企業法務に関するコラム

インターネットを介した商取引の際の注意点

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1 はじめに

 新型コロナウイルスの感染拡大により様々な業種・企業が従来の手法からの変革を余儀なくされていることとは思います。もっとも、従来の手法からの変革は新たなビジネスチャンスの可能性を大いに秘めているともいえます。

 怪我の功名といいますか、ここ数年で最も変革があり、その利便性を大きく向上させた分野といえば、やはりインターネットを介したサービスといえるでしょう。今回は、実際に弊所にご相談のあったものから、インターネットを介して商取引を行う際の注意点についてご紹介したいと思います。

2 インターネットを介した商取引とは

  商取引とは受発注や決済、契約などのことをいい、取引を規律する法令(民法、商法などの一般法や、特定商取引法、景品表示法などの特別法)が当然適用されます。

  インターネットを介した商取引の場合、これらの法令に加え、さらに電子消費者契約及び電子承諾通知に関する民法の特例に関する法律(以下、特例法といいます。)が適用されることになります。この特例法が制定された目的は、インターネットを介した商取引では、対面での商取引とは異なり当事者が目の前にいないため、本当にインターネットの向こう側にいる人間が本人なのかどうか分からない、という問題に対処するためのものです。特例法の所管(法令はその分野ごとに各省庁が事務を管轄しています)は経済産業省であり、同省のHP(https://www.meti.go.jp/policy/it_policy/ec/)にはインターネットを介した商取引全般に関して法的問題点をまとめた「電子商取引及び情報罪取引等に関する準則」が提示・公表されています(最新版は令和4年4月改訂)。

3 インターネットを介した商取引特有の問題点

  インターネットを介した商取引特有の問題点の中で、特に問題になりやすいと思われる点を以下でご紹介いたします。

⑴ 消費者の操作ミスによる錯誤

   錯誤とは、一般的には「まちがい」のことをいいますが、法律用語としては「内心的効果意思(=思っていること)と表示行為が一致せず、その不一致を表意者が知らないこと」のことをいいます。

   特例法では、紙媒体での商取引を比べ、インターネットでは端末の操作ミスにより商取引が成立してしまう危険性が高いことから、BtoCの電子契約では、①消費者が申し込みを行う前に、消費者の申込みを行う意思の有無について「確認を求める措置」(確認措置)を事業者側が講じた場合、②消費者自らが確認措置が不要である旨の意思表明をした場合、を除き、操作ミスによる消費者の申込みの意思表示は、その錯誤が契約の目的及び取引上の社会通念に照らして重要なものであるときに、取り消すことができるとしています(特例法3条、民法95条3項)。逆をいえば、①、②の場合には、消費者の操作ミスに重大な過失があれば事業者は消費者に対して契約の有効性を主張することができます。

   インターネットを介した商取引の場面において、②が想定される場面はそこまで多くはないでしょうから、事業者としては①の確認措置を講じておくことが、無用なトラブルを避けることができます。以下は、経産省が公表する準則から確認措置についての例を抜粋したものになりますので、参考にしてみてください。

⑵ なりすまし

   もう1つご紹介するのは、なりすましに関する問題です。

   インターネットを介した商取引の場合、非対面の取引であることから、他人が契約者本人になりすまして勝手に契約を締結してしまう危険性があります。この場合、消費者本人としては勝手に契約を締結されてその義務を負わされたのではたまったものではないので、そんな契約は自分には無関係だと主張することが当然考えられます。一方で、事業者側としてはインターネットを介して商取引が成立している以上は、契約当事者である消費者本人に代金等を請求したいと考えるでしょう。

   こういったケースの場合、インターネットを介した商取引が①1回限りの取引なのか、それとも②継続的取引なのかによって、契約の成否を判断する基準が異なってきます。

  ① 1回限りの取引の場合

     1回限りの取引の場合、事前に本人確認の方式について合意が取れていませんので、なりすましによって契約が成立したとしても、勝手に名前を使われてしまった本人には契約の効果は帰属しない(=義務を負わない)のが原則です。もっとも、㋐外観の存在(=勝手に名義を使われてしまったこと)、㋑相手方の善意無過失(=事業者側が、勝手に名義を使われた者が契約の当事者であると信じ、信じたことに過失がないこと)、㋒本人の帰責事由(=勝手に名義を使われた者の不注意により、容易になりすましを行える状況であったこと)の3つの要件を満たした場合、表見代理(民法109条、110条、112条)の類推適用により、例外的に本人に対して契約の効果が帰属する可能性があります。

     とはいえ、このような例外規定の要件を主張・立証するハードルはかなり高く、1回限りの取引の場合、なりすましによる契約では消費者本人に対して代金等を請求することは困難であるといえるでしょう。

   ② 継続的取引の場合

     継続的取引の場合、特定のIDやパスワードを使用する等、本人確認の方式について事前に合意されているのが通常です。そのため、事前に合意された方式を利用してインターネットを介した商取引が行なわれた場合には、本人に契約の効果は帰属するのが原則です。

     もっとも、本人が消費者の場合には、なりすまされた本人の利益が信義則に反して一方的に害されるような内容の事前合意(たとえば、本人確認の方式に従っていれば、たとえ事業者に帰責性がある場合でも本人に契約の効果が帰属されるとする条項)は無効(消費者契約法10条)となりますので、その点にご注意ください。

4 おわりに

  いかがでしたでしょうか。

  技術の進歩に伴いビジネスチャンスが生まれる一方、従来では想像もしなかった問題や、技術を悪用して儲けようとする者が現れるなど、トラブルも同時に多く生まれることになります。

  どのようなトラブルであっても、これまでの知識・知見を駆使して道筋を見出すのが弁護士の腕の見せ所といえますので、まずは一度ご相談いただければと思います。

以上

監修者

弁護士法人キャストグローバル 企業法務担当

〒101-0054 東京都千代田神田錦町2-11-7小川ビル6階

[相談受付]03-6273-7758









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