従業員の労務管理の重要性

クリニックを経営するときには、従業員の労務管理も非常に重要です。

勤務医、看護師、技師、医療事務職など多種の従業員を雇用しなければなりませんが、労務管理がきちんとできていないと、従業員とトラブルになったりしてクリニックの運営に支障が生じるリスクが発生してしまいます。

今回は、クリニックにおける労務管理の重要性と対処方法をご紹介します。

1.労務管理ができていない場合に予想されるトラブル

クリニックにおいて労務管理がきちんとできていない場合、以下のようなトラブルが予想されます。

1-1.残業代請求

近年、とても増えているのが残業代請求です。勤務医にも看護師にも事務職にも、どのような従業員も「労働者」である以上、労働基準法が適用されます。

労働基準法では、法定労働時間を定めており、その労働時間を超えて働いた場合には、雇用者は「割増賃金
を支給しなければならないとしています。

法定労働時間は、基本的に1日8時間、1週間に40時間です。

医師だからといって労働基準法が適用されないということはありません。

残業代を未払いにしていると、後に従業員からまとめて残業代請求される可能性がありますし、支払いを拒絶したら労働審判や労働訴訟を起こされるリスクも発生します。
また、現状では残業代請求権の時効が2年なので、退職後も2年以内であれば残業代請求をされる可能性があるのです。

クリニックでは、勤務医との関係が「徒弟制度」にも通じるものとなっており、サービス残業が常態化しているケースがありますが、今の時代、そういった運用をしていると法的リスクの危険性が高まります。きちんと残業代を計算し、支払う体制を整えることが重要となります。

最近、医師の残業代請求が訴訟があり、大きな話題となりました。病院側が負けることになった判断です。今後、医師との契約については、この判断を踏まえて、適正な契約書にしておくことが重要です。

1-2.解雇を巡るトラブル

次に多いのが、解雇を巡るトラブルです。
クリニック側にしてみると、能力の低い従業員を解雇したいと考えることがあります。

期待していたような成果を上げてくれない勤務医、ミスの多い看護師、能力の低い技師や事務職など、いろいろなケースがあるでしょう。

中にはうつ病などにかかって働けなくなる従業員もいるかもしれません。

しかし、そのようなときでも、雇用者側が恣意的に解雇することは認められません。雇用契約を解除するには、解雇理由の正当性と解雇方法の相当性が求められるからです。

まずは解雇を避けるための努力を行い、どうしても解雇しか道がない場合に初めて、相当な手段によって解雇が認められます。

もしも、要件を満たさないまま解雇してしまったら、従業員から解雇無効の訴えを起こされたり未払賃金や慰謝料の請求をされたりする可能性があります。

能力の低い従業員を解雇したいなら、いきなり解雇するのではなく、まずは退職勧奨を行って自主的な退職を促す方法が望ましいです。

1-3.セクハラ・パワハラ問題

クリニック内で、セクハラやパワハラ問題が発生するケースも多いです。

院長が従業員からセクハラで訴えられるケースもありますし、従業員間においてセクハラ・パワハラが起こることもあります。従業員間でセクハラ・パワハラ問題が起こったときにも、病院側が適切に管理していなかったということになれば、安全配慮義務違反などを理由として、病院が訴えられる可能性もあります。

こうした問題を起こさないようにするには、日頃から院内で従業員教育をしっかり行い、問題が発生しないように予防することが重要です。

また、問題が発生したときに気軽に相談できる機関を作っておいて、対応マニュアルも整備しておくと、何かあったときにスピーディかつ効果的に対応できます。

1-4.労災問題

クリニックを運営していくに際し、労災が発生するケースもあります。

医療事故が起こって看護師や勤務医などが負傷したり感染したりすることもありますし、うつ病などにかかって労災申請をされるケースもあります。従業員が労災申請をすると、事業所に労基署からの調査が入るので、クリニックには適切な対応が求められます。

また、病院側が適切に管理できていなかったということになると、労災とは別途、従業員から損害賠償請求をされる可能性があります。

日頃から、労災がなるべく発生しないような管理体制と、万一発生した場合の処理能力が求められます。

2.労務管理に対応する方法

クリニックが直面しやすい各種の労務問題に適切に対応するには、まずは就業規則を作成することが大切です。就業規則は、院内に通用するルールです。

基本的に雇用者も従業員も就業規則に従って行動をするので、整備しておけばトラブルが発生しにくくなりますし、発生した場合の対処も容易になります。

また、従業員教育をしっかりと行い、各種の対応マニュアルを作成しておくことも必要です。もちろん、残業の管理体制も構築しておきましょう。

クリニック自身がこうした労務管理体制を敷こうとすると、非常に大きな負担がかかります。弁護士であれば、クリニックの状況に応じた就業規則や各種のマニュアルを作成したり、院内で従業員教育のためのセミナーを開催したりすることができますし、トラブルが起こったときの対応も可能です。

人事・労務管理といった内部体制の構築から医療過誤・クレーム対応まで、病院経営に関わる法的サポートをさせて頂いております。安心してご相談ください。

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