メニュー
 借主様向け 解決事例

建物退去を求められた

事例

依頼者から最初に相談を受けた時、既に相手方から訴訟を起こされていました。依頼者によれば、期日で裁判官に「一度弁護士に相談に行った方がいいですよ」と言われたそうです。どのような理由で裁判官がそのようにおっしゃったのかはわかりませんが、よく話を聞いてみると、たくさんの事実やいろいろと事情があり、依頼者にとって、法的主張をきちんと尽くさないと不利益が大きい事案と思われました。

事案としては単純な不動産の明け渡し請求です。依頼者が、相手方から再三にわたり明け渡しを求められたにもかかわらず、明け渡さなかったために訴訟を提起されました。相手方の主張によると、依頼者による不動産の利用は理由がない不法占有であり、使用料相当額の損害も発生しているとされていました。相手方は依頼者の実の息子であり、問題となっている不動産は、相手方の祖母(つまり依頼者の母)から相手方が相続したものでした。

解決までの道筋

依頼者の主張は以下の通りです。

①そもそも問題となっている不動産を相続したという根拠になっている遺産分割合意書が偽造である。

②遺産分割の合意が有効であるとしても、代償金の請求ができるという記載があり、それが履行されていないにもかかわらず不動産についてだけ話が進むのはおかしい。依頼者は①にも相当こだわりをもっていましたが、偽造したことを証明するのは不可能に近かったため、②の点に絞って主張することしました。

もっとも②は、本来は不動産の明け渡し請求とは関係がありません。それはそれとして、別途代償金請求の訴訟を提起することが筋です。しかし、身内のことでもあり、既に訴訟手続が存在するからには、その中での話し合いで一挙的に解決するのが双方の利益になると考えて、そのように進めようと試みました。

解決のポイント

一体的解決が依頼者の利益

幸いにも裁判官も私と同様の進め方をもってくれて、和解期日で相手方との折衝を繰り返しました。最終的には、相応の金銭を依頼者が受け取ることを条件に、不動産を早期に明け渡すということで和解が成立しました。
事件としては一応の解決を見たわけですが、弁護士としては(相談を受けた当初からですが)なぜこのような事態にまでなってしまったのだろうと考えてしまいました。多分に当事者のキャラクターによるところも大きいとは思いますが、やはり問題は、依頼者の母(相手方の祖母)の相続の際に取り決めたことが不十分だったということに尽きます。

一般の方が作成する合意書には往々にしてある問題点なのですが、今回問題となった合意書にも大きく2つの問題がありました。1つは、包括的な記載になっていること、もう1つは、抽象的な記載になっていることです。同じことは遺言書にも言えます。
包括的な記載というのは、たとえば、Aという相続人に遺産のすべてを相続させるというものです。この記載をしたからといって合意が無効になることはありません。しかし、「すべて」というのは一体どの範囲を指すのかということが現実に分からないことがあり、遺産の範囲で争いになることがあります。また、「遺産」のすべてであればまだいいのですが、中には「不動産のすべてを相続させる」と記載されるものもあります。これなどは、不動産を除く財産(預貯金や株式)はどうすればいいのでしょうか。問題にならないはずがありません。

抽象的な記載というのは、たとえば、Aという相続人に不動産を相続させる代わりにBという相続人には相応の金銭を支払うというものです。果たして「相応の金銭」とはいくらなのでしょうか、妥当な金額は誰が決めるのでしょうか。本件で問題になった代償金の記載も、同じようなものでした。

これ以外にも気を付けるべき点はあります。細かいところまで気を配るためにも、合意書の作成、遺言書の作成は専門家の関与が適切です。

ページ上部へ
CLOSE