企業法務に関するコラム

後継者の選び方と教育について

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中小企業の50%程度が「現在の経営者の代で廃業しよう」と検討しているといった調査結果があるなど、後継者の担い手の問題は会社にとって喫緊の問題のようです。大企業などの会社では、社内で長い時間をかけて後継者となるべき人材を探すことができ、また、時には、外部から優秀なプロの経営者などを招聘することができます。他方で、一般的な中小企業においては、大企業のように後継者を探すのは難しいといった現状があります。この記事では、後継者の選び方と教育についてご説明します。

後継者の選び方とは?親族からかそれとも親族外からか

中小企業の経営者の50%が自分の代で廃業しようとかんがえており、かつ、廃業しようと考える経営者のうちの30%が、廃業の理由に後継者問題を挙げています。つまり、全体の15%程度は後継者問題により廃業を考えているとことになります(中小企業庁、「経営者のための事業承継マニュアル」20ページ記載より)。

そうすると、適切な後継者選びと選んだ後の承継方法が、事業承継における肝であると言えそうです。

後継者の選び方は、かつては、親族のうち長男といった選択の仕方でした。しかしながら、昨今行われている事業承継(事業承継から5年以内)の65%以上が「親族外承継である」との調査結果があります(みずほ総研(株)「中小企業の資金調達に関する調査」2015年)。

また、近年、事業承継の一つの選択肢としてM&Aが選択されることがありますが、こうした事例における経営者のコメントを見ると、現代の変化の激しい時代に、新たなイノベーションを生み出したり、変化へ積極的に対応していくような、積極的に事業を進めていくような人材に事業を承継して欲しいといったニーズがあるようです。

かつては、長男が家業を継ぐのが当たり前と考えられた時代もありましたが、現在のように時代の進展が急速である場合には、親族外から後継者候補を選出するケースが少なくないようです。

適切な後継者を見極めるポイントとは

適切な後継者は、親族内・外あるいは社内・外を問わず、横断的に広く適切な候補者を選ぶべきであると考えられます。

後継者を見極めるポイントとは、経営者たる資質があるかどうかによります。具体的には、次のような資質が考えられます。

  1. 経営を担う覚悟があるかどうか。胆力がある人材かどうか。
  2. 従来の従業員・役員などを束ねて牽引するだけのリーダーシップがあるかどうか。
  3. 人柄や人間性が魅力的であり、他者をひきつけ、巻き込んでいくようなものがあるかどうか。
  4. 決断の困難である場合の重要な経営判断を、適切なタイミングで決断できる力があるかどうか。
  5. 会社の専門領域やノウハウ、または強みなどについて、深い造詣があり、専門的な知見があるかどうか。
  6. チャレンジ精神を忘れず、常に挑戦し、イノベーションを目指そうとする志向があるかどうか。

代表的なものを上げるとすれば、以上のとおりではないでしょうか。
この中でもっとも大切なのは1です。能力は、訓練によって向上可能であるとおもいますが、そもそもの会社を背負う覚悟は訓練で持てる性質ではありませんし、いくら能力があっても、覚悟がない人には経営するというのは難しいのではないかと思います。
上記のような条件をすでに備えている、または、その将来性があるといった候補者が親族内にいる場合や社内にいる場合には、身内から後継者を選ぶといった方法が考えられます。

一方でこうした資質を有した適切な候補者が不在の場合には、親族外・社外から後継者を選ぶといった選択肢が考えられます。

後継者選びは「いつ」すべきか

事業承継の準備は早いに越したことはありません。実際の事例として、事業承継の着手を先送りしてしまったため、後継者を確保できなかったといった場合があります。

年代別にみた調査結果として、2016年11月に行われた(株)東京商工リサーチの次のような調査結果があります。

<経営者の年代別にみた、後継者選定状況>

※出典 「中小企業白書 2017年」270ページより

この調査結果によれば、70歳以上の経営者であっても「(後継者が)決まっている」との回答が全体の60%程度であり、また、「候補者はいるが、本人の了承を得ていない」が25%程度あるなど、後継者選びの難しさが浮き彫りとなっています。

