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危機の事前回避
役員や従業員による不祥事や、企業活動を行う中でのトラブル、法的な紛争は、必ずしも予期せぬものではなく、事前にその予兆がある場合も多く、それを見過ごし続けた結果、大きな問題に発展するケースが多いです。
トラブルの種や予兆の段階で、事前に弁護士に相談していれば大きな問題にならずに済むケースも多々あります。こういったケースで問題が大きくなることを予防し、トラブル化・紛争化をさせないことも危機管理として重要です。
そのような予兆としては、例えば最近、顧客からのクレームが増えているということや、本来あるべき役員・従業員からの報告が減少、またはなくなったり、経理手続きに不備が見つかったり訂正が繰り返されている等、様々です。このような日々の小さな現象は、忙しい経営者にとってはどうしても見過ごしがちとなりますが、これを放置すれば、取り返しのつかない問題になりかねません。
危機を事前に防ぐ方法としては、会社業務に第三者である専門家をコミットさせることや、内部通報窓口を設置し、社内の不正を第三者に通報する仕組みを作ることなどがあげられます。
これらの予防措置を行う場合、そのコストは負担になりますが、紛争・トラブルが顕在化し、それにより大きな損害が発生した場合には、時間的にも金銭的にもより大きなコストとなり得ることを考えれば、事前に必要な対策を打つべきです。
危機発生時の対応
それでは、実際に、役員・従業員の不祥事や、企業活動中のトラブルが発生した場合は、どのように対応すべきでしょうか。以下、説明します。
- トラブル・被害の拡大の防止
- 事実関係の調査・証拠保全
- 方針決定
- 交渉・合意
- 事後措置・必要な処分等
1.トラブル・被害の拡大の防止について
トラブル・不祥事が発生した場合に、まず行わなくてはならないのは、それ以上、トラブルや被害が拡大することを速やかに防止することです。
例えば、商品に異物が混入していたということがあれば、直ちに、同様に異物が混入している可能性のある商品を特定し、必要な措置をとる必要があります。
また、役員・従業員の横領の場合には、それ以上、横領されないようにしなければなりません。この段階では、情報管理も必要となります。
トラブルについては、会社が望まぬ形で、情報が外部に漏れれば、その後の対応に支障が出る場合もありますし、不祥事の場合は、情報が、不祥事を行った当事者に伝わることにより、証拠隠滅を図る恐れもあります。
危機管理においては、初動対応がとても重要となりますので、まずは、限られた人員のみで対応することとし、直ちに専門家に相談することをお勧めします。
2.事実関係の調査・証拠保全
危機管理においては、現在の状況を正確に把握することが、その後の適切な対応、解決につながります。
このような対応に慣れていない場合には、事実関係の調査を疎かにしたまま対応を進めた結果、見当違いの対応をしてしまったり、本来であれば大げさに騒ぐことのなかった問題を大事にしてしまい、企業イメージを損なうこともあります。関係者へのヒアリング、業務上の書類やデータの精査、役員・従業員の不祥事の場合は、本人に聞き取りを行うことも重要な調査の一つとなります。
また、トラブルや不祥事が大事となり、警察への相談や、裁判上の手続きとなることを見据えると、適切な調査や証拠の保全は必ずしておく必要があります。
IT化が進み、様々な情報が電子データやパソコン、クラウドで管理されている場合には、IT・デジタルに特化した専門業者に調査依頼する必要もあります。
また、この段階においても、情報漏えいや証拠隠滅のおそれがあることから、情報管理の重要性は同様となります。
3.方針決定
事実関係の調査・証拠保全が完了した段階で、会社にとってどのような対応をすることが最善かを検討します。
トラブル・不祥事対応においては、必ずベストの対応というものが存在するわけではなく、取らざるを得ないリスク、やむを得ない損害等も許容した上で、最終的にはビジネスジャッジを下す必要があります。その際に、弁護士は法的観点からのリスクや見通し、同種のケースの場合の対応やその結果を踏まえて、アドバイスをすることになります。その対応にあたっては、あくまで法や信義則に則った対応をすることが重要であり、そこで違法なことや隠ぺい工作等を行えば、それが新たなトラブルや不祥事を引き起こしかねず、損害拡大の防止という危機管理の観点からは決して、いい結果とはならないということは明らかです。
例えば、商品に瑕疵があった場合には、損害を甘受して、全て引き上げること、購入した方には返金手続や別商品を送るといった対応を行うこと、悪質なセクハラが社内で行われていた場合には、懲戒処分や人事異動、被害者への慰謝といった対応が必要と考えられます。
4.交渉・合意
