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M&A契約に伴う法務デューデリジェンス (法務DD)とは?目的や注意点をわかりやすく解説

M&Aにおけるデューデリジェンスは、譲渡の価格や条件がある程度決定した後に行われる「最終交渉」の前段階として実施されます。買い手企業が徹底的に売り手企業を調べるため、売り手企業にとっては最終の試練ともいえるでしょう。
デューデリジェンスは、法的リスクや財務リスク、運用リスク等、潜在的なリスクを調査し評価することを目的としています。契約前に問題点を把握することでそれらを考慮した条件で進められるため、契約後のトラブル回避にも役立ちます。

本記事ではデューデリジェンスの目的や種類、法務デューデリジェンスの詳細についてわかりやすく解説します。デューデリジェンスを正しく理解し、M&Aをスムーズに実施しましょう。

記事を監修した弁護士

弁護士

飛渡 貴之

土地家屋調査士、司法書士の有資格者。一般企業での会社員経験と定期的に国内外の優良企業を視察して得られた知識経験を生かしたコンサルタント色のある提案が多くの企業に喜ばれて、多数の企業を顧問に持つ。

目次

デューデリジェンス (DD)とは

企業間取引や事業の承継、M&A等を実行する際によく耳にする用語「デューデリジェンス(デューディリジェンス)」。英語では「due diligence」、日本語に直訳すると「due(当然の)」「diligence(努力)」という意味になり、頭文字をとって「DD」と略されることもあります。

デューデリジェンスとは、一般的にM&Aでは取引企業や買収・合併先の企業、投資対象等に対して、財務状況、法律問題、税務状況、IT環境など、企業の価値やリスクを把握する目的で行われる調査のことを指します。

デューデリジェンスの目的と種類

デューデリジェンスは、企業の情報や実態を知るために非常に重要なプロセスであり、さまざまな観点から審査が行われます。デューデリジェンスには様々な目的や種類がありますが、中でもM&Aにおいて必要とされるデューデリジェンスは次の6項目です。それぞれの詳細を把握したうえで、デューデリジェンスを進めましょう。

事業デューデリジェンス

会社の事業性や企業価値を評価するために必要な調査が、事業デューデリジェンスです。市場や業界における会社の位置付けを知り、事業の将来性を見極めるとともに、今後の事業の計画策定等に役立てることを目的としています。ビジネスモデルはもちろん経営管理、事業継続に関するキャッシュフロー、沿革や労使関係等、広範囲にわたり詳細に調査を行います。

財務デューデリジェンス

経営成績や資金繰り等の財務状態を把握するために行われるのが、財務デューデリジェンス(ファイナンシャルデューデリジェンス)です。単にデューデリジェンスと言った場合、この財務デューデリジェンスを指すこともあります。損益計算書や貸借対照表といった財務諸表を参考に財政状態を詳細に把握し、将来的な収益性を算定したり、リスクを判断します。

税務デューデリジェンス

対象となる会社の過去の税務リスクを調査するのが、税務デューデリジェンスです。税務申告書を閲覧する、未払いの法人税の有無を確認する等の方法で調査を行っていきます。税務デューデリジェンスは、今後税務署から指摘されて追徴課税を受けるといった税務リスクを引き継ぐ買い手企業にとって必要不可欠な調査といえるでしょう。

法務デューデリジェンス

事業に関する権利や債権債務における法務上の問題やリスクを調査するのが、法務デューデリジェンスです。M&Aの局面において、法務DDを行うのは、企業を買収しようとする買い手側の企業です。買収対象となる会社の登記簿謄本や主要契約書、社内規程等の閲覧を行い、違法行為、簿外債務、重大な訴訟等の有無をチェックします。
法務DDの結果次第でM&Aの最終合意が決定するほど重要な役割を担っています。

ITデューデリジェンス

ITデューデリジェンスとは、保有するIT資産を正確に把握することをいいます。年々、IT資産の重要性が増しているため、「事業内容におけるITシステム戦略との整合性が取れているか」「ITに掛ける投資状況はどの程度か」「ITに関わる人員体制やスキル状況はどうなっているか」等を事前に調査・分析することが大切です。
また、買収後のITシステムをどのように統合していくのかも検討する必要があります。ITは支出面で大きな額を占めるケースもあるため、IT資産の価値を見極めるのは重要なことといえます。

