診療費未払いの患者の診察を拒否できる?

病院を運営していくに際し、診療費の未払いは悩ましい問題です。払わなくても診てもらえることをいいことに、初めから払う気がなく逃げる患者さんもおられます。診察しても費用を払わない患者がいる場合、病院側はそれ以降の診療を拒絶することができるのでしょうか?

医師には応召義務があるので、それとの兼ね合いが問題となります。

今回は、病院が診療費を支払っていない患者の診察を拒絶できるのか、考えてみましょう。

1.医師の応召義務とは

医師と患者との間には診療契約が成立しています。医師は診察を行い、患者はその料金を支払うことが契約内容となっています。

一般の商取引であれば、一方が代金を支払わないのであれば、他方は商品やサービスを提供する必要はありません。契約を解除することもできますし、再度の契約を拒絶することもできるでしょう。

しかし、医師の場合にはそういうわけにはいきません。医師には、医師法によって「応召義務」が課されるからです。応召義務とは、治療を求める患者がいる限り、医師は診療を拒否することができず、必ず治療に応じなければならないという義務です。

医師法は「正当な理由がない限り」患者から治療を求められた医師は診療を断ることができないと定めており、もし違反した場合には行政処分を受ける可能性があります。このような定めがなされているのは、医師という仕事が高い社会性を帯びており、人の生命身体を守る重要な仕事であるからです。

2.正当な事由について

医師法は、「正当な事由」があれば、応召義務の例外として、医師が診療を拒絶することも認めています。それでは、患者による診療費未払いは、診療を拒否する正当事由として認められるのでしょうか?正当事由の内容をみてみましょう。

2-1.正当事由になる場合

治療を断る正当事由になるのは、以下のようなケースです。

●他の重症患者を診察している
医師が他の重症患者を診察中で、新たな患者に手が回らないときには、診療を拒否しても違法ではありません。

●ベッドが満床で受け入れる余地がない
病院のベッドが満床で、それ以上どうしても入院患者を受け入れられない場合には、入院を拒否しても違法にならない可能性があります。

●専門外
たとえば精神科医のもとに外科手術を要する患者が来たときのように、専門外で対応できないときには診療を拒絶しても医師法違反になりません。

2-2.診療費未払いは正当事由にならない

以上に対し、診療費の未払いは、ただちに診療拒否の正当理由にならないと考えられています。

厚生労働省も、「医業報酬の不払いがあっても直ちにこれを理由として診療を拒むことはできない。」としています。
「直ちに」とあるので、滞納状況が酷いケースなど、程度によっては診療拒否できることもあると考える余地もありますが、基本的に診療費未払いがあっても、医師には応召義務が課されます。

そこで、病院患者が診療費を払っていなくても、その患者がさらなる治療を求めた場合、病院は治療に対応せざるを得ないのです。もっとも、度重なる未払いがあり、明らかに支払う意思はないと言える場合で、現在の病気・症状が生命を脅かすような重大なものでない場合は、拒否できる場合も有りうると考えます。

3.診療費未払いに対応するための望ましい対策方法

そうはいっても、診療費の未払いで診察拒否することは事実上困難ですし、患者が治療費を払わないのに治療を行っていると病院経営の収支が悪化してしまいます。

そこで、まずは診療費不払いが起こらないように対応しましょう。

たとえば、入院当初の段階で連帯保証人をとっておくこと、通院患者を受け入れるときには当初の問診票に住所や電話番号を書かせることなどが考えられます。これにより、診療費の未払いが起こったときに連帯保証人に請求したり本人に電話連絡したりして、すぐに対応することができます。

また、実際に未払いが発生したら、すぐに電話をかけたり督促通知を送ったりして、それでも支払われない場合には内容証明郵便を送って支払いを求めます。場合によっては支払督促や少額訴訟も検討しましょう。

4.保険の強制徴収制度について

患者が健康保険を利用している場合には、保険の「強制徴収制度」を利用する方法も考えられます。

強制徴収制度とは、保険者(健康保険)が未収金を回収して、それを医療機関に支払うという制度です。

ただし、強制徴収制度が適用されるためには、医療機関が未収金回収のための「回収努力」をしたことが必要となります。

具体的には、医療費の未払いが発生するとすぐに面談や電話で督促を続けるとともに、2週間に1回程度、内容証明郵便などで督促を続けるなどのかなり高度な努力が求められます。

実際には、この強制徴収制度が行われている事例が非常に少なく、積極的に活用されているとは言えない状況です。
そこで、現状では、強制徴収制度に頼って未払い診療費を回収することは、あまり現実的ではありません。

結局、病院が未払い診療費を回収するためには、病院の自助努力が必要ということです。

患者への頻繁な督促や裁判所を利用した対応は、病院自身が行うと非常に大きな負担となるので、弁護士に対応を依頼する必要性が高いです。

弁護士であれば、未払い診療費が発生しないようにするための対応マニュアルを作成することも可能ですし、実際に滞納が起こったときの回収にも対応できます。もっとも大切なことは、未払いを起こさないようにすること、未払いが起きても額が小さいうちに回収することです。ぜひ、一度、安心して、当事務所にご相談ください。

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