賃借人が名義貸しだった!
- 職業:不動産オーナー
- 地域:東京都
目次
相談事例
賃借人が「名義貸し」で、実際の居住者が賃借人と異なるうえ、ほかにも知らない人間が物件に出入りしていることが発覚。
賃貸借契約を解除し、物件から出ていってもらいたい。
解決までの道筋
賃貸借契約の締結は、通常、入居希望者が賃貸借契約の申込みを行い、家主さんによる入居審査を経て、賃貸借契約を締結する流れとなります。
しかし、入居希望者自身の収入やひととなりに問題がある等で入居希望者自身では入居審査に通らないが、どうしてもその物件に住みたい場合、まれに、知人の名義や、違法な業者から紹介された他人の名義で賃貸借契約の申込みがされ、そのまま入居審査を通過してしまい、賃貸借契約が締結されてしまうということがあります。
このような名義貸しのケースでは、本来であれば審査に通らなかった入居希望者がその後の賃料を支払っていくため、賃料の支払いができなくなることが多く、賃料不払いが発生して家主さんが契約上の賃借人や連絡先の親族に連絡をとって、名義貸しが発覚することが多いです。
そのほかに、更新のタイミングや、物件に賃貸借契約に記載のない人間が出入りしていることに家主さんが気づいて発覚することも多いです。
ご相談いただいたケースも、これらのタイミングで名義貸しが発覚した事案でした。
誰だかわからない人が住んでいることの不安や、近隣トラブルが発生するリスク、物件で事件・事故等が発生するリスク等から、賃貸借契約を解除し、居住者に出て行ってもらいたいというのが家主さんのご要望でした。
ところで、名義貸しは、法的には賃貸人に無断で物件を転貸した(また貸し)と評価されます。無断転貸がなされた場合、賃貸人は、賃貸人と賃借人との間の信頼関係を破壊しない特段の事情のない限り、賃貸借契約を解除することができます。また、事案によっては錯誤や詐欺を理由に賃貸借契約の無効を主張することもできると考えられています。
ご相談いただいたケースでは、名義を貸した者と実際の入居者との間には、親族関係や交友関係もなく、全くの赤の他人であったため、賃貸借契約の解除自体は全く問題ありませんでした。
賃貸借契約の解除により物件の明渡しを求める場合、問題のないケースであれば、通常、次のような流れで手続を行います。
①賃借人に対して内容証明郵便により賃貸借契約解除の意思表示をし、②賃借人と実際の入居者を相手として、建物の明渡しを求める裁判を提起し、明け渡しを認める判決(「債務名義」といいます。)を取得して、③債務名義に基づいて明渡しの強制執行を行う。
ただ、ご相談いただいたケースでは、実際の入居者が出したゴミに混入していた宅配便伝票等から、実際の入居者と思われる人物の名前が特定できましたが、防犯カメラの映像では、ほかにも出入りしている人間がおり、事件の進め方に注意が必要でした。
ご相談いただいたケースでは、伝票等から入居者と思われる人物の名前が特定できるものの、実際の入居者と誰も接触できたことがなく、伝票等に記載された人物が本当に入居者であるかわからず、そのまま当該人物名を被告として裁判を提起するには、リスクがありました。
このような伝票等から把握した人物名を被告として裁判を提起した場合、最悪なケースは、欠席裁判等により当該人物に対する建物の明け渡しを命じる判決を得たものの、③の執行段階になって、いざ建物を開けたら実際の入居者が伝票等から把握した人物ではなかったことが発覚するような場合です。債務名義のない人物に対しては、判決の効力は及ばず、明け渡しを強制することはできないため、執行不能となり、再度、正しい入居者を相手にして、裁判提起からやり直さなければなりません。
また、防犯カメラの映像から、実際の入居者と思われる人物のほかにも出入りしている者が把握できていたものの、当該人物の名前や、建物の使用状況は全く分かりませんでした。当該出入りしている人物の建物の使用状態によっては、伝票等で把握している入居者の占有補助者ではなく、独立した建物に対する占有を有していると評価される恐れがあります。このような場合に、賃貸借契約上の賃借人と伝票等から把握している人物のみに対して裁判を提起しとき、最悪なケースは、建物の明け渡しを命じる判決を得たものの、③の執行段階になって、いざ建物を開けたら、当該防犯カメラの映像から把握していた人物に対して、建物に対する独立した占有が認められてしまうような場合です。判決の効力は、賃借人と伝票等から把握した入居者及びその占有補助者にしか効力が及ばないため、独立した占有を有する当該人物に対しては執行不能となり、再度、当該人物を相手にして、裁判提起からやり直さなければなりません。
ご相談いただいたケースでは、このようなリスクがあったため、裁判提起の前に、「占有移転禁止の仮処分」という保全手続を行うことにしました。
占有移転禁止の仮処分の申し立てが裁判所に認められ、占有移転禁止の仮処分命令が出ると、裁判所の職員である「執行官」と占有移転禁止の仮処分命令の執行手続の打ち合わせを行います。この執行手続では、執行官と一緒に実際に貸している建物に行き、玄関を開けて、建物の中に入り、建物の使用者や使用状態を調査し、建物の占有者を特定します。なお、この手続を行うことで、手続後に賃借人や入居者がまた貸し等をして建物の使用者が更に変わっても、手続で特定した占有者に裁判を提起すれば、判決の効力を手続後に使用を開始した第三者に対しても及ぼすことができます。
ご相談いただいたケースでは、占有移転禁止の仮処分命令の執行により、伝票等から把握した人物名の者が実際の入居者であること、防犯カメラに映っていた人物は実際の入居者の占有補助者にとどまることが確認できました。また、幸いなことに、実際の入居者が執行時に在宅していたため、直接話をすることができ、裁判を提起することなく、交渉により明け渡しを完了することができました。結果として、交渉により解決したため、裁判費用や強制執行の費用がかかることなく、また、早期に明け渡しを実現できました。