人事デューデリジェンス

人事・労務制度やマネジメントの実態を調査するのが、人事デューデリジェンスです。主に従業員数や人件費、人事システム等に関する調査を行います。M&A成約後の組織再編において重要な項目であり、社員のモチベーション低下というリスクへの有効な対策を検討するためにも必要です。

その他のデューデリジェンス

このほかにも、知的財産デューデリジェンスや不動産デューデリジェンス、顧客デューデリジェンス等、必要に応じて行われるデューデリジェンスが存在します。これらは基本、譲受側の企業が独自に行いますが、財務や法務などの調査・審査は特に専門性が高く、非常に深い知識と経験を要します。そのため、公認会計士や弁護士、デューデリジェンスを専門としたコンサルタントに依頼することが一般的です。

法務デューデリジェンス・財務デューデリジェンスの相違点

権利行使の結果が財務会計に反映されることから、しばしば混同されがちな法務デューデリジェンスと財務デューデリジェンスですが、両者には大きく異なる点があります。それは、法務上のリスクを調査するか否かという点。財務デューデリジェンスが企業の財務状況を把握するためだけの調査であるのに対し、法務デューデリジェンスは財務や権利等すべてを加味した上で、違法行為や訴訟が行われていないかを調査します。

連携の重要性

法務デューデリジェンスと財務デューデリジェンスには異なる点があるものの、簿外債務・偶発責務の発見という共通の目的が存在するため、売り手企業に開示を要求する資料が重複することがあります。重複しているものを含め、売り手企業は膨大な数の資料を用意しなければならず、結果として資料開示が遅れてしまうことも珍しくありません。

効率的かつ効果的なデューデリジェンスを実施するためにも、要求資料をリストアップする際は、法務デューデリジェンスと財務デューデリジェンスで連携を行い、売り手企業の負担を少しでも軽減することが大切です。

法務デューデリジェンス(法務DD)の内容

法務デューデリジェンスを実施する際の主な内容をご紹介します。

法務DDは、M&Aや事業承継等において、対象となる企業や事業の法的なリスクを調査・分析する重要な手続きです。調査項目は、対象となる企業や事業の業種や規模によって調整する必要がありますが、主に以下の項目を中心に調査を行いリスク評価を行うことで、買収価格の調整や契約条件の見直しを検討します。

1. 組織・株式

一般的なM&Aは全株式を譲渡することにより行うため、M&Aの打診があった時点で大半の問題がクリアされていることが多いです。しかしそうではない場合、対象会社の株主構成や株主の状況を把握し、他にどのような株主がいるかなど詳細を確認する必要があります。

  • 定款、規則
  • 株式の内容、株主の状況、紛争リスク
  • 組織図、関連会社
  • 組織運営の適法性

2. 契約関係

主要取引先リストを確認し、取引相手と取引内容を確認します。次に、事業がどの様な契約関係のもと、どのように行われているのかを精査します。様々な取引関係における契約の内容を見ます。これによって、どのような債権(権利)を持ち、どのような債務(義務)を負うのかがわかります。全ての契約について書面があるとは限らないので、書面がない契約関係についても確認することになります。

これらの条項の内容によっては、M&A実施によって大きな取引を失う可能性等があり、十分に精査しなくてはなりません。

  • 契約書の確認・レビュー
  • その他契約に関するリスク確認

3. 許認可・法令遵守

許認可を受けるリスト、適用を受ける法令(各種業法、薬機法等)のリスト、許認可に関する証明書、過去に受けた行政処分に関する書類を確認します。M&A実施後に法令違反の事実が発覚すれば、企業価値は大きく損なわれてしまいます。

  • 必要な許認可の取得状況
  • 法令遵守状況
  • 行政処分等のリスク

4. 人事労務

M&Aでは、買収対象企業の価値を把握する必要があります。人材もいわば企業の資産であり、M&A後の事業のために従業員の理解が必要です。就業規則、その他人事・労務関係の書類、従業員リスト、労働協約書、労使協定書、労働基準監督署からの通知文などを確認します。長時間労働や未払い残業代などは賃金台帳等で確認できますが、いわゆるサービス残業などがある可能性があるため、ヒアリングなどで確認する必要があります。