トラブルや不祥事には通常、相手方がいますので、方針決定をしただけで、対応が終了するわけではありません。その相手方に対し、会社の方針を伝え、それを実現するための交渉を行う必要があります。交渉をするにあたっては、会社としてのプライオリティを設定し、何を勝ち取るべきなのか、どこまでは譲ることが出来るのかを事前に整理しておく必要があります。
交渉の場面においては、相手方が会社であれば、書面でのやり取りが中心となります。その内容は、後々、有利にも不利にも扱われかねないものですので、専門家の目を通したものを出す必要があります。
また、直接交渉の場合には、後から脅迫されたとか、言った言わないの問題が生じないように、録音の措置や、第三者である弁護士に同席を求めるといった措置も有効です。
交渉が完了すれば、合意書、示談書といった書面を取り交わすことにより、少なくとも当事者間においては解決したこととなります。
5.事後措置・必要な処分等
交渉が完了し、合意をした後は、その合意に基づく措置を取ることになります。
賠償金の支払いや謝罪文の提出、此方が支払いを受ける側であれば、受領確認も必要です。また、本トラブルに関わった者に対する会社としての処分、不祥事をした者であれば、懲戒処分を行うことが通常です。
このような社内で完結する措置だけでなく、HPやマスコミへの公表、監督官庁への報告が必要なケースもあります。
交渉がうまくいかず、合意が出来なかったという場合には、民事上の裁判手続きや刑事告訴といった手続きが必要となる場合もあります。この場合も、会社として何が最善かをよく考慮した上で、やるべき措置であれば、粛々と行う必要があります。
再発防止対策
会社として、トラブル・不祥事をうまく乗り切ったとしても油断してはいけません。そのようなトラブル・不祥事が発生したことについては、必ず原因があり、その原因を放置していれば、また同じような問題が生じることが考えられます。
ここで考えなければいけないことは、危機の事前回避で考えたものと基本的には同様ですが、実際に起きたトラブル・不祥事を振り返れば、何が足りなかったのかということは、以前よりも明確になっていると思いますので、躊躇せずに必要な措置をとるべきと言えます。
また、再発防止対策を検討するにあたっては、社内のみで検討した場合、どうしても会社にとってあまり負担とならない対策を取ってしまいがちですので、弁護士を入れて、第三者的な見地から、より実効性のある再発防止対策を取ることが必要です。
企業の刑事責任
法人が法に反した行為を行った場合、当該法律に両罰規定があれば、当該法違反に関与した役員・従業員だけでなく法人自体が、処罰の対象となる場合もあります。万が一、企業が何らかの法違反を犯し、事件となったした場合に、冷静に対応するために必要な知識を解説します。また、日々事件に巻き込まれないための予防措置についても解説します。刑事責任に関しては企業側の知識や対策で結果が変わる可能性も大いにあります。
法人が刑事責任を問われるケース
刑事罰は、原則として、自然人に科せられるものですが、法人が刑事責任を問われるケースもあり、年々多様化しています。たとえば、労働基準法違反、労働安全衛生法、金融商品取引法、独占禁止法、商標法、個人情報保護法不正競争防止法等については、両罰規定があり、違反した場合、法人が刑事罰を受けることがあり得ます。法人が刑事責任を問われるケースは多方面にわたり、正確な知識をもって適切な対応をしなければ防ぎきれません。
知的財産や個人情報に関するもの
知的財産や個人情報の保護は厳しく取り締まられており、故意だけでなく、知らず知らずのうちに法を犯している可能性もあるため注意が必要です。知的財産や個人情報に関する違法行為としては、たとえば商標法違反や個人情報保護法違反等の責任を問われることがあります。
商標権とは、工業所有権の一つで、商標を指定商品または指定役務につき独占的に使用する権利をいい,商標を登録することによって発生する権利で、具体的には企業のロゴ等が商標に当たります。商標権が登録された商品を、無断で使用する行為は商標権の侵害となり、知的財産関係で刑事責任を問われるケースの1つです。ブランドのロゴを無断で使用したり、類似製品を販売する行為は商標法違反の典型的な事例といえます。
個人情報とは、生存する個人に関する情報で、特定の個人を識別できる情報のことで、個人情報を取り扱う企業は、個人情報保護法等の規定に従い、適切に管理をしなければなりません。企業が個人情報保護法違反を問われる代表的な例としては、個人情報を名簿業者等に売却することが挙げられます。
安全に関するもの
企業は、労働災害を防止し、労働者の安全と健康を守るために必要な措置をとる必要がありますが、この措置が不十分な場合には、刑事罰に問われることがあります。例えば、高所で作業が必要な場合には、墜落防止のための措置をとった上で従業員に作業させなければなりませんが、その措置をとっていない場合には労働安全衛生法違反を問われる可能性があります。
