近年、裁量労働制を導入する企業が増えきています。「裁量」のある「労働」ですので、労働者に業務裁量が認められるような制度です。一口に裁量労働制といっても、法的に有効な裁量労働制と、名称としては「裁量労働制」であるものの、適切な手続きを踏んでいない裁量労働制である場合があります。この記事では裁量労働制の内容の説明と、この制度のメリットとデメッリットについて説明いたします。
裁量労働制とは
裁量労働制とは、労基法で定められた制度で、実際に何時間の労働をしたか否かにかかわらず、事前に会社側と合意した時間(みなし労働時間)を労働したとみなす制度です。裁量労働制は、業務の性質上その遂行について会社が逐一指示を与えるよりも、労働者の裁量にゆだねる方が業務効率がよいといった際に検討される制度です。専門業務型裁量労働制(弁護士、公認会計士などの資格業、金融・IT等の技術系など)と企画業務型裁量労働制があります。
ただし、裁量労働制が認められるには、法的に厳格な条件がありこの条件を満たさない裁量労働制は法的には効力がありません。裁量労働制は労働者の「労働時間」にかかわらず、一定のみなし労働時間の労働をしたとされることから、法律上の厳格な条件を満たさないと労働者の保護に欠けることとなるためです。
裁量労働制とフレックスタイム制との違いとは
裁量労働制とフレックスタイム制は、なんとなく似ているようなイメージがありますが、まったく異なります。
フレックスタイム制は労働者に労働開始・就業時間の選択権をあたえることで、労働者の柔軟な働き方を後押しする制度です。原則として労働時間は、1日8時間、週40時間との規制がありますが、フレックスタイム制においては、労働時間を一定期間の清算期間でとらえて労働時間を管理します。
一方で裁量労働制は、成果主義に基づき、労働時間だけでなく業務内容についても裁量権があたえられる制度です。裁量労働制では、たとえ数時間のみの労働でも求められた成果さえだせればよいといった考えにもとづき、業務も時間も会社から指示されない実態を備える必要があります。
裁量労働制の2つの類型
裁量労働制には専門業務型裁量労働制と企画業務型裁量労働制とがあり、それぞれその職種について厳格な決まりがあります。また、裁量労働制が有効である前提としては、労働者と会社との間に裁量労働制を定める労使協定が必要となります。
具体的には下記のとおり業務が対象となります。
専門業務型裁量労働制
a) 新商品・新技術の研究開発(助手は含みません)
b) 人文科学・自然科学の研究(助手は含みません)
c) 情報処理システム全体の分析や設計(プロジェクトチーム内でリーダーの指示で動く仕事や、情報処理システムを構成する一部のプログラムを作成するプログラマーは含みません。)
d) 新聞・雑誌などの記事の取材・編集(カメラマンや、校正だけの仕事は含みません。)
e) テレビ番組・ラジオ番組の取材・編集(カメラマンや、校正・音量調整・フィルムの作成だけの仕事は含みません。)
f) テレビ・ラジオ・映画・イベントなどのプロデューサーやディレクター(ADは含みません。)
g) 衣服・インテリア・工業製品・広告などのデザイン(他の方が作ったデザインから、図面や製品を作るだけの仕事は含みません。)
h) コピーライター
i) システムコンサルタント(通常のプログラマーは含みません。また、経営コンサルタントなど、システムコンサルタント以外のコンサルタントも含みません。)
j) インテリアコーディネーター
k) テレビゲームやPCゲームのシナリオ作成・映像制作・音響制作など(他の方の指示で動くプログラマーは含みません。)
l) 証券アナリスト(ポートフォリオ管理のみの仕事やデータ入力だけの仕事は含みません。)
m) 金融商品の開発
n) 大学教授・助教授・大学講師の研究業務(医師の方の診断業務は含みません)
o) 公認会計士、弁護士、建築士、不動産鑑定士、弁理士、税理士、中小企業診断士の業務
企画業務型裁量労働制
a) 事業の運営に関する事項についての業務であること。
b) 企画、立案、調査および分析の業務であること。
