目次
弁護士によるプログラム使用許諾契約解説
ソフトウェア等のプログラムを、顧客や代理店、リース会社などを経由して販売するときに交わされる契約を「プログラム使用許諾契約」といいます。
メーカーが自社開発したプログラムは、貴重な経営資産であるほか、著作物としても認められています。顧客や代理店が許可なく使用したり、著作権等に違反しないように、プログラムを使用するにあたっての条件や権利関係を明確に定めておく必要があるでしょう。
しかしながら、ソフトウェア等のプログラムは目に見えない「無体物」のため、当事者間で対象プログラムの内容や使用条件において齟齬が生じがちです。「契約期間や料金について詳しく理解していなかった」「不具合があったときの責任の所在で紛争になった」など、思わぬトラブルに発展するケースも少なくありません。
こうしたトラブルを回避するためにも、書面にてプログラム使用許諾契約を結ぶことが重要です。本ページでは、プログラム使用許諾契約の概要や契約書作成のポイントなどを解説します。
プログラム使用許諾契約の知識
プログラム使用許諾契約は、ソフトウェアの等のメーカー(著作権者)が、プログラムを使用する者に対して使用を許諾する場合に締結します。自社開発したプログラムを直接的にエンドユーザー(顧客)に販売する場合のほか、代理店や販売店、リース会社などを経由してサブライセンス権(再使用許諾権) を付与するケースもあります。
プログラム使用許諾契約においては、当事者間で契約書を確認のもと、書面にて契約を取り交わすのが望ましいとされています。しかし、「シュリンク・ラップ契約」「クリック・オン契約」などの簡易的な方法で使用許諾契約を成立するケースもあるため、注意しなければなりません。
「知らず知らずのうちに契約に合意していた」「契約内容をよく把握していなかった」と、後にトラブルに発展しないよう、契約方法について理解しておきましょう。
注意しておきたい簡易的な契約方法には、以下が挙げられます。
シュリンク・ラップ契約
ソフトウェア等を販売するとき、使用条件や規約などを示した書類を同封して、「パッケージを開封することによって契約書に同意したものとする」など表示することで、契約を成立させる方法。
クリック・オン契約
ウェブサイト上で対象プログラムをダウンロード・インストールするとき、使用条件や免責事項などを記載したページを画面に表示・誘導して、「同意」する旨をクリックさせる方法。個人で使用するソフトウェアやアプリケーションにおいて多く見られる手法です。
これらの契約には、「ユーザーの分かりやすい場所に提示されているか」「規定内容が合理的か」などといった、有効性が認められる条件があります。しかし、使用許諾を受ける側から考えてみると、企業間で内容を十分に精査しないまま、契約を交わすことは避けた方がよいと考えられます。
使用条件や使用料、著作権の権利帰属など、さまざまな規定が設ける必要があるため、当事者間で齟齬が生じないよう、そして自社に不利な契約にならないよう、書面で取引するようにしましょう。
プログラム使用許諾契約の規定のポイント
プログラム使用許諾契約を締結する際は、使用条件や権利関係などについて、当事者間で内容を十分に精査する必要があります。契約書には、必要な内容を不足なく盛り込まなければなりません。規定のポイントは以下となります。
サブライセンス(再許諾権)の条件を規定する
販売代理店やリース会社などを介してプログラムを販売する場合では、その代理店等がエンドユーザー(顧客)によるソフトウェア等の使用を許諾するために、「サブライセンス(再許諾権)」を与えるケースがあります。
しかし、メーカーとしては、代理店等にサブライセンスを付与するからといって、代理店が自由にライセンス条件を定めてエンドユーザーに付与することは、避けるべきと考えられます。
メーカーは、代理店等がエンドユーザーに付与できるライセンスの条件を明記しておきましょう。具体的な条件には、以下が挙げられます。
- 対象プログラムをインストールできる数
- プログラムを使用できる端末台数
- プログラムに同時アクセスできるユーザー数
- 社内ネットワークを経由した使用の可否
- プログラムの複製権の有無