なお、たとえば業務中に過失により人を死傷させた場合、業務上過失致死傷罪に問われる可能性がありますが、刑法には両罰規定はないため、法人自体が刑事罰を受けることはなく、直接人を死傷させた従業員のほか、現場監督等の責任者や、場合によっては、社長や取締役が罪に問われる場合もあります。
虚偽の表示や偽装に関するもの
虚偽表示や偽装があると不正競争防止法違反に問われる可能性があります。不正競争防止法違反は、事業者間の公正な競争を阻害する行為です。たとえば、不正な利益を得る目的で、有名なブランドのデザインを模倣し、これと混同するデザインの商品を販売すれば刑事責任を問われる可能性があります。
従業員が逮捕された場合の対応
法人は先ほど紹介したような事例に該当する場合は刑事責任を負うことがありますが、役員や従業員が逮捕される可能性もあり、そういった場合の適切な対処法についても知っておく必要があるでしょう。役員・従業員が逮捕された場合の対応方法やポイントを解説します。
事件の概要確認
従業員が逮捕された場合、まず行うべきことは事件の概要確認です。従業員が逮捕された場合は本人から連絡が来ることはほぼなく、警察からの報告や家族からの連絡で知ることになるでしょう。その場合も焦らず、なぜ逮捕されたのか、現在の状況等を把握することでその後適切に対処できます。逮捕内容によっては使用者責任を追及される場合もあるため、正確な概要を把握することが重要です。
事実確認
事件の概要が分かれば、従業員が逮捕・勾留されている場所を確認し、本人と事実確認を行いましょう。本人が責任を認めているのかを把握し、会社として、当該従業員について、今後どのように取り扱うかを検討する必要があります。従業員が逮捕されている間の扱いをどうすべきか難しい問題ですが、当該従業員が有給消化を希望している場合は、有給を適用することも検討します。
今後の見通し確認
事実確認が済めば、今後の見通しを確認します。不起訴処分になるのか、起訴されてしまうのか、いつまで身柄拘束されるのか等の情報を把握しましょう。出社できない期間や罪の重さによって今後の会社の対応も変わります。また従業員が逮捕された場合、会社は一刻も早く対処したいと思いますが、刑事処分が確定するまで従業員を処分してはいけません。刑が確定するまでは無罪推定が働きますし、不起訴処分や無罪放免となった場合、逆に従業員から訴えられる可能性もあります。
マスコミの対応
従業員が逮捕された場合、会社としてマスコミに対応する必要がある場合もあります。マスコミ対応を誤ると、会社の評判を下げてしまい、事業に影響を及ぼします。
たとえ従業員が犯行当時は勤務時間外であったとしても、社会的な影響を考慮して、事実関係や法人としての対応を説明する必要があるばあいもあります。
その際、想定問答の作成やシミュレーションを行い、失言や事実と異なる発言をしてしまわないようにします。
事実が確認できていない場合は「事実関係は調査中です」と明言を避けながらも、会社として「誠に遺憾である」「再発防止策に努める」と従業員の逮捕を重大に受け止め真摯に対応する姿勢を伝えます。
しっかり説明責任を果たすことが、会社の信頼回復につながります。
法人処罰を回避するためには不起訴処分を目指す
法人処罰を回避するために最も重要なことは、不起訴処分を目指すことです。万が一起訴されてしまうと、有罪になる確率は99%だと言われています。つまり起訴された時点でほとんど処罰を受けることが確定します。不起訴処分を勝ち取るためには、検察官が起訴・不起訴の判断を行う前に行動する必要があります。時間は限られていますが、できる限り早く弁護士に相談し、綿密な対策を練ります。具体的に不起訴処分を勝ち取るためには以下のような行動が必要です。
- 再犯予防策を立てる
- 証拠不十分を主張できるようにする
- 犯罪による影響を取り除く
こういった具体的な対策はプロである弁護士に任せるのがいいですが、会社としても知識があるだけで結果が変わってきます。またメディアに大々的に放送されてしまってはその後の影響も計り知れないため、事前に弁護士に相談し、対策してもらうようにしましょう。メディア対策は弁護士に相談することによって解決できることがあります。
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危機管理・不祥事対応取り扱い弁護士
河田 好平
2005年検事任官。2011年アンダーソン・毛利・友常法律事務所にて弁護士職務経験。2013年福島地方検察庁会津若松支部長。2015年東京地方検察庁立川支部検事。2018年弁護士法人キャスト入所。2019年公認不正検査士資格認定。長年にわたり刑事事件の捜査公判に従事し、また、途中2年間、弁護士として不祥事対応や訴訟、その他企業法務等の業務に携わる。徹底的かつ効率的な証拠収集(関係者の聴取を含む)、関係法令や判例の徹底した分析、裁判における的確な主張立証(証人尋問を含む)等に関し、経験と技術を有する。