企業法務に関するコラム

債権回収

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はじめに

会社がビジネスを行う目的は、突き詰めれば、お金を稼ぐことになるかと思います。一人で行う個人事業であればともかく、会社運営には、何人もの人間が動き、様々な設備や機器を維持するためには莫大な費用が掛かるので、お金を稼ぎ、利益を得ることが出来なければ、会社を運営し、事業を継続していくことは出来ません。そのためには、会社が行うサービスや販売に対する対価を、確実に、顧客・取引先に支払ってもらう必要があります。

このコラムでは、債権回収の流れについてご説明します。

通知

依頼者が弁護士に債権回収を依頼するのは、請求をしても、債務者が支払期限までに支払って来ない場合が、一般的かと思います。支払って来ないと一口に言っても、債務者の態度は多種多様なものが考えられ、全く回答がない場合や、回答はあるものの支払期限の延長や、金額の減額を求められたりする場合、支払義務を負っていないと争ってくる場合もあるかもしれません。

このような債務者側の対応の種類を問わず、弁護士が債権回収事件を受任した場合に、一般的に、最初に行うことは、債務者に対しに内容証明郵便で請求書を送付し、請求の通知をすることです。このような通知を行う理由は三つあります。

①債務者に依頼者の請求の意思と内容を明確に伝えること。債務者によっては、請求されたことを知らなかったとか、金額が分からなかった、請求されないと思っていた等の主張をしてくるケースもありますので、そのような主張を後からさせないという意味があります。

②通知により、時効中断の効果があること。債権の種類によっては、一定期間、請求を行わないと、債務者が時効援用することにより、請求が出来なくなってしまいます。それは、いくら口頭や書面で伝えていたとしても、そのことを立証できないと、裁判では時効援用が認められてしまうことになるので、請求を証拠が残る形(内容証明郵便)で行うことは必要です。但し、時効中断するためには請求から6カ月以内に訴訟提起をする必要があるので、訴訟提起までの猶予期間は6カ月しかないことは注意が必要です。

③①と重なる部分もありますが、債務者に依頼者の本気度を示すこと。依頼者がいくら連絡しても無視したり、不合理な主張を繰り返す債務者であっても、弁護士からの内容証明が届くと、このまま支払わずにいたらまずいのではないかと思うのが一般的な反応です。また、弁護士からの通知をきっかけに、債務者も弁護士に相談することで、それまでの自分の主張が認められないことや、訴訟リスクの説明を受けることで、これまでと態度を変えて支払ってきたり、前向きな交渉に発展することもあり得ます。

以上より、当たり前のことではありますが、債権回収の第一段階は、請求の通知を行うことになります。この請求のみで、素直に支払ってもらえるケースもあり得ます。

交渉

請求の通知に対して、すぐに支払がなされないとしても、債務者から交渉を求めてくる場合もあります。よくある債務者の言い分としては、上述したとおり、①支払期限の延長、②支払金額の減額、③資力の欠如、などが考えられます。

債務者と交渉をするに際し、重要なのは、請求の根拠となる契約書の有無です。契約書があり、支払期限や支払金額についてきちんと規定されていれば、まずは、契約書の存在を前提に、債務者に請求することが出来ますし、仮に、訴訟となった場合にも、裁判所に此方の請求を認めてもらえる可能性が高いことから、強気な交渉をすることが出来ます。しかし、契約書がない場合には、此方の請求の根拠が弱いため、債務者の主張を呑まざるを得なくなることや、訴訟での敗訴リスクを考えて、交渉に関しても強気に出られなくなる場合もあります。

次に、相手の言い分に対する対応について説明します。まず、①支払期限の延長については、例えば、一ヶ月伸ばしてほしいというもののほか、分割払いにしてほしいというのも、広い意味では支払期限の延長となります。この言い分は、債務者には、支払うことは遅くなるけど、請求されたものを支払う意思はあるということなので、依頼者にとってはそんなに最悪の事態ではないと言えます。しかし、期限の延長をしても支払わず、期限の延長が繰り返されることも考えられますので、ただ、期限の延長を認めるのではなく、改めて書面で支払期限について合意すること、期限を守らなかった場合の違約金の定めをすることも重要です。