メーカーは、複数の代理店等にサブライセンス付与することが一般的なため、プログラムの使用にあたっては非独占的に許諾するケースが一般的です。ただし、特定の代理店等に独占的なサブライセンスを与える場合もあります。
なお、代理店等による「ソフトウェア等の複製・改変を許諾するか否か」についても、重要なポイントです。ソフトウェアの複製権を付与する場合は、どれくらい複製したのが把握できるよう、監査権や定める、嘘の申告にはペナルティを課すなどの規定も検討します。
権利帰属を明確に定める
ソフトウェア等のプログラムにかかる著作権などの知的財産権等は、メーカーに帰属するのが通常です。販売するプログラムは、あくまでライセンスとして使用許諾されるもののため、代理店やエンドユーザーに権利が移転することはありません。
しかし、プログラムの使用許諾にあたっては、対象物の著作権をはじめ、発明やノウハウなどさまざまな知的財産が含まれるため、「当該契約によって権利が移転することはない」旨を契約書に明記しておくことが重要です。
なお、契約によっては、代理店等が対象プログラムをエンドユーザーの要望に応じてカスタマイズしたり、独自に機能を追加してバージョンアップすることを許可する場合もあります。その場合は、カスタマイズやバージョンアップ部分の著作権がどちらに帰属するか、当事者間で定めておきましょう。
不利な状況を避けるために免責事項を盛り込む
プログラム使用許諾契約で問題になりやすいのが、対象プログラムの不具合についてです。提供したソフトウェア等の性能や機能について、「思っていたのと違った」「使い勝手が悪い」といった主張がなされるケースも少なくありません。
メーカーとしては、不具合の原因がメーカー側にない場合に、代替品の提供や返金に応じることは避けるべきと考えるのが妥当です。万が一トラブルが起きたとき、メーカー側が不利益を被らないよう、保証内容や免責事項について定めておくのがポイントです。
規定しておくべき内容には、以下が挙げられます。
- 瑕疵担保責任
- 保証に対応できる範囲
- 保証の方法
- 保証できる期間
不具合の原因がメーカーの責めに帰すことができない場合には、不具合や保証について一切の責任を負わない旨を定めることが多くあります。保証については、客観的に見て合理的範囲で定めましょう。「一定期間内であれば保証に応じる」「保証内容は代替品との交換に限る」など、保証内容や範囲を限定しておくのが有利です。
対して、代理店等やエンドユーザーは、対象プログラムを使用する契約前に免責事項について確認し、「メーカー側に極端に有利な契約になっていないか」を確認しておく必要があります。
禁止行為の定めるポイントについて
プログラム使用許諾契約において、欠かすことができないのが禁止行為についての規定です。自社開発したプログラムを提供するメーカーにとっては、代理店等が無断で第三者にサブライセンスを付与したり、複製や改変などを実施することは避けたいと考えるのが妥当です。
契約書に記載する事項としては、
- プログラム使用権を譲渡・貸与してはならないこと
- 複製や改変を実施しないこと
- リバースエンジニアリングをしないこと
などが挙げられます。リバースエンジニアリングとは、ソフトウェア等の構造や仕組みを解析して、設計の仕様等を調査することを言います。プログラムの性質上、禁止が必要な事項については、契約書にすべて盛り込んでおくのが安心です。
使用許諾者が定める契約後のサポートについて
使用許諾者であるメーカーが、代理店等もしくはエンドユーザーに対して提供できるサポートがある場合は、契約書にその旨を記載しておくべきといえます。
よくある内容としては、プログラムのバージョンアップや、プログラム使用にあたり必要なインストールの補助などが挙げられます。サポート期間に制限ある場合や、費用が発生する場合にも、その旨を記載しておきましょう。
弁護士法人キャストグローバルでは、法律的な観点から契約内容を精査し、企業にとって有利かつ実態に即した契約になるよう契約書作成をサポートいたします。近年、インターネットの普及拡大をはじめ、多種多様なソフトウェアやシステムの登場に伴い、プログラム使用許諾契約の重要性が高まっています。サブライセンスの条件や著作権などのトラブルが起こりやすい契約のため、契約には企業法務に精通した弁護士へのご相談をおすすめします。