この条項では、お互いが自社の財産を管理することや、権利義務に重大な影響を及ぼしかねない好意を行わないよう、規定しておく必要があります。ただし、相手方から書面によって承認を得た場合には、例外が認められています。
9.株式交換の交付金
親会社から完全子会社となる株主に対して、株式の交付に加えて交付金の支払が発生する場合は、「一株いくらにあたるのか」1株あたりの交付額と支払期日を記載する必要があります(交付金の支払が無い場合には、必要ありません)。
10.役員とその任期について
株式交換が行われたあとの、甲と乙のそれぞれの役員(代表取締約や監査役など)の取り扱いについて明記します。株主交換前に就任していた役員に変更がない場合は、役員とその任期に変更がない旨を記載しましょう。
11.契約条件の変更および解除
株式交換を締結した後に、双方の会社の経営状況などに重大な影響が生じた場合は、双方にとって不利益が被るリスクがあります。こうした場合に備えて、資産状況などで問題が発生した場合には、甲乙の協議のうえで契約を解除できる旨を定めることが可能です。加えて、契約解除に伴う損害賠償請求をしない旨を明記することが一般的です。
12.管轄となる裁判所について
株式交換によって紛争が起きた場合に備えて、特定の地方裁判所を第一審の専属的な管轄裁判所とすることを、双方の合意のうえで規定する必要があります。
契約に必要な手続きや注意点とは
株式交換を実行するには、締結にあたってさまざまな手続きが必要になります。
ここでは、株式交換契約に必要な手続きの流れと、その注意点について分かりやすく解説します。
1.株式交換契約の締結
株式交換契約を締結するにあたり、あらかじめ当事者間(完全子会社・完全親会社)で合意することに加えて、それぞれが取締役会の決議によって承認を得なければなりません。取締役会によって承認を得られた段階で、親会社と小会社の間で株式交換契約が締結されることとなります。
2.事前開示
完全子会社と完全親会社、双方の本店で一定の期間だけ株式交換契約の内容が記載された書類、または電磁的記録を備置する必要があります。株主総会の2週間前または株主や債権者への公告・通知した日のうち、早い方を備置期間の開始日とし、株式交換の効力発生日から6ヶ月後を終了日とします。
3.株主総会
完全子会社・完全親会社ともに、効力発生日の前日までに株主総会を開催し、特別決議によって契約書の内容を承認されなければいけません。議決権を所有する株主が過半数以上出席し、そのうち3分の2が賛成して初めて承認となります。なお、例外として株主総会決議が不要になるケースもあります。完全親会社が完全子会社に対価として渡す資産が純資産の5分の1である場合(簡易株式交換)、または完全子会社の決裁権の90%以上を完全親会社が保有している場合(略式株式交換)は、株主総会が不要です。それぞれの株式の比率を予め積めておく必要があるでしょう。
4.登記申請
株式数や資本金に変わりがない場合は、登記申請の必要はありません。しかし、現金や新株予約権を対価とする場合には、完全親会社と完全子会社の双方で登記申請を行わねばなりません。申請は両者同時に行い、効力発生日から2週間以内に済ませてください。
5.事後開示
株式交換や登記申請が終了した後も、完全親会社が取得した完全子会社の株式数や、効力発生日などの事項を記した書類を備置しておく必要があります。備置期間は、効力発生日から6ヶ月間と定められており、双方の本店に備置しておかねばなりません。
注意点
会社法では、株式交換時に定める事項は法的効果に直接関連するものだけで良いとしています。そのため、旧商法で記載事項として挙げられていた、完全親会社の定款変更に関係する事項や株主総会の期日、利益配当の限度額といった内容は不要です。株式交換の契約時にこれらの項目を定めることもできますが、株式交換契約ではなく、もう1つの契約として扱われます。つまり、定款変更を行うのであれば、株式交換とは別で株主総会を開催する必要があるのです。
また、株式交換契約書は非課税文書のため印紙不要ですが、書類内に債務の引き受け、資産の譲渡などに関する内容を含んでいる場合は「課税文書」に変わります。課税文書に該当する場合は、記載内容に応じて印紙の貼り付けが必要です。契約の内容を確認し、税理士などに相談しましょう。
サンプルひな型とポイントをまとめて解説
株式交換契約書におけるひな形を紹介するとともに、契約時に確認したいポイントや概要について解説します。
では各ポイントについて見ていきましょう。
①株式交換契約に記載される重要事項に関して
会社法における組織再編の必要的な契約事項に関して、当該行為に対し直接的に法的効果が発生する内容に限られました。これにより、旧商法で必要とされていた下記の内容は不要となります。
- 株式交換による完全親会社の定款変更の項目
- 株式交換契約を承認するにあたり行われる株主総会の期日
- 利益や配当に関する上限額に関する項目
- 株式交換前における取締役や監査役の在職期間に関する項目
もっとも、会社法が求めているかは最低限の事項であって、当該契約を結ぶにあたり、上記の内容はもちろんその他の重要事項に関しても定めるかいなかは大切な問題です。
株式交換契約とは別の契約であり、契約を定める上での株主総会決議とは別に、定款変更に関する決議などをたどる必要があります。
②無対価の株式交換に関して
無対価での株式交換とは、完全子会社の株主に対し、株式等の対価を与えずに行う株式交換のことをいいます。一般的な株式交換とは異なり、当該交換は主に企業の組織再編のときに行われます。
ただ無対価による株式交換は、一定の条件を満たさないと株式の無償譲渡となり、課税されてしまいます。基本的には、100子会社等のグループ内の完全子会社と親会社との間でなされることが多いです。課税されるかどうかは大きな問題となりますから、事前に十分検討する必要があります。
無対価による組織再編は、対価の支払いを省くことが可能ためスムーズに手続きができます。なお、税制適格にならなくても無対価による当該再編が行えないわけではありません。つまり、課税されてしまう。
③株式交換の印紙税
印紙税は課税文章に該当する文書に対し課税されますが、株式交換の場合も印紙税が発生する場合があります。
まず完全親会社における資本金・資本準備金の合計発行済株式数の総数をまとめます。その数を除してから得られる券面あたりの株式数に対し、計算した金額に応じて印紙税が課税される仕組みです。
なお、株式交換では印紙税が発生しますが、似たような言葉である「株式譲渡」では印紙税は発生しません。株式譲渡では、取引金額がいくら多額となっても印紙税は発生しないため、両者を混合しないように注意しましょう。