②支払金額の減額については、根拠のない減額主張と根拠のある減額主張が考えられます。根拠のない減額主張というのは、単に金額をまけてほしいというものです。この場合には、減額の不利益と早期解決の利益とを秤にかけて、最終的にはビジネスジャッジとなります。減額幅がそこまで利益を圧迫しないのであれば、早期解決のメリットの大きさを重視して応じることも考えられます。根拠のある減額主張というのは、例えば、売買の場合であれば購入した物の個数が足りなかったとか、請負であれば、業務の一部が履行されなかったといった言い分が考えられます。この場合には、事実関係を精査し、債務者の主張が認められる余地があるのかを検討します。債務者の言い分が正しいのであれば、適正な金額に減額することが必要ですし、債務者の言い分が正しくなく、かつ、歩み寄りがないのであれば、交渉での解決は難しいかもしれません。

③資力の欠如については、身も蓋もない言い分ですが、要は、支払いたいけどお金がないというものです。この言い分が、今はないけどいずれ支払えるということであれば、①の話となりますし、全額は無理だけど一部なら支払えるということであれば、②の前者の場合となります。この主張の厄介なところは、本当に債務者に支払う資力がない場合には、次に説明する依頼者にとっての最後の砦となる訴訟をしても回収できない可能性があるということです。特に、債務者に破産をされてしまえば、法律上請求することは出来なくなります。その最悪のケースを避けるためには、債務者の言い分を①か②の方向に誘導して、解決の糸口を探すことになります。仮に、この債務者からは債権回収が出来なかった場合には、それは、そもそもそんな相手と取引関係に入ると言う判断をしてしまったということが依頼者にとっての反省材料となるので、今後の取引相手の選定の際の教訓とすることも重要です。

裁判手続き

債務者との交渉がまとまらなかった場合の最後の手段が裁判手続きとなります。裁判手続きは、依頼者の請求権を法的に確定させる手続きであり、債務者が支払わなければ、最終的に国家権力によって、強制的に取り立てることが出来るというものです。その意味で、債権回収をする上では最も直接的かつ実効的な方法のはずですが、なぜ、最後の手段なのかは、以下のデメリットがあるからです。

①費用と時間が掛かること。裁判手続きは、通常弁護士に依頼することが多いと思いますが、一般的に交渉事件よりも訴訟事件の場合の方が弁護士費用は高額となります。依頼者としては、ただでさえ債務者がお金を支払ってくれず困っているのに、更に費用が掛かるのだとすれば、出来るだけ安くしたいというのが実情だと思います。また、交渉は債務者のレスポンスが良ければ、早ければ1~2週間。長くとも2~3ヶ月でまとまるケースが多いですが、裁判の場合は、どんなに早くとも半年、長ければ数年かかるケースもあります。時間が掛からない裁判手続きとして、支払督促という手続きもありますが、債務者の意思で通常の裁判に移行することが出来てしまうので、そうするとやはり時間は掛かってしまうことになります。

②裁判で勝っても確実に回収できる保証はないこと。上述したように、時間と費用をかけて裁判をして勝ったとしても、債務者が観念して支払ってくれればいいですが、それでも支払って来ない債務者もいます。この場合、何もしなくても裁判所が債務者から取り立てをしてくれるということはなく、依頼者が自ら債務者の財産を探し当て、強制執行という裁判上の手続を行わなければなりません。これでまた時間と費用が掛かってしまいます。また、柔術したように債務者が破産をしてしまえば、裁判で勝ったとしても、法律上請求することは出来なくなり、結局、回収することはできません。

以上のリスクがあるため、裁判に踏み切るためには、依頼者にとっては一定の覚悟が必要と言えます。ただ、請求金額が多額であれば、費用と時間を掛けてでも裁判をするメリットの方が大きいですし、債務者が営業を継続している会社であったり、自宅を保有している等財産を持つ個人であれば、最終的に支払いがなされる可能性も高いと言えるので、裁判を行うべき事案であれば、躊躇うことなく裁判に踏み切るべきと言えます。

さいごに

会社が事業活動を行った結果として売上が立ったにも関わらず、支払がなされないということは、会社にとっては死活問題です。そのような問題を出来るだけ発生させないようにするためには、契約書を作ること、取引相手が信用できる相手か調べること、債務者に対する請求手続きを適切に行うことが重要です。しかし、それでもこのような問題が発生してしまった場合には、出来るだけ早期に弁護士に依頼することをお薦めします。

弁護士法人キャストグローバルでは、BtoBの債権回収だけでなく、BtoCの大規模債権回収にも対応しております。債権回収にお困りの場合には、お気軽にご相談ください。

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