  • 労働契約書、就業規則等の確認
  • 労働訴訟等のリスク
  • 労働環境の適法性

5. 訴訟・その他紛争

係争中または過去に係争した訴訟関係の資料、加入している各種保険の保険証券、クレーム等のリストを確認します。

  • 係争中の訴訟・紛争の有無
  • 潜在的な訴訟リスク
  • 紛争解決に向けた対応

6. 知的財産権

特許権、商標権等保有登録知的財産権のリスト、ライセンスイン、ライセンスアウトなどの契約書を確認します。また、職務発明、ノウハウ等を確認するため、就業規則等を確認しヒアリングする必要があります。特許権は、特許(登録)証および特許登録原簿を確認し、登録者に間違いがないか、実施権者がいるかどうか、質権等担保権が設定されていないかなどを確認します。

  • 特許、商標、著作権等の保有状況
  • 知的財産権侵害リスク
  • ライセンス契約等の確認

7. 不動産等の資産・負債

法務DDにより企業を精査する上で、当該企業に資産がどれ位あるのかは重要な要素です。資産資料として、所有する不動産に関する登記事項証明書(登記簿謄本)、所有していた不動産に関する売買契約書、所有する動産(リース、賃貸も含む)に関するリース契約書、賃貸借契約書等、不動産賃貸借契約書、借入金の金銭消費貸借契約書、これに関する担保権設定契約書などを確認します。

負債については、借入金の額、買掛金や未払い金などを契約書を精査します。また、簿外債務がある場合もままみられますので、ヒアリングなどで確認します。

  • 不動産等の資産の確認
  • 担保権設定の有無など

8. 環境問題

昨今、SDGsなど持続可能性の有無は重要な社会課題となっており、年々企業を見る社会の目は厳しくなっています。これらの確認はM&Aなどにおいて重要な事項です。主要な環境法令、公害防止協定の確認から、所有不動産の土壌汚染などを確認します。

  • 環境規制遵守状況
  • 環境汚染等のリスク
  • 環境対策費用の負担

法務デューデリジェンス(法務DD)の流れ

法務デューデリジェンスの主な流れをご紹介します。

M&Aの規模や企業によって異なりますが、一般的な流れとしてご参考ください。

①方針決定

  • 目的の明確化:M&Aの目的や戦略に基づき、法務デューデリジェンスでどこまでのリスクを洗い出したいかを明確にします。
  • 調査範囲の決定:調査対象となる企業、期間、項目などを具体的に定めます。
  • 体制の構築:弁護士、会計士、税理士等の専門家チームを編成します。

②公開情報の確認

  • 登記簿謄本:会社名、所在地、役員、資本金等の基本情報を確認します。
  • 有価証券報告書等:財務状況、経営状況を把握します。
  • ホームページ等:企業情報の収集を行います。
  • 許認可:事業に必要な許認可の状況を確認します。
  • データベース:帝国データバンク、東京商工リサーチなど

③開示を求める資料の請求

  ①方針決定 で決めた方針に基づき、必要となる資料を求めます。

  • 契約書:取引先との契約内容、リスクの有無を確認します。
  • 訴訟関係資料:過去の訴訟の詳細、リスクの程度を把握します。
  • 財務資料:財務状況、経営状況を詳細に分析します。
  • 許認可関係資料:許認可の有効性、更新状況を確認します。
  • 組織関係資料:役員構成、従業員状況、労務問題の有無を確認します。
  • その他:企業価値に影響を与える可能性のある資料を確認します。

④調査、検討

  • 資料分析:開示された資料を分析し、法的な問題点がないかを調査します。
  • 質問事項の作成:資料から不明な点や確認事項をリストアップします。

⑤インタビュー、Q&A

  • 経営陣へのインタビュー:資料の内容や疑問点について、経営陣に直接質問します。
  • 担当者へのインタビュー:各部門の担当者から、業務内容やリスクに関する情報収集を行います。

⑥現地調査

  • 必要に応じて現地調査を行い、資産状況や従業員状況等を確認します。現地でなければ確認できない資料、企業風土などを確認します。
  • 工場や店舗:製造工程や販売状況等を調査します。
  • 土地や建物:資産の状況、抵当権等の設定状況を確認します。
  • 従業員:労働環境、労務問題の有無を確認します。