他方で、後継者側からみた事業承継のタイミングはいつかといった視点からみると、中小企業白書の記載によると、「ちょうど良い時期だった」と回答している現経営者の事業承継時の平均年齢が43.7歳であったといった調査結果があります。

このようなことから、「後継者の選定時期は可能な限り早期にすべきである」との結論が得られそうです。
というのも、大切な覚悟(熱意)をもって経営していくには、やはりある程度若い方が望ましいといえるからです。

後継者選びについて、疑問が生じた場合には、弁護士などの第三者に相談してみると良いでしょう。

後継者の教育はどのような能力を身に付けさせるべきか

なかなか会社の成長が困難で、かつ、継続も難しいといった厳しい経営環境のなかで身に付けさせる能力として重要視されるのは、「財務・会計の知識」です。

その理由として考えられるのは、日々の資金繰りについて、毎日の仕入れや売り上げ、債権の回収期間などを考慮して、把握する能力が必要であるためです。

また、会社が適切に継続していく(「ゴーイングコンサーン」会社が将来に渡って事業を継続していくという前提)ためには、資金繰りを把握した上で、投資可能な資本はいくらであるのかについて判断できる能力が必要です。

こうした意味でも後継者の必須な能力として、「財務・会計の知識」が挙げられます。

後継者育成の重要性とは

会社の後継者の決定においては、その選別から育成までには膨大な時間がかかります。仮に、外部からプロの経営者をヘッドハンティングしたとしても、社内の了承、従業員への周知、取引先及び金融機関への周知などの時間を考えると、決して一朝一夕とはいきません。

「後継者選びはできる限り早期に」といった説明をこれまでしてきましたが、別の言い方をしますと、「現経営者の仕事とは後継者の育成である。」と言っても過言ではありません。

いずれの方法で候補者を選択したとしても、社内になじみ、自社の専門領域に関する知識や、財務上の知見の蓄積などを考慮すると、可能な限り十全な方策にて育成を行うことが望ましいと考えられます。

後継者であることの周知

後継者の育成とともにすべきなのが、「その者が後継者であることの周知」についてです。その意図は、後継者候補者を育成する過程で、候補者自身にその自覚と覚悟を持たせる目的と、とくに金融機関などの取引先の了承を取り付ける目的があります。

中小企業の経営においては、金融機関からの借り入れの資金が重要ですが、取引先の金融機関が了知しない間に、経営者が交代するなどが行われると、信用不安が発生する恐れがあります。

通常、中小企業が資金を借り入れる際には、その代表者が会社と連帯保証人として契約するのが一般的であり、経営者が誰であるのかといったことは、貸付を行っている金融機関にとっては重要な関心事です。

したがって、長い時間をかけて綿密に後継者を育成し、その過程から内外の了承を得て、徐々に権限を委譲していき、その者が後継者であるといったことに対する信用を金融機関から得ていくといったことが必要でしょう。

後継者育成のポイントとは

これまで後継者の選び方とその教育について説明してきましたが、後継者育成のポイントをまとめると、次の通りとなります。

  1. 後継者育成は現経営者の重要な仕事である
  2. 後継者の候補者の選別は早期におこない、出来る限り早い時期から育成を行うべきである
  3. 後継者に承継後も一定期間は、後継者と一緒に経営をすべきである
  4. 数年間の伴走を通じて徐々に権限を委譲していく

上記のような点がポイントとなるのではないでしょうか。

まとめ

いかがでしたでしょうか。会社にとって後継者の候補者を選ぶことは重要でありつつも、まだ、十分に気力、体力があるために、候補者選びは不要であるといった考え方もあるでしょう。しかし、候補者の育成には時間がかかり、また、その前段階の候補者を選びにも時間を要します。できる限り早期に準備を始めると良いでしょう。経営権の譲渡をしつつ、個人資産の分離をするために、民事信託を使うといったことも検討の余地があります。

困った場合には弁護士に相談してみると良いでしょう。

以上

監修者
弁護士法人キャストグローバル 企業法務担当
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[相談受付]03-6273-7758

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