c) 当該業務の性質上、これを適切に遂行するためには、その遂行の方法を大幅に労働者の裁量に委ねる必要がある業務であること。
d) 当該業務の遂行手段および時間配分の決定などについて、使用者が具体的な指示をしないこととする業務であること。
ただし、上記の企画業務型裁量労働制では、通常のルーティン業務や通常の商品販売、営業、経営に関する庶務などは該当しません。名ばかりの「裁量」労働制の効力を否定するといった意図です。
会社からみた裁量労働制のメリットとは
会社からみた裁量労働制のメリットは、労務管理が簡単になり、労務管理にかかる業務が簡易化されるといった点です。また、労働者に業務や時間の配分の裁量権を与えることから、労働者がオーナーシップをもって、自発的に成果を上げるようとモチベーションを上げる可能性があり、結果、会社にとってもメリットがあるといえます。
裁量労働制だと残業代が一切かからないと思っている方も多いですが、誤りです。裁量労働制においても、深夜残業や休日出勤をした際には残業代が発生し、残業代を支払う義務が生じることを覚えておくべきでしょう。
ベンチャー企業における創業期などでは、各労働者が自発的にさまざまな業務をこなさなければならず、労務管理に人的コストをあまり割けないことから、こうした企業には裁量労働制を検討する価値があるかもしれません。もっとも、創業期に必死で働くメンバーは、正社員というより、役員ですから、そもそも労働者にはあたらず、このような問題とならないことが多いです。
会社からみた裁量労働制のデメリットとは
デメリットとしては、裁量労働制とするには事前に導入に関する労使協定が必要である点や、みなし労働時間について労働者と合意しておく必要があることです。また、裁量労働制は長時間労働になりがちの状況も想定されることから、会社は健康管理措置(労働者の健康及び福祉を確保するための措置:労基法38条の3、38条の4)を講じる必要があります。
なお、労働時間の配分については裁量労働制の対象となる労働者自身にありますが、その労働実態は会社に把握しておく義務があります。また、長時間労働が状態化するような状況の際には、裁量面にみあった報酬額を提示しないと労働者のモチベーションが低下してしまう危険があります。
労働者からみた裁量労働制のメリットとは
労働者から見た裁量労働制のメリットは、出勤時間やその日の労働時間が自由になるというだけでなく、業務の配分についても自由になるといった点です。例えば、平日に午前中のみ労働を行い、午後はゆったりと趣味の時間などに費やすといったことが可能となります。労働時間の長短ではなく、業務の成果が求められることから、業務の時間効率を高めることで労働時間を短くすることができます。
労働者からみた裁量労働制のデメリットとは
労働者からみた裁量労働制のデメリットは、残業代があまり発生しないことになることがあります。裁量労働制では何時間労働したとしても、事前に定めたみなし時間の労働とされます。月ごとに忙しさが異なり、たくさん長時間働いたなといった実感があるようなときでも、深夜残業や休日出勤がないのであれば、毎月同じ給与となります。
また、自己管理がうまくいかず仕事の成果を出すことができなかった際には、裁量労働制ではない働き方に比べて、給与がさがってしまう可能性があります。
まとめ
裁量労働制は労働者に業務配分や労働時間について裁量を与えることで、労務管理コストを抑えつつ、自主性を引き出して生産効率を上げることが可能な制度です。
生産性が向上すれば、会社にも労働者にもメリットがあることから、裁量労働制を上手く活用したいものです。しかし、現在のところ、うまく運用できているところは少なく、その効果が限定的なようです。また、そもそも、法的要件が具備されず有効ではない場合があります。そのような場合には、残業代が未払いとなっている可能性があるため確認が必要です。
裁量労働制を採用する場合は、十分に、弁護士、社会保険労務士に確認・相談すると良いでしょう。
以上
監修者
弁護士法人キャストグローバル 企業法務担当
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