中小企業を経営されている方などの場合、事業承継を検討されるタイミングがあるものですが、事業承継にも民事信託が非常に効果的です。 今回は、事業承継に民事信託を活用するメリットや活用方法をご紹介します。
1. 2代先の社長まで指定できる
会社経営をしている場合、次の社長だけではなくその次の社長まで指定したいケースがあります。先のことを決めすぎることはデメリットにもなり兼ねないですが、たとえば今後しばらくは信頼できる会社の幹部に会社を任せ、その後長男が成長したタイミングで長男に引き継がせたいなどの場合です。 遺言では、このような対応は不可能です。幹部に会社の資産を分与したらそれ以上の指定ができず、最終的に長男に会社を引き継がせることはできません。 これに対し、家族信託を利用すると、まずは幹部に会社の経営権を委託して、その後長男に会社の経営権を帰属させることが可能となります。
2. 議決権を自分に残したまま株式を譲渡できる
事業承継をするときには、会社の株式を次の承継者に移譲する必要がありますが、株式を譲渡してしまったら、自分に議決権がなくなってしまいます。事業承継はしたいけれども、まだしばらくは会社経営に関わりたいという方には大きなデメリットとなります。 ここで、家族信託を利用すると、議決権を委託者にとどめることができます。 家族信託契約を締結するときには、自社株の議決権行使の指図権を委託者に与えることができるからです。これにより、元の経営者が死亡するまでは、自分で株式の議決権を行使することが可能となります。
3. 贈与税を抑えられる
家族信託を利用して株式を事業の承継者に委託するときには、贈与税を抑える工夫ができます。贈与税は、株式を贈与したタイミングでかかるので、株価が低いときに贈与してしまえば少額で済むからです。 家族信託で株式を委託したときに贈与税が発生するのは、株式を実際に委託して受益が発生したタイミングです。そこで、前経営者への退職金の支給などの事情によって会社の株価を下げたタイミングで家族信託契約を締結して委託を実行してしまったら、その時点で贈与税が発生し、金額を抑えることができるのです。
4. 株式の分散を防げる
オーナーの会社経営者が死亡すると株式は法定相続人に法定相続分に応じて引き継がれます。子どもが複数いると、それぞれ等分の割合で株式が相続されてしまうのです。そうなると、経営に参画しない子どもにも株式が移転してしまうので、会社経営に不都合が発生します。 遺言によっても株式を会社の承継者に集中させることも可能ですが、そうなると他の相続人が「遺留分」を主張する可能性があります。すると、遺留分減殺請求が起こり、子ども達の間でトラブルになりますし結局株式も分散される結果となります。 このようなとき、家族信託を利用すると、遺留分トラブルを起こさずに株式を会社の承継者に集中させることが可能です。たとえば、子どもたち3人が相続人となっており、長男に会社経営権を譲りたいケースを考えてみましょう。この場合、株式の財産的な受益については3分の1ずつに分けて、子ども達それぞれに帰属させます。そして長男を受託者としておけば、長男が単独で議決権行使できます。 このことにより、遺留分減殺請求を防ぎながら効果的に次の会社経営者に経営権を与えることができるのです。 その後、長男が他の相続人から受益権を買い取っていけば、資産的な価値もすべて長男に帰属させることができます。
5. 残された家族の生活を守る
経営者が死亡すると、家族の生活が心配なケースがあるものです。 一人で事業経営をしている場合などで、自分が死亡すると誰も引き継ぐ人がいないケースなどです。このようなとき、信頼できる親族や経営のノウハウを持つ人を探して財産を委託し、その運用を任せます。そして家族を受益者としておけば、受託者によって生み出された利益が家族にもたらされ、家族の生活が守られます。
6. 判断能力が低下したときにも会社を守れる
経営者が高齢になってくると、徐々に判断能力が低下してくるものです。 社長の判断能力が著しく低下したら、親族が家庭裁判所に成年後見の申立をしなければなりませんが、成年後見人が決まるまでの数か月間、経営者がいない空白期間が発生してしまいます。 このようなとき、当初から家族信託を利用して長男などの承継者に会社財産と経営権を委託しておけば、いざ判断能力が低下したときに会社経営が滞ることはありません。 成年後見制度を利用する場合のすき間を家族信託によって埋めることができるのも、家族信託の大きなメリットと言えます。
以上のように、事業承継の場面でも家族信託は非常に有用です。中小企業を経営されている場合などには是非とも一度、ご検討ください。