⑦法律上の問題点を検討

  • リスクの評価:調査結果に基づき、法的なリスクの程度を評価します。
  • 対応策の検討:法的なリスクに対して、どのような対応策が必要かを検討します。
  • 契約条件の検討:法務デューデリジェンスの結果を踏まえ、調整した方が望ましい条件を検討します。

⑧報告書作成・結果報告

  • 報告書作成:調査結果、分析結果、リスク評価、対応策等をまとめた報告書を作成します。
  • 結果報告、説明:報告書に基づき、経営陣、担当者へ報告します。

法務デューデリジェンス(法務DD)の実施期間とタイミング

M&Aにかかる期間は、およそ6か月から1年ほどです。そのうち法務DDにかかる期間は、1ヶ月から2ヶ月程度です。あくまで一般的な期間ですので、具体的なM&Aの内容により前後します。
DD(デューデリジェンス)は、基本合意後、最終合意の締結前の時期に行われます。法務DD以外の財務DDやビジネスDDもこのタイミングで行います。最終合意に至るかどうかはこの結果次第とも言えるでしょう。

M&Aの主なスケジュールとしては、次のような流れが一般的です。

法務デューデリジェンス(法務DD)の注意点

デューデリジェンスを実施する際に注意するべき点をご紹介します。

デューデリジェンスの範囲を検討する

デューデリジェンスは出来る限り詳細な調査を行うことが理想ではあるものの、現実的には資金的・時間的に難しい場合などの理由で、調査範囲を限定することが多く見られます。規模、業種や業態によって、デューデリジェンスをどこまでするのかを状況に応じて選択することになります。
そのため、あらかじめ調査する事項に優先順位をつけ、どのような流れでデューデリジェンスを実行するか専門家の意見を聞きながら検討しておくことが大切です。優先順位をつけることにより、デューデリジェンスを効果的に実施しましょう。

「デューデリジェンスの範囲」を決定する際は、簡易な調査・審査の結果にも関わりますが、初めからM&Aの目的を決めて、優先順位を明確にしておくことが大切です。

積極的な情報提供

売り手である場合は、買い手側からの資料請求やヒアリングに積極的に協力しましょう。既に認識しているリスクがあるのであれば、この機会に伝えてください。
後からリスクが発覚した場合、契約が破断になるだけでなく、損害賠償請求を受けるなど大きな紛争になり得ます。両者にとってより良い契約を進めるためにも、情報提供は積極的に行いましょう。

企業法務やM&Aを専門とする弁護士に相談する

法務デューデリジェンスでは、特に専門性の高い知識や経験が必要な上に、複数人のチームが必要となります。そのため、企業法務やM&Aを得意な分野とする弁護士に依頼することが大切です。M&Aは専門性が高いため、弁護士なら誰でも対応できるわけではないので注意が必要です。

ビジネスにおいて、買収・合併の対象となる会社が抱えている法的リスクを見落としてしまうと、万が一訴訟が起きた際に莫大な時間と費用がかかるだけでなく、企業への風評被害を生じさせることにも繋がります。経営に大きな影響を及ぼしてしまい、ときには企業存続の危機に陥る可能性もあるのです。

また、法務デューデリジェンスによって問題点や改善点が発覚した場合、その後の対策について検討しなければなりません。このような場合にも弁護士がいれば、円滑に話し合いを進めることが可能です。

まとめ

法務デューデリジェンスの内容や流れ、注意点やポイントについて解説しました。
法務DDはM&Aの目的を達成することが出来るのかを判断する材料であり、とても大切な手続きです。
特に法務DDは専門性が高く、高度な知識やスキルが求められる上に、複数人の弁護士が連携する必要があります。一定の事務所規模と、M&Aの知識や経験が必要です。

法務DDは弁護士法人キャストグローバルまでご相談ください

弁護士法人キャストグローバルは、M&A実績のある弁護士が所属しており、グループ士業と連携して、ワンストップのリーガルサービスを提供する弁護士法人です。

法務デューデリジェンスはもちろん、M&Aに関わることでお困りのことがございましたら、当事務所までお気軽にご相談ください。

M&Aの詳細な解説については、こちらの記事をご参考ください。

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