弁護士コラム
モラルの崩壊した飼い主への対処方法
近年ではペットブームもあり、ペットを飼う人がどんどん増加しています。ペットをかわいがるのはとても良いことですが、ときには自分のペットかわいさに、他人に無茶な要求をする「モンスター飼い主」も増えていることが問題です。特に動物病院を経営していると、飼い主から驚くような要求を受けるケースもあり、注意が必要です。
今回は、モラルのない飼い主から不当要求されたときの対処方法をご紹介します。
1.ペットにお金をかける飼い主が増えている
現在、ペットを飼う人は、昔と比べてペットにお金をかける傾向があります。
昔はペットが病気になっても動物病院に連れてくる人は少なかったものですが、今では病気や怪我をするとすぐに動物病院を訪れます。
また、フードやペットの環境にこだわる人も増えていますし、ペットのためのグッズもよく売れています。ペット保険に加入する人も多く、ペットのための葬儀や墓の建立は当たり前のようになっています。
2015年度の総務相の家計調査によると、年間のペット関連費は平均16,967円になっており、2000年との比較でもおよそ1.5倍になっています。
このように、人々がペットを大切にする分、ペットに対する愛情が強すぎて、他者に対する思いやりや配慮を持てない人が増えています。
自分のペットが傷ついたり死亡したりした場合、あるいはないがしろにされたと感じた場合などにおいて、必要以上に相手を攻撃するのです。
このような中、飼い主が動物病院の獣医師を訴える訴訟案件も増加しています。
動物病院を経営するときには、無茶な要求をする「モンスター飼い主」に注意が必要です。
2.モンスター飼い主のよくある要求
以下では、モンスター飼い主のよくある要求をご紹介します。
2-1.治療を勧めてくれなかった
1つは、ペットが死亡してしまった事案において、飼い主が後になって「獣医師が治療を勧めてくれなかった」と主張するパターンです。
ペットが病気にかかっているとき、獣医師は飼い主に対して病状と治療方法を説明しますが、「必ず治る」とは言えないものです。
また、治療をしても死亡してしまうリスクがある以上、必要以上に積極的に治療を勧められないケースも当然あります。
それにもかかわらず、飼い主は「あのとき先生が勧めてくれなかったから治療に踏み切れず、ペットが死んだ」と言って半ば脅迫的に獣医師に慰謝料を請求してくることがあります。
このようなとき、不当要求であればもちろん慰謝料を支払う必要はないのですが、放っておくと、飼い主が納得しないまま訴訟を起こしてくることもあるので注意が必要です。
2-2.適切な治療をしてくれなかった
もう1つは「適切な治療を行ってくれなかった」というものです。
ペットの病状によっては、命を救うことが難しく死亡してしまう例もあります。それは人間でも同じことです。
しかし、実際に死亡すると、それが獣医師のせいであると考えて、獣医師に対して責任をとって謝罪するように求めたり高額な慰謝料を請求してきたりします。
もちろん法的に義務のない要求には応じる必要がないのですが、放っておくとやはり訴訟に発展してしまう可能性もあります。
2-3.訴訟前の無理な要求も多い
モンスター飼い主の特徴として、訴訟に至る前に無茶な要求を繰り返して獣医師を疲弊させるパターンがあります。
ペットが死傷したとき、訴訟をしても支払われる金額は数十万円程度になることがほとんどで、高額とは言いにくいです。まして無理筋の主張であれば、訴訟をしても棄却される可能性が高く、弁護士に依頼しても弁護士費用すら回収できない可能性が高いです。
それであれば、「訴訟をせずに話合いによって獣医師に任意に支払わせよう」という考えになります。
そのためには、多少脅迫的な言動をとったりしつこくせまったりする飼い主もいるので、獣医師にとっては大きな精神的ストレスとなります。
このように、訴訟前に無理な要求をされた場合、こちらに非がないのであれば、おそれることなくはっきりと断ることが重要です。こちらが弱みを見せると、かえってつけこまれることが多いので注意が必要です。
2-4.訴訟で決着がついても無理な要求をしてくる
実際に獣医師に対して損害賠償請求訴訟を起こす飼い主も多いのですが、モンスター飼い主の場合、訴訟で決着がついても納得しない人がいるので注意が必要です。
簡易裁判所や地方裁判所における1審では納得せず、控訴審や上告審に持ち込む人も少なくありませんし、最高裁で判断が出た後も、しつこく「どうしてくれるのか」「納得できない」と連絡をしてくる人もいます。
いったん訴訟で決着がついている以上、このような不当な要求に応じる必要はありません。
相手がしつこければ脅迫罪や恐喝罪で告訴することなども可能です。
動物病院を経営している場合、モンスター飼い主に対応する必要性が高いです。弁護士が代理人となって先生の代わりに対処いたしますので、お困りの際にはお早めにご相談下さい。お客様のクレームという範囲を超え、悪質なクレーマーと判断されたら、速やかにご相談ください。